どんなに将来性のある事業であっても、全くの元手なしでの開業は現実的ではありません。なぜなら開業前の準備段階で少なくはない費用が発生する可能性が高いだけでなく、開業後しばらくの運転資金も確保しなくてはならないからです。この開業資金をいかに準備できるかが事業を始める際の重要なポイントであり、開業を目指す多くの企業にとっての問題ともなりますが、「ビジネスローン」は開業資金調達の選択肢として適しているのでしょうか?本稿では開業資金の調達先としてビジネスローンを利用する際にチェックしていただきたいポイントや、知っておいていただきたい注意点を解説いたします。
「開業資金」の調達にビジネスローンは利用できる?
まずそもそもの問題として、ビジネスローンは開業資金調達に利用できるのでしょうか?融資を受ける際には「利用条件」が存在しており、ビジネスローンも例外でありませんので、申込みを検討している場所が開業前の状況で利用できるかを確認していただくことも大切です。また融資商品の中には資金使途が限定されている商品も存在していますので、開業資金の調達という目的に適しているかもチェックしていただきたいポイントとなります。
「開業資金」も事業性資金に該当するため利用は可能
ビジネスローンは融資商品の1つですが、原則的に資金使徒は「事業性資金」に限定されています。事業を行なう上で必要になる資金全般が事業性資金であり、開業前に必要となる設備投資の費用や開業後の運転資金も全て事業性資金に含まれます。
つまり開業資金の調達にビジネスローンを利用していただくことは、資金使途の面からは何ら問題のない行為となります。ちなみに個人を対象としたカードローンは基本的に資金使途は問われませんが、「事業性資金を除く」となっていることが珍しくありません。もしカードローンで開業資金調達を検討されているのであれば、事業性資金への利用が不可となっていないかにご注意ください。
開業資金の融資申込前には「利用条件」をチェック
ビジネスローンによる開業資金の調達は問題のない行為だとしても、各ビジネスローンの利用条件をクリアすることができなければ、利用対象となることはできません。条件は申込先によって異なる可能性があるため、手続きを開始する前には必ず対象となっているかを確認していただくことが大切です。
業歴や年商は問われていないか?
申込条件に一定以上の業歴や年商が含まれている場合、開業前や開業直後の企業は残念ながら利用対象となることが難しくなります。業歴が全く無い、または乏しい企業は経営状況の判断が難しいため、返済能力を重視するビジネスローンは業歴を利用条件に含める傾向があります。また年商が一定以上あることも返済能力を示す1つの基準となります。融資を行なう側が貸倒れのリスクに敏感になるのは致し方ありませんが、業歴や年商を条件に含めるビジネスローンは、開業資金の調達先には適さないとお考えください。
個人事業主は利用不可ではないか?
ビジネスローンは銀行融資と比較して、中小企業など規模の小さな企業も利用しやすい資金調達方法です。しかし利用対象を法人に絞ってサービスを行っているビジネスローンは少なくはなく、個人事業主の方は申込対象に含まれているかの確認を行っていただくことを推奨いたします。
法人限定となっているビジネスローンは、あえて利用対象を絞ることで法人に適したサービスの提供を行っています。個人事業主の方は対象を限定しないビジネスローンを、法人の場合は法人限定のビジネスローンを選んでいただくことで、開業資金調達に成功できる可能性は高まります。
「決算報告書」などが必要書類に含まれていないか?
業歴や年商に関しての条件がなく、個人事業主も利用可能となっている、または法人が申込みを行なう場合には、開業資金が調達できる期待は高くなります。ですが提出書類の中に「決算報告書」などが含まれている場合には、開業資金の調達を目的とした利用は難しいとお考えください。決算書などは2期分から3期分が必要になることも多く、開業前にそれらを準備することは現実的に不可能だからです。
また開業間もない時期の企業の場合は、申込先によっては他の提出書類により経営状況が判断できれば融資可能な場合もありますが、決算書の提出を求めるビジネスローンが開業前の企業に対して融資を行なう期待は低いと言わざるを得ません。
ビジネスローンによる開業資金調達の審査難易度は?
開業資金をビジネスローンを活用し調達することは、決して不可能ではありません。しかし申込対象となることができても、審査通過が容易ではないのは事実です。開業資金の調達を希望する企業がビジネスローンの審査に通りづらいのには、以下に解説させていただく2つの理由が大きく影響しています。逆に言えば、これらの理由に対応することができれば、ビジネスローンを活用し開業資金の調達に成功できる可能性が高まるとも言えます。
返済能力を示す必要があるから
ビジネスローンに限らず融資の審査では、「返済能力」が重要なポイントとなります。しかし開業前の時点で返済能力を示すのは簡単なことではなく、融資を行なう側にとっては貸倒れの大きなリスクを背負うことになりかねません。例えば日本政策金融公庫は、公的な機関であり事業の創出などを目的としているため、開業資金の調達先として適していると言えます。ですがビジネスローンはあくまで金融商品であり、貸倒れのリスクを無視することはできないのです。
事業の収益性や将来性に関する根拠を求められるから
中小企業や個人事業主などに対しての融資に積極的な日本政策金融公庫であっても「将来性」がない企業に対しての融資は期待できません。すでに起業している企業が運転資金を確保する場合でも、具体的な事業計画書などの提出が必要になり、開業資金の融資を受ける際には「創業計画書」を丁寧に作成しなくてはならないのです。
申込先が公的機関ではないビジネスローンとなれば、将来性や事業の収益性に対してより厳しい目で審査されることになります。審査通過するためには多くの労力と時間を使っての書類作成が必要となる可能性が高く、特に短時間での資金調達はより難しくなります。
〈結論〉開業資金の調達にも利用可能だがハードルは高い
結論としては、「開業資金の調達をビジネスローンで行なうのはハードルが高い」ということになります。決して不可能ではないものの、審査に通過し開業資金を得るためには、申込先選びを慎重に行い可能な限りの準備を丁寧に行わなくてはならなくなります。
開業資金の調達にビジネスローンを利用するための条件と注意点
ビジネスローンで開業資金の調達が簡単ではないのは事実ですが、特例とも言える条件を満たすことができれば、審査通過できる可能性は大きく高まります。しかしその場合でも注意していただきたいポイントが存在しており、デメリットとなり得る要素を理解した上で対応していただくことが求められます。
〈条件〉「法人成り」や「他業種への挑戦」を行なう場合
開業資金の調達を行なう経営者様が他のビジネスをすでに行っているのであれば、資金調達に成功するのはそれほど難しいことではないかも知れません。具体的には個人事業主からの法人成りや、すでに実績のある企業が他業種の事業を開業する際などです。法人成りであれば、それまでの経営実績が審査の対象として利用できる期待が高く、他業種の事業を行っている企業であれば返済能力の判断も比較的容易となります。
どちらの状況も本当にゼロからの開業ではなく、「審査対象となれるだけの実績」があります。この条件を満たすことができれば、ビジネスローンによる開業資金の調達に成功できる可能性は大きく向上します。
〈注意点〉金利が高めになる
ビジネスローンによって開業資金の調達を行なう場合、ある程度の事業実績がある状況で融資を受けるのと比較して、金利が高めに設定されやすくなります。金利は返済能力が高いと判断されるほど低くなる傾向にありますが、開業前の企業が返済能力を高いと判断される期待は高くはありません。法人成りなど開業資金の融資が受けやすい状況であっても金利へ多少の影響はあると考えていただくべきかも知れません。
〈注意点〉限度額が抑えられる
融資を受ける企業の返済能力は、金利だけでなく限度額にも影響する要素です。融資を行なう側としては、貸倒れのリスクがあると判断した企業に対して融資額を抑えることも、貸倒れのリスク対策となります。ですが開業資金を調達する際に必要な額の借入ができなくては、他の資金調達方法との併用などを考慮していだく必要が発生しかねません。ただし限度額が抑えめであっても、公的融資を受けるまでのつなぎ資金に利用するなど、様々な活用方法は考えられるはずです。
〈注意点〉担保や保証人を求められる
融資の審査では経営状況や将来性に関する評価があまり高くなくとも、担保や保証人を用意することで審査通過できる場合があります。担保や保証人を設定することで、融資を行なう側にとっては、返済が滞った際の保証とすることができるからです。ビジネスローンにも担保が設定できる商品は存在しており、開業資金を調達する際にも審査に有利に働く期待はあるものの、担保や保証人を設定するリスクを理解した上で手続きを行っていただくことが重要となります。
ビジネスローンの活用方法
開業資金の調達を目的としてビジネスローンを活用するには、本稿でご紹介したような条件を満たし注意点もしっかりと理解していただく必要があります。しかしビジネスローンは銀行融資を受けることが難しい中小の企業にとって利用しやすい資金調達方法であり、開業資金調達以外に役立てることが可能です。開業後に以下のような状況になった際には、ぜひビジネスローンの活用をご検討ください。
急激な費用増加への対応
季節商品などを取り扱う業種では、ある時期に仕入費が高騰する可能性があります。そのように一時的に増加する急激な費用を確保するには、短時間で融資が受けられる期待も大きく、審査通過のハードルも高くないビジネスローンが非常に役立ちます。ビジネスローンは銀行融資と比較して必要書類が少ないことが多く、手続きに関しての負担も小さめで済むため、忙しい事業の合間を縫って手続きを行っていただくことも難しくはありません。
融資を受ける際のつなぎ資金の調達
融資によって運転資金や設備投資の費用を確保している企業は数多く存在しますが、銀行や公的融資など金利の低さが期待できる場所は、融資を受けるまでに長い期間を必要としやすいという問題点を抱えています。状況によっては融資を待つ間に資金ショートに陥るというリスクも無視できなくなりますが、ビジネスローンを活用し融資までのつなぎ資金を確保することで、資金ショートのピンチも乗り越えやすくなります。
ビジネスローンは「急ぎ」や「短期返済が可能」な状況に最適
ビジネスローンの大きな特徴は「資金調達スピード」や「利便性の高さ」、「審査通過のしやすさ」などです。また注意点としては「金利の高さ」が挙がりますが、短期間での返済を心がけることで利息が大きくなる状況を回避することが可能となります。緊急で資金が必要になった状況にも頼りになりますので、資金調達をお急ぎの際にもビジネスローンをご活用ください。
「ビジネスローンで開業資金は調達可能?」まとめ
・開業資金も「事業性資金」に該当するため、ビジネスローンによる調達は不可能ではない
・一定以上の業歴や年商が申込条件に含まれている場合は、開業前の利用は難しい
・個人事業主が法人成りを行なう際など、「審査が行えるだけの実績」が存在していればビジネスローンで開業資金の融資を受けられる可能性は大きく向上する
ビジネスローンによる開業資金の調達は、不可能ではないものの簡単なことではありません。多くのビジネスローンでは決算書の内容などを元に経営状況を調査し、貸倒れのリスクが高いと判断されてしまうと審査通過ができなくなります。開業前の企業は実績がないため、返済能力などを証明することが難しく、さらに審査に必要な情報が不足しかねないため、利用対象となれないことも少なくはありません。ただし必ずしも利用できないとは限りませんので、申込条件などをしっかりと確認していただいた上で、ビジネスローン会社に相談してみることをおすすめいたします。