事業をするうえで、資金調達が早いのはどこか?あるいはどのような融資商品なら早い資金調達が可能なのか?そして、どうしたらもっと早めることができるのか?といった疑問は経営者なら誰もが持っていると思います。
そこで今回は「資金調達が早いのはどれ?」をテーマに銀行員が解説します。
お金を借りる側の素朴な疑問に、お金を貸す「銀行の中の人」が答えていきますので、少しでも早い資金調達を実現する方法を知りたい人は、ぜひ参考にしてください。
目次
資金調達が早いのはどれ?〜銀行とノンバンクの比較
まず資金調達が早いのは「どれ?」
つまり融資を利用する事業者・銀行などの金融機関と、消費者金融等のノンバンクをいくつかのポイントで比較し考えてみました。
(なおこの記事では銀行以外の信用金庫、信用組合など民間金融機関をまとめて「銀行」と表現しています)
比較1.融資申し込みのスピード
最初は、融資を申し込むとき、申し込み入力から必要書類など申し込みが完結するまでの時間を比べました。
まずノンバンクではパソコンやスマホなど「ネット完結」が主流で、入力もシンプルな作りになっているので、早ければ数十分程度で申し込みが終わります。
必要書類も数年分の決算書程度と簡素化され、必要書類をスキャンするなど申し込み完了は1〜2時間で完結するのが一般的です。
いっぽう銀行の場合は、依然として店頭での申し込みが原則なので、来店の日時予約から始まり、面談して申込書類の記入、必要書類の提出などのプロセスも銀行の店頭が基本です。
しかも銀行の事業資金融資申し込みは一日で終わらないこともよくあります。
たとえば最初に面談して話を聞いてもらい、その日は終わり(一旦、面談内容をもとに銀行で検討するケース)、数日後に連絡があって「正式申込」として、ここで初めて融資の申し込みができるといったように、数回/数日かかる場合もあります。
このように銀行の融資は申し込みから時間がかかるものですが、これはなにも銀行がのんびり仕事しているわけではなく、事業資金融資は慎重に取り組み、いくつかのプロセスを経て審査をすすめるからです。
【結論:融資申し込み】
融資申し込みに関しては、消費者金融などノンバンクのほうが早いです。
最近は銀行でも「◯◯銀行ビジネスローン」など融資までのスピードが早いものもありますが、あくまで融資商品の一部であり、全般的に銀行の融資申し込みでは数回・数日の時間が必要になります。
比較2.審査回答までのスピード
ノンバンクの場合、早ければ数時間以内で審査回答がメールなどで連絡が来ます。
なぜならノンバンクは「即日融資!」などスピードが売りだから審査回答が早い、ということです。
もちろんスピード審査とはいっても、ノンバンクが「早く回答を出す」ことを最優先に審査をしているだけで、銀行とノンバンクは審査の根本的な部分は同じなのです。
したがってノンバンクの審査が銀行よりゆるいなどということはありません。
たとえば「審査が甘い」とか「審査なしで借りれるカードローン」といった見出しでノンバンクを取り上げているネット記事を見かけますが、そのようなものはないと銀行員の私は考えます。
いっぽう銀行は、審査回答には早くても数日〜1週間程度は必要です。
しかし上述した銀行ビジネスローンなどの融資商品も増えているので、審査回答までのスピードは早くなりつつあるとも言えます。
【結論:審査回答】
銀行の審査スピードは早くなりつつありますが、まだノンバンクに速度では勝てないと言えます。
比較3.契約から融資利用までのスピード
申し込みが融資の入り口なら、契約書類に署名捺印して、実際に融資を利用できるようになるのが出口と言えます。
この契約から融資利用についても、やはりノンバンクのほうが早いです。
とはいえ、銀行で時間がかかるのは申し込みと審査であって、契約の段階から融資利用まではそれほど時間は要しません。
ノンバンクが最短申し込み当日に利用も可能だとしたら、銀行は契約から利用まで数日、といった程度の違いです。
【結論:契約から融資利用まで】
やはりノンバンクのほうが早いのですが、銀行もそれほど時間はかかりません。
【結論】銀行とノンバンク・資金調達が早いのは?
ここまでの説明をまとめると、銀行とノンバンクで資金調達が早いのはノンバンクであると言えます。
いっぽう、融資はスピードがすべてではなく利用する条件、たとえば金利なども重要です。
この点、ノンバンクのほうが銀行より金利は高いので、銀行より資金調達が早いというというメリットを手に入れるには、銀行より高い金利が必要とも言えます。
資金調達が早いのはどれ?〜融資商品の比較
続いて、各種の融資商品ごとにスピードをみていきましょう。
銀行のプロパー融資
プロパー融資とは、信用保証協会(次項で解説)などの保証をつけず、銀行が融資をするもので直接融資などとも呼ばれます。
プロパー融資は銀行にとっても保証がつかない分リスクが高くなるので、ある程度の取引年数や安定した取引実績、決算内容などを見極めて慎重に対応するのが一般的です。
したがってプロパー融資は銀行と取引開始してから平均して3〜5年程度の年数が必要になるので、これはもう早いとか遅いとかのレベルではないのです。
保証協会融資(マル保融資)
中小企業などの事業資金融資の保証人になってくれる公的機関が信用保証協会で、各都道府県や政令市ごとに設置されています。
そして信用保証協会の保証付きで融資を受けられるのが「(信用)保証協会融資(通称「マル保融資」)です。
保証協会融資は、原則として銀行など金融機関が窓口となり、信用保証協会への申請から融資審査、契約も銀行が行いますので、実質的には銀行融資と言えます。
信用保証協会の保証があれば基本的に審査も終わったようなものなので、信用保証協会による審査時間なども加わり、おおむね申し込みから融資利用まで数週間から1ヶ月程度の時間が必要になります。
日本政策金融公庫
信用保証協会と同様に、公的期間である日本政策金融公庫も申し込みから融資利用まで数週間から1ヶ月、あるいは数ヶ月の時間がかかる場合もあります。
不動産担保ローン
個人事業主の人や会社の不動産を担保にした事業資金融資が不動産担保ローンです。
融資の申し込みや審査、融資契約は時間がかからないのですが、担保契約には法務局の登記が必要になるので、ここで数日から一週間程度の時間が必要になります。
手形割引
販売代金を約束手形で受け取り、数カ月先の手形支払期日まで待ちたくない場合に、期日までの残り日数や決算状況などに応じた手数料(融資の金利に相当)を払って手形を現金化するのが手形割引です。
期日までの手数料を割り引く(差し引く)ことからこう呼ばれています。
銀行の手形割引では、事業資金融資の取引がある顧客ならスムーズに対応してくれますが、まったくの新規で手形割引を申し込んだ場合は一般的な融資審査として1週間以上の時間が必要となりますし、場合によっては割引を断られる可能性すらあるのです。
また貸金業者でも手形割引を取り扱っています。
ファクタリング
手形割引が代金を手形として受け取った場合であるのに対し、支払日まで入金待ちの売掛金を現金化するのが「ファクタリング」です。
売掛金を専門の金融業者が買い取る形なので、いわゆる融資では無いのですが、スキームが手形割引と類似しているので、実質的に売掛金を担保にした融資とも言えます。
ファクタリングもスピードを売りにしていますので、最短では即日に換金も可能です。
ただし、上記した手形割引やファクタリングを貸金業者で利用する場合は手数料が高めなのが基本で、また取扱条件などをしっかり確認して検討したほうがいいでしょう。
ビジネスローン
個人事業主や法人向けに数百万円程度から利用でき、原則として無担保・保証人不要な融資商品がビジネスローンです。
簡素な手続きと融資利用までのスピードが売りの融資商品なので、ノンバンクのビジネスローンなら申し込み当日の融資利用も可能ですし、一部銀行のビジネスローンも即日から次の日までに利用可能なところもあります。
ただし、ここは繰り返しになりますが簡単な手続きやスピードとの引き換えに、金利は高めになっていますので、メリット・デメリットを考えながら利用するようにおすすめします。
【結論】融資商品で資金調達が早いのは?
ここまで読み進めて、もしかしたら感じた人がいるかも知れませんが、融資商品ごとのスピードは、実は時間がかかるものからスピードが早いものへ、という順番で並んでいます。
個人的見解ではありますが、現場で融資審査をしている生の声として参考にはなると思います。
したがって、融資商品で資金調達が早いのはビジネスローンというのが結論です。
もちろん実際に融資を申し込んだ場合には決算内容などにより時間がかかる場合もありますし、融資を受けられないケースもありますので、その点は注意してください。
【解説】早さと金利の関係〜金利はどうやって決まるの?
ここまでいろいろな早さについて解説してきましたが、ここで融資の金利について基本事項などをわかりやすく解説します。
まず金利は融資期間、つまりどれだけ長く借りるのか?という時間に関係します。
一般に1年未満(数日、数週間から1ヶ月、半年など)の融資を短期、1年以上を長期と区別しています。
ちなみに一言で長期と言いますが、おおむね10年以内を「長期」20年あるいはそれ以上を「超長期」などと区別する場合もあり、これは国債の分類と似ています。
そして借入期間が長いということは、銀行などお金を貸す側から見れば、長ければ長いほど、貸したお金を返してもらえない(とりっぱぐれる)リスクが高まるので、金利も比例して高くなるという原則があります。
またひとことで融資と言ってもビジネスローンのように無担保・保証人なしのものからプロパー融資なら不動産など担保が必要になるなど様々です。
そもそも担保というのは、文字通り貸したお金を担保して、返せなくなったときに換金して借金を回収するためのものです。
この点から担保、そして信用保証協会などの保証は融資金に対する「保全(安全を保つ手段といった意味)」あるいは「(融資の)押さえ」などと呼んでいます。
もっともこうした呼び方はお金を貸す銀行やノンバンクなど「債権者」の視点から発生する考え方です。
このように、借入期間と担保(保全)が債権者にとって不利なほど金利は高くなるので、借入期間が長いほど金利は高く、担保や保証がある融資より無担保・保証人なしのほうが金利は高くなる原則です。
少し前置きが長くなりましたが、こういった点を踏まえて融資商品ごとの金利をみてみましょう。(銀行員調べに基づくもので、実際は個別に金利は異なりますので、あくまで目安としてください)
<融資の金利いろいろ>(銀行員調べ・金利は年利)
● 銀行プロパー融資・短期:1%未満〜3%程度)
● 銀行プロパー融資・長期:2%台〜4%台
● 保証協会融資:短期長期とも銀行融資と同水準(ただし別途保証料が必要、いっぽう制度融資などでは低利で固定金利の融資もある)
● 不動産担保ローン:(銀行)最高9%台、(ノンバンク)最高15%台
● 手形割引:(銀行)3%〜4%台、(貸金業者)金利(手数料)は貸金業者)最大14%台 ※手数料は手形発行者の信用度などに左右される
● ファクタリング:最高20%台
● ビジネスローン:(銀行)最高14%台(ノンバンク)最高18%台
資金調達が早いのはどれ?〜早い資金調達を実現させる3つの方法
では、早い資金調達方法を見てきたうえで、さらに早くできないか?
融資を受ける側でもできる対処法を3つ解説します。
方法1.事業計画を作る
資金調達では資金が必要な理由、つまり「どうして資金調達したいのか?」という理由付けが必要です。
しかし資金調達では必要理由だけでなく、資金調達したあとの展望、つまり「この資金調達ができれば〜を〜できる」という「目的」がもっと重要なのです。
たとえば銀行では融資の審査で担当者が資料をまとめて上司に融資を諮る(上司の決裁を仰ぐこと)書類として「稟議書・協議書」といった報告書を作ります。
そこではいわゆる「5W1H(なぜ?だれが?どこで?なにを?いつまでに?どのように?)」で構成されています。
まず資金が必要な理由は「なぜ必要なのか(Why?)」となりますが、これと同様に
だれが?(Who?):「社内で専門のプロジェクトチームを作り」
どこで?(Where?):「営業の立て直しが必要な3拠点で」
なにを?(What?):「売上のプラス30%が目標」
いつまでに(When?):「5年の計画期間中に」
どのように?(How?):「チームが先導して計画どおりに進むかチェックしていく」
といった内容を理路整然と説明できれば、融資申し込みや審査が早くなる可能性は高くなるでしょう。
そして、そのためにはなんといっても事業計画の作成が重要です。
そもそも事業計画は会社の経営が円滑に進むように、期間と目標を定めた計画に基づいて事業を進めていくというものです。
もっとも経営者であれば当然、常日頃から考えているはずですが、はやい資金調達を実現するには事業計画をいつでも提出できるように準備しておくことが大事です。
つまり会社経営のためには常に必要な事業計画ですが、早い資金調達を実現できるような計画、つまり審査にプラス作用する計画を作る工夫が必要なのです。
自分や自社でそうした計画を作るのが難しい場合は銀行などに相談したり、税理士やコンサルタントといった専門家に依頼したりするのも有効です。
方法2.資金繰りの見える化
事業計画と同様に、資金繰りを見える化することが早い資金調達実現には有効です。
売上がいつまでに回収できて、支払いはいつまでにいくら払う必要があるか?あるいは事業で必要な資金をいつ、どのように調達して、どこに投入するか?といったように、会社のお金をやりくりする(これを「お金を繰り回す・くりまわす」などと表現し、ここから「資金繰り」と呼ばれています)流れをまとめたものが「資金繰り表」です。
そこでこの資金繰り表を融資申し込み時には言われなくても提出すれば「資金繰りを意識した経営ができている」と審査でプラス作用する(私なら銀行員としてプラスに受け取ります)可能性があります。
方法3.自社の「物語」を描く
会社のあるべき姿、進むべき方向、目指す最終目標などを言葉に表すことを「ビジョン」などと呼び、会社の公式HPなどで対外的にアピールしています。
融資申し込みでも会社のビジョン、つまりは「これから自社が作っていく物語」を描けば「物語を完結させるために、今回の資金調達が必要不可欠」と、融資が必然と言わんばかりの「迫力」も生まれます。
こうしたビジョンの策定も専門家に相談して考えたり、取引する銀行に相談したりすればアイデアがつかめるかも知れません。
資金調達が早いのはどれ?〜銀行とノンバンク、融資商品ごとに銀行員が比較してみました・まとめ
ここまでの説明で、資金調達のスピードという点では、資金調達が早いのは銀行よりノンバンク、そして融資商品で資金調達が早いのはビジネスローンというのが一つの結論です。
ただし、銀行とノンバンクでは取り扱い内容や融資条件も違いますし、融資商品でもそれぞれの特徴や注意点もありますので、この記事を参考に自分・自社に最適な方法で資金調達が早いものを選ぶようにしてください。