新生銀行がSBIホールディングス傘下に入ることが固まった。
SBIによるTOB(株式公開買い付け)に対抗する買収防衛策に国が賛成しないことがわかり、外堀が埋まった。
綻びた旧日本長期信用銀行が前身の新生銀行には今も約3500億円の公的資金が残る。
金融危機から20年以上たっても未返済の現実が迷走の原点になっている。
(参照:日本経済新聞)
2021年9月にTOBを発表したSBIホールディングスと、それに対抗する新生銀行との対立は、あっけなく幕を降ろすことになりました。
鍵となったのは、新生銀行による公的資金の未返済。
記事でも言及されている通り、新生銀行は前身の旧長期信用銀行時代から注入を受けた約3500億円の公的資金の返済を滞納。
これを理由として、国は新生銀行が打ち出した買収防衛策に反対の意を示したこともあり、新生銀行は同策の撤回に追いやられました。
これにより、SBIホールディングスによるTOBは事実上成立したことになります。
そして3500億円の公的資金返済について、2022年4月、新生銀行社長は「3年という一定期間の中で方向性を示す」と述べました。
金融業界を大いに賑わせた騒動はこうして終わりを迎え、国は新生銀行が残した公的資金の返済をSBIホールディングスに委ねることになったわけですが、そもそも公的資金とはどのような資金なのでしょうか。
また公的資金の注入には、どのようなメリットやデメリットが生じると考えられるのでしょうか。
目次
公的資金とは?
今回の騒動で焦点の当たった公的資金とは、経営の悪化がみられる民間金融機関や民間企業に対し、政府や中央銀行といった公的機関が経営支援を目的に注入する財政資金のことをいいます。
一般的な注入手法は、経営不振に陥る民間金融機関や民間企業の株式を、公的機関が公的資金を投じて購入するというもの。
また、各企業が保有する債権や株式を、同じく公的資金を投じて買い取るという手法もあります。
このような公的資金の注入は、経営の危機にある各企業を個別に支援する目的だけでなく、株式市場における不安拡大の抑止のほか、金融システムの安定化につなげて、社会全体の安定を目指す政策のひとつとして行われているのです。
公的資金注入のメリット
上記のように、政府や中央銀行などが民間の金融機関や企業における経営改善に向けた支援や、それを通じて株式市場や金融システムの安定化を目的として投じる資金を公的資金といい、資金を投じることを一般的には「公的資金の注入」とよびます。
では、このような公的資金の注入を行うにあたっては、どのようなメリットが生じるのでしょうか。
①自己資本比率の向上につながる
経営不振の金融機関や企業に公的資金が注入されれば、必然的に返済の必要がない自己資本の増加につながります。
自己資本が増加することにより、会社の安定性(財務状況)を示す分析指標とである「自己資本比率」も向上するわけですから、経営不振からの立ち直りや倒産の危機から脱することが望めます。
②金融危機への対応策として期待できる
公的資金の注入は、金融システムの安定化につながると考えられていることもあり、銀行をはじめとする金融機関の経営に多大な影響を及ぼしかねない金融危機や恐慌時の対応策として期待されます。
例えば、1998年からの金融危機の際には金融システムの安定化を図る目的として、政府は銀行が発行した優先株式や劣後債を購入するなど、積極的な公的資金の注入に打ってでました。
2003年までに、総額12兆3809億円もの莫大な公的資金が注入され、金融機関の財務体質の強化や株式市場における不安抑止につながったとされます。
ただし、公的資金の注入は早期実施が有効であるといわれるにも関わらず、このケースでは、国民的批判などが影響したことで実施に遅れが生じたため、結果として莫大な金額の注入が必要になったほか、長きにわたって不況が続いた、いわゆる「失われた10年」を招く結果となったとも考えられます。
公的資金注入のデメリット
次に、公的資金注入によって生じる可能性のあるデメリットをみてみましょう。
①国による経営関与
公的資金の注入を受けられれば経営の改善が見込まれ、倒産の危機からの脱却も望めるわけですが、国からの資金援助という性質上、国が実質的な株主に相当する立場になり、企業の経営に積極的に関与することになります。
国から経営債権状況の細かなチェックを受け、改善に向けた指導が続けられるなど、民間企業でありながら経営の自由度は大きく失われる可能性が生じることは、公的資金注入のデメリットのひとつに数えられます。
②国民の負担に対する批判の高まり
公的資金の原資は、当然ながら国民から回収した税金です。
つまり、国は税金を投じて金融機関や民間企業の経営を支援することになるため、注入する金額やタイミングによっては国民的批判が高まるのも無理はありません。
それどころか、注入した公的資金の回収が進まずに損失に転じるようなことになれば、結果的に国民が負債を抱えることになります。
したがって今回の新生銀行における騒動では、同社が20年以上にわたって約3500億円もの公的資金の返済を滞納してきたわけですから、国による見限りを国民の批判的感情が後押ししたと考えるのは容易だといえます。
公的資金注入のメリットとデメリットを解説のまとめ
公的資金の注入は経営が悪化した企業を支援、金融システム全体の安定を図る目的で国から資金を注入するわけですが、もちろん資金の出どころは国民から回収した税金になるわけで、その使い方によっては大きな批判を呼びかねません。
公的資金の注入にはそのタイミングと金額に加え、国民の理解が大きく必要になるといえます。