経営者であれば、経営が波に乗ると事業のさらなる展開や拡大を目指して子会社の設立を検討されることもあるかと思います。既存事業が安定し、次の成長フェーズに進むタイミングでは、新規事業の立ち上げやサービスの別展開、グループ全体の管理体制強化などを目的として、子会社という形態を活用するケースは非常に多く見られます。
子会社の一般的なイメージとしては、「株式を保有する親会社が存在し、その傘下におかれる会社」というものですが、実際には子会社の事業形態にはいくつかの種類があり、特徴も様々です。たとえば、親会社が100%出資する完全子会社もあれば、出資比率を抑えた形で設立される子会社も存在し、資本金の額や出資の割合によって、経営への影響や管理方法、財務上の扱いも異なってきます。
また、子会社は親会社とは別法人として登記されるため、会社設立時には定款の作成や認証、登記申請といった一連の手続きを行う必要があります。定款には、事業目的や資本金、役員構成など重要な事項を記載することが求められ、書類の不備があると申請が受け付けられない場合もあります。そのため、事前に制度や流れを理解し、必要に応じて専門家の支援を受けることが重要です。
子会社設立の目的としては、特定分野に特化したサービス展開や、個人向け・法人向けといった顧客層の切り分け、リスク管理の観点から事業を分離するケースなどが挙げられます。グループ内で役割を明確に定めることで、事業運営の効率を高めたり、管理体制を整理したりする効果も期待できるでしょう。
一方で、子会社を設立することによって得られるメリットがある一方、デメリットや留意しておくべき注意点があるのも確かです。たとえば、親会社と子会社の関係性によっては、課税や消費税の扱いが複雑になる場合がありますし、グループ全体の財務状況に影響を及ぼす可能性もあります。また、設立後には決算や税務申告、各種書類の提出といった管理業務が発生するため、人的・時間的コストが増える点にも注意が必要です。
さらに、子会社設立のタイミングを誤ると、想定していた効果が得られないケースもあります。補助金や支援制度の活用を視野に入れている場合には、設立前後で受けられる制度が異なることもあるため、事前に確認しておくべきでしょう。将来的な事業承継対策やグループ再編を見据えて子会社を設立する場合も、長期的な視点での計画が求められます。
このように、子会社は単なる「会社を増やす手段」ではなく、経営戦略の一環として位置付けるべき存在です。目的や先の展開を明確にしたうえで、専門家や顧問と相談しながら設計することで、より適した形で活用できるようになります。
そこで今回は、子会社とは具体的にどういった会社のことを指すのか、また会社設立に伴う手続きや管理のポイントを踏まえつつ、生じる可能性のある主なメリットやデメリットについても分かりやすく解説していきたいと思います。子会社設立を検討している経営者の方にとって、判断材料の一つとなれば幸いです。
目次
子会社とは?

まずは、子会社が具体的にどのような会社であるかを、全体像から確認していきましょう。初めて子会社設立を検討する場合、「どこまでが子会社なのか」「どちらが親会社になるのか」といった基本的な点で迷う方も少なくありません。そのため、会社法上の定義を正しく知ることが安心して手続きを進める第一歩になります。
会社法では、子会社を以下のように定義しています。
「会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社が経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう」
(会社法第2条第3号)
一方、親会社の定義は次の通りです。
「株式会社を子会社とする会社その他の当該株式会社の経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう」
(会社法第2条第4号)
条文だけを見ると少し分かりにくいですが、ポイントは「経営を支配しているかどうか」という面にあります。ここでいう支配とは、株主総会での承認権や取締役会の構成、経営方針の決定に影響を与えられる状態を指します。
子会社の定義を簡単に整理すると、次のようにまとめられます。
「株式会社またはその他の当該会社によって、議決権のある株式の50%以上を保有される会社」。
つまり、A社がB社の株式の50%以上を保有していれば、A社が親会社、B社が子会社であり、B社はA社の傘下におかれ経営を支配されるということになります。
一般的には、このような関係性を「資本関係を中心とした親子関係」と呼びますが、実務上は完全子会社(100%保有)なのか、一部を他社や複数の株主が持つ形なのかによって、経理処理や税制、税率の扱い、必要な調整内容が異なります。完全子会社であれば親会社の方針がそのまま反映されやすい一方、少数株主が存在する場合には、その権利にも配慮する必要があります。
また、子会社を作る際には、商号や所在地、資本金の払込方法、取締役会を設置するかどうかといった規定を定め、法人登記までの手続きを行います。設立までには一定の期間がかかるため、スケジュールを立てて進めることが重要です。業界や会社の規模、人数によっても適切な形は異なり、状況に応じた判断が求められます。
なぜ子会社という形態を選ぶのかという点も重要です。事業を分けてリスク管理を行う、税制上の効果を見込む、他の事業や他社との関係を整理するなど、その理由はさまざまです。いずれの場合も、親会社・子会社双方の側にとって負担やコストがどの程度かかり、どのような効果が期待できるのかを事前に知っておく必要があります。
このように、子会社とは単に「別会社を作る」というだけではなく、資本・経営・税務・手続きといった複数の要素が関係する仕組みです。全体を理解したうえで、どの形が自社にとって適切なのかを検討することが、後悔のない子会社設立につながるといえるでしょう。
子会社の事業形態

次に子会社の事業形態をみていきましょう。
1.完全子会社
ひとつめは「完全子会社」です。
完全子会社は、その名の通り親会社によって発行済株式の100%を保有される子会社を指します。
完全子会社化の実行手段としては、すべての株式の買取のほか、株式交換や株式移転などがあり、リスク分散や迅速な意思決定といったメリットが期待できます。
2.連結子会社
ふたつめは「連結子会社」です。
親会社が株式の100%を保有する完全子会社に対し、連結子会社は親会社が50%超の株式を保有、または株保有が50%以下であっても役員派遣などによって意思決定機関を支配している会社のことです。
親会社が決算時に連結財務諸表を作成する際には、親会社の数値と合算することができます。
3.非連結子会社
みっつめは「非連結子会社」です。
非連結子会社は、親会社が経営を支配しながらも、それが一時的なものであったり、資産や売上高から重要性が低いと判断されることから連結範囲から除かれる子会社です。
子会社を設置するメリット

では、子会社を設置するとどのようなメリットが得られると考えられるのでしょうか。
・節税に期待できる
800万円以下の所得に対しては、軽減税率が適用されますが、子会社を設置することにより、親会社の利益を分散することができるため、親会社と子会社ともに法人事業税の軽減税率を利用できる可能性が生じます。
・自由度の高い経営が可能になる
子会社を設置する場合は、親会社の特定の事業を継承させるケースが多いため、その事業に特化した経営が可能になります。
それにより、組織もコンパクトにできるため、意思決定のスピードを迅速化できることも大きなメリットだといえます。
・親会社が業務停止に陥った際でも事業を進められる
もしも何らかの事情によって会社が業務停止になった場合、当然ながら利益の獲得は認められず、大きな損益を被ることになります。
しかし、子会社が存在する場合には、そちらの業務には支障はないため、営業活動の継続が可能です。
そのような点からも、子会社の設置はリスクヘッジのひとつになるといえるでしょう。
子会社を設置するデメリット

一方で、子会社を設置すると生じる可能性のあるデメリットもあります。
・税金が増える可能性
所得額によっては、節税効果が生まれる子会社の設立ですが、会社の数が増えることによって、住民税の均等割が増加します。
これは赤字決算であっても支払う必要があるほか、100%子会社以外の場合は親会社と子会社の損益を通算することが不可能です。
したがって、親会社が赤字で子会社が黒字となると、子会社は黒字分に応じて法人税を支払う必要があります。
・運営コストの上昇
当然ではありますが、会社が増えれば増えるほど運営コストは上昇するものです。
オフィスの家賃や機器のリース代はもちろん、その他の各種諸経費など。
また、子会社においても弁護士や税理士といった士業と契約する場合には、その分の費用の支払いも必要になります。
まとめ

今回は、子会社のそれぞれの事業形態の解説と、設立によって生じる可能性のあるメリットやデメリットについて紹介しました。子会社には、株式会社だけでなく合同会社といった形態もあり、資本金の金額や発起人の構成、取締役の設置有無などによって仕組みや運営ルールが大きく異なります。そのため、何となく「会社を新設する」という感覚ではなく、基本からしっかりと理解したうえで判断することが重要です。
経営が上向くことで、事業をさらに拡大・させるためにも子会社の設立を検討されることもあるかと思います。新規事業への投資や、既存事業とは別の市場への進出、従業員数の増加に伴う人事・労務管理の最適化など、子会社設立を選択する理由は企業ごとに異なります。また、ベトナムなど海外展開を視野に入れたケースや、特例子会社の新設によって雇用や社会的責任を果たす取り組みも、近年では広く見られるようになっています。
その際には、メリットとデメリットをしっかりと把握して、親会社の経営とバランスの取れる施策を検討していくべきだといえるでしょう。子会社設立は成長戦略の一環である一方、税務や会計、法務、労務といった分野で新たな負担やリスクが発生する点も見逃せません。
たとえば、法人登記を行う際には法務局への届出や各種書類の提出が必要となり、定款に記載する事業目的や本店所在地、資本金の金額などを事前に正確に定める必要があります。登記後も、税務署への申告や各種届出、電子申請の設定など、開始時点で行うべき準備は多岐にわたります。これらを徹底せずに進めてしまうと、後から修正や追加対応が必要になり、結果的に時間や手数料がかかるケースも少なくありません。
また、会計や税務の面では、親会社との間の取引に関する仕訳や計算、グループ全体での申告方法の確認などが必要になります。消費税や法人税の扱いは会社ごとに異なるため、条件や要件を誤って理解していると、想定外の金額負担が発生する可能性もあります。こうした問題を防ぐためにも、税理士法人や司法書士といった専門家に依頼し、正確な知識に基づいて進めることがおすすめです。
さらに、子会社設立後には取締役の報酬決定や決議事項の管理、労務ルールの整備など、人に関わる課題も増えていきます。従業員を新たに採用する場合には、社会保険や労務管理の仕組みづくりも欠かせません。自社内だけで完結させようとすると、法や条文の理解不足からトラブルに発展することもあるため、外部の専門サービスを活用する選択も検討すべきでしょう。
一方で、子会社を設立することで、助成金や補助金を取得できる可能性が広がるケースもあります。創業支援や新規事業向けの制度は、親会社単体では対象外でも、別法人として新設することで条件を満たす場合があります。ただし、これらの制度には細かなルールが設けられているため、事前の情報収集と確認が不可欠です。
重要なのは、「本当に今がそのタイミングなのか」「他のやり方と比較して最適なのか」を冷静に見直すことです。子会社を設立せず、社内システムや組織体制を分割・再構築するだけで課題が解消する場合もあります。成功している企業ほど、複数の選択肢を一覧で比較し、自社の成長フェーズや投資余力、全体戦略に合った方法を選んでいます。
子会社設立はゴールではなくスタートです。準備段階での知識や基礎理解、専門家との連携、そして設立後の運営体制まで含めて考えることで、初めて成功につながります。本記事が、子会社設立を検討する皆さまにとって、リスクを抑えつつ成長を加速させるための一助となれば幸いです。





