法人の資金調達は口座を作るときから始まっています。
法人が資金調達を考えるなら、新規で預金口座を作るときにどこで作るか?金融機関の選び方が重要になってきます。
そこで今回は、法人で資金調達を見据えた金融機関を選ぶポイントを解説していきます。
私は現役銀行員で、読者に役立つ情報を提供したいと身分を伏せて執筆活動をしています。
ですからこの記事も、自分が勤務する金融機関だけを持ち上げる意図はありません。
客観的に「商売抜きで」現場の銀行員が解説しますので、法人で資金調達を考えている人はぜひ参考にしてください。
目次
法人の資金調達は口座を作るときから始まっている〜1.口座作成は融資審査以上にきびしいことも
法人の資金調達は最初が肝心です。
ここでいう最初とは銀行で口座を作成することで、そこから文字通り銀行との取引が始まっているのです。
「初めてのパートナー」選びを間違えると後悔することも
たとえ普通預金の口座一つだけでも、預金取引があれば「取引銀行」として広告や自社HPに掲載しても間違いではありません。
そして、いえだからこそ法人の口座をどの金融機関で作るか?は企業にとって重要なポイントです。
法人で口座を作ると、売上の入金や支払いなどでその銀行を利用することになり、顧客や取引相手に対し、振込先の口座として請求書などで広くお知らせすることになります。
そのいっぽうで、利便性を考えるなどで取引銀行を変えた場合は、取引相手から無用な勘繰りを受ける可能性もあります。
「取引銀行を変えるなんて、何か銀行とトラブルになったのではないか?」
「融資を受けられずに銀行を変えたのか?だとしたらあの会社との取引も考えないと」
このように、最悪の場合は信用に影響することすらあるのです。
こうした点から、法人で口座を作るときには、将来の取引や資金調達まで考えて、メインバンクとして取引を続けていける銀行を選ぶ必要があります。
口座の審査も融資審査と同じくらいハードルが高い
現在は、個人でも新規で口座を作るには結構労力を使います。
たとえば
「取引の目的は?」
「当銀行にはすでに口座をお持ちなのに、なぜもう一つ口座を作られるのですか?」
など細かく聞かれるものです。
これは「マネー・ローンダリング」や「疑わしい取引」をチェックするためですが、個人以上に法人で新規に口座をつくるチェックはきびしくなります。
銀行員として私も「新規で口座を作成するときのチェックは、融資審査と同じか、もっときびしいかも」と感じているくらいです。
ですから、どうせ融資審査並みの厳しい審査を受けるなら、長く取引できる金融機関を選ぶ方がいいのです。
【参考】マネー・ローンダリングと犯罪収益移転防止法
ここで登場した「マネー・ローンダリング」と「犯罪収益移転防止法」を簡単に説明します。
反社会的勢力などが不正な方法で手に入れたお金(これを「犯罪収益」と呼びます)を、口座(社名や個人など身分を偽ったり、他人名義の口座を借りたりといった不正な手段で作成した口座を指します)に入金してしまえば、もうその他人(他社)名義の預金になります。
このように、不正なお金を普通の預金に変えることをマネー・ローンダリング(資金洗浄とも)と呼びます。
そして、こうしたマネー・ローンダリングを防ぐために制定された法律が「犯罪収益移転防止法」です。
法律では口座を作成するという「水際」でしっかりチェックすることで不正なお金の流れを防止するために、口座作成がきびしくチェックされるようになりました。
金融機関も「融資できる相手か?」とあなたの会社を見極めている
銀行員の私は融資審査も法人新規口座の作成も扱っていますが、口座を新規で作るときの書類(後述)や、同意を得た上での調査(後述)はそのまま融資審査の材料になると感じています。
なぜかといえば、上記したマネー・ローンダリングなどではその会社の成り立ちや代表者・役員の個人情報から取り扱う事業内容まで、会社の概要を掴む必要があり、そうした情報は融資審査で求めるものと同じなのです。
ですから、法人で新規に口座作成の申込みがあれば、その段階で「この会社は将来、新規融資取引ができる相手か?」という視点で、あなたの会社はその金融機関から見極められているということになります。
ですから、無事に口座を作ることができたなら、あなたの会社はその金融機関から、新規で融資ができる見込み先に認められたとも言えるのです。
法人の資金調達は口座を作るときから始まっている〜2.口座を作る必要書類と金融機関がチェックするところ
マネー・ローンダリングや犯罪収益移転防止法に基づき、法人で口座を新しく作る場合にはいくつか必要種類があり、またいくつかのチェックポイントがありますので、それぞれ説明します。
口座作成の必要書類と金融機関がチェックする項目
法人が新規で口座を作る場合、主に以下の書類が必要になります。(*金融機関によって必要書類は異なりますので、実際に口座を作る場合はご自身で確認してください)
申込書
新規の口座作成申込書では「会社名」「会社所在地(*法人登記された住所)」「代表電話番号」「業種(事業内容)」「会社の設立年月日」「代表者の氏名・生年月日」などを記入します。
これにより銀行では専用データベース(手形の不渡りがないか?反社会的勢力ではないか?などがチェックできる)にアクセスして、口座作成しても問題がないか審査します。
履歴事項証明書
履歴事項証明書はいわゆる「商業登記簿謄本」のことです。
履歴とは会社設立から社名変更などすべての動きのことで、これにより万が一反社会的勢力の会社が名前を変えて取引することを防止できます。
また証明書には上記した内容が記載されているので、申込内容とあっているかもチェックできます。
定款
定款(ていかん)とは
定款は俗に「会社の憲法」と呼ばれ、基本方針、指針、規則などとともに「事業の目的」が記載されています。
とくに事業の目的は銀行で新規に口座を作成する際に重視されます。
なぜかというと、金融機関は公序良俗に反する事業との取引には慎重になるからです。
たとえば「当社は飲食業で、カフェを経営している」といった申込内容なのに、定款の事業目的に飲食業以外に「風俗営業」と記載があると、飲食店とは風俗店ではないか?と疑われる可能性もあります。
風俗業など、業種としては社会に認知されていても銀行は公序良俗に反するとして、取引を敬遠する傾向があるので、注意が必要です。
許可証、免許
飲食店を経営するには「営業許可」理髪店なら「理容師の免許」が必要といったように、事業を営むのに許可や免許が必要な業種ではチェックされます。
これはマネー・ローンダリングとして必須ではありませんが、無許可・無免許営業の会社では法人の資金調達はできませんし、口座作成の審査に落ちる可能性もあります。
決算書
許可証同様、口座作成で必須書類ではありませんが、事業内容を掴むために提出を求められる可能性があります。
ここで提出を拒むこともできますが、決算書を提出できない企業として審査は厳しくなり、結局は口座作成できなくなる可能性もあります。
法人の資金調達は口座を作るときから始まっている!?〜まとめ
ここまで、法人の資金調達は口座を作るときから始まっているとして説明してきました。
資金調達を見据え、メインバンクとして取引できる金融機関を選ぶには、ある意味審査がきびしいところほどあなたの会社をしっかり見てくれているとも言えます。
口座作成の申込みは自由で、どの金融機関でも申し込むことができますので、自社がどう見られているか?を知る試金石とも言えます。
法人で資金調達を考えた金融機関選びに、この記事が参考になれば幸いです。