中小企業を中心として、資金繰りの円滑化のためにABL(売掛債権担保融資)を利用するケースが増えています。
在庫や売掛債権を担保にして融資を受ける制度のことで、不動産を持たない中小企業でも資金調達しやすいです。

しかし金融機関の中には、売掛債権や担保を査定して融資しても債権回収できないリスクは依然として残ります。
そこで信用保証協会の保証を付けて融資する、ABL(売掛債権担保融資)保証と呼ばれる金融商品も出てきています。

ABL(売掛債権担保融資)保証の仕組みについて解説

ABL(売掛債権担保融資)保証について、よくわからないという人もいるでしょう。
従来のABL(売掛債権担保融資)の場合、金融機関と借り手の法人代表者の2社間の取引でした。
しかしそこに信用保証協会の保証が付くのが、ABL(売掛債権担保融資)保証になります。

信用保証のついたABL(売掛債権担保融資)融資制度

ABL(売掛債権担保融資)の場合、申込人の抱えている売掛債権や在庫などを担保にして融資を受ける制度です。
在庫は企業の抱える商品や仕掛品などが該当します。
また機械などの設備を有している場合、こちらを担保にして借入も可能です。

担保として差し出された売掛債権や棚卸資産などは譲渡担保として処理されます。
金融機関が担保として押さえていますが、担保になった後でも在庫など注文があれば販売しても問題ありません。

ABL(売掛債権担保融資)保証の場合、申込人が差し出した担保の価値について信用保証が付きます。
ですから金融機関としてみれば、たとえ債務者から債権回収できなくても信用保証協会が代位弁済してくれます。
不良債権化するリスクが低減できるので、積極的な貸し出しができるわけです。

信用保証協会はどの程度の保証をする?

信用保証協会では、申込人の提供する担保についてその100%を保証するわけではありません。
一定の保証をして、保証した分の代位弁済を行う形になります。

横浜市信用保証協会によると、まず売掛債権については70~100%の範囲で保証します。
どの程度のパーセンテージになるかは売掛先の信用力や対抗要件具備方法などをベースにして、個別に判断します。

棚卸資産の場合、資産の簿価の30%で設定します。
しかしこちらもケースバイケースで、商品や仕掛品に高い価値のあるものだと判断されれば、最大70%まで保証額の引き上げができます。

そのうえで横浜市信用保証協会では、貸付債権の80%相当額を代位弁済する形になります。
いずれのパーセンテージも信用保証協会によって、若干異なる可能性があります。
どの程度保証を受けられるかは、あらかじめ確認しておくといいでしょう。

ABL(売掛債権担保融資)保証による借入れ申し込みの流れ

ABL(売掛債権担保融資)保証による借入れの申し込みをする流れですが、基本的には従来のABL(売掛債権担保融資)の申し込み手続きと一緒です。
まず借入れの申し込みを金融機関に対して行います。
すると金融機関の方で、まず審査を行います。

さらに信用保証協会の方で再度審査を実施します。
審査を受けるにあたって、必要書類を準備しなければなりません。
必要書類は売掛債権と棚卸資産、どちらを担保にするかで変わってきます。
ただし譲渡担保対象売掛先・棚卸資産一覧表と概要記録事項証明書は、両方共通して提出しなければなりません。
また概要記録事項証明書は売掛債権の場合債権譲渡登記、棚卸資産の場合動産譲渡登記のものが必要です。

売掛債権を担保にする場合、売掛先の明細書や売掛先との取引に関して証明できる書類が必要になります。
取引に関する資料ですが、契約書や発注書、納品書、支払通知書などを準備するといいでしょう。
また取引先から振り込みを受けている場合には、預金通帳のコピーなどを用意するのも一考です。

棚卸資産を担保にする場合には、棚卸資産の売上代金入金口座届出書を準備してください。
また信用保証協会によっては、別の資料を提出するように求められる場合もあります。
その時は相手の指示に従ってください。

金融機関と信用保証協会の2段階の審査の結果、融資の可否や借入限度額が決まります。
また上で紹介した範囲の中で、どこまで保証するかも決定されます。

融資可能の通知が届けば、対抗要件を備える手続きに移ります。
こちらは法律によって定められているので、避けては通れない手続きです。
対抗要件具備するにあたって、売掛債権と棚卸資産、どちらを担保にするかで手続きは異なります。

売掛債権の対抗要件は、3つの選択肢がありますので売掛先に通知してどれか一つを選択してもらいます。
まずは売掛債権の譲渡に関する売掛先の承諾です。
この場合、売掛先から所定の書式で承諾書をもらいます。

2つ目の方法は、売掛先に通知する方法です。
この場合、申込人が所定の通知書を作成して売掛先に郵送する形になります。

最後は売掛債権の譲渡を法務局に登記する方法です。
この場合、管轄する法務局で債権譲渡の登記手続きをしなければなりません。
最後の対抗要件ですが、金融機関が必要と判断した段階で売掛先に債権譲渡の発生していることを通知することがあります。

棚卸資産を担保にする場合には、法務局で登記手続きすることが対抗要件となります。
管轄する法務局で、動産譲渡登記手続きを行います。

対抗要件具備の出来たところで、融資が実行されます。
基本的には借入れは1回限りで、いったん融資を受けたらあとは返済するだけです。
しかし根保証されている場合には保証期間中、決められた融資枠の範囲内であれば、繰り返し借入や返済も可能です。

ABL(売掛債権担保融資)保証で借入れるメリット

信用保証協会を通したABL(売掛債権担保融資)融資を受ける場合、直接融資にはないメリットが期待できます。
主なメリットとして、借入れ条件が良くなる点です。
具体的には以下のようなメリットが期待できます。

1.実績の少ない法人でも融資の可能性が高まる
2.融資枠が拡大される可能性
3.長期借入で無理のない返済計画が立てられる

それぞれどのようなメリットが期待できるのか、以下で詳しく見ていきます。

実績の少ない法人でも融資の可能性が高まる

信用保証協会の信用がついてくるとしたら、金融機関としてみればより貸し出しのリスクが少なくなります。
起業してから間もないスタートアップやベンチャー企業の場合、どうしても信用力がまだ不十分と見られがちです。
しかし信用保証協会のお墨付きがあれば、実績が不十分でも融資を受けられる可能性は高まります。

また信用保証協会では、経営に関する相談も受け付けています。
まだ経営のキャリアの十分でない事業者としてみれば、心強い精度といえます。

融資枠が拡大される可能性

信用保証が付くことで、従来よりも融資枠が拡大できるかもしれないのがABL(売掛債権担保融資)保証のメリットの一つです。
保証が付くことで、信用力が従来よりもアップするからです。

より多くのお金を借入れることで、設備投資や運転資金に充てることができます。
事業拡大によって、より大きなビジネスチャンスをつかめる可能性も出てくるわけです。

ちなみに岐阜県信用保証協会のABL(売掛債権担保融資)保証を見てみると、最大で2億円の保証金額まで対応できるといわれています。
2億円までの保証が受けられれば、かなりのまとまった資金を確保できるわけです。

長期借入で無理のない返済計画が立てられる

保証付きのABL(売掛債権担保融資)にすることで、長期借入が認められる可能性があります。
長期の借入が認められれば、返済回数も多くなり1回当たりの返済額も少なくできます。
返済期間が長期化すれば、返済金の捻出もしやすいでしょう。

返済計画も立てやすくなりますし、長期的な視点で経営戦略を立てられます。
まとまった金額を借入したい、長期返済で無理のない返済計画を立てたいと思っている経営者にはおすすめの制度といえます。

ABL(売掛債権担保融資)保証で借りるデメリット

ABL(売掛債権担保融資)の保証を受けて資金調達するにあたって、デメリットもいくつかあります。
主なデメリットとして、以下のようなポイントが想定できます。

1.債務は帳消しにならない
2.2段階の審査を通過しなければならない

以上どのような点に注意すればいいか解説しますので、参考にしてください。

債務は帳消しにならない

信用保証協会のABL(売掛債権担保融資)保証は、申込人が借入れた債務の一定割合まで代位弁済してくれます。
代位弁済に関してよく勘違いしている人がいますが、信用保証協会が肩代わりしてくれても債務が帳消しになるわけではありません。

経営者としてみれば借入先が金融機関から信用保証協会に変わっただけです。
信用保証協会が代位弁済すれば、求償権といって肩代わりした借金を事業者に対して返済するように求めます。
借金の返済義務が決してなくなったわけではないので、注意しましょう。

2段階の審査を通過しなければならない

ABL(売掛債権担保融資)保証による融資を受けるためには、金融機関と信用保証協会の2か所の審査を受け、通過する必要があります。
例えば金融機関の審査は大丈夫でも信用保証協会の審査に引っかかってしまえば、融資は受けられません。

また2段階の審査を受けないといけないので、どうしても融資までに時間がかかってしまいます。
金融機関によって若干違いがありますが、大体申し込んでから融資実行されるまでに1~2か月くらいかかるかもしれません。
それまでに現金が必要であれば、ビジネスローンなどのつなぎ融資の利用なども検討しなければならないでしょう。

まとめ:ABL(売掛債権担保融資)保証は中小企業の心強い味方

信用保証協会のお墨付きのABL(売掛債権担保融資)保証は、従来のABL(売掛債権担保融資)よりも審査に通りやすくなります。
また融資枠のアップなど、借入にあたっての条件を有利にできる可能性もあります。

ただし銀行と信用保証協会と2段階の審査を受けないといけないので、融資までに時間がかかってしまいます。
とはいえ信用力に乏しい中小企業でもABL(売掛債権担保融資)保証であれば、融資が受けやすくなります。
資金繰りに困ったときには、ABL(売掛債権担保融資)保証の活用も考慮してみませんか?