事業資金調達を考える中で、法人で1億借りるとしたら何から始めればいいでしょうか?
これまで大きな融資を経験したことがないと、どのように考えればいいか迷うと思います。
そこで今回は「法人で1億借りるには?」をテーマに解説していきます。
現場で融資審査を対応している銀行員の説明なので、法人で1億借りる可能性のある人、あるいはいつか法人で1億借りることができるようになりたい人などはぜひ参考にして下さい。

法人で1億借りる「手段」〜法人が1億円を借りることができるのはどこ?

始めに1億をどこから借りるか?について解説します。

日本政策金融公庫

事業資金調達でまず考えられるのが、公的融資の日本政策金融公庫です。
はじめに日本政策金融公庫の特徴をまとめてみました。

<日本政策金融公庫の特徴>
● 日本政策金融公庫は公的融資で「株式会社日本政策金融公庫法」が根拠法
● ①国民生活事業②中小企業事業③農林水産事業の3部門がある
● 国民生活事業は小規模事業者などが対象で、平均融資額は約1千万円
● 中小企業事業は中小企業(資本金3億円以下、従業員300人以下の会社及び個人)
● が対象で、平均融資額は約1億3千万円
● 借入利率は融資商品で異なるが、特例で年1%未満〜年2.0%程度の水準

日本政策金融公庫で一般的に利用される融資としては「マル経融資」「一般貸付」などがあります。
融資限度はマル経融資が2千万円、一般貸付が4千8百万円などで2つを足しても1億には足りません。
このように日本政策金融公庫では一般的な融資制度だけでは1億円借りることができないので、特別な条件付きの融資を利用する必要があるのです。

<日本政策金融公庫で1億円借入可能な融資制度の例>(筆者調べ)
1. 【新型コロナウイルス感染症特別貸付】
コロナの影響で売上が過去に比べ落ち込んでいるが、将来的には業況の回復が見込まれる事業者などが対象
融資限度は6億円以内、返済年数は20年以内(当初5年まで返済据置が可能)

2. 【取引企業倒産対応資金(セーフティネット貸付)】
取引していた企業の倒産で経営に困難を来している、倒産企業に対し5売掛金債権を抱えている事業者など
融資限度は1億5千万円以内、返済年数は8年以内(当初3年まで返済据置が可能)

3. 【女性、若者/シニア起業家支援資金】
「女性」「35歳未満」「55歳以上」のいずれかに該当し、新しく事業を始める(事業開始後7年以内まで含まれる)事業者など
融資限度は7億5千万円以内、返済年数は7年以内(当初2年まで返済据置が可能)

上記はほんの一例で、他にも日本政策金融公庫には様々な融資制度があり、目的や資金使途で1億円以上の借入が可能ですが、もちろん条件に該当して審査に通った場合に限ることは言うまでもありません。(例としてあげた融資制度を含め、実際に検討するときは融資条件などご自身で必ず確認してください)

銀行の事業資金融資

銀行の事業資金融資は原則として融資額の限度がないので1億借りることは可能ですが、逆に言えばすべて審査次第である、とも言えます。
銀行によっては個別の融資商品(ビジネスローンなど)で融資限度が設定されているものもありますが、一般的な事業資金融資では明確な融資限度はなく、審査次第で1億円以上借りることも可能です。
ではここで、銀行事業資金融資の一般的な特徴を見てみましょう。

<銀行事業資金融資の特徴>
● 「◯◯万円まで」などといった融資限度は特に決まっていない 
● 借入は契約により、主に以下の形態がある
【手形貸付】約束手形で数ヶ月から1年程度の短期間融資、毎月利息だけ支払い、元金は返済期日に全額一括返済する期限一括返済が主流
【証書貸付】いわゆる借用書、借用金証書(正確には「金銭消費貸借契約証書」)で数年〜数十年間の長期間、分割して返済していく融資
【当座貸越】極度額(融資限度額のこと)を決めて、その範囲内で借りたり返したりを反復して使用できる融資で、最初に契約したあとは融資利用で銀行に申し込む必要がなくインターネットバンキングなどで自由に借入利用できる
● 借入金利は売上などの業況や企業規模、銀行との取引記録などで総合的に判断して銀行が決定する
基本的には返済期間が長いほど、企業の状況が悪いほど金利は高くなる
● 金利の目安は短期借入なら年1%未満から、長期融資でも年1%台の金利もあるが、個別に決定されるので上限では年4%台となることもある
● 金利を含めて融資の内容は、銀行が決算書などで融資先を分析してランク付けをする「銀行格付」に基づいて決定される

【解説】一社あたりの上限はあるのか?〜銀行格付と融資額の関係

銀行の事業資金融資における特徴で信用格付けと言う言葉が出てきました。
例でも述べた通り、金利など融資の条件に大きく影響するので、もう少し詳しく触れてみたいと思います。
銀行格付(「信用格付」あるいは単に「格付」は、銀行自身の分析で融資している債権(銀行は取引先にお金を貸しているという点で、売掛金債権を持っている企業と同じように債権者であり、融資を受けている会社は債務者となります)が期日までに返済されるのか?
という点を中心にして、決算内容を分析しています。
これが信用格付で、融資先の状況を点数化しランク付けと分類を行います。
分類の結果、とても返済できない又は返済できなくなる可能性が高い融資債権を「不良債権」と呼びます。
このように、銀行格付では企業を融資返済の実現性という尺度でランク分けします。
そしてランクに応じ「ランク◯なら原則3億円まで融資可能」「ランク▲は追加融資不可」といったように、融資の尺度は存在するのです。

信用保証協会融資

信用保証協会融資とは、公的機関である信用保証協会が融資の保証をする(信用保証協会が保証人になるという意味)ことで、中小企業など信用度の高くない企業でも事業資金調達ができる融資です。
融資の保証をしてもらう対価として保証料(正確には「信用保証料」)を支払う必要があります。

信用保証協会で取り扱っている融資制度(「保証制度」と呼びます)はいくつもありますが、1億円融資が可能なものとしていくつか紹介します。

<信用保証協会融資で1億円借入可能な保証制度の例>(筆者調べ)
● 【普通保証】
個人及び法人など中小企業の事業者が対象
融資限度は2億8千万円以内(うち無担保8千万円を含む)
返済年数は10年以内
借入利率は金融機関所定の利率
信用保証料は融資額の年0.45%~1.90%程度

● 【経営安定関連保証】
売上が前年比減少しているなどの申請により、市区町村長の認定を受けた事業者が対象
融資限度は2億8千万円以内(うち無担保8千万円を含む)
返済年数は10年以内
借入利率は金融機関所定の利率
信用保証料は融資額の年0.6%~0.7%程度

● 【事業振興融資】*神奈川県限定の制度融資
個人及び法人など中小企業の事業者が対象
融資限度は2億円以内(うち無担保8千万円を含む)
返済年数は10年以内
借入利率は1年以内:年1.6%、1年超10年以内:年2.6%以内などの固定金利
信用保証料は融資額の年0.45%~1.90%程度

信用保証協会融資は、個人事業主や中小企業などの融資による資金調達を円滑にするといった趣旨に基づいていますので、たとえば上記で紹介した制度融資のように、各都道府県や市町村でも独自の融資を取り扱っている場合があります。
ただし信用保証協会融資では、信用保証協会は融資保証をするだけであり、実際に融資するのは銀行などの金融機関なので。審査によっては融資利用できない可能性もあります。

ノンバンク・ビジネスローンなど

ビジネスローンは無担保、保証人なしでスピーディーに資金調達できる融資商品で、消費者金融や信販会社などのいわゆるノンバンク(銀行のように預金は扱わない金融業者)が主に取り扱っています。
銀行でもビジネスローン取り扱いはありますが、審査や融資利用までのスピードはノンバンクのほうが上です。
ノンバンク・ビジネスローンの特徴は以下のとおりです。

<ノンバンク・ビジネスローンローンの特徴>
● 個人事業主や法人などの事業者が対象
● 原則として無担保、保証人不要
● 融資限度は1千万円まで
● 借入利率は最大年18%程度の水準

特徴にもあるように。ノンバンク・ビジネスローンの融資限度は最大でも1千万円程度になっており、ビジネスローンだけで1億の事業資金調達はできません。
また消費者金融などのノンバンクは、事業者よりもサラリーマンなどの個人をメインターゲットにしているので、事業者向けの融資はノンバンク以外にほとんど見当たりません。
したがって、事業資金調達ではスピード面などで役立つビジネスローンでも、ノンバンクで1億円借りるのはむずかしいと言えるでしょう。

不動産担保ローン

個人事業主や会社が所有する不動産を担保に事業資金を調達できるのが不動産担保ローンです。不動産担保ローンの特徴は以下のとおりです。

<不動産担保ローンの特徴>
● 個人事業主や法人などの事業者が対象で、35年など長期返済も可能なローン
● 返済が長期なため年齢制限(例:申込時満70歳未満、完済時85歳未満など)がある
● 融資限度は5億円までなど大型の融資だが、担保にする不動産の評価で融資額が決まる
● 借入利率は年2%台〜年10%台程度の水準
● 事務手数料(融資額の1%など)や、担保を登記する費用(数万〜数十万円)が必要

不動産担保ローンの融資額は担保の評価と業績などの審査で決まりますので、1億円借入ができる融資でも、1億借り入れできるかどうかは審査次第と言えます。(なお担保評価についてはのちほど触れます)

法人で1億借りる「対策」〜法人が1億借りるためのポイントは?

ここまでは「1億円借りることも可能な手段」について解説してきました。
手段を確認したので、次は1億円の資金調達を実現に近づける方法はないか?探っていきたいと思います。

ポイント1.「年商」~借入は年商の半分まで?

1億円借りるということは、言うまでもなく1億円の借金を返していくことになります。
そこで、1億の返済を続けていける「体力」があるか?を審査で判断する一つの尺度が年商です。
銀行の審査ではよく「借入総額は年商の半分まで」と言われます。
借金が年商の半分くらいなら無理なく返していけるという論法ですが、これは実際に現場で多くの事業者を見てきた私の経験からも、説得力があると考えています。
したがって借入は年商の半分までが理想なので、1億借りたいなら売上は2億以上必要というのが銀行審査の根底に流れているということは、ぜひ覚えておいてください。
また、2億程度の売上規模が無いなら、そもそも1億の資金が必要になることもない、という見方もあります。
たとえば事業で運転資金が必要になるとしても月の売上(月商)からみて2〜3ヶ月分程度の金額になるのが一般的で、運転資金で年商の半分まで必要になることは想定しにくいのです。
いっぽう工場新設などの設備資金では売上規模に関わらず1億円以上の資金が必要になることは良くあります。
ただしこちらも注意すべき「償還力」というポイントがありますので、次項で解説します。

ポイント2.「償還力」~1億でも返していける体力をつける

1億の融資が必要になるのは、工場新設や機械購入など設備資金がよくあるケースです。
こういった設備資金融資は融資額が年商の半分を超えることもよくあり、審査では他の尺度で返済可能か?を見ます。
そこで、設備資金で1億円返済可能か?判断する尺度が「償還力」です。
一般に償還力は以下の式で計算します。
 (今回の設備資金融資)+(今まで借りて返済中の融資) =償還力(年)
 (利益)+(減価償却費)

それぞれの用語を細かく解説していくと今回のテーマから離れてしまうので、ここではイメージとして「A【過去の借金と今回の設備資金融資をあわせた借入総額】を、B【事業の利益と減価償却(理論上の経費として利益から差し引くが、実際には使っていないので)を足したお金】から、何年で返し終えることができるか?」と言った程度でいいと思います。

 <償還力の計算例>
 (今回の設備資金融資:1億円)+(今まで借りて返済中の融資:2億円) 
 (利益:前期決算の利益3千万円)+(減価償却費5百万円)
=償還力・8.5(年)
このように、償還力は10年以内が理想とされています。
ちなみにA【新規と今までの融資】は計算式のとおり利益で償還(返済していくこと)する債務として「要利益償還債務」、またB【利益+減価償却】は返済のもとになる「償還財源」、そして償還力は年で表現することから「償還年数」などと呼ばれます。

現実に1億円以上の資金が必要となるのは設備投資が多いので、1億円借りるなら10年以内で返済できる償還力が必要(ただし原則論であり、実際は審査による)ということは覚えておいてください。

ポイント3.「担保余力」~銀行の担保評価は相場の半分?

融資で事業資金するにも1億円ともなると、担保が必要になることがあります。
たとえば銀行の事業資金融資や信用保証協会融資、また日本政策金融公庫でも融資が必要なケースはありますし、不動産担保ローンなら当然担保は必須です。
ところで担保とは、直訳すると「将来発生するかもしれない不利益に備える手段、押さえ」といったところです。融資の場合には返済できなくなったときに換金して債務の返済に充当するため、会社の土地や建物などの不動産を担保にするのです。
したがって、原則論で言えば融資に対して担保が不足するなら(例・融資1億円に対し担保8千万円など)融資は受けられないことになります。
実際はそこまでシビアではなく、ある程度の不足でも融資は受けられるのですが、担保評価が融資に対して少なすぎると借り入れできないことはあります。

ところが、銀行などお金を貸す側の担保評価は相場よりかなり低めになります。
たとえば一般に土地の相場は路線価(厳密には相続税路線価)の120%(1.2倍)程度と言われています。
いっぽう銀行などの担保評価は高くても路線価の80%で、物件によって更に低い評価になります。
なお実際にどのくらいの水準か?は審査の内部情報なのでお話できませんが、ここでは仮に「路線価の60%程度」としておきます。

では、これをわかりやすく並べると次のとおりになります。

<路線価、相場、担保評価の関係>
(100㎡の土地で、路線価が10万円の場合)
1. 相場:路線価✕120%⇒@12万円✕100㎡   =1千2百万円 
2. 銀行の評価:路線価✕60%⇒@6万円✕100㎡ =6百万円

これはシンプルな例ですが、不動産の担保評価が相場の半分程度とするなら、1億円融資を受けるためには相場で2億以上する不動産が必要になるという理屈になります。
そしてこれは。決して大げさな表現ではないと現場で担保評価にも携わった銀行員の私は考えます。
ちなみに一部の記事で「銀行の担保評価は路線価で計算する」といった内容を見受けましたが、上記の通りで銀行員の私には賛同できません。

法人で1億借りる「注意点」

続いて、法人で1億借りるときに注意すべき点を説明します。

「費用」〜1億借りるには1億円分の費用も必要

1億円借りる場合には、1億円分の費用も必要になる点に注意が必要です。
たとえば契約書類に貼る収入印紙はお金を借りる側が支払うのですが、融資額が1億円で金銭消費貸借契約証書の場合、収入印紙代(印紙税)は6万円になります。
また保証協会融資の信用保証料も、総額で550万円(借入1億、10年返済、保証料率1%で筆者が計算)になる可能性もあります。
信用保証料も割引制度などでもう少し押さえられる場合はありますが、少なくとも1億の融資なら百万円単位の信用保証料は必要になります。

「利息」〜1億借りると支払う利息はいくら?

また利息もどのくらい支払うのか、把握しておく必要があります。
たとえば1億円を1%の金利で10年借りた場合、支払い利息の総額は約5百万円になります。(借入1億・金利年1.0%・返済年数10年・元金均等返済で筆者が計算)
単純計算で金利が2%なら利息は2倍の1千万円、さらに金利が上がれば支払利息も大きくなっていきます。そのため支払っていく利息をしっかり「お金」でイメージし、自社で1億借りた場合に支払う利息を考えながら融資を検討する必要があります。

「担保不動産」〜強制売却されるくらいなら「借りずに売る」

担保の項で説明しましたが、返済できなくなれば担保にした不動産は強制的に売却となり、売れたお金は借金の回収に回ることになります。
この強制的な売却は「競売(キョウバイではなく、銀行や法律用語ではケイバイと読みます)」と呼ばれ、実際に売れる値段は相場の1割から2割程度と言われています。
というのも、借金が返せなくなり担保として取り上げられたような訳アリ物件の競売では、まずその道のプロとも言うべき、こういった物件を専門に扱う不動産業者が集まり競争入札の形で売却先を探します。
そして、結局は困っている足元を見られるように価格は下がり、相場の2割程度でしか売れないのです。
このように担保が安く買い叩かれ、しかも借金全額は返済できないのでお金を借りた人はかなり痛手を負うことになります。
そこで、たとえば担保にすれば1億円借入可能(つまり相場で2億)なほどの物件を持っているなら、担保にしてお金を借りるよりも普通に売却し、売ったお金を使うほうがいいとも考えられるのです。
これは、実際に似たようなケースのお客様から融資の相談を受け(銀行員としては融資を売り込んだほうがいいのですが)土地を売却して使うことも考えれば?とアドバイスした私の経験から考えることです。

法人で1億借りるには?〜まとめ

今回は「法人で1億借りる」をキーワードに解説してきました。
法人で1億借りる方法を知り、法人で1億借りるためにできる対策を知り、そして法人で1億借りるときに注意すべき点をしることで、事業経営に役立ててください。
この記事が参考になれば幸いです。