「事業資金の上手な借り方は?」
事業資金融資は銀行など金融機関に申込み、審査を受け、融資を実行してもらうといったようにほぼ受け身です。
しかし事業資金融資を知ることで、「事業資金の借り方」も見えてくると銀行員は考えます。

事業資金の上手な借り方は、事業資金融資の基本と特徴、そしてメリット・デメリットまでつかむこと。

この記事では、事業資金の上手な借り方をいくつかの側面から、実際に現場で事業資金融資の審査をしている銀行員が徹底解説します。

なおこの記事では事業資金の借り方を、個別の融資(手形貸付、当座貸越、ファクタリング、ビジネスローン、不動産担保ローンなど)を順番に解説しています。
読者の方は、自分が知りたい部分から読み進めていただいても結構です。

目次

事業資金の借り方〜導入部:銀行事業資金融資の基本

銀行事業資金を個別に見る前に、まず銀行事業資金融資の基本事項を大まかに押さえておきましょう。
その方が、後に続く個別の融資で意味が吸収しやすいと銀行員の私は思うからです。
(今さら聞けない基本的な部分からスタートしますので、ぜひ知識をブラッシュアップしてください。)
銀行事業資金融資は主に以下の流れで進みます。

 <銀行事業資金融資の流れ> 
申し込み
審査前のチェック
融資審査
銀行格付
(そして融資実行)

1.申し込み

事業資金融資の入り口は、融資の申し込みです。
銀行窓口で申込書に必要事項を記入しますが、通常は銀行員と面談して、融資が必要な理由などを説明し、事前チェックや審査(後述)に進むのが基本的な流れです。
実際には審査まで終わったあとに、借入申込書を記入する場合も多いのが実態です。

したがって、銀行に出かけ「事業資金を借りたいんですけど」と窓口で借入申込書を書く、と言ったイメージとは少し違いますので、間違ってもアポ無しで銀行に行くことはやめてください。
これは、来てほしく無いという意味ではありません。
やはり、いきなり来店して融資を頼むのでは、銀行員の心象も悪くなるだけだからです。

なお借入申込書に記入する内容としては、申込者(社)の住所名称、電話番号と業種、そして借入希望額と、融資が必要な理由などで、これは次の事前チェックと関連しています。

2.審査前の事前チェック

借入申込書に氏名(会社の場合は社名と代表者の氏名)と住所を記入するのは、当然といえばそれまでなのですが、実は審査に入る前に重要な「反社会的勢力のチェック」をするためでもあります。

金融機関では、暴力団などいわゆる反社会的勢力とは一切の取引をしないのが鉄則です。
そのため、取引の入口部分でそのチェックをしています。(預金口座先性が面倒なのも、これが最も大きな要因です)
このように、取引開始にあたり反社会的勢力では無いか?調べることを「反社チェック」と呼び、現在では金融機関以外のさまざまな業種でも実施され、反社チェック専用のソフトやチェック用システムなどもあるくらいです。

銀行の場合、加盟している汎用データベースにアクセスしてチェックをするのが主流で、その際に必要な情報は極秘事項で部外秘(知られると悪用される恐れがあるため)なのですが、借入申込書に記入する内容が反社チェックの基本情報となる、とだけ説明しておきます。

3.融資審査

反社チェックが完了し、問題がなければ融資審査に進みます。
この内容も詳しくお話しすることができないのですが、基本的には決算書などの資料より、過去から現在、そして将来的な展望なども踏まえた審査、要は突き詰めると「貸したお金をしっかり最後まで返してくれるか?」という観点で審査をします。

ちなみに一部記事にある「銀行融資に通る裏ワザ」とか「審査が緩い(審査が無い)銀行」などはありませんので念のため。

4.銀行格付

審査が通ったあと、金融機関で必ず行わなければならないのが銀行格付(「信用格付」あるいは単に「格付」とも)です。
これは銀行にとっての融資は債権であり、その債権が回収できるか?と言う観点で融資を仕分けして、銀行自身の体力、もっと言えば「銀行が破綻はしないか?」という調査結果をまとめて監督官庁に報告するためです。

そのため融資審査が通ったあと、申込者の格付で点数とランク付をします。(融資の借入金利などの融資条件は、実はこの格付に左右されます。)
ちなみにこの格付の中身も極秘事項(秘密ばかりですみません)で、間違っても銀行員が「あなたの格付は⚫ランクです」などと教えることはありません。
格付はアルファベットや数字の組み合わせで表現したり、その他銀行独自の順列を表したりと、金融機関によりまちまちですが、共通しているのは格付けが高い企業ほど良い企業で、金利など融資条件も優遇してもらえる傾向にあります。

事業資金の借り方〜1.手形貸付

事業資金融資の種類は複数あり、一つずつ全部を頭に入れるのは銀行員でもむずかしいほどなので、特徴などをピンポイントで、またメリット・デメリットなど最低限知っておくべきポイントを絞って解説していきます。
では、最初に手形貸付から始めていきましょう。

手形貸付とは?

手形貸付は事業資金融資の一つで約束手形を用いて借入する形式で、銀行で用意した約束手形に債務者が署名捺印して契約となります。
ちなみに一部の金融機関では、受取手形を担保に融資を受ける方法もありますが、これは「手形担保貸付」と呼ばれ、現在取り扱っている銀行はほとんど無いと思われます。
一部の記事で、手形担保貸付と手形貸付を同じものだと説明しているものがありましたが、手形貸付と手形担保貸付は全く別の融資です。

手形貸付の特徴

原則として短期の融資であり、借入期間は1年以内の期限一括返済が主流です。
業種としては建設業など、お金が瞬間的に必要となるが、売上もまとめて回収できるような業種で利用されます。
なお手形貸付で使われる約束手形ですが、その形式などは一般企業が仕入れ代金を手形払いするときに使う約束手形と形式は全く同じです。

【解説】手形貸付も不渡りになる?

手形貸付と、商取引で使う約束手形は形式が同じだと書きましたが、約束手形は不渡りになることはありません。
期日にお金が支払われなければ約束手形なら「不渡り」になります。
しかし手形貸付の場合、手形の期日(=融資の返済期限)まで待つ点は同じなのですが、期日に支払えなければ延滞または破綻となっても、これを不渡りとは表現しません。
もちろん形式は同じなので、理論的には約束手形のように呈示(手形交換所という専門部署を経由して、約束手形の支払いを請求すること)し、不渡りにさせることも可能といえば可能です。
もちろんそれを実行する銀行はありませんし、過去にもそのような話は銀行勤務が長い私も聞いたことがありません。
ただ、返済が遅れ気味の手形貸付を話題にする中で「返してくれないなら不渡りにしたいのに」(督促しても無視するなど素行のよくない顧客を指して)などと口にすることはあるようで、このあたり「銀行あるある」的な話なのですが、知識として覚えておいてもいいでしょう。

◯手形貸付のメリット

借入期間が短いので、原則として長期の借り入れに比べて金利は低く抑えられる傾向があります。

また融資の契約書類には収入印紙を貼る必要があるのですが、手形貸付は証書貸付(後述)より収入印紙代は低くなります。
これは行為としての違いで手形貸付の場合は「約束手形」としての印紙代で、たとえば1億円の融資では手形貸付の収入印紙代は2万円ですが、証書貸付では6万円になりますので、印紙代が抑えられるのもメリットの一つです。

⚫手形貸付のデメリット

手形貸付では、短期の一括返済が主流ですが、期日に返済をせず、もう一度同じ期間・同じ金額で借りる「書き換え」(定期預金もこれと同じように書き換えと表現することがあります)をするケースが多く、結果として長期間借入することになるケースも多いので、その場合は支払利息も多くなるのがデメリットの一つです。

また手形貸付の期日が来て、書き換えしてもらいたくても決算内容などを見た銀行から拒否された場合、期日に全額一括して返済しなければならなくなります。
これは、もともと期日に一括して返済するという契約で融資を受けているので、通常なら期日返済は建前的な意味ではあるのですが、期日に返済するのは最初から決まっていたことと言われればそれまでなのです。
このように業績などで、書き換えしてもらえずに一括返済を求められる可能性があるところが、手形貸付最大のデメリットといえます。(決算などに問題はないのに、銀行自体が経営不振に陥るなど、銀行の都合で正当な理由なく一括返済させるのは「貸し剥がし」と呼ばれ、これは間違った行為ですが、知識として覚えておいてください)

事業資金の借り方〜2.証書貸付

事業資金融資だけでなく、住宅ローンなどでも用いられるのが証書貸付で、手形貸付と並び、銀行融資の代表格です。

証書貸付とは?

証書貸付で使う契約用紙の正式名称は「金銭消費貸借契約証書」と長いものです。
銀行では、この金銭消費貸借契約証書を使って融資することを証書貸付(最後に二文字をとって証書)と呼んでいます。
いっぽう金銭消費貸借契約証書のほうは単に「証書」あるいは「金消(きんしょう)」などともと呼ばれます。

また一般には「借用金証書」と呼ばれるものですが、これはお金を借りる側からの表現なので、金融機関で「借用金証書」という言葉はまず使いません。

(ちなみに銀行内部では証書貸付を「証貸。しょうがし」、手形貸付は「手貸・てがし」、そしてのちほど説明する当座貸越は「当貸・とうがし・」など略して呼ぶこともあります。)

証書貸付は「借りたお金(金銭)を期日までに返済する契約(これが「消費貸借契約」を結ぶための書類で、住宅ローンも契約書類としては、この金銭消費貸借契約証書を使って契約しています。

証書貸付の特徴

なんといっても長い期間の融資を受けられるのが、証書貸付の特徴です。
銀行融資において、借入期間が1年以内の融資は短期(融資)、1年以上の融資は長期(融資)と区別しています。
そして長期借入は証書貸付で契約し、短期は手形貸付や当座貸越の契約となるのが一般的です。(*借入期間が1年の手形貸付もあるいっぽう、同じように借入期間1年の証書貸付も少数派ですが存在しますので、短期長期とも「1年以内」という表現も間違ってはいません)

◯証書貸付のメリット

証書貸付の一種である住宅ローンは最長35年(現在は50年と、さらに長期な返済も)で、事業資金融資はそこまでとはいかないのですが、それでも運転資金で3年〜5年、設備資金融資なら10年以上の分割返済でゆっくりと返していけるところがメリットの一つです。

また証書貸付は「返していくだけ」という特徴もあります。
たとえば住宅ローンを借りて家を建てたら、あとはローンをひたすら返済していくだけです。
事業資金融資もこれと同じで、証書貸付は一度借りたあとは返していくだけなので、決められた返済を続けていけば、借入は確実に減っていくところもメリットと言えます。

⚫証書貸付のデメリット

ゆっくり返済できるのが証書貸付のメリットと説明しましたが、このメリットがそのままデメリットにつながる場合もあります。

手形貸付は期限に一括返済する形式が多いので、毎月の支払いは利息だけです。
一方証書貸付は毎月一定の元金に金利を加えて返済する「元金均等返済」が主流で、毎月の返済は元金の分、利息だけ支払う場合に比べると多くなります。
たとえば借入額1千万円、金利年1%で

<A)1年の期限一括返済・毎月利息のみ>と<B)10年分割返済>の2つを比較するとA)は毎月8,400円程度、いっぽうB)の分割返済では初回が92,000円程度と多くなります。

もちろん多いのは元金を分割して返済しているわけで、決して余分に払わされているのではありませんが、毎回の返済額を計算し、計画的に返済していかないと延滞が重なるおそれもありますので、この点はデメリットといえます。

事業資金の借り方〜3.当座貸越(事業性カードローン)

続いて当座貸越について説明します。

当座貸越とは?

当座貸越は「限度額(「極度額」とも)を決めて、その範囲内で必要な時に、審査なしで借入できる融資」となります。
一般的には当座貸越専用の口座を作り、あらかじめ決めた限度の範囲で借りたり返したり、反復継続して利用できます。
個人のカードローン同じ形態(個人のカードローン契約書などにも「当座貸越」と記載があります)で、事業資金融資でも専用カードを使った事業性カードローンもありますが、「カードローン」は融資の利用手段の名称で、基本的に事業性カードローンは当座貸越の一種といった位置づけです。

当座貸越の特徴

当座貸越の当座とは「その場限り、さしあたり、しばらくの間」といった意味です。
手形や小切手も、現金払いならその場で払わなければいけない資金も、手形が現金化されるまで、しばらく時間的な余裕があるので、ここから当座預金という名前になりました。
当座預金が、当座をしのぐための預金なら、当座をしのぐための借入(貸越は借入と同義)が当座貸越になります。

貸越利用ができる極度(ワク)を作り、そのワク内で必要な時、必要な金額だけ借りて、自由に返済(借入利用期間中は、借りている金額の利息だけ支払う)できるのが当座貸越の特徴です。

◯当座貸越のメリット

当座貸越のメリットは、特徴でも説明した「借りるのも返すのも自由」という点です。
一度当座貸越を組んでしまえば、極度額の範囲内なら自分のペースで利用(新規借入)ができ、そのときは銀行に申込み審査を受ける必要はありません。
これを他の融資と比べるなら、融資取引歴が長い会社で、何度も利用している手形貸付などを追加で申し込んだとしても、必ず申し込み→審査→契約→融資実行といったプロセスを踏む必要があるので、最短でも数日〜1週間は時間が必要になります。
その点、当座貸越は極度内の融資利用を予約しているようなものなので、審査なしに追加利用できるのが最大のメリットといえます。

借入の利用手段も店頭で融資を受ける以外にも、専用カードを使いATMで融資利用や、パソコン・スマホで借り入れできる場合もあり、利便性が高いところも当座貸越のメリットです。

⚫当座貸越のデメリット

借入も返済も自由なところが、同時に当座貸越のデメリットにもなる場合があります。
これは銀行員としての経験からの見解でもあるのですが、利便性が高い分、借入利用への抵抗感も低くなりがちだからです。
たとえば専用カードを使ってATMで50万円融資使用するときも、カードと暗証番号で現金を引き出すところは預金の出金と全く変わりませんので、意識としても「今自分は借金している」という感触は薄くなりがちで、ついつい利用が重なりやすい傾向があります。
また必要がなくなったら返そうと思っていたのに、ついついそのまま使ってしまい、結局借金が増えていったなど、個人のカードローンで破綻するケースに近いところもあるので、文字通り「利用は計画的に」していかないと、のちのち返済で苦しむ恐れがあるところが当座貸越のデメリットといえます。

また当座貸越の空きワクが使えなくなる場合もあるのもデメリットの一つです。
たとえば当座貸越を利用中で、その利息の支払いが延滞している場合には、たとえ空き枠があっても、延滞中は新規利用が一時的に停止されてしまいます。
延滞がなくなれば再び利用可能になりますが、再開までには数日時間がかかることもあり、その間は事業資金が必要でも当座貸越は離床できなくなるので注意が必要です。
この点は個人のカードローンと同じなのですが、個人カードローンと違い、当座貸越以外の融資、たとえば他に手形貸付や証書貸付があり、その返済が延滞していると当座貸越も一時利用停止になることもあるので、この点にも注意が必要です。(このあたりのルールは金融機関や当座貸越ごとに違いますので確認が必要)

そしてもう一つ、当座貸越は永久に使える訳ではない、というところもデメリットです。
一般的に当座貸越は1〜2年程度の契約期間で、その後は継続審査に通ればまた2年間など契約期間が延長されるのがよくある流れです。
審査と言っても継続の場合、基本的に決算書を提出する程度ですが、決算内容により業績悪化などで継続審査に通らなくなると、当座貸越の延長を断られることもあるのです。
たとえば信用保証協会保証付き(いわゆる「マル保融資」)の当座貸越では「直前決算で経常利益を計上していること」つまり黒字が条件になっているなどの要件がありますので、業績悪化の場合は問題が深刻になってきます。

なぜなら、当座貸越を継続してもらえなかった場合には、空きワクがあっても利用できなくなるのに加えて、それまでに借入利用中の残額を返済する必要があるからです。
原則的には即座に全額一括返済なのですが、銀行との相談で残額を分割返済できる場合もありますが、その判断は決算や返済状況などをもとにして、決定権は銀行側にあるので、対応によっては返済負担が大幅に増え、企業の破綻につながりかねないといったリスクもありますので、この点が最も注意すべきデメリットと言えるでしょう。

事業資金の借り方〜4.手形割引

次に手形割引について解説します。

手形割引とは?

手形割引とは、原材料の納入、商品の販売、サービスの提供などの取引で、現金や振込払いに代わりに受け取った約束手形(「受取手形」と呼ぶ)を使って事業資金を調達する方法です。

手柄割引の特徴

手形割引の特徴は、手形貸付や証書貸付、あるいは当座貸越のように「融資を受ける、お金を借りる」とひとことでは言い表しにくいというところにあります。

基本的に手形割引では、手形の支払期日までの日数に応じた手数料(こちらは「割引料」)が必要で、たとえば<1千万円の約束手形・支払期日までの残り日数45日、割引料の率が年4%>というケースでは、割引料は5万円弱になります。(契約書類やその他手数料が必要な場合もあります)
手続きとしては、1千万円の手形から手数料が割り引かれ(差し引かれるという意味)入金されるので「手形割引」と呼ばれています。

事業資金の調達手段であり、審査も必要なので手形割引も事業資金融資の一種とされています。
また手形割引には「手形を、手数料を差し引き銀行に買い取ってもらう」という解釈で「手形買取説」と、「手形を期日まで担保にして融資を受ける」という解釈の「手形担保説」という2つの考え方があり、両方とも手形割引の性質を表しています。

ここは、この後続くメリット・デメリットに繋がる部分でもあるので、知識として覚えておいてください。

◯手形割引のメリット

手形割引の場合、手形を発行した人や会社(「振出人」と呼びます)の信用度が大きな要素になります。
融資の一種と説明した通り、手形割引を申し込む人の業況などの審査がない訳ではありませんが、極論すれば手形が期日に資金化されることが間違いないなら、融資として回収できなくなるリスクもほぼ無いと考えられるからです。

そのため、手形割引では割り引く対象となる手形の内容(俗に「手形銘柄」と呼ぶ)によっては申込者が連続して赤字でも、手形割引をしてもらえる可能性があるところがメリットと言えます。

また手形割引の場合、手形の振出人に連絡が行くようなことはありません。
この点、手形割引に似た事業資金調達の手段で「ファクタリング」があり、その中では取引相手との連絡が必要なケースもあるのですが(詳細後述)手形割引ではそうした心配はありません。

⚫手形割引のデメリット

手形銘柄の信用度が重視されるという反面、「不渡り」(残高不足や、手形振出人が破綻したなどで、手形が期日に資金化されないこと)になると深刻な影響があるところがデメリットです。

手形が不渡りになった場合には、手形割引をした人に対して、銀行から手形の「買戻し」を求められます。
買い戻しとは、期日に資金化できず不渡りとなったので、銀行では手形割引の申込者への割引代金(手形の期日まで建て替えていた=手形担保説に基づく解釈)が回収できなくなります。
そのため、手形割引を申し込む際には、不渡りなどで手形が資金化できなくなった場合は、割引代金を戻し、代わりに手形を返す(つまり手形の買い戻し)という契約条項が、手形割引の申込書類には明記されているのです。
これを銀行の「手形買戻請求権」と呼びますが、銀行から買戻し請求される場合は、当日中にお金を支払う義務があり、ここは少し待ってもらうなどといった猶予はありません。

そして、不幸にも買い戻すお金が無かった場合に、そのほかの借入があって、分割返済中や期日前だとしても、即時に一括して返済をしなければいけなくなります。

これを「期限の利益の当然喪失」と呼び、銀行との融資契約の基本書類である「銀行取引約定書」に明記されています。
このように手形割引は、資金を調達したら終わりではない点を、覚えておいてください。

【解説】割引してもらえない手形は要注意

ところで手形割引で銘柄の信用度があまり高くない場合には、今度は手形割引を依頼した申込者の信用度を審査して、割引に応じる場合もあります。
これはつまり「手形が資金化できる可能性は心配な部分もあるが、申込者がしっかりしているから、万が一不渡りになっても買い戻しはできるだろう」という融資判断になります。

しかしながら、それでも手形振出人の信用度が著しく低い場合など、不渡りになる可能性が高いと判断された場合には、手形割引を断られる場合もあります。
もちろん「これは不渡りになる可能性が高い手形なので割引はできません」などと言うことはありませんし、そもそも融資を断る場合には愚弟的な原因や理由を銀行は言わないのが普通だからです。(真実を伝えたとしても、結局は借金を断っているわけで、トラブルになる可能性が高いから)

しかし、長く融資を取引している顧客等の場合、「残念ながら、今回の内容による手形割引はお取り扱いできませんが、お客様なら他の融資方法を検討することもできますよ」などと、遠回しに手形の信用度に疑念があることを匂わすことがあります。
もちろん「それって、この手形がヤバいってこと?じゃあ、この会社も危ないの?」と聞かれても答えることはありません。
おそらく否定も肯定もしないでしょう。とはいえ銀行が遠回しであろうと「この手形はヤバい」と教えてくれていると感じたなら、未回収の売上などを点検するなど、注意した方がいいかもしれません。
 

事業資金の借り方〜5.ファクタリング

手形割引は商取引で受け取った約束手形の買取という側面もあると解説しましたが、こちらは商取引で発生した売掛金を買い取る「ファクタリング」という事業資金調達方法になります。

ファクタリングとは?

売掛金の買取、といい切ってしまうと融資では無いと思われるかもしれませんが、このあたりは手形割引をイメージして、約束手形が売掛金で、売掛金が回収できなくなれば、買取代金の返還を求められる場合もあるので、手形割引同様に、融資に近い事業資金調達手段と考えられます。

ファクタリングの特徴

ファクタリングの特徴としては、取り扱いに2つのパターン「2者間(または2社間)ファクタリング」と「3者間(3社間)ファクタリング」がある点です。

2者とか3社とは、ファクタリングの当事者(関係者)を表していて、たとえば2者間ファクタリングは「申込者」と「業者」(一般に銀行でファクタリングを扱っているところは少数で、金融業者などファクタリングを専門に扱う会社が該当します)の双方でファクタリングは完結します。

いっぽう3者間ファクタリングでは「申込者」「業者」以外に「支払者」(売掛金を支払う人・手形割引の「手形振出人」と同義)が加わります。
このように当事者の数で取り扱いが異なるのですが、その違いについてはメリット・デメリットの項で解説します。

◯ファクタリングのメリット

未回収の売掛金を有効活用し、事業資金調達できるところがメリットになります。

なお、融資に近いとは説明しましたが、ファクタリングは売掛債権の買取(売掛債権は売掛金だけでなく、病院で未回収の健康保険からの支払いなども含まれる)なので、融資のように毎月返済などはありません。
また融資ではないため、決算書にも「債務(要は借入・借金)」として記載されない点もメリットと言えるかもしれません。

⚫ファクタリングのデメリット

3者間ファクタリングでは、「債権譲渡通知」といって、業者が売掛金債権を譲渡された(ファクタリングで買取したという意味)ことを売掛金の支払い企業に連絡します。
FAXや文書(必要に応じ内容証明郵便で発送するケースもある)で行なうのですが、ファクタリング業者名の債権譲渡通知が送付されてしまうので、相手企業にはファクタリングをしたことがわかってしまうのがデメリットです。

このため3者間より2者間ファクタリングの方が主流になっているのですが、その分手数料が高くなるというこのでもデメリットが発生します。

また売掛金が支払い不能になった場合に、ファクタリング買取代金を返還するよう要求することを「償還請求権」と呼び、手形割引の「買戻請求権」と意味合いは同じです。
最近ではファクタリングにおいてこの償還請求が無い「ノンリコース」契約が増えているのですが、ノンリコース契約のほうが(業者からすればリスクが高まるので)手数料も高くなりますので、ここもデメリットです。

事業資金の借り方〜6.ビジネスローン

次はビジネスローンを解説します。

ビジネスローンとは?

ビジネスローンの直訳は「事業(ビジネス)の融資(ローン)」となり、事業資金融資そのものとも言えます。
主にノンバンクで取り扱っている事業資金融資を指しますが、最近では銀行でもノンバンクと同様のビジネスローンを扱うところが増えてきました。

ビジネスローンの特徴

ビジネスローンは事業資金融資の一種で、融資の形態としては証書貸付(まとめて借りて、分割返済するタイプのビジネスローン)や当座貸越(カードローンタイプのビジネスローン)なのですが、特にビジネスローンとなる特徴としては、原則として無担保、保証人不要で融資限度額も1千万円程度までと比較的小口の融資をビジネスローンと呼んでいます。

◯ビジネスローンのメリット

ビジネスローンのメリットで最大なのは、なんといってもスピードが早いところです。最短で審査が数十分から、融資利用も最短で即日も可能になっています。
またネットで完結できるものもあるなど、シンプルな手続きもメリットです。

そして、銀行事業資金融資や公的融資(日本政策金融公庫など)よりも、比較的に融資審査や融資条件が柔軟なところもメリットの一つです。
もちろんビジネスローンにも融資審査はありますが、銀行や日本政策金融公庫の審査に落ちても、ビジネスローンで利用できる場合もあります。

⚫ビジネスローンのデメリット

銀行融資に比べると、審査や手続き面でメリットがある反面、金利は高めになっています。

事業資金の借り方〜8.不動産担保ローン

事業資金の借り方、最後の説明は不動産担保ローンです。

不動産担保ローンとは?

不動産担保ローンとは、文字通り不動産を担保にして資金調達する融資の総称です。
法人、個人の両方で利用可能で、原則として資金使途も自由です。

不動産担保ローンの特徴

不動産担保ローンは、銀行以外にも専門の業者が扱っています。
担保にした不動産の評価に応じ、借入額が決定され、また事業内容や不動産担保の評価などを総合的に判断して金利も決定されます。

また不動産担保ローンでは個人の消費性資金(個人向けカードローンなどと同じ)でも事業資金でも同じように「不動産担保ローン」と表現していますが、個人でも個人事業主の場合は事業資金融資の一種と分類されます。

◯不動産担保ローンのメリット

決算内容がきびしくても、担保にできる不動産があって、その価値も相応のモノがあれば事業資金が調達できる可能性があるところが、不動産担保ローン最大のメリットです。

またビジネスローンほどではありませんが、銀行事業資金融資に比べれば、申し込みから融資利用までの時間が短いところもメリットのひとつと言えます。

⚫不動産担保ローンのデメリット

これはある意味当然と言えばそれまでですが、返済できなくなった場合には担保にしていた不動産を失うリスクがあるところはデメリットです。
また不動産を担保にするための登記費用(不動産に抵当権などの担保を登記する)などの諸費用が必要になり、数万から数十万円の費用が必要になるところはデメリットと言えます。
そして、不動産担保ローンを利用している間は、担保にしている不動産を他人に貸したり、売却したりは事由にできなくなりますので、ここもデメリットです。

事業資金の上手な借り方とは?

ではここからは「銀行員が考える事業資金の上手な借り方」について説明します。
上手な借り方とはいっても、裏技やマル秘テクニックではなく(そもそも融資のそのようなものは存在しないと銀行員は考えます)、心がけていただきたいことや、注意してもらいたいことなどのアドバイスです。

事業資金の上手な借り方1.短期と長期をバランスよく

融資には返済期間が1年未満の短期資金と、1年以上の長期資金があります。事業資金融資を申込む場合、端的にいえば「資金が必要だから貸して!」と頼むだけで、あとは融資する銀行が言うままに借りることも多いと思います。

しかしながら、たとえば仕入資金が必要でも、3か月後にはほぼ間違いなく売上が回収できるなら3カ月程度の短期資金(手形貸付など)で借りるべきです。
いっぽう背坪投資など、金額が大きく効果が見えてくるまで時間がかかるものは、10年以上など長期で借りる方が安心です。
とはいえ実際に融資を決定するのは貸し手の銀行である点は否定できません。
しかしながら、「今回は短期資金でお願いします」と主張してみるだけでも効果はあります。
今回の融資では意見を聞いてもらえなくても短期資金と長期資金について考えているなど「この経営者はできる」と銀行員に感じさせることができる(私が銀行員ならきっとそう感じるでしょう)だけでもプラスです。

事業資金の上手な借り方2.返せるときに返す

短期でも長期でも、融資は返せるときに返した方が、長い目で見れば有効です。
事業資金を手元に遊ばせて置ける会社などまずありませんし、そのためか返そうと思っていた資金も、タイミングを逃すとつい使ってしまい、結局返すことができなかったということになりがちです。

また銀行の営業成績などの兼ね合いで「今月返されるとまずいんで、勘弁してください!」などと返済を受け付けてもらえないこともあります。
もちろん銀行との付き合いも大事ではありますが、融資を借りているということは、すなわち毎日毎日利息が発生し、それを払うのも利用者なのです。

また自発的に計画的な返済をしている経営者なら、むしろ銀行員からは評価されます。
もちろん銀行との関係構築も考えながら、時には相手の都合も考えてやることも必要な時はありますが、借金をして返していくのも利息を払うのも自分だと意識することは重要です。

事業資金の上手な借り方3.できれば当座貸越

可能な限り、当座貸越をつくることをおすすめします。
「借りたり返したり自由」「その都度申し込みも審査も不要」と説明してきましたが、審査がないということは、空き枠がある限り、たとえ業績が悪化していたとしても事業資金を調達する手段が残されているわけで、その安心感は無視できません。

もちろん返済が延滞すると利用中止になりますので、返済には注意してもらいたいことは言うまでもありません。

事業資金の借り方を「基礎」から「事業資金の上手な借り方」まで〜まとめ

今回は事業資金の借り方を基礎から、個別の融資商品の説明、そして銀行員が考える事業資金の上手な借り方まで解説してきました。
自社にとって最適な融資を見つけるために、この記事が参考になれば幸いです。