「ABL(売掛債権担保融資)をビジネスにどうやって活用するのかわからない」
「そもそもABL(売掛債権担保融資)ってなに?」

事業資金を調達したいけれど、自社には担保にできるような不動産がない、このような悩みを持つ会社も、ABL(売掛債権担保融資)を活用すれば、事業資金調達が実現できる可能性があります。
そこで今回は、ABL(売掛債権担保融資)の基本事項から、資金調達やビジネスへの活用法を銀行員が解説します。
事業資金調達を検討している人は、ぜひ参考にしてください。

ABL(売掛債権担保融資)の活用法1.ABL(売掛債権担保融資)を知る

ABL(売掛債権担保融資)の活用法を読み解くために、まずABL(売掛債権担保融資)の基本事項を説明します。
ご存知の人も、ここで知識のブラッシュアップをすると、実際にABL(売掛債権担保融資)の活用法も、より吸収しやすくなると思います。

ABL(売掛債権担保融資)とは?

ABL(Asset Based Lending)を直訳すると「動産担保融資」となります。
従来のように、不動産など金融機関における一般的な担保を保有しない企業でも、資金調達が可能になったのですが、不動産など従来からの担保の代わりとして、「企業が普通に持っているモノ」(次項で説明)も担保にすることが可能になり、特に中小企業やスタートアップ企業など、なかなか資産を保有できていない企業でも、資金調達の選択肢が広がりました。
ABL(売掛債権担保融資)は、証書貸付・手形割引など従来からの事業資金融資以外で、新しい企業の資金調達手段として国も積極的に推進しています。

担保にできるモノ(資産)

ABL(売掛債権担保融資)では、以下のような資産を担保に活用することができます。

<ABL(売掛債権担保融資)で担保として活用できる資産>
● 売掛債権(売掛金、受取手形)
売掛債権の売掛金は「ファクタリング」、受取手形は「手形割引」で資金調達することも可能ですが、金利(手数料)が高めな金融業者などもあり、慎重に検討して選択する必要があります

● 在庫(原材料、商品)
担保にすることは可能ですが、もともと加工したり、販売したりと数量が変わったり状態が変化する場合もあるので、担保にした場合の管理方法など、一定の注意も必要になります。ABL(売掛債権担保融資)を検討する際には金融機関担当者などとしっかり打ち合わせをする必要があります。

● 車両(トラック、タンクローリー)
担保にできるのは自社所有物であることが大前提なので、リース車両は担保にできません。

● 機械(印刷機、旋盤)
担保にする以上、融資が返済できなかった場合など最悪なケースでは失うこともありますので、企業の存続を左右するような機械装置を担保にする場合には慎重に考える必要があります。

上記したのは一般に「動産」と呼ばれているので、ABL(売掛債権担保融資)を「動産担保融資」と表現する場合もあります。
動産とは「不動産以外の空間を占めるモノ(有体物)」という定義もあり、たとえば上記した在庫も広く牛や豚など家畜や養殖魚も動産に含まれ、ABL(売掛債権担保融資)で担保にする場合もあります。

譲渡担保〜ABL(売掛債権担保融資)に必要な手続き

ここまで「担保」という言葉を使ってきましたが、ABL(売掛債権担保融資)で言う担保とは、正確には「譲渡担保」と呼ばれるものです。
譲渡担保とは、融資をする場合に担保の売掛債権や動産(上述)を、お金を借りる債務者(融資利用者)からお金を貸す債権者(銀行など融資をする側)に移転する形式の担保です。
担保になるので、融資を返済すれば移転した売掛債権などは返還されますが、融資が返済できなくなれば当然ながら債権者に処分されるという流れになります。
権利上は債務者から債権者に権利は移転(これを「譲渡」と表現します)するのですが、現実にはそれまでと同様に事業で使い続けることができます。
この場合に引き続き手もとに置いておくことを「占有」、そして使い続けることを「使用収益」などとも表現します。
ここまで少し学術的な説明になりましたが、要はごく普通の担保であり、住宅ローン(自宅はローンの担保になるが自分名義の家として住める)と同じなのです。
また譲渡担保は不動産の担保と同じように登記することで、担保になっていることを法的に証明します。
不動産担保の場合は抵当権・根抵当権ですが、譲渡担保では「債権譲渡登記」「動産譲渡登記」と呼ばれる登記になりますが、その意味するところや効力は不動産担保と同じです。
ちなみに登記にも費用が必要で、これは「登録免許税」という税金を納付する形です。
登録免許税は、債権譲渡陶器の場合は1件につき7,500円(債権の数により15,000円になる場合も)で、不動産担保の抵当権登記の1,000分の4(3,000万円の担保なら12万円 *軽減特例もあり、ケースにより異なります)と比べても少ない金額になっています。
(税額等は筆者調べによる)

ABL(売掛債権担保融資)の融資商品

ABL(売掛債権担保融資)は金融機関(政府系金融機関・民間金融機関)で取り扱っています。
また金融機関独自で融資するプロパー融資と、信用保証協会の保証付きで、国や都道府県など地方公共団体が金利面などさまざまなサポートをする制度融資もあります。

融資商品1.プロパー融資

金融機関でも、特に地方銀行が積極的です。
上記した売掛債権、動産を担保にして融資する手法(「スキーム」とも表現します)で、具体的な融資金利は公表されていませんが、先進的な取り組みとして政府から推奨されていることもあり、中には一般的な事業資金融資より低金利で資金調達できる場合もあります。
また金融機関以外にも信販会社やリース会社などいわゆるノンバンクでも取り扱っています。

融資商品2.制度融資

たとえば東京都の制度融資の場合を例に見てみると、融資額は最大2億5千万円までで、借入期間も担保により異なり、機械や設備を担保にする場合は7年以内、いっぽう売掛債権や在庫が担保になると短期・1年以内などとなっています。
また借入の必要経費(保証料など)を東京都が一部補助してくれる場合もあります。
たとえばABL(売掛債権担保融資)の担保が機械・設備の場合には融資額の4%または必要経費の2分の1までを上限に補助を受けられる制度があります。(筆者調べによる)

ABL(売掛債権担保融資)の活用法2.活用事例を紹介

ここからは、実際にABL(売掛債権担保融資)を活用して事業資金調達を実現させた事例を、銀行員としての見解も加え紹介していきます。

事例1.運送業者・車両を担保にして運転資金を調達

運送業を営む会社で、会社が保有する車両(大型トレーラーなど)をABL(売掛債権担保融資)の担保として運転資金融資を受けることができました。
運送業ですので、車両は持っていて当然で、それが利益を生むだけでなく資金調達の手段にも代わる事ができたのです。
もちろんABL(売掛債権担保融資)の担保になったといっても、今まで通り何の不自由や制約なしで車両は使用できるので、継続してABL(売掛債権担保融資)で車両を担保にして運転資金の調達がスムーズに実現できるようになりました。

事例2.新製品開発の在庫を担保に、追加の開発資金を調達

建築資材の製造販売がメインの会社で、新商品開発のために在庫を抱えていましたが、画期的な新商品であり、販売のタイミングを読んでいた先行投資で在庫も一時的に抱えていた状況でした。
しかし、更に開発資金を投入すれば新商品の完成はメドが立つことから、その在庫を担保にしてABL(売掛債権担保融資)により、追加の開発資金を調達することができました。
その後、完成した新商品の売れ行きも好調で業績は上向き、ABL(売掛債権担保融資)で借りたお金も期限より前に完済できたそうです。

事例3.売掛金を担保に活用して先行する支払いにも対応できるようになった

キャラクターグッズなどを開発・販売する会社で、材料を海外から輸入していたため、商品の売上入金よりも、どうしても支払いが先行しがちで、資金繰りが悩みのタネでした。
そこでABL(売掛債権担保融資)で売掛金を担保に活用して資金調達ができ、支払いに対する資金的な余裕も発生したので、新商品開発などにもより注力できるようになりました。
ABL(売掛債権担保融資)を利用することで資金繰りが円滑になり、仕事が色々な面でうまく回るようになっていきました。

ABL(売掛債権担保融資)の活用法〜ABL(売掛債権担保融資)の意味と活用事例を銀行員が解説のまとめ

ここまでお話したように、ABL(売掛債権担保融資)は、不動産など従来からある担保に変わり、売掛債権などを担保に活用して資金調達できる新しい仕組みです。
政府も積極的に推進しているため、金融機関も新しい取り組みとしてABL(売掛債権担保融資)には注目し、積極的に取り扱っています。
これまでのように借りる、返すという関係だけでなく、ABL(売掛債権担保融資)という新しい資金調達手段を通して、金融機関とも新しいパートナーシップを持てるようになれば、資金調達と経営にも役立つことでしょう。
この記事がそうした新しい取り組みへの参考になれば幸いです。