売掛金担保ビジネスローンと呼ばれる金融商品があります。これは売掛金などの動産を担保に融資を受けるビジネスローンで、不動産が無くても融資が受けられるので、中小の事業者にとっては利用しやすい融資方法です。今回は同じ売掛金を使うファクタリングとの違いや融資までの流れ、売掛金担保ビジネスローンのメリットやデメリットを紹介していきましょう。

売掛金担保ビジネスローンとは

売掛金担保ビジネスローンとは、ABL「Asset Based Lending(動産担保融資)」とも呼ばれる融資で、元々はアメリカで発達した資金調達の融資方法です。主に企業間でやり取りされる融資方法で、企業が自社で保有している売掛金などを担保にして金融機関から借入を行います。不動産を持っていない小規模企業にとっては不動産担保ローンが使えない代わりに活用する事例が増えました。担保とするものは動産とされているので、売掛金以外の商品在庫や機械設備等も担保にして融資を受けられる場合があります。

ファクタリングとの違い

売掛金担保ビジネスローンは売掛金を買取ってもらうファクタリングに似ています。違いは売掛金担保ビジネスローンは売掛金を担保にした融資なのに対して、ファクタリングは売掛金を売却して現金化する点です。そして細かくは次のような違いがあります。

1.審査基準が異なる
2.調達金額が異なる
3.資金を調達できるまでの時間が異なる

ひとつずつ細かくみていきましょう。

1.審査基準が異なる

ファクタリングは売掛先の信用力を審査するのに対して、売掛金ビジネスローンの場合は、申込者の返済能力が審査対象となります。

2.調達金額が異なる

ファクタリングは、原則売掛金から手数料を差し引いた額が現金化できますので、売掛金の金額を上回る現金を手に入れることはできません。しかし、売掛金担保ビジネスローンの場合、条件しだいによっては売掛金を上回る資金調達ができる可能性があります。これは利用者の信用力が高い場合に起こります。

3.資金を調達できるまでの時間が異なる

ファクタリングであれば、必要書類を午前中に揃え、インターネットでの審査申し込みを済ませれば、即日現金化もできます。しかし売掛金担保ビジネスローンの場合は、即日融資ではなく、2〜3週間程の審査機関を得た後に融資が行われます。

ABS(資産担保証券)との違い

ABSはABLと似ていますが、ABSは資産担保証券と呼ばれるもので有価証券として扱われます。これは資産の信用力を裏付けるために発行されるもので、売掛金やリース債権、ローン債権、クレジットカード債権に加えて不動産なども対象として発行されることを特徴としています。企業の資産を特別目的会社に売却したのちに、特別目的会社が投資家に証券として販売します。

不動産担保のビジネスローンとの違い

日本で多く行われている不動産担保のビジネスローンとの違いは担保の対象です。土地や建物といった不動産を担保に行われている不動産担保ビジネスローンに対して、売掛金や商品在庫といった動産を担保にして融資を受けるのが売掛金担保ビジネスローンです。

売掛金担保ビジネスローンの流れ

ここでは売掛金担保ビジネスローンの流れを確認していきましょう。

1.担保にする売掛金を選ぶ
2.融資を申し込む
3.金融機関による売掛金の調査
4.金融機関での審査承認
5.譲渡担保の差し入れや金銭消費契約書の提出
6.融資実行
7.債権譲渡登記を行う
8.金融機関に定期的な報告

以下、詳しく紹介していきます。

1.担保にする売掛金を選ぶ

最初に融資のために担保提供する売掛金を決めます。この際に融資を申し込む予定の金融機関に入金の実績がある売掛先を選ぶほうが有利です。なぜならばそのほうが金融機関が売掛先の情報やお金の流れが把握できるからで、無い場合は金融機関が指定してくる場合があります。

2.融資を申し込む

担保となる売掛金が決まれば金融機関に融資を申し込みます。申込時に通常の融資で必要な書類に加えて、売掛先情報や売掛先との取引履歴を提出します。

3.金融機関による売掛金の調査

金融機関が申込者の信用度や返済能力といった通常の融資の審査に加えて、売掛先の企業の調査などを行います。このときに外部評価会社の利用や信用保証協会の保証を付けるなど行い、融資をしても問題ない担保(売掛金)であるかを審査します。

4.金融機関での審査承認

金融機関が審査を行い、融資をしても問題ないと判断すれば審査承認が出ます。

5.譲渡担保の差し入れや金銭消費契約書の提出

ここで金融機関が指定する書類の提出が行われます。一般的には譲渡担保(売掛金)の差し入れや、金銭消費契約書の提出が求められます。

6.融資実行

正式に金融機関から申込者に融資が実行されます。

7.債権譲渡登記を行う

金融機関は融資とともに債権譲渡登記を行います。登記を行うことで誰でも債権譲渡登記が行われたことが確認できます。具体的には次のような内容が記載されます。
・登記番号
・登記年月日
・譲渡人・譲受人の本店・商号など
・登記原因とその日付
・債権の総額
・債権を特定するために必要な事項
・登記の存続期間の満了年月日

8.金融機関に定期的な報告

融資を受けてから金融機関が指定する内容に従い定期的に報告する必要があります。報告義務は面倒ですが、金融機関との信頼関係構築につながります。

売掛金担保ビジネスローンのメリット

売掛金担保ビジネスローンには様々なメリットがあります。

1.不動産を所有していなくても融資が可能
2.無担保融資よりも金利が低め
3.条件次第で担保の売掛金を越えた資金調達が可能
4.原則売掛先への通知はされない
5.金融機関との信頼関係が構築される

ひとつずつ詳しくみていきましょう。

1.不動産を所有していなくても融資が可能

担保付きのローンといえば従来は不動産や連帯保証人などが該当しました。しかし個人事業主や中小企業などの小規模で事業を担っている場合はこれらの担保を用意しづらいという面がありました。しかし、売掛金や商品在庫などを担保として融資が受けられるので、不動産を持っていないような小規模事業者も利用しやすいです。

2.無担保融資よりも金利が低め

売掛金担保ビジネスローンは、担保の差し入れなどの面倒な手続きが多いですが、無担保のビジネスローンと比べると金利は低めで、融資期間も長くなる場合があります。具体的な金利は金融機関によって異なります。

3.条件次第で担保の売掛金を越えた資金調達が可能

申し込み者との信頼関係や担保となる売掛金の性質次第では、売掛金の金額を超えた融資が受けられる可能性があります。これは売掛金額以上の現金化は事実上困難とされるファクタリングより非常に有利なメリットと言えます。

4.原則売掛先への通知はされない

三社間のファクタリングの場合は、売掛先にもファクタリングの事実がわかる仕組みとなっており、それがきっかけで売掛先との関係に影響を及ぼす可能性があります。しかし売掛金担保ビジネスローンであれば原則売掛先に通知されることが無いので、売掛先との関係に影響を及ぼしません。

5.金融機関との信頼関係が構築される

売掛金担保ビジネスローンの場合は金融機関に定期的に報告をしなければなりません。報告をすることで申込者の企業の様子、経営状況などがわかると、企業の業績が良ければ金融機関との信頼関係が構築されていき、金融期間から適切なアドバイスが得られるようになります。

売掛金担保ビジネスローンのデメリット

売掛金担保ビジネスローンにはメリットがある一方で、残念ながらデメリットがあります。

1.融資なので返済義務がある
2.融資までの時間がかかる
3.債権譲渡登記など多くの資料提出が必須
4.定期的な報告を義務付けられる

上記内容について、以下に詳しくみていきましょう。

1.融資なので返済義務がある

売掛金担保ビジネスローンはあくまで融資です。融資なので当然返済義務が生じます。ファクタリングのように売掛金から手数料を引いた現金化とは違うので注意しましょう。

2.融資までの時間がかかる

売掛金担保ビジネスローンは、ファクタリングのような即日現金化は基本的にありません。申込者や売掛先に対する審査に時間がかかるため、急ぎで現金が必要な時にはデメリットになります。

3.債権譲渡登記など多くの資料提出が必須

売掛金担保ビジネスローンには、通常の融資と比べて多くの資料の提出が必要で、さらに債権譲渡登記を行う必要があります。手続きが大変な点がデメリットになります。

4.定期的な報告を義務付けられる

無担保融資ローンなどは融資を受けてから毎月の返済さえ怠らなければ特別な報告などは不要です。しかし売掛金担保ビジネスローンの場合は、金融機関に定期的な報告が義務づけられています。報告義務自体はデメリットですが、長期的にみれば金融機関との信頼関係構築につながるのでメリットになる場合があります。

売掛金担保ビジネスローンのまとめ

売掛金担保ビジネスローンは、売掛金などの動産を担保にして融資を受ける方法で、不動産を持っていない中小の事業者にとっては非常に利用しやすい融資方法です。非常に似ているファクタリングと違い、あくまで融資であることや手続きが面倒だったり、融資までの時間がかかるなどのデメリットがありますが、定期的な報告義務があるため金融機関との信頼関係構築につながるなどのメリットも多く、資金調達のひとつの方法としてこれからますます注目されるでしょう。