日本経済でそのほとんどを占めているのは中小の会社といわれています。
中小の会社経営者にとって頭痛のタネになりがちなのが、資金繰りではないでしょうか?

思うように資金調達できないと、いくら売り上げを出していても会社は長続きしません。
今回紹介するABL(売掛債権担保融資)は、中小の会社向けの資金調達方法といわれています。
ここではなぜ中小企業向けの資金調達方法といわれるのか、どんな時に活用すべきかについて詳しく見ていきます。

ABL(売掛債権担保融資)の基本を押さえよう

中小の会社経営者の中には「ABL(売掛債権担保融資)ってそもそも何?」「なんとなく名前は知っているけれども…」という方もいるでしょう。
そこでABL(売掛債権担保融資)とはそもそもどのようなものなのか、簡単におさらいしていきます。

ABL(売掛債権担保融資)とは?

ABL(売掛債権担保融資)とは「Asset Based Lending」の頭文字をとったものです。
「売掛債権担保融資」と日本語では訳されます。
文字通り、売掛債権などを担保にしてお金を借りる融資制度のことです。

日本では近年注目を集めるようになりました。
しかしアメリカでは1970~80年代にすでに登場していた、歴史のある金融サービスです。

ABL(売掛債権担保融資)で担保になるものとは?

ABL(売掛債権担保融資)で担保として差し出すことができるものとして、以下のようなものがあります。

・売掛金
・仕掛品
・在庫
・原材料
・車両や機械
・受取手形

こうしてみると、不動産以外担保として認められにくい銀行融資と比較するといろいろなものが担保になりうることがお分かりでしょう。
中小の会社の場合、担保を提供したくても提供するものがないというケースも多いでしょう。
しかしうえで紹介したものなら、中小の会社でも十分準備できるのではありませんか?

融資可能額は?

売掛債権担保融資といわれるABL(売掛債権担保融資)ですから、融資の限度枠を判定するにあたって、売掛債権がいくらあるかをベースにして決めます。
具体的にいくら貸し出してくれるかは、金融機関の判断によってまちまちです。
しかし相場といわれているのが、担保の価値の70~90%です。
どちらに近い掛け目になるか、これはその会社の信用力で決められます。

もし掛け目が80%として、毎月500万円の売掛金の発生する法人があったとします。
この場合、400万円を上限として融資が可能なわけです。

ABL(売掛債権担保融資)は中小の会社向けの資金調達といわれる理由

ABL(売掛債権担保融資)は中小の会社の新しい資金調達方法として注目を集めています。
実際金融庁でも、資金調達力の乏しい企業を対象にABL(売掛債権担保融資)を積極的に活用するように推奨しているほどです。
なぜ中小の会社にとって、ABL(売掛債権担保融資)がおすすめなのか、その理由について解説します。

不動産を持たない会社が多い

銀行融資を受ける場合、不動産を担保として出すように求められるケースが多いです。
しかしそもそも不動産を持っていない会社からすれば、担保の出しようがありません。

ちょっと古いデータですが平成15年に国土交通省が公開したデータによると、何かしらの土地所有している会社の数は64万1,000法人でした。
これは法人総数の34.5%でした。
つまり日本の会社の2/3は、不動産を一切保有していないことになります。

しかしABL(売掛債権担保融資)であれば、不動産以外のものを担保にして借入が可能です。
中小の会社で不動産を持たないところも少なくないでしょう。
従来の銀行融資は難しくても、ABL(売掛債権担保融資)であれば借入のできる会社も増えてくるはずです。

手形取引が減少している

日本では伝統的に手形取引が広く普及していました。
そこで会社によっては手形割引や裏書譲渡など、手形を使った資金調達方法が比較的ポピュラーでした。
ところが日本では近年、手形取引が減少傾向にあります。
ですから手形を使った資金調達が難しくなりつつあります。

東京商工リサーチの調査によると、1990年が手形取引のピークでした。
手形交換高は4,700兆円に達しました。
しかしそこから減少傾向が続いていて、2018年には261兆円と1/20近くにまで減少しています。

なぜここまで取引が減少したのか、これは手続きの効率化が関係しています。
手形取引をするとなると印紙税が発生しますし、取引に人員を割かないといけなくなり人件費もかかります。
これら無駄なコストを削減する必要が生じました。

また現金決済が普及しているのも手形取引が減少している理由の一つです。
このため同じく東京商工リサーチの調査によると、2017年の国内の手形交換所は107か所です。
1997年には185か所あったので、80か所近く減少しています。

手形を使った資金調達が難しくなった現在、それにとってかわる売掛債権を使った資金調達方法としてABL(売掛債権担保融資)が注目されているわけです。

高額融資の可能性も

売掛債権を使った資金調達方法として、ファクタリングがあります。
ABL(売掛債権担保融資)とファクタリングの決定的な違いはABL(売掛債権担保融資)が融資であるのに対し、ファクタリングは売掛債権の買取である点です。
ファクタリングは売掛債権を売却するので、後々返済する義務はありません。

しかしファクタリングの場合売掛債権の買取なので、売掛債権の価値を超えた資金の提供は受けられません。
一方ABL(売掛債権担保融資)はあくまでも売掛債権を担保にした融資なので、審査いかんではありますが信用力があり事業に将来性があると判断されれば、売掛債権以上の資金調達も不可能ではありません。
するとまとまった金額の融資を受けることも可能です。

高額の資金が融資されれば設備投資など、事業拡大にかじを切ることも可能です。
中小の会社でも事業拡大で、会社の成長が見込めます。

積極的な設備投資で中小の会社の経営体力がつけば、日本経済にとってもプラスです。
ですから金融庁がABL(売掛債権担保融資)の積極的な活用を推奨しているわけです。

正確な中小の会社の事業性評価が可能

ABL(売掛債権担保融資)は中小企業の事業性評価を活用するにあたっておすすめといわれています。
中小の会社を見てみると、棚卸資産の評価で原価法を採用しています。
取得原価を貸借対照表価額にして、損益計算書を作成するにあたって取得原価をベースにする傾向が見られます。

しかし棚卸資産の評価方法にはもう一つ、低価法があります。
帳簿価額を評価額にする原価法に対し、期末時点の時価と帳簿価額を比較して低い方を評価額とする方法が低価法です。

金融機関では融資の審査を行うにあたって、貸借対照表や損益計算法を見ています。
しかしこれがもしかすると事業の正確な評価結果を反映していない可能性があるわけです。

ABL(売掛債権担保融資)の場合、売掛債権など担保を定期的にチェックします。
ですからより正確に事業性評価ができるようになり、中小の会社でも資金調達しやすくなる可能性が高いわけです。

実際日本動産鑑定というところが動産評価を実施しました。
162件について評価を行ったのですが、帳簿価格を時価が上回った会社は144件に達しました。
全体の88.9%です。
時価の方で評価すれば、より多くの資金を借入できる可能性があるわけです。

中小の会社にとっては、自分の持っている債権や在庫をより正確な価値で判断してもらえることになります。
ですからABL(売掛債権担保融資)は新しい資金調達方法として、スポットライトが当たっているわけです。

ABL(売掛債権担保融資)がおすすめの会社とは?

ABL(売掛債権担保融資)は中小企業の新しい資金調達方法として注目が集まっています。
ただし中小規模のすべての会社が活用できるかというと、そうではありません。
中小企業の中でも、ABL(売掛債権担保融資)向きの会社もあれば不向きの会社もあります。

ABL(売掛債権担保融資)に適性のある会社としてどのような特徴があるか、以下のようなポイントが挙げられます。

1.入金・出金に時間差がある
2.高額な設備を導入する必要がある
3.銀行融資を受けるのが難しい
4.売掛債権以外の担保を持っている

なぜABL(売掛債権担保融資)向きなのかについて、以下で詳しく解説します。

入金・出金に時間差がある

小売店など、商品を仕入れて売りに出すまでの時差がある業種の場合、ABL(売掛債権担保融資)向きといえます。
在庫をある程度の期間保有する形になるので、この在庫を担保にして資金融資を受けやすいです。
しかも在庫が担保になるといっても、従来通り売り出すことも可能です。

また回転の速くない商品を取り扱っている会社も、ABL(売掛債権担保融資)に適性があるといえます。
自動車や貴金属のような高額商品は、そう頻繁に販売できないでしょう。
この場合、在庫自体を担保にして借り入れれば、在庫の価値が高いのでまとまった資金調達ができるかもしれません。

また意外なところでは、第一次産業で事業している会社もABL(売掛債権担保融資)向きといえます。
牛や豚、魚、材木などの物品も担保として差し出せるので資金調達が可能です。

高額な設備を導入する必要がある

大規模で高額な機械設備を有している会社も、ABL(売掛債権担保融資)による資金調達がおすすめです。
高額な機械設備の場合、減価償却で耐用年数の長いものが多いからです。
いつまでも高い価値を維持できるので、ABL(売掛債権担保融資)による資金調達との相性はいいです。

例えばトラックやクレーン、ショベルカー、ブルドーザーのような特殊車両などは高額で担保の価値評価でも高くなりやすいです。
これらの車両を多く保有している建設業や運送業を営んでいるところはABL(売掛債権担保融資)による資金調達を検討してみるといいでしょう。

また旋盤やフライス盤、マシニングセンタなどの工作機械も担保価値は高く評価されやすいです。
ですから工場経営をしている会社もABL(売掛債権担保融資)向きといえます。
印刷機なども担保価値が付きやすいので、印刷業にも適性は高いといえます。

ちなみに耐用年数の話をしましたが、すでに耐用年数を超えて償却済みの機械では担保にならないのではないかと思う人もいるでしょう。
しかし償却済みであっても即ABL(売掛債権担保融資)としての担保価値がゼロになるわけではありません。
それなりに年季の入った機械を保有していても、ABL(売掛債権担保融資)を取り扱っている貸金業者や金融機関に相談してみる価値は十分あります。

銀行融資を受けるのが難しい

金融機関からの融資を受けるのが厳しい会社でも、ABL(売掛債権担保融資)なら融通してもらえる可能性があります。
銀行融資を受けるのが難しいのは、例えばここ何年か連続で赤字決算を出しているような会社です。

赤字経営の会社の中には、商品の売り上げが芳しくないというところも多いでしょう。
この場合、在庫を大量に抱えている可能性が高いです。
もし在庫にそれなりの価値があれば、こちらを担保にしてある程度まとまった資金調達が可能です。

また売掛債権を持っているのであれば、これを担保にして資金調達ができます。
売掛債権はあるけれども手持ち資金が不足しているのであれば、ABL(売掛債権担保融資)で資金ショートの危機を回避する方法も取れます。

売掛債権以外の担保を持っている

「売掛債権担保融資」といわれるABL(売掛債権担保融資)なので、売掛債権でないと担保にできない会社経営者もいるかもしれません。
しかし売掛債権以外でもいろいろなものを担保にできます。
具体的には機械設備や在庫なども担保の候補になるので、これらをたくさん保有している会社であればABL(売掛債権担保融資)による資金調達もしやすいです。

売掛債権はそれほど持っていなくても、担保を大量に抱えている会社であれば、ABL(売掛債権担保融資)はおすすめの資金調達方法です。
アパレル会社の場合、従来在庫を多く抱える形になりがちです。
このような会社はABL(売掛債権担保融資)による資金調達はおすすめです。

ちなみにABL(売掛債権担保融資)による融資を受けた場合には、定期的に担保の状況について金融機関に報告しなければなりません。
しかし常日頃から在庫を多く抱えている会社であれば、在庫の品質管理はルーティーンとして行っているでしょう。
ですから金融機関への報告義務が発生しても、そのせいで業務が急増するような心配もないはずです。

ABL(売掛債権担保融資)と中小の会社の関係に関するまとめ

中小の会社の場合、大企業と比較すると経営基盤がそこまで盤石ではないでしょうし、信用力の面でも不利です。
このため銀行融資では、なかなか思うような資金調達できないこともしばしばです。

しかしABL(売掛債権担保融資)であれば、不動産を持たない中小企業でも売掛債権などを担保にして資金調達できます。
またABL(売掛債権担保融資)の場合、金融機関も担保価値について詳しく審査してくれます。
このため、会社の保有している担保の真の価値を見出し、まとまった資金調達ができる場合もあります。
資金繰りで困っているのであれば、ABL(売掛債権担保融資)による活用を検討してみるといいでしょう。