不動産を持たない中小・零細や個人事業主でも資金調達できる手段として、ABL(売掛債権担保融資)が注目されています。
在庫や売掛債権なら、どんな法人でも多少なりとも抱えているところが多いはずです。
これらを担保にして借入する資金調達方法です。
しかしこのABL(売掛債権担保融資)、良いところだけではありません。
問題点やリスクもありますので、その点を頭に入れたうえで利用するかどうか検討する必要があります。
目次
ABL(売掛債権担保融資)の問題点とは?
ABL(売掛債権担保融資)にはメリットがある半面、問題点もいくつかあるのであらかじめ理解しておきましょう。
主な問題点として、以下のような項目は想定できます。
1.過剰担保リスク
2.金融機関への報告義務
3.倒産リスク
4.手の内が知られてしまう
それぞれどのような部分が問題になるのか、以下で詳しく見ていきましょう。
問題点1:過剰担保リスク
ABL(売掛債権担保融資)の場合、法人の保有する在庫を担保にすることが可能です。
在庫の価値判断ですが、金融機関によって異なる可能性があります。
すると過剰担保リスクがどうしても発生します。
金融機関の中には、債権保全のために必要な上限を超える担保を差し出すように言われる恐れがあります。
必要以上に在庫を取られてしまって、経営に悪影響をもたらす可能性があることは理解しておきましょう。
担保評価についてですが、業種によって評価の高低が変わってきます。
一般的に人材派遣業やアパレル業、食品などの卸売業、製造業、運送業、広告業などは比較的担保評価が出やすいです。
以上の業種で営業している法人であれば、ABL(売掛債権担保融資)を活用してもいいでしょう。
過剰担保リスクが低いからです。
またABL(売掛債権担保融資)を利用する際には、在庫よりも売掛債権を担保に差し出すのがおすすめです。
売掛金であれば、在庫のように担保価値が金融機関によってばらつく危険性が低いからです。
特に銀行からの評価の高い売掛債権を多数抱えていると審査に通りやすくなりますし、まとまった額の融資にもフレキシブルに対応してもらえる可能性が高まります。
例えば上場企業や地域密着で長い業歴を持っている安定した企業からの売掛金などは高い評価が出がちです。
問題点2:金融機関への報告義務
ABL(売掛債権担保融資)で借入した場合、債権者である銀行に担保の管理状況の報告が義務付けられます。
不動産と比較して、在庫や売掛債権の価値が流動的なためです。
ですから担保の管理状況がどうなっているか、定期的に報告しなければならないわけです。
いちいち銀行に出向いて説明するのが一般的なので、本業を圧迫する恐れがあります。
もちろん報告する際には、在庫や売掛債権の量や額について正確に伝える必要があります。
ということは担保管理を強化しなければなりません。
場合によっては在庫や売掛債権を管理するスタッフを取らなければならず、人件費コストの増える恐れがあります。
ただし見方によっては、メリットになる可能性もあります。
リアルタイムで在庫や売掛金の状況を把握できるので、より適切な経営戦略を練れるからです。
問題点3:倒産リスク
ABL(売掛債権担保融資)の問題点として、担保に取られることによって倒産するリスクのある点は理解しておく必要があります。
例えばABL(売掛債権担保融資)で在庫を担保として差し出して、融資を受けたとします。
ところが期日までに返済できなかった場合、銀行は当然のことながら担保権を実行します。
その結果、在庫がなくなってしまって納品や販売ができなくなって、倒産に追い込まれることもあり得ます。
また最初に紹介した過剰担保も倒産を招く原因になりかねません。
より多くの在庫を担保としてとられてしまって、経営が立ち行かなくなり倒産するというパターンも想定できます。
最悪倒産するかもしれないといった問題点を抱えている点は、ABL(売掛債権担保融資)を利用する前に考えておかないといけません。
問題点4:手の内が知られてしまう
定期的に銀行に報告義務が発生するのに絡んでくる問題点です。
定期的に売掛金や在庫状況などの担保に関する情報を提供しなければなりません。
そうなると、こちら側の手の内を基本すべて金融機関に知られてしまうのは、時として問題点になるかもしれません。
また審査時も担保価値を正しく判断するために、法人の核心の部分までかなり詳細にチェックするのが一般的です。
別にすべてオープンにしても問題ないという法人であれば、別に気にならないかもしれません。
しかしあまり銀行には知られたくない事情を抱えている法人の場合には、ABL(売掛債権担保融資)を利用すると藪蛇になってしまう恐れもあるわけです。
ファクタリングと比較したうえで考えるABL(売掛債権担保融資)の問題点
ABL(売掛債権担保融資)は売掛債権を担保にして融資を受けることが可能です。
同じく売掛債権を対象にして資金調達する方法として、ファクタリングがあります。
ABL(売掛債権担保融資)との違いですが、売掛債権の取り扱いです。
ABL(売掛債権担保融資)の場合、あくまでも売掛金を担保にしてお金を借りる資金調達手段です。
一方ファクタリングは売掛債権を売却して、現金化する資金調達の手法です。
ファクタリングと比較してみると、ABL(売掛債権担保融資)の問題点がいろいろと出てきます。
主な問題点として、以下のような項目が考えられます。
1.審査対象の違い
2.事務的作業の手間
3.審査スピード
4.償還請求権
それぞれ、どのようなところがABL(売掛債権担保融資)には問題点になるのかについて解説します。
問題点1:審査対象の違い
ファクタリングとABL(売掛債権担保融資)を比較すると、審査対象に違いが見られます。
ファクタリングの場合、売掛債権を買い取ります。
ですから売掛先の企業が買掛金をきちんと期日通りに支払えるだけの信用力があるかどうか、判断します。
ファクタリングには申し込み人と直接やり取りする2社間ファクタリングと売掛先の企業の承諾の必要な3社間ファクタリングがあります。
2社間の場合、申し込んだ法人の信用度もチェックされます。
一方3社間の場合、申し込んだ法人の信用はほとんど問題視されません。
一方ABL(売掛債権担保融資)の場合、あくまでも融資という扱いです。
もちろん担保となる在庫や売掛債権も審査対象になりますが、基本的には申し込んだ法人の信用状況で融資の可否を判断します。
このため、信用力に乏しい法人の場合担保を差し出しても審査クリアできない恐れがあるのは問題点といえます。
ABL(売掛債権担保融資)では審査落ちした法人でも、信用力の高い売掛債権を有していればファクタリングでは買取してもらえることもあります。
問題点2:事務的作業の手間
ABL(売掛債権担保融資)の場合、流動性の高い在庫や売掛債権を担保にします。
このため、売掛金や在庫状況を貸し出している銀行に報告しなければなりません。
一方ファクタリングの場合、売掛債権の買取サービスです。
ですからいったん売掛金を売却したら、ファクタリング会社との関係もそれまでです。
もちろん定期的に状況を報告する必要がありません。
ファクタリングと比較すると、ABL(売掛債権担保融資)の方が事務処理の手間暇をかけないといけないのはデメリットといえます。
問題点3:審査スピード
ABL(売掛債権担保融資)は融資という形をとっているので、債権回収できるのか慎重に審査を行います。
しかもABL(売掛債権担保融資)を取り扱っているのは金融機関がメインです。
金融機関の場合、審査にある程度時間がかかるのは問題点といえます。
金融機関や申し込みのタイミングによってまちまちですが、それでも一般的には2~3週間はかかるでしょう。
一方ファクタリングの場合、ノンバンク系のところも多数取り扱っています。
ですから審査スピードはABL(売掛債権担保融資)と比較すると、非常にスピーディです。
早いところだと、最短即日買取してくれるところもあるほどです。
法人を経営していると、想定外の出費が急に必要になる事態も珍しくありません。
このような緊急性の高い資金調達には、ABL(売掛債権担保融資)は柔軟に対応してもらえないのは問題点です。
ファクタリングであれば、必要な資金を出してくれる可能性のあることは頭に入れておきましょう。
問題点4:償還請求権
ABL(売掛債権担保融資)とファクタリングを比較した場合、償還請求権の有無も問題点に上がります。
ABL(売掛債権担保融資)には償還請求権が付いてくる点には注意が必要です。
もしかすると担保にしている債権が回収できなくなる恐れもあるでしょう。
その場合ABL(売掛債権担保融資)だと、債権回収できなくなった場合債務者がその保証をしなければなりません。
売掛金を回収しようと思ったら、先方が支払ってくれなかった、倒産していた場合、債務者がその責任を負います。
しかしファクタリングの場合、このような償還請求権は発生しません。
たとえファクタリング会社が売掛債権を回収しようと思って何らかの事情で不履行になっても、利用者にその金額を請求してくることはありません。
償還請求権は結構重要なポイントなので、ABL(売掛債権担保融資)を利用する際には十分考慮に入れておきましょう。
まとめ:ABL(売掛債権担保融資)にはメリットだけでなく問題点もあることは理解しておこう
不動産を持たないスタートアップ企業や個人事業主でも手軽に資金調達できる方法として、ABL(売掛債権担保融資)が注目されています。
しかしABL(売掛債権担保融資)は利便性が高い半面、今回紹介したように問題点があることも考えないといけません。
特に過剰担保によって、商品が回っていかないなどの問題点があるのには注意が必要です。
また償還請求権を行使されると、売掛金の支払いを自分たちで行わないといけない事態も考えられます。
このような問題点があることも頭に入れて、資金調達としてABL(売掛債権担保融資)を活用すべきか検討してください。
今回紹介したファクタリングも売掛債権を使った資金調達方法ですから、こちらの利用も併せて考えてみましょう。