事業資金調達が必要なとき、ビジネスローンは大きな選択肢の一つです。
ところで比較的柔軟な審査とスピード融資が特徴であるビジネスローンは、債務整理していても借入することはできるのか?
そのまえに「そもそも債務整理ってなに」「債務整理するとどうなるの」こういった素朴な疑問も生まれてきます。
そこで今回は、まず債務整理について基礎的な説明から始めて、後半ではビジネスローンとの関係と、債務整理しても利用が可能なのか?について考えていきたいと思います。

債務整理してもビジネスローンは利用できるのか?〜1.債務整理を知る

まず債務整理を知るところから始めましょう。

債務整理の基本事項

債務整理とは「借金の減額、または支払猶予などで返済軽減を図る法的措置」です。
債務整理は文字通り債務、つまり「借金の整理をすること」で、以下の3つがあります。

<債務整理〜3つの方法>
1. 任意整理
2. 個人再生
3. 自己破産

(*一部(弁護士事務所、司法書士)サイトなどでは「過払金請求」を債務整理に加えているケースもありますが、こちらはいわゆる借金の整理とは異なるため触れていません)

債務整理1.任意整理

弁護士などの専門家に依頼して、お金を借りている相手(債権者)と交渉してもらうことで借金を減額したり、利息を一部免除してもらったりする手法が任意整理です。
たとえば事業が破綻して返済が難しくなった場合に、月々の返済金額を少なくするなど、実現可能な範囲で返済を継続するのが基本です。

債務整理2.個人再生(民事再生)

任意整理と異なり、裁判所を経由することで借金を減らすのが個人再生(民事再生とも)です。
債務を大幅に減額し、3年から5年ほどかけて分割返済していくなどのイメージです。
個人再生は任意整理と自己破産(後述)の中間といった位置づけになります。
任意整理よりダイナミックに返済を減らすことができるものの、完全に返済ゼロとはならないのが個人再生です。
原則としては、住宅など所有する財産はそのまま維持して整理することができ、また職業が限定されないなど自己破産より自由度が残る方法とも言えます。

債務整理3.自己破産

裁判所へ申し立てを行い、借金をゼロにしてもらう手法が自己破産になります。
継続した返済ができない場合などに、自己破産により「借金を帳消し」にするイメージです。
自宅や自家用車などは原則として手放さなければならない、また特定の職業には一定期間就職することができなくなるなど、制限や制約を伴うのが特徴です。

債務整理のメリット・デメリット

債務整理をすれば借金や返済から解放されます。
もちろんデメリットもありますが、やはり借金からの解放は自己破産のメリットなのは間違いないでしょう。
借金からの解放をもう少し具体的に説明するなら、まず督促がなくなります。
カードローンなど借金返済が遅れると、電話や督促状などでの催促から、自宅に訪問されるなどで精神的な苦痛を抱えることになります。
もちろんこれらは自分に原因があるわけで、相手が悪いわけではありません。
最近は金融機関や消費者金融なども、乱暴な行為はしませんが、それでも督促は精神的に辛く、それは本人だけでなく家族にも影響が及ぶことがあります。
債務整理をすれば督促は止みますので、精神面で救われるわけです。
いっぽう債務整理をすると、個人信用情報に記録が残り、原則として新しい融資を受けることは不可能になります。
これがデメリットのもっとも大きなもので、次項で詳しく説明します。

債務整理してもビジネスローンは利用できるのか?〜2.個人信用情報に「異動」が登録される

債務整理をすると個人信用情報に異動が登録されます。
これは俗に言う「ブラックリストに載る」ことです。

異動は致命傷

「異動」という表現は個人信用情報を扱う信用情報機関の一つである「CIC」(クレジットカード系の信用情報が中心)における表現で、融資などの返済や債務整理などのネガティブな情報の総称で、「金融事故」とも表現されます。
また消費者金融系の個人信用情報機関「JICC」では異動参考情報と表現されますが、この記事では一般にも認知度のある異動で統一します。
基本的に「異動」は以下の3つです。

 <異動の種類>
1. 延滞(61日以上または3ヶ月以上の延滞)
2. 破産、債務整理
3. 代位弁済(返済不可能になったローンを保証会社が一括して支払うこと)

融資の新規申し込みを受けると、個人信用情報をチェック(これを「個人信用情報の照会」と表現)しますが、ここで異動が判明すると、その時点で「即審査落ち」になります。
これはビジネスローンでも同じなので、異動の一つである債務整理をするとビジネスローンは利用できないということになります。
結論が遅くなりましたが、それはまず背景と債務整理の基本などを知ったうえで結論をお伝えしたかったからです、
このように、即審査落ちになることからも異動は致命傷で、同様にその一つである債務整理も致命傷ということもわかっていただけたかと思います。

税金滞納〜異動にはならないが別の注意が必要

異動についてお話しましたので、もうひとつ「税金滞納」についても少し触れたいと思います。
税金滞納は、融資やクレジットカードなどとは無関係なので、個人信用情報に登録されることはありません。
しかし税金滞納の怖いところは、長期になると「差し押さえ」(滞納税金を回収するために、滞納者の所有する不動産や預金を差し押さえて使えないようにする手続きのこと)、差し押さえのあと強制的に売却(「競売」*この場合は「けいばい」と読む)したり、預金は強制解約されて税金に充当(こちらは「相殺・そうさい」)されたりします。

差し押さえは「早いもの勝ち」の原則で、つまり税金滞納が10年前から続いていた人が、今年ビジネスローンを借りた場合、滞納のほうが時期は古いので、預金口座を差し押さえした場合も、ビジネスローンの債権より優先して回収に回せる権利があることになるのです。(優先の対義語として、後回しにされることを「劣後・れつご」と呼びます)
そのため、銀行や消費者金融などお金を貸す立場からすると、このような税金滞納は融資回収に大きな障害となるので、税金滞納と差し押さえには目を光らせています。

たとえば事業資金の新規融資で納税証明書の提出が必要なのも、滞納税金がないか調べる目的があるからです。
また銀行でビジネスローンを借りている場合で、その銀行の「預金口座が税金滞納で差し押さえられると、即座に融資金全額を返す義務が生じる」とビジネスローンの契約条項に書かれています。
これは「期限の利益喪失」と呼ばれるもので、ビジネスローンでも、この点を理解同意して(契約用紙の裏面や説明書などに書かれていて、実際にそこまで読んでいる人も少ないとは思いますが、署名捺印したということはそれを理解承知したことになるので、あとで「聞いてないよ」とは言えないので注意!)契約した事になっています。
また上下水道料金も市町などの税金と扱われると、水道料金の未払いではなく「水道税の滞納」となるのでやはり注意が必要です。

債務整理してもビジネスローンは利用できるのか?〜3.債務整理はなぜ致命傷なのか?

債務整理がなぜ致命傷で即審査落ちになるのか?という理由について、もう少し深掘りしてみましょう。

本人と接触できなくなるから

債務整理は弁護士などの専門家に手続きを依頼するもので、債務整理が開始されると、銀行などの債権者は本人(債務者)と直接の接触はできなくなります。
具体的には、債務整理を依頼(「債務整理の受託」と表現)された弁護士は、文書でその旨を通知(「債務整理受任通知」)し、以後は基本的に弁護士との折衝となるのです。
債務者本人に対しては、銀行など債権者から電話・文書・訪問などの接触は一切できなくなりますので、督促連絡もなくなり、その意味で平穏がくるのはメリットとして説明した部分です。
しかも債権者は銀行などからの連絡が、そのあともずっと、もしかしたら「永遠に」来なくなるかも知れません。
なぜなら債務整理をするということは「借金を返すつもりがない」と意思表示したことになるからです。

「借金を返すつもりはない」という意思表示をしたから

債務整理はもちろん法律で保証された個人の権利で、いわば国が定めた救済措置です。
しかし、その権利を行使したのは、事情や表現はいろいろあっても要は「借りたお金を返すつもりはない」と意思表示したことに他なりません。
「債務を返済する意思がない」相手に対し、誰もお金を貸す人はいません。
したがって、債務整理をした人に対して銀行なら、二度と取引(融資だけでなく預金などすべての取引が含まれることも)できないでしょう。
そして、こうした事実は銀行内部でしっかりと記録され、半永久的に消えることはありません。

債務整理してもビジネスローンは利用できるのか?〜まとめ

「債務整理をしていても、〇〇なら資金調達できます」
「審査のないビジネスローンなら大丈夫なので、ご紹介します」
これらは今回の記事作成で情報収集していたとき、ネットで見かけた記事や見出しのフレーズです。
審査のない融資などありませんし、債務整理をしていても利用できる資金調達の方法など、銀行員の私には想像もできませんし、そんなものはないと思っています。
そして、仮に債務整理をしていても利用できるビジネスローンが存在しているとしても、それは「債務整理をして、どこからもお金を貸してもらえない人をターゲットにした」ものですので、利用はおすすめできません。
この記事が参考になれば幸いです。