中小企業を中心として、資金繰りの円滑化を目的にABL(売掛債権担保融資)を利用するケースが近年増えています。ABLは、在庫や売掛債権といった動産を担保にして融資を受ける金融サービスであり、不動産を保有していない企業でも活用しやすい点が大きな特徴です。事業内容や保有資産に応じて融資額が判断されるため、成長段階にある中小企業向けの資金調達手段として注目されています。
一方で、金融機関にとっては、売掛債権や動産を査定して契約を結んだとしても、取引先の倒産などによって債権回収が滞るリスクが残るのも事実です。そこで近年では、信用保証協会の保証を付けることでリスクを軽減し、より多くの企業を支援する「ABL保証」と呼ばれる商品も登場しています。この仕組みを活用することで、数百万円から数千万、場合によっては数万単位を超える本格的な融資枠を確保できる可能性も広がります。
実際のサービス内容や条件は金融機関ごとに異なり、公式サイトでは商品概要だけでなく、事業者向けの支援方針や利用事例、さらには採用情報まで公開されているケースもあります。ABLやABL保証は、資金調達の選択肢を広げる手段の一つとして、自社の事業フェーズや資金ニーズに合うかどうかを見極めたうえで検討することが重要です。
目次
ABL(売掛債権担保融資)保証の仕組みについて解説
ABL(売掛債権担保融資)保証について、よくわからないという人もいるでしょう。
従来のABL(売掛債権担保融資)の場合、金融機関と借り手の法人代表者の2社間の取引でした。
しかしそこに信用保証協会の保証が付くのが、ABL(売掛債権担保融資)保証になります。
信用保証のついたABL(売掛債権担保融資)融資制度
ABL(売掛債権担保融資)の場合、申込人の抱えている売掛債権や在庫などを担保にして融資を受ける制度です。
在庫は企業の抱える商品や仕掛品などが該当します。
また機械などの設備を有している場合、こちらを担保にして借入も可能です。
担保として差し出された売掛債権や棚卸資産などは譲渡担保として処理されます。
金融機関が担保として押さえていますが、担保になった後でも在庫など注文があれば販売しても問題ありません。
ABL(売掛債権担保融資)保証の場合、申込人が差し出した担保の価値について信用保証が付きます。
ですから金融機関としてみれば、たとえ債務者から債権回収できなくても信用保証協会が代位弁済してくれます。
不良債権化するリスクが低減できるので、積極的な貸し出しができるわけです。
信用保証協会はどの程度の保証をする?
信用保証協会では、申込人の提供する担保についてその100%を保証するわけではありません。
一定の保証をして、保証した分の代位弁済を行う形になります。
横浜市信用保証協会によると、まず売掛債権については70~100%の範囲で保証します。
どの程度のパーセンテージになるかは売掛先の信用力や対抗要件具備方法などをベースにして、個別に判断します。
棚卸資産の場合、資産の簿価の30%で設定します。
しかしこちらもケースバイケースで、商品や仕掛品に高い価値のあるものだと判断されれば、最大70%まで保証額の引き上げができます。
そのうえで横浜市信用保証協会では、貸付債権の80%相当額を代位弁済する形になります。
いずれのパーセンテージも信用保証協会によって、若干異なる可能性があります。
どの程度保証を受けられるかは、あらかじめ確認しておくといいでしょう。
ABL(売掛債権担保融資)保証による借入れ申し込みの流れ
ABL(売掛債権担保融資)保証による借入れの申し込みをする流れですが、基本的には従来のABL(売掛債権担保融資)の申し込み手続きと一緒です。
まず借入れの申し込みを金融機関に対して行います。
すると金融機関の方で、まず審査を行います。
さらに信用保証協会の方で再度審査を実施します。
審査を受けるにあたって、必要書類を準備しなければなりません。
必要書類は売掛債権と棚卸資産、どちらを担保にするかで変わってきます。
ただし譲渡担保対象売掛先・棚卸資産一覧表と概要記録事項証明書は、両方共通して提出しなければなりません。
また概要記録事項証明書は売掛債権の場合債権譲渡登記、棚卸資産の場合動産譲渡登記のものが必要です。
売掛債権を担保にする場合、売掛先の明細書や売掛先との取引に関して証明できる書類が必要になります。
取引に関する資料ですが、契約書や発注書、納品書、支払通知書などを準備するといいでしょう。
また取引先から振り込みを受けている場合には、預金通帳のコピーなどを用意するのも一考です。
棚卸資産を担保にする場合には、棚卸資産の売上代金入金口座届出書を準備してください。
また信用保証協会によっては、別の資料を提出するように求められる場合もあります。
その時は相手の指示に従ってください。
金融機関と信用保証協会の2段階の審査の結果、融資の可否や借入限度額が決まります。
また上で紹介した範囲の中で、どこまで保証するかも決定されます。
融資可能の通知が届けば、対抗要件を備える手続きに移ります。
こちらは法律によって定められているので、避けては通れない手続きです。
対抗要件具備するにあたって、売掛債権と棚卸資産、どちらを担保にするかで手続きは異なります。
売掛債権の対抗要件は、3つの選択肢がありますので売掛先に通知してどれか一つを選択してもらいます。
まずは売掛債権の譲渡に関する売掛先の承諾です。
この場合、売掛先から所定の書式で承諾書をもらいます。
2つ目の方法は、売掛先に通知する方法です。
この場合、申込人が所定の通知書を作成して売掛先に郵送する形になります。
最後は売掛債権の譲渡を法務局に登記する方法です。
この場合、管轄する法務局で債権譲渡の登記手続きをしなければなりません。
最後の対抗要件ですが、金融機関が必要と判断した段階で売掛先に債権譲渡の発生していることを通知することがあります。
棚卸資産を担保にする場合には、法務局で登記手続きすることが対抗要件となります。
管轄する法務局で、動産譲渡登記手続きを行います。
対抗要件具備の出来たところで、融資が実行されます。
基本的には借入れは1回限りで、いったん融資を受けたらあとは返済するだけです。
しかし根保証されている場合には保証期間中、決められた融資枠の範囲内であれば、繰り返し借入や返済も可能です。
ABL(売掛債権担保融資)保証で借入れるメリット
信用保証協会を通したABL(売掛債権担保融資)融資を受ける場合、直接融資にはないメリットが期待できます。
主なメリットとして、借入れ条件が良くなる点です。
具体的には以下のようなメリットが期待できます。
1.実績の少ない法人でも融資の可能性が高まる
2.融資枠が拡大される可能性
3.長期借入で無理のない返済計画が立てられる
それぞれどのようなメリットが期待できるのか、以下で詳しく見ていきます。
実績の少ない法人でも融資の可能性が高まる
信用保証協会の信用がついてくるとしたら、金融機関としてみればより貸し出しのリスクが少なくなります。
起業してから間もないスタートアップやベンチャー企業の場合、どうしても信用力がまだ不十分と見られがちです。
しかし信用保証協会のお墨付きがあれば、実績が不十分でも融資を受けられる可能性は高まります。
また信用保証協会では、経営に関する相談も受け付けています。
まだ経営のキャリアの十分でない事業者としてみれば、心強い制度といえます。
融資枠が拡大される可能性
信用保証が付くことで、従来よりも融資枠が拡大できるかもしれないのがABL(売掛債権担保融資)保証のメリットの一つです。
保証が付くことで、信用力が従来よりもアップするからです。
より多くのお金を借入れることで、設備投資や運転資金に充てることができます。
事業拡大によって、より大きなビジネスチャンスをつかめる可能性も出てくるわけです。
ちなみに岐阜県信用保証協会のABL(売掛債権担保融資)保証を見てみると、最大で2億円の保証金額まで対応できるといわれています。
2億円までの保証が受けられれば、かなりのまとまった資金を確保できるわけです。
長期借入で無理のない返済計画が立てられる
保証付きのABL(売掛債権担保融資)にすることで、長期借入が認められる可能性があります。
長期の借入が認められれば、返済回数も多くなり1回当たりの返済額も少なくできます。
返済期間が長期化すれば、返済金の捻出もしやすいでしょう。
返済計画も立てやすくなりますし、長期的な視点で経営戦略を立てられます。
まとまった金額を借入したい、長期返済で無理のない返済計画を立てたいと思っている経営者にはおすすめの制度といえます。
ABL(売掛債権担保融資)保証で借りるデメリット
ABL(売掛債権担保融資)の保証を受けて資金調達するにあたって、デメリットもいくつかあります。
主なデメリットとして、以下のようなポイントが想定できます。
1.債務は帳消しにならない
2.2段階の審査を通過しなければならない
以上どのような点に注意すればいいか解説しますので、参考にしてください。
債務は帳消しにならない
信用保証協会のABL(売掛債権担保融資)保証は、申込人が借入れた債務の一定割合まで代位弁済してくれます。
代位弁済に関してよく勘違いしている人がいますが、信用保証協会が肩代わりしてくれても債務が帳消しになるわけではありません。
経営者としてみれば借入先が金融機関から信用保証協会に変わっただけです。
信用保証協会が代位弁済すれば、求償権といって肩代わりした借金を事業者に対して返済するように求めます。
借金の返済義務が決してなくなったわけではないので、注意しましょう。
2段階の審査を通過しなければならない
ABL(売掛債権担保融資)保証による融資を受けるためには、金融機関と信用保証協会の2か所の審査を受け、通過する必要があります。
例えば金融機関の審査は大丈夫でも信用保証協会の審査に引っかかってしまえば、融資は受けられません。
また2段階の審査を受けないといけないので、どうしても融資までに時間がかかってしまいます。
金融機関によって若干違いがありますが、大体申し込んでから融資実行されるまでに1~2か月くらいかかるかもしれません。
それまでに現金が必要であれば、ビジネスローンなどのつなぎ融資の利用なども検討しなければならないでしょう。
まとめ:ABL(売掛債権担保融資)保証は中小企業の心強い味方
信用保証協会のお墨付きが得られるABL(売掛債権担保融資)保証は、従来型のABLと比べて金融機関からの評価が高まり、審査に通過しやすくなる点が大きなメリットです。売掛金や在庫、原材料といった流動資産を保有していれば、それらを有効に活用した資金調達が可能となり、融資上限の引き上げや金利条件の改善につながる可能性もあります。創業間もない企業や信用力に不安のある事業者にとっても、現実的な選択肢といえるでしょう。
一方で、ABL保証は銀行と保証協会という複数の金融機関・組織が関与する仕組みのため、契約締結までに一定の期間を要します。原則として二段階の審査が行われ、必要書類や審査内容も各種ページやメニューで案内されている通り多岐にわたります。そのため、即日資金が必要なケースでは不向きな環境もありますが、資金使途や開始時期に余裕がある場合には十分検討する価値があります。
また、ABL保証を利用する際には、保証料や手数料といった費用が発生する点も理解しておく必要があります。ただし、これらの費用は内容や条件によって異なり、融資額や保証上限、返済期間以内であれば許容範囲に収まるケースも少なくありません。各金融機関や保証協会の公式サイトでは、制度の詳細情報や利用方針、個人情報保護への取り組み、サイトマップなどが整理されているため、事前に確認しておくことが重要です。
資金繰りの改善を目的としてABL(売掛債権担保融資)保証を使用することで、事業運営の安定化や成長への足がかりをつかめる可能性があります。自社のニーズや保有資産、調達目的を踏まえた上で、不要なリスクを避けつつ、金融機関や保証協会と連携した最適なファイナンス手法を検討してみてはいかがでしょうか。





