「中小企業の融資とは?」
「中小企業が利用できる融資はなに?」
「中小企業の資金調達をサポートしてくれるところは?」
日々、事業の経営で資金調達などに思いをめぐらせている経営者なら、これらの疑問を抱えているのではないでしょうか?
中小企業だから利用できる融資、中小企業しか利用できない資金調達方法はあります。
そこで今回は、中小企業の融資について、中小企業の融資を審査し対応している銀行員が解説します。
中小企業の融資を徹底解説〜1.中小企業とは?
まず中小企業について知識を再確認していきましょう。
中小企業の定義
ひとことで「中小企業」と言っても解釈や定義は様々です。
たとえば企業規模として「大企業」「中堅企業」そして「中小企業」といった表現は日常でもよく使われますが、実のところ法的根拠があるのは中小企業だけです。
まず一般的な定義で中小企業とは「資本金3億円以下・または従業員300人以下の会社及び個人」を指します。
そして、この根拠となる中小企業基本法によると「資本金」「従業員数」という2つのモノサシで中小企業かそうでないか?を区分けしているので、どちらかが当てはまらなければ、つまり資本金1億円でも従業員が1千人なら中小企業ではないことになります。
また業種でも細分化され、主に以下のように区分けされています。
<中小企業の定義>(中小企業庁、中小企業基本法等より筆者調べ)
● 【製造業】
資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社
又は常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人
● 【卸売業】
資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社
又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人
● 【小売業】
資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社
又は常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人
● 【サービス業】
資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社
又は常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人
● 【*小規模企業者】
上記中小企業者でも、従業員が少ない事業者を「小規模事業者」と定義している
中小企業と区分けされるものではなく、さらに小さな区分といった意味合い
業種では【製造業】従業員20人以下【卸売業・小売業】従業員 5人以下など
そのほか参考までに中小企業の定義としては「資本金の額が1億円以下の事業者」(中小企業者等の法人税率の特例)「従業員100〜999人は【中企業】10〜99人は【小企業】」(厚生労働省の区分より)「中小企業の範囲は中小企業基本法と同じ。
中堅企業の範囲は、資本金10億円未満の会社」(経済産業省・新型コロナウイルス事業再構築補助金)などといった定義もあります。
中小企業の融資に関連する機関での定義は共通
中小企業の定義は様々ですが、中小企業の融資に関する定義では共通しています。
たとえば日本政策公庫では「資本金・従業員数のいずれかが該当すれば融資の対象になる」としていて、【製造業】資本金3億円以下または従業員300人以下【卸売業】資本金1億円以下または従業員100人以下〜など、前述した中小企業基本法の区分と全く同じです。(日本政策金融公庫、融資制度「中小企業事業」より)
次に信用保証協会の定義では「業種別に資本金と従業員数の条件が定められており、いずれかの条件が合致していることが、利用の条件になる」としていて、やはり【製造業】資本金3億円以下または従業員300人以下(以下省略)などこちらも中小企業基本法を踏襲していることがわかります。そして銀行もおおむね同じです。
中小企業の融資を徹底解説〜2.中小企業だから利用できる融資
続いて中小企業向けの融資を、取り扱う事業者などに分けて解説していきます。
日本政策金融公庫の中小企業向け融資
公的金融機関である日本政策金融公庫では、その名も「中小企業事業」という融資制度を扱っています。
「中小企業事業は中小企業の成長・発展を支援する融資を取り扱う」との基本方針通り中小企業だけが利用でき、中小企業事業では一件あたりの平均融資額は約1億3千万円になっています。
中小企業事業の個別融資商品としては「新規開業資金」「女性、若者/シニア起業家支援資金」「経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)」などがあります。
<日本政策金融公庫の中小企業向け融資>
● 【新規開業資金】
対象者は新たに事業を始める、または事業開始後7年以内など
融資限度額は7千2百万円
返済期間は最長で20年以内(うち据置2年以内)
金利は固定金利年2.10〜3.20%(ただし優遇あり)
● 【女性、若者/シニア起業家支援資金】
対象者は「女性」または「35歳未満OR55歳以上」新たに事業を始める、または事業開始後お7年以内など
融資限度額は7億2千万円
返済期間は最長で20年以内(うち据置2年以内)
金利は固定金利年0.8%から返済期間に応じて決まっている
● 【経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)】
対象者は、経済環境の変化で一時的に売上の減少など業況悪化しているが、中長期的には回復が見込まれる事業者
前年比売上減少など条件あり
融資限度額は7億2千万円
返済期間は最長で15年以内(うち据置3年以内)
金利は固定金利年2.10〜3.20%(優遇あり)
銀行員はこう考える〜日本政策金融公庫の中小企業向け融資
日本政策金融公庫の中小企業向け融資は他にも数多くあります。
共通するのは低金利、固定金利があり、また長期の返済が可能など中小企業にとって有利な内容で融資が利用できるところです。
公的金融機関なので中小企業向け融資も優しい条件である反面、公的金融機関として融資申し込みから融資利用まで一定の時間(数週間から数ヶ月)がかかることもあり、急いで資金調達するときには向いていないとも言えます。
商工中金の中小企業向け融資
商工中金(正式名称は「商工組合中央金庫」)は日本政策金融公庫と同じ政策金融機関(*政府出資の公的機関)の一つで、全国47都道府県に展開する、中小企業専門で中立性のある公的金融機関です。
一般的な金融機関と同様に預金なども業務として取り扱うとともに、中小企業向け融資も扱っています。
ただし商工中金の中小企業向け融資を利用するには特定の中小企業団体に加入する必要がある点に注意が必要です。
中小企業団体とは商工中金に出資している株主で特定の業種における協同組合(例・酒販組合など)や、地域の中小企業団体(例・商店街振興会など)のことで、商工中金はこうした中小企業団体に属する中小企業事業者(「構成員」と表現)でないと、商工中金の中小企業向け融資の利用ができない仕組みです。
ちなみに、融資の相談時点では構成員である必要はありませんが、実際に中小企業向け融資を利用する場合にはいずれかの中小企業団体への加入が必須になります。
商工中金の中小企業向け融資は主に以下のとおりです。
<商工中金の中小企業向け融資>
● 【共同事業資金】
共同生産、共同販売といった共同事業に必要な資金を融資する制度
● 【転貸資金】
組合など中小企業団体を通じて構成員に融資する(これを「転貸・てんたい」と呼ぶ)制度
組合が融資の窓口となり、融資相談から申し込み、契約書類などは組合が取りまとめ、商工中金とやり取りする形式
● 【構成員貸】
株主団体の構成員に直接融資する制度で、日本政策金融公庫や銀行事業資金融資と同じように、一般的融資に相当するもの
構成員(または構成員予定者・前述)が自分で商工中金に融資相談し、審査を経て融資利用する形式
銀行員はこう考える〜商工中金の中小企業向け融資
商工中金の中小企業向け融資は、融資対象者や限度額、金利など情報公開をしていません。
公式HPでも「詳しくは各支店窓口にお問い合わせください」とあるだけなので、内容などについて述べることはできませんが、日本政策金融公庫と同じ政策金融機関なので、融資条件はそれなりに柔軟だと思われます。
制度融資の中小企業向け融資
制度融資とは、中小企業の事業資金調達を支援するため都道府県や市町村が制定している融資制度です。
各都道府県により内容は異なりますが、基本的に低金利(固定金利もある)長期間の返済、無担保・保証人なしといったように、日本政策金融公庫の中小企業向け融資と同じく中小企業に有利な内容になっています。
また制度や公共団体によっては金利の補填(「利子補給」)や信用保証料の補助・減免などもあります。
以下、制度融資をいくつか紹介します。
<制度融資の中小企業向け融資>
● 【経営支援融資・経営一般】(東京都制度融資)
対象者は都知事が指定する、事業活動に支障を生じている事業者など
前年比売上減少など条件あり
融資限度額は1億円
返済期間は最長で10年以内(うち据置2年以内)
金利は固定金利年1.50〜2.20%(金利適用に各種条件あり)
信用保証協会保証付き融資なので、別途信用保証料が必要(補助あり)
● 【小規模企業サポート資金(小規模資金)】(大阪府制度融資)
対象者は小規模事業者・前述)
融資限度額は2千万円
返済期間は最長で7年以内(うち据置6ヶ月以内)
金利は固定金利年1.60%
信用保証協会保証付き融資なので、別途信用保証料が必要(減免あり)
● 【振興資金】(横浜市制度融資)
対象者は横浜市内で事業を営んでいる個人、会社など
融資限度額は2億8千万円
返済期間は最長で20年以内(うち据置12ヶ月以内)
金利は固定金利 返済期間に応じ年1.50%〜2.6%
信用保証協会保証付き融資なので、別途信用保証料が必要
● 【小規模企業等振興資金(通常資金)】(名古屋市制度融資)
対象者は名古屋市内で事業を営んでいる個人、会社など
融資限度額は5千万円
返済期間は最長で10年以内(うち据置12ヶ月以内)
金利は固定金利 返済期間に応じ年1.30%〜1.6%
信用保証協会保証付き融資なので、別途信用保証料が必要(減免あり)
銀行員はこう考える〜制度融資の中小企業向け融資
制度融資の中小企業向け融資は、実際に融資審査をして融資をするのは銀行などの金融機関である点が特徴です。
制度融資において都道府県は制度融資の制度設計や利子補給などの支援をするだけで、融資するのは金融機関です。
つまり制度融資は金融機関の事業資金融資なので、審査落ちして借り入れできないこともある点は覚えておいてください。
銀行や信用金庫の中小企業向け融資
銀行では特別に「中小企業向け融資」というような表現を公式HPで使うところはあまりありません。
そもそも事業資金融資が企業規模の大小を問わないからです。
とはいえ一般にメガバンクは中小企業を相手にしていません。
またネットバンクは、そもそも個人がメインターゲットで、事業者向けは少ないのが実態です。
いっぽう地方銀行や信用金庫は中小企業向け融資には積極的(というより、中小企業を相手にしないと商売が成り立たないから)です。
銀行や信用金庫の中小企業向け融資はビジネスローンが代表格で、その内容は主に以下のとおりです。
<銀行や信用金庫の中小企業向け融資(ビジネスローン)>
● 対象者は銀行や信用金庫の営業圏内に所在する個人、法人
● 銀行の口座取引など条件あり
● 融資限度額は5百万円〜1千万円程度
● 返済期間は1年〜5年以内(一括返済または分割返済)
● 金利は変動または固定金利で年1.0%〜14.0%台・審査により決定される
● 原則として無担保、保証人不要
銀行員はこう考える〜銀行や信用金庫の中小企業向け融資
銀行や信用金庫の中小企業向け融資は、公表されているものでは上記のビジネスローンになりますが、それ以外にも一般的な事業資金融資を取り扱っています。
メガバンクを除いた銀行や信用金庫は中小企業がメインターゲットなので、中小企業向け事業資金融資にも積極的な姿勢ではありますが、中小企業向け融資を実際に利用できるのか?などは業績など審査結果次第ですし、金利など返済条件も審査により銀行に決められるので、自由度は高くないと言えます。
ノンバンクの中小企業向け融資
消費者金融や信販会社など、預金を扱わない金融業者を「ノンバンク」と呼びます。
ノンバンクもメインターゲットは個人なのですが、中小企業向け融資にも対応しています。
ノンバンクの中小企業向け融資はビジネスローンと不動産担保ローンで、内容は主に以下のとおりです。
<ノンバンクの中小企業向け融資>
● 【ビジネスローン】
対象者は個人事業主と法人
融資限度額は5百万円〜1千万円程度
返済期間は1年〜5年以内(一括返済または分割返済)
金利は変動で年最大年18.0%台・審査により決定される
原則として無担保、保証人不要
● 【不動産担保】
対象者は個人事業主と法人
融資限度額は3億円程度 ただし担保評価により金額の制限あり
返済期間は25年以内・分割返済
金利は変動で年最大年10.0%台・審査により決定される
担保にできる不動産が必要
銀行員はこう考える〜ノンバンクの中小企業向け融資
ノンバンクの中小企業向け融資は、なんといっても融資利用までのスピードが早いことが最大の特徴です。
たとえばビジネスローンなら申し込み即日に融資利用が可能なところもあります。
また銀行で融資を断られた場合でもビジネスローンや不動産担保ローンで中小企業向け融資を利用できる可能性もあります。
こういった中小企業向け融資への柔軟な対応がメリットですが、いっぽう引き換えとして金利が高めになるところが、ノンバンクの中小企業向け融資の特徴と言えるでしょう。
中小企業の融資を徹底解説〜3.中小企業の融資で注意すべきこと
次に、中小企業向け融資で注意すべきことを解説します。
好条件と引き換えに「宿題」があるかも?
中小企業向け融資は全般に条件など優遇されているのですが、その中でも制度融資は固定金利かつ低金利など好条件になっています。
ところがこうした制度融資の中には、融資を受けたあと数年にわたり業績の推移や事業計画の進行状態などを定期報告しなければいけないものもあります。
こうした定期的な報告を「モニタリング」と呼び、言ってみれば中小企業向け融資の好条件と引き換えに「宿題」を出されるようなものです。
モニタリングは厳正で、もともとそういったモニタリングをしっかり履行するという約束で融資を受けているわけなので、面倒だからなどといって報告を怠ると、最悪の場合では融資返済や金利引き上げなど条件の劣化を招く可能性もありますので、注意が必要です。
金融機関との「付き合い」も考える必要がある
これは銀行や信用金庫などの金融機関の中小企業向け融資に関することですが、預金や従業員の取引など銀行との「付き合い」も考える必要があるのです。
銀行や信用金庫は中小企業がメインターゲットなので、中小企業向け融資にも積極対応していると説明したとおりですが、言い換えれば持ちつ持たれつの関係なので、時には銀行から様々なお願いごとをされることもあります。
これを、中小企業向け融資をしている優越的な立場を利用して取引を強要していると考えるか、ある程度ポイントを稼いでおけば取引がスムーズになると納得するか、むずかしいところではあります。
中小企業の融資を徹底解説〜まとめ
今回は中小企業の融資を銀行員が徹底解説しました。
基本的な知識のおさらいと言った面も含め、中小企業融資を自分の中で整理して、自社の事業資金調達に役立ててください。この記事が参考になれば幸いです。