事業資金借り入れには2つの種類がある~事業資金借入を「短期」と「長期」に分けて銀行員が解説
事業資金借入をスムーズに実現するには、まず事業資金借入を知ることが大事です。
そして、事業資金借入は大きく短期借入と長期借入の2種類があります。
そこで今回は、事業資金借入を短期と長期に分けて意味や違いを説明するとともに、事業資金借入の種類、証書貸付や手形貸付などを短期・長期に仕分けしながら基本事項から説明します。
現場で融資審査をする銀行員の解説なので、事業資金借入を検討している人はぜひ参考にしてください。
目次
事業資金借入には短期借入と長期借入がある
銀行の事業資金借入は短期借入と長期借入の2種類に分かれます。
短期と長期は返済期間の長さの違いになります。
事業資金借入の短期借入とは
銀行など金融機関の事業資金借入では、時間を表現する際には一般に、「期間1年以内を短期」「期間1年超を長期」と区別します。(*「以内」なのでちょうど1年は短期)
事業資金借入では数日という短期間から最長1年までが短期借入になります。
なお、この考えは企業の決算書や簿記なども同様です。
たとえば貸借対照表(B/S)でも「短期」は1年以内の科目になっています。
事業資金借入の長期借入とは
いっぽう長期になるのは「期間が1年を超える」事業資金借入です。
短期は1年までと区切りがありますが、長期借入金にこうした制約はなく、理論的には100年でも、あるいはそれ以上も考えられますが、そこまでの長期間は現実的ではなく、一般的には20年から30年が最長です(20年などの事業資金借入を特別に「超長期借入」などと呼ぶこともあります)。
事業資金借入の種類を短期・長期に分けて解説
証書貸付や手形貸付など融資の種類も、基本的に長短で分かれます。
そこで事業資金借入で利用できる融資の種類を、短期長期に分類しながら基本的な部分を説明することにします。
短期の事業資金借入①手形貸付
短期借入でもっとも一般的なのが手形貸付です。
返済期日や借り入れる金額が記載された手形(約束手形)で融資する事業資金貸付のひとつです。
1ヶ月から1年以内程度の短期間で借り入れ、期日までのあいだは毎月利息だけを支払い、売上が回収できたら、または期日になったら一括して返済する形式で、これを「期限一括返済」と呼びます。
仕入れ資金や諸経費の支払いに利用される短期借入の代表格です。
【参考】手形貸付の手形は売上で受け取る手形と同じ
実は、手形貸付で使う手形も、商売で流通する支払手形(売上を現金や振込ではなく、期日に一括して払うと約束した手形のこと)は両方とも「約束手形」と形式は全く同じです。
支払手形の取引は、通常以下のような流れになります。
① 支払義務のある人(手形振出人)が、受け取る権利のある人に手形を渡す(手形の振り出し)
② 受け取った人(手形受取人)は手形の裏面に自分の住所氏名などを書く(手形の裏書き)
③ 手形の支払期限(支払期日)になったら銀行に持参して換金を依頼する(手形の代金取立
銀行は支払い先の銀行(支払い義務のある人が当座預金を持っている銀行)とのあいだで手形の換金処理をする(手形交換)
④ 手形が換金されれば、受取人の口座に入金されるが、期日まで待てなければ以下の方法もある
・裏書きした手形を、そのまま別の人に渡す(手形の裏書譲渡、廻し手形)
・手形の期日までの残り日数に応じた手数料を支払い、手形を買い取ってもらう(手形割引)
実際に支払手形や手形貸付用の手形を見たことがある人なら実感できると思いますが、手形貸付の場合は振出人(支払義務者)が事業資金貸付を受ける人、手形の受取人が融資する銀行など金融機関になります。
そして手形の支払期日は手形貸付の返済期日であり、つまり「手形貸付とは期日に支払う支払手形を銀行に渡すのと同じ」とも表現できます。
ただし手形貸付では、期日になったからと言って銀行が手形を交換手続きで換金することはなく、全額を返済する仕組みです。
支払手形は商取引の信用に基づき、手形貸付は事業資金貸付を受ける人の信用に基づいているので、このように同じ形式になっていると考えられます。
なお、手形貸付の利息支払や期日の返済が不可能になると、銀行が債権回収会社(サービサーとも呼ぶ)に事業資金貸付の債権を譲渡するケースもあります。この場合は銀行が裏書きして債権譲渡会社に手形を渡す(裏書譲渡)ことになります。
短期の事業資金借入②手形割引
上記の手形貸付で触れましたが、期日までの日数に応じた手数料を支払い、手形を買い取ってもらうのが手形割引です。
手形金額から手数料相当額が差し引かれる=割り引かれるところからこう呼ばれています。
手形割引を扱うのは銀行などの金融機関と、専門業者(貸金業者)です。
ここまでの説明では「手形を割り引いて買ってもらう」という内容ですが、買い取ってもらった約束手形も、支払期日に換金されない「不渡り」になると、手形割引を依頼した人は買い取らせた手形金額を支払ったうえで手形を受け取ること(不渡手形の買い戻し)になります。
この点から手形割引も「支払期日までのあいだ、支払手形を担保にした事業資金借入」とも考えられ、金融機関においては手形割引も短期借入に分類されています。
なおこうした考え方の違いから手形割引の解釈も「手形買い取り説」と「手形担保説」の双方があります。
短期の事業資金借入③当座貸越
当座貸越とは、5百万円、1千万円など一定の範囲(これを極度額、限度額と呼びます)を予め決めておき、その範囲内で借入と返済ができる事業資金借入の方法です。
事業資金借入では当座貸越の契約書を使用し、銀行窓口で借入申込用紙を書いて融資利用したり、パソコンや銀行専用端末などで借り入れするのが一般的です。
(ちなみに、一定の範囲で借入・返済が自由にできるカードローンも当座貸越の一種です)
長期の事業資金借入①証書貸付
事業資金借入で長期の融資は証書貸付になります。
いわゆる借用金証書(正式名称は「金銭消費貸借契約証書」)を使って事業資金借入を融資するのが証書貸付です。
ちなみに住宅ローンも証書貸付になります。
住宅ローンも35年など長期の借入になるので、金銭消費貸借契約証書を使用して融資をします。
なお証書貸付は、長期にわたり毎月少しずつ返済(分割返済)して、最終回支払で借入が完済になるので、手形貸付のように銀行が裏書きして譲渡することはありません。
ただし返済不能になるなどで債権譲渡すること自体は証書貸付でも可能なので、あくまで書類の形式上裏書譲渡はない、という違いだけです。
事業資金借入~短期と長期・資金使途の違い
ここまで事業資金借入が短期と長期に分かれることと、それに応じて融資にも種類があることを説明してきました。
しかし、短期と長期には時間の違い以外にも異なる点があり、それが資金使途の違いになります。
事業資金借入~短期の資金使途
事業資金借入で短期の資金使途では、運転資金が代表格になり、運転資金のなかでも「経常運転資金」です。
経常運転資金とは①仕入→②販売→③売上回収といったお金の循環サイクル(これが経常運転資金)において、瞬間的に不足が生じた場合(売上回収より前に仕入れ代金を支払うケースなど)の運転資金のことです。
また短期の事業資金借入では、経常運転資金以外にも、ボーナスを支払う「賞与資金」などもあります。
経常運転資金でも賞与資金でも、短期間の借入で一括返済する事業資金借入なので、手形貸付で融資を受けたり、当座貸越で必要な期間だけ借り入れしたりします。
事業資金借入~長期の資金使途
事業資金借入で長期の資金使途としては、工場や機械購入などの設備資金があげられます。
長期で分割返済していくので、証書貸付の形式で事業資金融資を受けます。
事業資金借入~短期と長期のメリット・デメリット
次に、事業資金借入で短期と長期でそれぞれメリットとデメリットを説明します。
短期借入のメリット
短期借入金のメリットとしては、原則として金利が低いという点があげられます。
事業資金借入では、原則として返済期間が長ければ長いほど金利は高くなる仕組みになっていますので、短期であれば金利負担も抑えられる可能性があります。
なお「原則として」「可能性がある」と表現したのは、業況などによって必ずしも原則通りにならないこともあるからです。
また短期借入金では手形貸付、手形割引、当座貸越を利用するケースが基本なので、契約書類に貼る収入印紙も証書貸付に比べ安く済みます。
したがって、長期借入に比べれば必要経費が削減できる可能性もあります。
短期借入のデメリット
短期借入金では期限一括返済の手形貸付が主流で、返済期日が来ても再び同じ金額で借入を延長できる場合もあります。
これを「書き換え」あるいは「継続」と呼びますが、その場合も業況が悪化したり、利息支払が遅れたりすると書き換えしてもらえない場合もあり、ここが短期借入のデメリットといえます。
長期借入のメリット
長期借入のメリットは、上記した短期借入のデメリット「書き換えできないこともある」と表裏一体です。
つまり長期借入は「ゆっくり返済できる権利」があるため、期日に一括返済などを心配する必要がありません。
このように長期で分割して返済できる権利を「期限の利益」と呼びますが、これも毎回返済が遅れ気味になると一括返済を求められることもあり、こちらは「期限の利益の喪失」と呼ばれます。
長期借入のデメリット
長期借入のデメリットは金利が高くなる原則と、収入印紙など経費も高くなるといったように、短期借入と相反したものです。
事業資金借入でも長期、しかも設備資金など何億も融資を受ける場合には収入印紙代も高くなりますので注意が必要です。
「事業資金借入には2つの種類がある」のまとめ
ここまで事業資金借入には短期、長期という2つの種類があると説明してきました。
今回は基本事項やおさらい的な内容ではありますが、事業資金借入をスムーズに実現するにはそうした基本事項を知っておくことも有効ですので、この記事が参考になれば幸いです。