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「事業資金 調達」でネット検索すると、こういったキーワードが上位にヒットします。
こうした検索結果を見ると、多くの人が事業資金調達の基本的な部分から知りたいということがわかります。

そこで今回は事業資金調達の基本、つまり「今さら聞けない事業資金調達の基本事項」から、事業資金調達の「コツ」まで、融資を審査する銀行員が解説します。
私は勤続数十年の銀行員で、誰かの役に立つ情報発信をするためにライターもしています。
銀行員の記事と言っても「事業資金調達の裏ワザ」「事業資金調達マル秘テクニック」などではなく、事業資金調達の現場から現実的なお話しをしていきますので、ぜひ参考にしてください。

事業資金調達の基本~事業資金は「設備資金」と「運転資金」の2種類

事業資金の調達とは、事業を運営していくうえで必要不可欠なお金を、様々な方法・手段で賄うことです。
当たり前と言えばそれまでですが、こうやって言葉にすることで、当たり前なこともその特徴が見えてくるものです。

事業資金は大きく分けて「運転資金」「設備資金」の2つに分けられます。
実際にはその他に「決算資金」「増資資金」「納税資金」など事業資金も細分化されますが、そのどれもが運転資金か設備資金のどちらかに属するのです。

事業を運営していくうえで必要不可欠な事業資金ですが、言ってみれば設備資金は人間でいえば「身体(からだ)」、そして運転資金は「血液」になります。

設備資金

体が健康なら会社も順調に成長していきますし、成長すると体(会社規模)が大きくなるので、それに合わせて大きなサイズの服(企業なら機械や新システムなど)を買ったり、部屋を改装したり(工場や店舗の新設など)する必要があり、そのためのお金が設備資金(設備投資とも)です。

設備資金の返し方~利益で返済

設備資金は企業に必要ですが、設備そのものからお金は生まれません。
つまり、設備を利用して販売をすることで利益を得るのであって、例えば新工場を建設しても、その瞬間に企業が儲かるわけではないのです。
このような設備資金の性質から、設備資金で事業資金調達した場合は企業の利益から返済していくことになります。
そこで、銀行に設備資金融資を申し込んで事業資金調達をする場合には「今回の設備投資で利益がこれだけ生み出せるので、融資の返済も大丈夫です」といった計画を示さないと、融資を受けることはできません。
ここで説明した設備資金の返済については以下の式で計算できます。

<要利益償還債務(設備資金として事業資金調達したお金(円)÷償還財源(利益+減価償却)=償還力(年)>
*年数で表すことから償還力を「償還年数」とも表現します。
*「償還」とは返済と同じ意味です。
上記式で計算した結果は「要利益償還」つまり利益で返済(償還)を要する「債務」(事業資金として調達したお金)を返済の基になるお金(償還財源)で、何年で返済できるのか?
といったように、企業の返済能力を測るもので、上記式で算定できる償還力(償還年数)は
一般的に10年以内が望ましいとされています。

運転資金

いっぽうの運転資金は、設備投資とは違う形でやはり企業にとって常に必要なお金です。
運転資金は、人間なら血液、食事ならご飯やパンなど「主食」ともいえるものです。
あるいは企業が自動車なら、運転資金は燃料と表現する場合もあります。
血液も燃料も動き続けるために必要ですが、運転資金が枯渇すれば企業活動は停止、つまりは「死(破綻、倒産)」につながるので、やはり血液のほうが運転資金を定義するのにふさわしいと銀行員は考えています。

運転資金にはいくつも種類がある

主食にもご飯、パン以外パスタなどいくつも種類があるように、一口に運転資金と言ってもいろいろな種類があります。
代表的な運転資金をいくつか、わかりやすく箇条書き形式にしてみました。

<運転資金の種類>
•【経常運転資金】
運転資金で最も代表的なもの。
仕入→販売→代金回収→仕入支払といった、日常的(経常)に必要な運転資金
•【季節資金】
季節ごとに必要(春の緑茶仕入)となる運転資金
仕入から販売まで短期間なので、事業資金調達後も短期間で返済する場合が多い
•【決算資金】
企業の決算で必要となる資金
配当金の支払いや納税、ボーナス(賞与)などに必要な事業資金として調達する

事業資金調達の「コツ」~事業資金調達を成功させる3つの要素

次に事業資金調達の「コツ」について解説します。
「コツ」とはいっても、裏技やマル秘テクニック的なものではなく、銀行などお金を貸す側から見た3つのポイントをおさえることが「コツ」なのです。

<事業資金調達の3つの「コツ」>
1.収益性
2.安全性
3.将来性

事業資金調達のコツ1.【収益性】

銀行も一般企業と同じように利益を追求する営利企業です。
したがって、事業資金調達で融資をする場合も、儲かることが大前提なので利息を付けるのです。
コロナ禍のいわゆる「無利子融資」も、本来は顧客から銀行が受け取る利息を、国が代わって銀行に支払っているだけで、決して無利息で貸している訳ではないのです。
企業によって、銀行から事業資金調達するときの金利が高い安いと差が出るのは、それぞれの企業ごとに採算ラインがあるからです。
ですから、事業資金調達で低金利を求めて銀行に交渉しても、採算ラインを超えるような低金利は実現できないのです。

収益性をクリアするには?

一つ目のコツである収益性は、具体的にどうすればいいのでしょうか?
それはズバリ「収益性をクリアするには銀行を儲けさせてやる」ことです。
といっても、何も銀行に賄賂をわたすと言ったような、不正な内容ではありません。
説明した通り、企業ごとに採算ラインがあるので、融資以外で銀行が採算を稼げるようにすればいいのです。
たとえば会社の口座に預金を多く預ければ、それだけでも採算が向上します。
また会社以外でも従業員への給料振り込み口座を作ったり、その従業員が住宅ローンやカードローン、クレジットカードや積立、運用商品の購入といったように派生した取引を展開するだけで、その企業の採算性はどんどん向上していきます。
銀行から事業資金調達して融資を受けている経営者の人なら、一度は銀行から
「他の銀行から預金を預け替えてほしい」
「従業員でクレジットカードを20人分作ってほしい」
などと頼まれたことがあると思います。
これらは直接的な支店や担当銀行員個人のノルマ達成のためでもあると同時に、上記した採算性を向上させるためでもあるのです。

事業資金調達のコツ2.【安全性】

融資したお金が返済されないと、これがいわゆる「不良債権」となります。
そして不良債権が大きくなると、銀行の経営自体を揺るがしかねない事態にも発展してしまいます。
過去に破綻した金融機関で、大型の倒産や不良債権がきっかけだった事例もあるほどです。

一方「安全性」とはいっても、その定義や尺度は難しいものがあります。
そこで、企業の決算数値や経営状況などから、その安全性を数値化して、融資金が返済されなくなる確率(デフォルト率と言います)などを判定するのが「自己査定」で、銀行にとっての財産である融資(債権)を自分(自己)で値踏み(査定)するという意味です。
そして、この自己査定でランク付けした結果が「信用格付(銀行格付、単に格付とも)」と呼ばれ、安全性の指標になります。

安全性をクリアするには?

安全性を高めるといっても、これはこれで難しいものがあります。
それは、どの会社でも安全性を高めたいと思いながら、その方法を懸命に探しているのが実情だからです。
また、上記したように企業の安全性を推し量るのは自己査定や信用格付けですが、その基になるのは業績であり、業績が良ければ安全性は高く、逆に悪ければ安全性も低下するといった、ある意味単純明快な答えになってしまいます。

しかしながら、企業の自助努力で安全性を高める、というより「安全性を高めようと努力している」ことを銀行にアピールすることはできます。
たとえば会社や経営者が各種の保険(生命保険など)に加入するなどして、万一に備える姿勢を示すことができます。(この場合、銀行が扱っている保険、あるいは推奨する保険に加入すればアピール度はさらに高まります)

また、会社や経営者個人、その家族などが積立性の預金を作るのも効果的です。
これは「積立」という点がまさにポイントで「毎月毎月コツコツと」ためていく姿勢こそ、安全性のアピール度が想像以上に高いのです。

事業資金調達のコツ3.【将来性】

事業資金を調達するため融資を申し込むと、融資の審査が行われます。
この融資審査では、計画や目標といった将来の見通しは必ずたずねられます。

銀行などの金融機関は、融資を通して事業資金調達で企業の成長を支援して、ひいては従業員やその家族の生活や地域の発展を目指すといった理想を掲げています。
とはいえあくまで理想であり、実際には企業が存続しなければその理想も実現できません。
たとえば、事業資金を調達した直後に企業が倒産でもすれば、地域経済の発展どころか、銀行の融資審査機能も信頼されなくなってしまいます。

とはいえ、未来を確実に予想することなど不可能です。
従来の銀行もこの姿勢で、決算書や販売実績など言ってみれば「過去」だけで融資審査するのが通常でした。
しかし最近では、企業の将来性を見抜く力を「目利き力」として、金融機関の審査に取り入れるよう、監督官庁である金融庁より指示されて、少しずつ融資審査の手法も変わりつつあります。

将来性をクリアするには?

こちらも安全性と同じくなかなかむずかしい部分ではあります。
なぜなら、将来性を高めることができれば、どの会社も苦労はしませんし、倒産することもないでしょう。

しかしながら、これも安全性と同じ考え方で「将来性を高めようと努力している」アピールならできます。
たとえば新商品や新ビジネスなど、常に新しい挑戦をしていることを銀行に伝えるなどが有効です。
ただしこれも、やりすぎは逆効果です。
企業の失敗や破綻は、往々にして無理な拡大方針や、新分野への挑戦が失敗したことが原因になります。
将来へのビジョンはあるとアピールしながらも、「石橋を叩いて渡る」ような姿勢もみせるなど「さじ加減」も求められます。

また将来性だけの話しではないのですが、たとえば銀行が主催する商談会やセミナーに積極的に参加するのも効果的です。
なぜかというと、銀行がセミナーや商談会を行うのは、地域経済発展や顧客同士をつなげるビジネスマッチングなど、まさに将来に向けた布石なのです。
したがって「銀行が打った将来への布石に賛同して参加するのだから、その企業にも将来性がある」と受け取ってもらえるのです
またこうした銀行主催の行事は、えてして参加者集めに銀行側が苦労するものなので、あなたの会社が積極的に参加するなら好評価を得ることになります。
また商談会に参加すれば、会社にとってプラスとなる、新しいビジネスパートナーに出会えるチャンスもあります。

事業資金調達のまとめ~基本とコツを押さえてスムーズな事業資金調達を実現させる

繰り返しになりますが、事業資金調達に裏技やマル秘テクニックはありません。
仮にそれらがあったとしても、その裏技やマル秘テクニックを出されたら、私なら即時に融資をお断りするでしょう。なぜなら裏技なので、使ってはいけないのですから。

今回は事業資金調達の基本についてわかりやすく説明し、また事業資金調達のコツについても銀行員の視点から解説してきました。

事業資金の調達とは、事業を運営していくうえで必要不可欠なお金を、様々な方法・手段で賄うこと
事業資金は「設備資金」と「運転資金」の2種類に分かれる

事業資金調達には「収益性」「安全性」「将来性」の3つのコツがある
収益性、安全性、将来性をクリアするのはむずかしいが、できることもあるのでそこから始めてみることも大事

この記事が、事業資金調達の 参考になれば幸いです。