赤字の決算で融資を受けるには?~銀行が赤字企業に融資するポイントを銀行員が解説

「赤字になってしまったから、もう事業資金融資は受けられない!」
「そもそも赤字ってなに?銀行はどう考えているの?」
賢明な企業努力をしても、決算が赤字になってしまうことがあります。
また昨今の状況から、多くの企業が赤字となり、今後に不安を抱えているでしょう。

「銀行は貸せるところには貸すし、貸せないところには貸さない」
つまり、赤字の決算で融資を受けるには、銀行との「連携」がポイント
なのです。
そこで今回は、決算書の赤字について、また赤字決算に対する銀行の対応などを、実際に融資を審査する銀行員が解説します。
経営者の方、あるいは起業を考えている方はぜひ参考にしてください。

赤字とは?~一般的な赤字の定義と「銀行の定義」

まず「赤字」という言葉の定義からスタートします。
一般的な「赤字」の概念と銀行が考える「赤字」は着眼点が違うのです。

赤字の意味

そもそも赤字とは利益がマイナス、つまり「欠損」が発生している状態を指し、要は「儲けがない」ことを表しています。
儲けは利益と表現されますが、決算で利益と言っても種類があり、業種によっても意味合いが違ってくる場合があります。

利益にも種類がある

では、決算における利益の種類を簡単に説明します。

 <決算書の利益>
売上総利益
売上から原価(商品の仕入など)を差し引いた利益 「粗利益、粗利」とも
営業利益
売上総利益(粗利)から経費(販売費及び一般管理費)を差し引いた利益
経常利益
営業利益から営業外収支(詳細は下記)を差し引いた利益
当期利益
経常利益から税金や配当、役員報酬などを差し引いた利益 「純利益」とも

銀行は経常利益で赤字を判断する

銀行は経常利益で赤字かどうか?を判断するのが一般的です。

そのため、銀行で利益と言えばまず「経常利益」を指します。
他の利益、たとえば売上総利益(粗利益)と営業利益は、企業経営のプロセス部分であり、黒字であって当たり前です。
なぜかと言えば、ここで赤字になっているということは、商売なら売値より仕入れ値が高いということ、また建設業などであれば資金繰りを回すために、赤字覚悟の受注をしていると想定されます。

いっぽう経常利益では、たとえば黒字が大前提の営業利益がその通り黒字でも、経常利益の段階で赤字になることもあるからです。
逆に営業利益で赤字でも、経常利益が黒字になっているならそれほどネガティブに見られません。
経常利益は営業利益から経常収支(受取利息や支払利息など)をプラス・マイナスして求めます。
ここではシンプルに支払利息、つまり借入の利息だけで考えると、経常利益が黒字なら「借入利息を払ってもまだ黒字」ということになります。

経常利益についてはこのくらいでとどめますが「経常利益が黒字なら銀行は黒字と考える」という原則は覚えておいてください。

赤字になったとき銀行の対応はどう変化する?

ここでわかりやすく、企業を人間でイメージしてみましょう。
企業の赤字は、人間ならケガや病気のようなものです。
健康なら、つまり黒字なら問題ありませんが、ケガや病気になると、治療しなければいけません。
自然に回復するのを待つ、という考えもありますが、それは人間でも擦り傷程度の軽いものの場合です。
人間でも症状が深刻なら病院に行く必要が出てくるでしょう。
まして企業では、赤字という病気の状態なら、自然回復を待っても、どんどん容態は悪化するばかりで、最後には死んでしまうでしょう。
企業における死とは倒産なので、そうならないように対処が必要になります。

銀行は、融資取引のある企業が赤字になった場合、いきなり冷たく突き放すことはまずありません。
いわば企業から見た病院として、経営改善のアドバイスなど「治療」を施してくれます。
ただしそれも、赤字の質によって可能な場合と不可能な場合があるのです。
銀行が治るまで治療してくれるか、あるいは「匙を投げられる」かは、赤字が許容できるかどうかという点にかかってきます。

「許容できる赤字」と「許容できない赤字」がある

赤字になった原因や赤字の状況(病気なら病状)により銀行の判断は分かれます。
赤字の判断基準はいくつもありますが、ここでは「時間」の点で見てみましょう。

許容できる赤字「一過性の赤字」

一過性とは「瞬間的、短期間」といった意味です。
赤字でも創業したばかり、あるいは短期間なら許容できるという判断です。

たとえば一過性の赤字の例として「創業赤字」があります。
創業したばかりで、売り上げ回収など経営が軌道に乗る途上の赤字なら長い目で見ようという考え方です。
こうしたケースでは、一過性であると銀行が判断してくれれば、黒字企業と同等の扱いを受けられる可能性もあります。
ただし事業計画に問題があるなど「赤字になるべくしてなった」と見なされると、たとえ創業時の赤字でも特別視してもらえない場合もあります。

許容できない赤字「慢性の赤字」

慢性とは2年(決算なら2期)以上、同じ状態が続く場合の表現です。
例えば2期以上の赤字が続いたなら、銀行は「慢性的な赤字体質」と判断します。

なぜなら、上記したような一過性の赤字なら、次の年には黒字になるはずです。
したがって赤字が2年以上続くなら、銀行の対応が「硬化」する可能性があるのです。

赤字になると銀行融資はどうなる?

「銀行の対応が硬化する」と上記しましたが、では具体的にどのようなことが考えられるのでしょうか?
ここでは返済中の融資と、新規融資にそれぞれ分けて説明していきます。

返済中の融資~「貸し剥がし」はあるのか?

赤字になったからといって、いきなり「貸し剥がし」されることはまずないと言えます。

「赤字になると銀行から貸し剥がしに会うので注意しましょう」
これは執筆のためネットの記事を検索した中で見かけたフレーズですが、銀行員としてそれは言い過ぎだと感じています。
そもそも「貸し剥がし」とは、銀行など金融機関自体が経営不振に陥るなどの理由から、返済に懸念のある融資の返済期日が到来したとき、いつもなら継続融資していたのに継続せず、一括返済を求める(分割返済ならあと3年残っているのに「すぐ返せ」と言われる)など、不合理に融資返済を強要されることです。

いっぽう上記したように、赤字でも可能な限り銀行は手を差し伸べてくれます。
これは、審査をして融資をした責任を銀行も負っているわけで、赤字になったらすぐに手の平を返すようなことはないのです。
また貸し剝がしのような無理強いをすれば、監督官庁である金融庁などから厳しくペナルティを受ける可能性もあります。

ただし、返済を滞納している場合などは、融資の期限に継続してもらえないことがありますし、分割返済でも滞納が重なれば一括返済を求められることがあります。
しかし、これは銀行から融資を受けるうえでの「約束ごと」なので、その約束が守れなくなったなら、一括して返済しなければならないという契約なのです。(この点から毎回の決まった返済を「約定返済」と呼びます)
したがって、銀行はあくまで契約に基づき対応しているだけであって、これは貸し剝がしではないと、銀行員は考えます。
とはいえ、貸し剥がしであろうとなかろうと、まとめて返済を求められないようにしなければいけません。
こちらは後半で詳しく解説します。

新規融資~新規融資、追加融資は「条件次第」

新規融資や追加融資では、融資をする代わりの条件として保証人や担保を求められる場合があります。
これらは、返せなかった場合の「安全装置(セーフティーネット)」であり、赤字企業に対して、リスクを考慮して融資を検討します。

とはいえ担保や保証人をすぐ準備できるとは限りません。
その場合もいきなり断ることはせず、たとえばリスクに応じ金利を高めに設定したり、融資期間を短くしたりなど、融資条件を付けることもあります。

銀行には「金融の円滑化」つまり企業に対し円滑に融資をするという使命(義務)があり、その取り組みを監督官庁へ定期的に報告しています。
ですから「あの銀行は赤字になると融資してくれない」と言われないよう、できる限り融資をしようと考えるのです。
とはいえどんな会社にも貸すわけではなく、赤字融資を実現するためにいくつかの対策を考える必要があります。

【参考出典】
MUFG三菱UFJ銀行/金融円滑化に向けた取り組みについて
https://www.bk.mufg.jp/info/kinyu_enkatsuka/index.html

赤字融資を実現する「3つの対策」

赤字になっても、その改善策と事業継続の意欲を示すことが大事と前述したとおりで、ここから具体的にその方法を紹介します。

対策1.原因究明と反省ができている

「なぜ赤字になったのかわからない」
これは、私が実際に融資の現場で耳にした経営者の言葉です。
このように、自社がなぜ赤字転落したのか?その原因がわかっていない(あるいは考えようとしていない)経営者が意外と多いのです。
仕事に忙殺され、じっくりと原因分析する時間が無いのかも知れませんが、つまずいたならその原因を探し、つまずいた原因を取り除かない限り、また転んでしまいます。
に期の決算で特に大事になってきます。

そのため、まず赤字になった原因を考え、反省点をまとめておくことです。
そうすれば、赤字融資の相談もスムーズに進むでしょうし、その逆にこうした自己分析がない経営者は「赤字に対する危機意識も、改善意識もない」とみられてしまいます。
とはいえこのような自己分析も「見える化」しないと銀行にはアピールできません。
そこで、たとえば一部の税理士は、決算をまとめる際に「今期の反省と今後の改善計画」といった項目を加えてくれます。

対策2.「経営改善計画」がある

一般に事業の前向き・建設的な長期計画を「事業計画」と呼び、赤字から黒字に転換するために立て直す・再建するための長期計画は「経営改善計画(単に「改善計画」とも)」になります。
赤字融資を受けるには、上記した「赤字転落の原因究明と反省」を活かし、黒字化するためのシナリオが必要で、それが「経営改善計画」で、銀行が赤字融資を検討するには経営改善計画が必須です。

とはいえ経営改善計画を自分で作るのが難しければ、税理士やコンサルタント業者などの専門家に頼むこともできます。
ただし専門家に頼んでも「丸投げ」はいけません。
計画の要諦やキーポイントは経営者自らの考え、言葉で作られていないといけません。
計画について質問されたのに、経営者として答えられず「経営改善も人任せで経営者として問題がある」と判断されてしまう恐れがありますので、注意が必要です。
(こちらは銀行窓口での私の実体験です)

対策3.「定性評価」される強みを持つ

ここまでの対策は言ってみれば「数字で訴える」ものですが、計画も予想通りに進むとは限りません。
そこで「定性評価」で見直してもらえる強みを持っておくことが重要です。

定性評価とは「数字で表現できないこと」に対する評価のことです。
例えば企業の人事評価では、営業実績など数字で優劣を判断するだけでなく、仕事のプロセスや協調性といった、数値化できない要素も盛り込んで判断します。
これが定性評価で、企業の場合なら決算書や事業計画、経営改善計画といった数値で語るのが「定量評価」、そして数値化できない「定性評価」の要素として、以下のような例があります。
 
 <定性評価の例>
江戸時代から続くこの会社の商品は、絶対に無くしてはいけない
当社の技術は、国内でも3本の指に入る特殊なもの
地域の雇用や経済発展のためには、あの会社をつぶすわけにはいかない
こういった「数値化できない強み」を把握し、アピールできるように文書化しておくなどが有効な手段です。

「赤字の決算で融資を受けるには?」のまとめ

銀行は「赤字」に対して、特別にマイナスイメージはもっていません。
これは、現場にいる私がそう感じていますし、銀行の金融円滑化方針からもわかります。
また企業の赤字割合は65%、つまり10社のうち6社以上が赤字(筆者調べ)というデータもあり、赤字は特別なことでもなく、恥ずかしいことでもないのです。

繰り返しになりますが赤字だからダメではなく、赤字になった原因を掴み、会社を立て直したいという意欲が感じられるかが重要なのです。
この記事が選択の参考になれば幸いです。