「ビジネスローンは審査も簡単だから、申し込む時に事業計画なんていらないだろう」
そう考えている経営者や個人事業主の方は、決して少なくありません。確かに銀行融資と比べると、無担保で利用できる商品も多く、手続きも比較的スピーディーです。しかし、本当に事業計画は不要なのでしょうか。
ビジネスローンで資金調達を検討するとき、事業計画について真剣に考えたことはありますか。そもそも申し込み時に事業計画は必要なのか、そして必要だとすれば、どのように作成すればよいのでしょうか。
結論から言えば、形式として詳細な事業計画書の提出を求められないケースもあります。ただし、決算内容や資金使途の説明、今後の売上見込みなどは必ず確認されます。つまり、書面提出がなくても「中身」は確実に見られているのです。ここが理解できていないと、審査に落ちる原因になります。
特に個人事業主の場合、法人と比べて財務基盤が弱いと判断されやすいため、収支の見通しや資金繰り計画を自分の言葉で説明できることが重要です。金融機関は、単に現在の数字だけでなく、「今後どのように利益を生み、返済していくのか」というストーリーを見ています。そのため、他社との差別化ポイントや自社の強みといった独自性も評価対象になります。
今回は、こうした疑問をテーマに、銀行員である私の視点から、ビジネスローンと事業計画の関係について解説していきます。実際に融資審査の現場で見てきた経験を踏まえ、審査で重視されるポイントや、無担保ローンであっても準備すべき内容について具体的にお伝えします。ビジネスローンと事業計画の本当の関係を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
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目次
ビジネスローンに事業計画は必要?〜1.事業資金との関係
まず、事業計画の基本事項とビジネスローンとの関係を解説するところから始めます。
事業計画とは?
事業計画とは、企業が将来目指す目標を明確に定め、その目標を実現するための具体的な方法や施策を整理したものです。一般的には5年程度を見据えて策定され、中長期的な戦略と数値計画を示します。単なる理想論ではなく、売上計画や利益目標、資金繰りの見通しまで含めて設計する点が重要です。
そして、この内容を書類として落とし込んだものが「事業計画書」と呼ばれます。事業計画書は、企業の経営方針や目標とする将来像を第三者に伝えるための重要な資料であり、融資審査においても重視されます。「ビジネスローンは審査が甘いから、そこまで準備しなくても大丈夫だろう」と考えるのは危険です。たとえ形式的な提出義務がなくても、金融機関は数字の裏付けや実績、今後の資金繰り計画を必ず確認します。
そのため、日本政策金融公庫や民間金融機関へ事業資金を申し込む際には、審査を通過しやすい事業計画書の作成支援を行う専門家の力を借りるケースも少なくありません。税理士や会計士といった専門家、融資コンサルタント会社などが作成代行を行っており、自社だけでは整理しきれない情報を客観的にまとめてもらうことができます。
もっとも、代行を依頼する場合には当然ながら費用が発生します。実績のある専門家に依頼すれば説得力のある資料が完成する可能性は高まりますが、自社の状況を最も理解しているのは経営者自身です。最終的には、数字の意味や計画の根拠を自分の言葉で説明できるかどうかが審査の明暗を分けます。
事業計画は、単に融資を受けるための書類ではなく、将来の経営を安定させるための設計図です。目先の資金調達を優先するあまり準備を後回しにするのではなく、先を見据えた戦略として丁寧に作り込むことが、結果的に資金調達の成功と経営の安定につながるのです。
ビジネスローンの申し込みに「事業計画は必須ではない」
まず、ビジネスローンの申し込みでは、必ずしも事業計画が必要ではありません。
たとえば、ビジネスローンの申し込みで必要な書類は以下の通りです。
(ビジネスローン取扱いの金融機関、消費者金融大手の公式サイトを参考、筆者調べ)
<ビジネスローン申込時の必要書類>
本人確認書類
個人及び法人の代表者:運転免許・パスポートなど、写真入りの確認書類
決算書類
法人:決算書(1期〜3期程度)
個人:確定申告書(1年〜3年程度)
*「納税証明書」「所得証明書」など、所得額の公的証明書が必要な場合も
【契約時にも必要な書類として】
法人:商業登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
個人:印鑑証明書、住民票
その他必要な書類
申し込み時の必要書類は、そのまま審査に必要な書類となりますが、上記したようにビジネスローンでは「事業計画書」は必須になっていないところが主流です。
ただし、その他必要な書類として事業計画書の提出を求められる場合もあるので、まったく不要とも言い切れません。
(申し込みの説明例)
「審査に必要と当社が判断した場合、事業計画書の提出をお願いする場合があります」
ビジネスローンで事業計画書を作成するメリット
ビジネスローンの申し込みにおいて、事業計画は必須書類とされていないケースも多いですが、審査状況や希望する借入金額によっては、事業計画書の提出を求められることがあります。特に借入金額が大きい場合や、直近の業績に不安要素がある場合には、より詳細な説明資料が必要になる傾向があります。
金融機関の立場から見ると、中小企業との融資取引では「経営・財務管理能力が十分とはいえない」「情報開示が限定的で実態が見えにくい」といった課題意識を持つことがあります。提出書類だけでは把握しきれない部分があるため、事業の方向性や資金繰りの見通しを確認したいというのが本音です。
その点、事業計画があれば、今後の売上見込みや資金使途、返済原資の考え方などを具体的かつ詳細に示すことができます。自己資金の状況や今後の投資計画も整理できるため、金融機関に対して自社の信用力をアピールする有効な材料になります。また、補助金申請の際にも事業計画書が求められることが多く、融資と補助金の両面で活用できる点も見逃せません。
現在では、金融機関や公的機関のホームページから事業計画書のひな形をダウンロードできることも多く、手続き自体はそれほど難しいものではありません。もちろん内容の質は重要ですが、少なくとも自社の将来像や数値計画を整理する作業は、経営そのものを見直す機会にもなります。
事業計画は、自社の経営の指針ともいえる存在です。銀行員である私の立場から見ても、自社のために作成することは決して無駄な作業ではありません。仮にビジネスローンの申し込み時に必須でなくても、あらかじめ準備しておけば、急に提出を求められた場合でもスムーズに対応できますし、申込時に自発的に提出すれば審査の参考資料としてプラスに働きます。計画の内容次第ではありますが、少なくとも「この会社は計画性があり、数字を把握している」という評価につながる可能性は高いでしょう。
ビジネスローンに事業計画は必要?〜2.役立つ事業計画のポイント
では、ここからビジネスローン申し込みで必要になった場合(任意で提出する場合も)に備え、事業計画で必要なポイントをいくつかピックアップして説明していきます。
ビジネスローン・事業計画のポイント1.経営理念・ビジョン
事業計画書には、「経営理念」や「ビジョン」といった根幹となる考え方が盛り込まれていなければ、不十分だと言わざるを得ません。単に収支計画や売上予測といった数字を並べるだけでは、金融機関からの評価は高まりにくいのが実情です。数字の裏側にある「なぜこの事業を行うのか」「どのような価値を社会に提供したいのか」という視点が重要になります。
たとえば、「社会の発展に寄与したい」「自社のサービスで世の中をより便利にしたい」といった理念やビジョンを明確に掲げることは、決して大企業だけのものではありません。テレビCMや公式サイトに理念を掲げる有名企業名だけが特別なのではなく、中小企業であっても、自社なりの具体的な使命や目標を持つべきです。
実際、融資審査の現場では、制度上は数値基準を満たしていても、経営の方向性が曖昧な企業は慎重に見られる傾向があります。逆に、理念と事業内容、そして収支計画が一貫している企業は、「計画的に経営を行う姿勢がある」と前向きな評価につながりやすくなります。理念は抽象的な言葉で終わらせるのではなく、「どの市場で」「誰に対して」「どのような価値を提供するのか」といった具体的な行動指針に落とし込むことが大切です。
常日頃から頭の中で思い描いていることでも構いません。事業計画書を作成するこの機会を、自社の軸を見つめ直す時間と捉えてみてはいかがでしょうか。まだ明確な経営理念やビジョンが定まっていないのであれば、一つでも形にしてみることをおすすめします。それが結果として、金融機関からの評価だけでなく、自社の進むべき道を照らす指針にもなるはずです。
ビジネスローン・事業計画のポイント2.自社だけの「強み」
事業計画では、取扱商品やサービスの内容、販売戦略などを整理し、「他にはない自社だけの強み」を明確に打ち出すことが求められます。法人はもちろん、個人事業主であっても例外ではありません。むしろ規模が小さいからこそ、自社ならではの価値を具体的に説明できるかどうかが重要になります。
ただ単に「わが社の製品はすごい」「サービスの質が高い」といった絶対的な表現を並べるだけでは、説得力は十分とはいえません。それよりも、「業界の他社と比較して、当社はここが優れている」「競合が提供していない〇〇という強みがある」といった相対的な表現を用いる方が効果的です。金融機関は常に比較の視点で事業内容を見ているため、その視点に沿った説明を用意しておくことが大切です。
たとえば、価格面であれば「同業他社より平均で月額1万円安い」、サービス面であれば「契約から納品までの期間が業界平均より3日短い」といったように、万一の質問にも答えられるだけの具体的な根拠を示す必要があります。すでに行っ ている取り組みや実績データがあれば、それも積極的に盛り込みましょう。
また、現在は自社ホームページやSNSなどのホーム媒体を活用している場合も多いでしょう。その内容と事業計画に記載する方向性が一致しているかどうかも重要です。対外的に発信しているメッセージと、金融機関に説明する内容が食い違っていると、信頼性に影響します。
「我が社はすごい」という絶対的な主張ではなく、「我が社は他社と比べてここが優れている」という相対的かつ具体的な表現を使うこと。それが、事業計画書としての完成度を高め、説得力を持たせるポイントです。
ビジネスローン・事業計画のポイント3.経営者の経験、経歴
事業計画では、事業内容や市場分析だけでなく、経営者自身の資質も重要な位置を占めます。金融機関が融資を判断する際には、「この人に資金を託しても大丈夫か」という視点で見ています。そのため、業界での経験年数やこれまでに築いてきた人脈、過去の実績といった点は大きなアピール材料になります。
たとえば、過去に担当したプロジェクトの数や、具体的な収益改善の事例を示すことができれば、説得力は格段に高まります。単に「経験があります」と書くのではなく、「〇年間この業界で勤務し、売上を〇%伸ばした」「新規顧客を年間〇件獲得した」といったように、数字で示すことが重要です。
もちろん、経験が浅い、あるいは未経験で起業する人もいるでしょう。その場合でも、何の準備もせずに申請するわけではないはずです。不足している経験を補うために専門書で知識を身につけたり、セミナーや無料相談を活用したり、具体的なビジネスモデルを練り上げたりしているはずです。そうした努力や学習の過程も、事業計画の中で丁寧に説明すると良いでしょう。
金融機関にとって重要なのは、「現時点で完璧かどうか」ではなく、「不足を自覚し、それをどう補完しようとしているか」です。経営者としての姿勢や考え方を具体的に示すことができれば、事業の将来性とともに、経営者自身への信頼も高まり、結果として融資判断にも良い影響を与える可能性があります。
ビジネスローン・事業計画のポイント4.市場や競合の分析
ビジネスは競争の上に成り立っています。そのため、自社が属する業界の動向や、勝負しているマーケットの規模、競合他社との差別化ポイントを分析することは、日々の経営活動の中で自然と行っているはずです。しかし、その内容を頭の中だけにとどめるのではなく、事業計画書に具体的に記入し、「見える化」することが重要です。
たとえば、市場規模が年間〇万件あるのか、想定顧客単価はいくらか、初年度の売上目標金額はどの程度か、といった数値を明確に示すことで、計画の現実味が増します。また、競合と比較した際の強みだけでなく、想定されるリスクや課題、その対策まで整理しておくことが、審査では高く評価されます。
金融機関は、単に売上の大きさだけを見るのではありません。借入金額に対して返済原資が十分に確保できるか、将来的な金利負担に耐えられる収益構造になっているか、といった点を慎重に見ています。そのため、競合分析を通じて自社のポジションを明確化し、どのくらいの期間でどの程度の利益を生み出せるのかを説明できることが重要です。
日常業務の合間に行っている分析も、文章や数値として落とし込み、客観的に整理することで説得力が増します。この「見える化」こそが、事業計画の大きな役割であり、融資審査においてもプラスに作用するポイントなのです。
ビジネスローン・事業計画のポイント5.実現可能な計画か?
そして、ここが非常に重要なポイントですが、事業計画は「実現可能」であることが大前提です。審査で良く見られたいという希望から、売上が毎年大きく伸び続けるようなバラ色の計画を作成してしまうケースもあります。しかし、どれだけ見栄えのよい型にはめた計画書を用意しても、実行できなければ意味がありません。実現性の低い数字は、かえって信用を下げてしまうこともあります。
特に、業種ごとの特性を無視した売上予測や、営業体制が整っていないのに急激な拡大を見込む計画は注意が必要です。たとえば、新しく事業を始める段階で、初年度から高い収益を見込むのであれば、その根拠を具体的に説明できなければなりません。どのような営業手法を取るのか、必要な人員は何名か、広告費や人件費などの経費はいくらかかるのか。こうした費用面まで現実的に積み上げていく必要があります。
成功事例を参考にすること自体は悪くありませんが、自社の規模や体制に合わない数値をそのまま当てはめるのは危険です。重要なのは、「なぜその売上が達成できるのか」「なぜその経費で運営できるのか」を説明できるかどうかです。
では、何をもって実現可能と判断するのか。どこからがバラ色すぎるのか。その線引きは確かに簡単ではありません。しかし、日々現場で顧客と向き合い、業界の空気感を肌で感じている経営者であれば、「これは現実的かどうか」という感触を持っているはずです。その感覚を無視せず、背伸びしすぎない数字を組み立てることが大切です。
審査のためだけの計画ではなく、自社が本当に目指せる道筋を描くこと。それが結果として信頼を高め、長期的な成功につながる事業計画になるのです。
ビジネスローンに事業計画は必要?〜まとめ
今回は、「ビジネスローンに事業計画は必要か?」という疑問からスタートし、ビジネスローンと事業計画の関係について解説してきました。
ビジネスローンの申込手続きでは、事業計画書が必須とされないケースも少なくありません。決算書や申込書類だけで審査が進むこともあり、その点だけを見ると「銀行融資よりも基準が甘いのではないか」と感じる方もいるでしょう。しかし、だからといって準備を怠れば、結果的に審査に落ちる可能性も十分にあります。形式上は不要でも、事業の実態や将来性は必ず見られているからです。
資金を借りて事業を継続していく以上、将来の資金確保や利益の見通しを立てることは避けて通れません。売上計画だけでなく、人件費やその他の固定費・変動費を十分に把握し、収支バランスを継続的に確認する姿勢が不可欠です。従業員を抱えている企業であれば、毎月の資金繰りを明確にしておくことは経営者の責任とも言えるでしょう。
また、他社との差別化を図るうえでも、独自の強みや戦略を整理しておくことは重要です。事業計画を作成する過程で、自社の競争優位性や改善点が見えてくることも少なくありません。単に融資を通すための書類ではなく、経営の軸を明確にする作業そのものに価値があります。
事業計画は、融資対策のためだけの資料ではなく、自社の現状を把握し、将来の方向性を定めるための重要なツールです。ビジネスローンの審査で必須とされなくても、経営そのものには必要不可欠なものだと言えるでしょう。
この記事が、事業計画の重要性を改めて見直すきっかけとなれば幸いです。





