企業の資金調達手段は数多くありますが、皆さまは「手形貸付」と「証書貸付」という2つの融資手段をご存知でしょうか?

どちらも銀行をはじめとした金融機関で提供される融資商品である上に、企業の利用率も高いため、上手に使い分けることができれば企業経営の資金繰りの改善に大変役立ちます。

今回は、「手形貸付」と「証書貸付」、2つの内容や違いを解説していきます。

手形貸付とは?

手形貸付とは?まずは手形貸付をみていきましょう。

そもそも手形とは、お金を支払う側の「支払人」が、お金を受け取る側の「受取人」に対して、指定された期日に指定場所でお金を支払うことを約束する信用証書でのことで、正式には「約束手形」とよびます。

金融機関などの貸主が借用書の代わりに手形を借主に振り出させ、その手形金額に応じた金額のお金を貸し付ける融資手段が手形貸付です。

手形貸付は、基本的には1年以内(3ヶ月・6ヶ月なども可)の返済機関を設ける短期貸付であるため、売上金入金前の運転資金の補填やつなぎ資金の調達に役立てられるケースがよくみられます。

手形貸付のメリット
手形貸付のメリット①期日前返済が可能

手形貸付による融資は、期日に一括返済するのが前提となりますが、期日前に前倒しで返済することも可能です。

これを「手形の内入れ」とよびます。

また、手形貸付の利息は借り入れ時に一括前払いが原則となるため、期日前に資金に余裕ができるなどして返済ができれば、前払いした利息も返還されることになります。

②他の融資よりも審査が甘くて早い

手形を担保にして貸付を行うという性質上、金融機関にとっては債権回収リスクを少なく抑えられることから、他の融資手段よりも審査基準は低く設定されています。

また、他の融資審査では資産や保証人の確認に時間を要すために、審査完了までに数週間から1ヶ月ほどの時間がかかりますが、手形貸付は原則として担保にした手形の確認と返済能力の有無の調査のみですので、審査にかかる時間が短いのも大きなメリットです。

③金利が低く設定される

手形貸付の返済期間は基本的に1年未満であり、資金の回収リスクも低いことから、他の融資手段よりも金利が低く設定されるという点も魅力のひとつです。

④2回目以降の手続きが簡単

手形貸付は、手形の振り出しが借用書の代わりとなることから、申し込みにあたっては借用書の記載が不要となります。

初回の利用時に信用を得られていれば、2回目以降は、簡単な手続きで申し込めるため非常にスムーズに資金の調達が行えることになります。

手形貸付のデメリット

手形貸付のデメリット①高額融資を受けるのは難しい

手形貸付は、原則として保証人が不要であるほか、返済期限も1年未満である点などから、高額の融資を受けづらいというデメリットがあります。

したがって、設備投資や事業拡大といった大口の資金が必要な際には不向きな資金調達手段であるといえます。

②当座預金口座の開設が必須

手形の発行のためには、当座預金口座の開設が必須であり、当然ながら手形貸付を利用するにあたっても開設が必須となります。

当座預金口座の開設は、開設する金融機関との間で継続的な取引が行われていることが条件となるなど、簡単にいくものではありません。

③2回の不渡りで銀行取引停止処分

比較的、利用しやすい融資手段である反面、期日までの返済が完了できなかったり、遅延などが生じた場合は罰則が課されます。

特に、手形は2回の不渡りが生じると、金融機関との取引が停止されるという厳しい罰則が課されますので注意が必要です。

証書貸付とは?

証書貸付とは?では、もうひとつの「証書貸付」とはどのような融資手段なのでしょうか。

証書貸付の「証書」とは、貸付額・金利・返済方法・返済期間などの条件が記載された「金銭消費貸借契約証書」を指します。

高額の融資を受けた上で、長期的に返済を行っていく住宅ローンや教育ローンなどのほか、いわゆるフリーローンなどもこれに当たります。

つまり証書貸付は、借用書が不要な手形貸付に対し、一般的に借用書と呼ばれる「金銭消費貸借契約証書」による契約の締結によって貸付を行う融資手法となります。

証書貸付のメリット

証書貸付のメリット①高額融資を受けられる

返済期間が1年未満に設定され、少額の融資に限られがちな手形貸付に対して、証書貸付は1年以上の貸付期間に適用されるのが一般的であるため、高額の融資を受けることも十分に可能です。

したがって、設備投資や事業拡大といった大口に資金が必要な場合には、こちらの証書貸付が適しているといえるでしょう。

②長期的な返済プランを立てられる

証書貸付では、返済期間が1年以上であることがほとんどであるため、調達した資金で大きな投資を行った上で売り上げの向上を図り、段階的に返済を続けていくという長期的な返済プランを立てられます。

証書貸付のデメリット

証書貸付のデメリット①融資審査が厳しく実行までの期間も長い

手形貸付は、原則として保証人や資産の担保が不要な融資手段ですが、証書貸付は、これらの用意を求められる場合が多くあります。

もちろん少額の融資を希望する場合には、不要となることもあるのですが、証書融資の利用者の多くは、高額の融資を希望するため、ほぼ確実に用意しなければなりません。

そのような契約の性質上、審査の基準は厳しくなりますし、保証人や資産の確認に時間を要することにもなるため、実行までには時間がかかるというデメリットがあります。

また、金融機関にとっては貸付リスクが高まることから金利が高くなる点もデメリットといえます。

②利用ごとに「金銭消費貸借契約証書」の提出が必要

証書貸付の際に提出する「金銭消費貸借契約証書」には、基本的に一度の融資に関する事項の記載がされます。

したがって、追加融資を申し込む際には、再度「金銭消費貸借契約証書」を作成して提出と契約を結ぶ必要があるため、複数回にわたって融資を申請することは難しいといえます。

手形貸付とは?のまとめ

まとめ以上が「手形貸付」「証書貸付」それぞれの内容と違いです。

一時的な運転資金やつなぎ資金の調達と返済を短期間の間で繰り返しながら、資金繰りの改善を図りたい場合には「手形貸付」。

大規模な設備投資や事業拡大を通じて、長期的な売り上げ向上と返済を目的とするのであれば「証書貸付」を行うというのが、2つの融資手段の理想的な使い分けであるといえるでしょう。