「信用保証協会の審査に落ちた!どうしよう?」
事業資金調達の有効な手段である信用保証協会融資で、審査に落ちたらどうするか?
といった記事を多く見かけます。
その多くは「審査に落ちた理由は?」という原因解明タイプと「審査に落ちてもこれがあります」とほかの資金調達の紹介や、取り扱う会社のサイトに誘導される宣伝型ともいえる2つのタイプに分かれます。
私は銀行員で、読書の役に立つ情報を発信したいと記事を書いていますので、特定の商品に誘導するつもりはないので、今回は『信用保証協会の審査に落ちた!〜信用保証協会保証付き融資の基本から審査に落ちる原因と対策を銀行員が解説』と題してわかりやすく解説したいと思います。
融資審査の現場で実際に信用保証協会融資に携わっている銀行員の視点でお話していますので、事業資金調達を検討している人はぜひ参考にしてください。

信用保証協会の審査に落ちた!〜1.信用保証協会とは?

まず信用保証協会について知るところから始めましょう。
そのために銀行と信用保証協会の関係など、事業資金融資の基本的な部分からおさらいしつつ進めていきます。

信用保証協会の定義

銀行(信用金庫、信用組合などのいわゆる金融機関全般も含みます、この記事では銀行と統一して表現します)の事業資金融資には信用保証協会の「保証付き融資」と「プロパー融資」の2種類があります。
保証付き融資とは「保証会社の保証が付いた融資」のことで、いっぽう「プロパー融資」は保証をつけずに銀行が融資するもので、「直接融資」などとも呼ばれます。
なお保証付き融資では民間企業(信販会社や消費者金融会社など)の保証を利用する融資もありますが、事業資金の保証付き融資ではそのほとんどが信用保証協会扱いです。
信用保証協会は法律に基づいて設立された公的機関で、信用保証協会が保証した融資が保証協会融資(正式には「信用保証協会保証付き融資」と呼ぶ)ですが、長いので銀行など金融業界では単に「保証協会」あるいは「マル保(融資)」と呼んでいます。

信用保証協会は「保証人」

事業資金融資では保証人(銀行融資では厳密に言うと「連帯保証人」ですが、この記事ではシンプルに保証人と表現)が必要です。
事業資金融資は言うまでもなく債務者(お金を借りる人や会社)が返済していくものですが、その債務者が業績不良などで返済ができなくなったり、会社の倒産や債務者が失踪したりすると保証人が代わりに支払うことになるのです。

このような背景があるため、銀行の事業資金融資では債務者の審査に合わせて、保証人の資産や収入なども厳しく審査します。
ですから保証人になってくれる人がいても、審査によっては保証人として不十分だと判断されれば他の人を見つける必要がありますし、保証人が見つからず審査に落ちてしまうこともあるのです。
そこで、銀行も認めるような保証人がいない中小企業などのために『保証会社が保証人になる』のが保証付き融資です。
そして信用保証協会は事業資金融資の保証人になってくれる公的機関の保証会社なのです。

信用保証協会融資からプロパー融資へ〜銀行融資の「レベルアップ」

一般に銀行の事業資金融資は、まず信用保証協会融資からスタートして、業容拡大などで銀行の信用度も増してきたらプロパー融資を受けられるようになる、というのが自然な流れです。
プロパー融資は銀行にとって、貸したお金を回収できなくなる(貸し倒れ)リスクが高くなるので、取引開始直後からいきなりプロパー融資を受けられる会社は少なく、業績や融資の返済履歴などの積み重ねで信用を築いてきた顧客がたどり着ける到達点で「融資のレベルアップ」とも表現できるのです。
いっぽうゲームでも最初はレベル1からスタートしますが、信用保証協会をレベル1と考えるなら、その信用保証協会融資を断られた人はプロパー融資にレベルアップするスタートラインに立てないことにもなります。

信用保証協会の基本をまとめました

ここまで信用保証協会の定義などを説明してきましたが、それも含めて信用保証協会の基本をまとめました。

<保証協会の基本事項>
信用保証協会は法律(信用保証協会法)に基づいて設立された公的機関
「一般社団法人全国信用保証協会連合会」が統括組織で、その下部の47都道府県と4市(横浜市、川崎市、名古屋市、岐阜市)に保証協会が設置されている
 例)東京都:東京信用保証協会(「都」は付かない)
   神奈川県:神奈川県信用保証協会、横浜市信用保証協会、など
「〇〇市信用保証協会」とその県の信用保証協会を同時に利用することも可能 
ただしその場合は合算するので、他県より余分に融資を受けられるわけではない
1社または個人1名に対し保証する限度「保証限度」が定められていて、原則はその限度額(俗に「枠・ワク」とも呼ぶ)が融資を受けられる上限になる
 例)普通保証枠の保証限度額は2億8,000万円(無担保枠8,000万円を含む)
   創業保証の保証限度額は3,500万円
*保証制度の名称などは異なる場合もあり、詳細は必ずご自身で確認してください
保証には保証料(信用保証料)という手数料が必要
これは融資を保証してもらう対価として支払うもので、つまりタダでは保証人になってくれないということ 

保証協会の融資審査の流れ〜申込みから融資実行まで

続いて信用保証協会融資における審査の流れを解説します。なおここでは銀行など金融機関経由での流れを紹介します。(ほかにも利用者が直接信用保証協会に融資相談したり、市役所や商工会議所(商工会)経由で申し込んだりするケースもあります。)

1.申込み

信用保証協会融資の申込みは、銀行などの金融機関が窓口になります。
所定の申込用紙を必要書類とともに銀行に提出することで、信用保証協会融資を申し込んだことになります。
以後も金融機関とやり取りをする形式で、申込者が直接信用保証協会と面談するようなことはまずありません。(市役所や商工会議所経由の場合には、直接本人が信用保証協会に持ち込むケースを除く。)

2.保証申請(銀行の一次審査)

銀行では、まず受け付けた保証協会の書類の内容をチェックして問題がなければ、信用保証協会へ「当銀行はこの人(会社)が保証協会の保証を受けて融資するのに問題ないと判断するので申請します」といういわば「推薦文」を付けて信用保証協会に提出します。
金融機関が信用保証協会に保証を依頼することを「保証委託」と呼び、保証委託をするために書類一式を届けるのが「保証申請」です。
信用保証協会融資とはいえ、お金を貸すのはあくまで銀行なので「信用保証協会の審査が通ったら融資しても大丈夫か?」という視点に立って銀行で一時的に融資審査をします。
ここでは、例えばすでに貸している融資の返済が遅れている会社などは、まず遅れている返済をしないと申込がスムーズに進まない場合があります。
なぜかと言うと、新規の融資は現在の返済が正常に進んでいるのが大前提で「返済が滞っているなら新しい融資はできない」というごくシンプルな理由です。
もちろん信用保証協会融資の申込があって、銀行が門前払いすることはありえませんが、どちらにせよ銀行融資の返済が遅れている人は、新規で信用保証協会融資を申請しても、信用保証協会の審査に通らない可能性があります。
特に、過去に借りた信用保証協会融資の返済が遅れている場合には、仮に申込をしても、信用保証協会では「返済の遅れが解消しなければ新規の融資保証はしない」という大前提があるので、まず審査は通らないと考えるべきでしょう。

次に、こうしたプロセスを経て銀行の一次審査が通った場合、保証申請は通常なら郵送や宅配便で直送するのですが、信用保証協会に出向いて説明が必要な場合には銀行員が直接持参することもあります。
これは融資を急ぐ場合も同じで、信用保証協会の業務終了時間(原則は午後5時)までに持ち込まないと受け付けてもらえないので、私もギリギリに持ち込むためにバイクを飛ばした記憶があります。

3.信用保証協会の審査

保証申請を受け付けると、ここから信用保証協会で審査をします。
信用保証協会の審査基準やマニュアルなどは非公開なので、どのような審査が行われているのか?は残念ながら銀行員でもうかがい知ることはできません。

4.融資実行

審査に通ると、まず銀行にFAXが流れてきます(これを「保証通知」などと呼びます)。
その内容は、保証審査に通り信用保証協会が融資を保証することや融資の条件、信用保証料の金額などが記載されているものです。
なお銀行では信用保証料から保証すると回答が来ることを「保証がおりた(降りた・下りた)」と表現することがありますが、これはひとつに公的機関の信用保証協会なので「銀行の事業資金融資を保証していただく」といったニュアンスから来る表現だと先輩から教わりました。
そのあとは「信用保証書」(融資の保証をする証明書)が届き、融資契約書類(金銭消費貸借契約証書など)を取り交わし、融資が実行されれば取引口座に入金されます。この際は保証料を天引きした金額になります。

信用保証協会の審査に落ちた!〜2.落ちた理由は?

ここまでは信用保証協会の基礎的説明や融資の流れを説明してきましたが、それはココからお話する審査に落ちた理由などを理解しやすくしたいと考えたからです。
では本題に進みましょう。まずは審査に落ちた理由を、銀行員の視点から3つ解説していきます。

理由1.赤字など業績面の問題

これは最も多い理由で、業績面で信用保証協会の審査を通過できなかったものです。
信用保証協会は赤字でも融資を受けることができる場合もありますが、それでもやはり「借りたお金を返していけるのか?」「このまま事業を継続していけるのか?」といった視点で判断した場合には、信用保証協会の審査が通らない可能性は高いと言えます。

理由2.借りすぎなど融資残高の問題

信用保証協会の限度額(枠・ワク)については説明しました。
「その限度まで借り入れができる」という意味は確かにその通りですが、だからといって必ず借り入れができるという意味ではありません。
業績や企業規模から見て、今回申し込まれた希望額を借りるのは借り過ぎだと信用保証協会が判断したなら、その会社が信用保証協会の限度を超えていなくても審査が通らない場合はあるのです。
なお今回と同じようなテーマの記事では「信用保証協会の審査に落ちたのは、保証限度枠を超えていたから」といった記載を見受けましたが、これには銀行員として賛同できません。
というのも、信用保証協会の申請で触れたとおり窓口は銀行なので、限度の利用額や限度額に対する「空きワク」は銀行で最初にチェックをするからです。
申し込みを受け付けて限度を超えていた場合は審査に至る前に受け付けてもらえないので、銀行としてもこの限度額はしっかりと確認する必要があるからです。
したがって「申し込んだら限度額を超えていた」という理由は、銀行員には違和感を覚える内容です。

理由3.そのほかの理由

業績や借入残高以外にも信用保証協会の審査が通らない理由はいくつもあります。
例えば「風評」で、これは反社会的勢力への融資ができないのは言うまでもなく、公序良俗に反するような事業への融資も信用保証協会は対応しません。(銀行融資も同様です)

例)宿泊業 「風評」の問題で信用保証協会の審査に通らなかったケース
審査落ちになった理由の一つに「申込者は宿泊業とのことだったが、電話帳で調べたら『ラブホテル』の欄に掲載されていたのでお断りさせていただきます」と信用保証協会から連絡があった。実際はごく普通のペンションだったので、担当の銀行員は電話帳の内容を訂正してもらうように働きかけることや、施設や部屋の写真を見せるなどしたが、最初の印象を覆せずに審査はとおらなかった。

これは先輩から聞いたケースで、私の銀行で都市伝説的に伝わる話なのですが、このように多面的な視点で審査した結果断られることもある、ということは覚えておいてください。

信用保証協会の審査に落ちた!〜3.落ちない対策は?

前項で審査に落ちる原因を解説しましたので、今度は審査に落ちないようにするにはどうしたら良いか?という点で、銀行員として考える3つのヒントを紹介します。(ただし信用保証協会の審査に落ちない秘策とか、審査に落ちないようにうまくごまかす裏技などはありませんし、もちろんあってもお話することはできません。)

対策1.赤字のときにどう動くか?が重要

まず、赤字というのは利益が出ていない、つまり手元にお金が無いわけです。
したがってこうした赤字の状態では新規の申込をしても信用保証協会の審査に通らない可能性が高い、ということは再認識が必要です。
かといって自助努力だけでなく、業況を立て直すためにはお金が必要になるのも事実なので、「赤字資金」と言われる信用保証協会融資を検討することもあるでしょう。
ただしその場合には現状をどのように打破していくか?という「事業計画(再建計画)」が必須になります。
こうした計画を自分一人で作るのが難しい場合は、銀行が相談に乗ってくれることもあります。
また直接信用保証協会に相談する方法もあり、事前に電話をすれば面談して相談や助言をもらえます。(信用保証協会によって対応は異なるので確認が必要です)
いずれにしても重要なのは、赤字をなんとかして事業を立て直したいという熱意と計画を示せば道は開かれる可能性がある、ということです。

対策2.信頼できるパートナーを探す

経営者として事業の改善や計画はできても、銀行融資や信用保証協会の審査などに精通した信頼できるパートナーとタッグを組むことも有効な手段のひとつです。
たとえば取引している銀行の担当者に相談するのがもっとも手っ取り早く、また結果もすぐつかめるので有効でしょう。
なぜなら銀行員に相談するということは、結局は銀行で融資を受けられるか?と聞いていることになるからです。ただし担当銀行員のスタンスや経験にも左右されますし、やはり銀行員としてできることにも限界はあります。
そこで次には、市役所や県の「事業課、商工課」といった公的な部署の担当者に相談するのも一つの方法です。
またコンサルタントや税理士などのプロに依頼することも有効ですが、こちらは費用が必要になりますので、どこまで対応してくれて、いくらくらい払うのか?を見極める必要があります。

対策3.風評や口コミにはアンテナを張っておく

インターネットやSNSの普及で、噂や口コミで業績がアップすることもあれば、その逆に一つの口コミから炎上して業績悪化や廃業に追い込まれることもあるので、こうした「風評」には注意が必要です。
もちろん「衛生面で問題あり」とか「対応がひどい」など本当に自分に非があれば仕方がないのですが、そうではない根も葉もない噂や、場合によっては悪意によりでっち上げられたような口コミなどは、削除を求めるようサイト運営者などに申し入れることも考えられます。
エゴサーチということではありませんし、もちろん経営者とて日頃から自社の評判や口コミをチェックしている人は多いと思いますが「信用保証協会融資を必要とするときのために」という意識を持って風評に注意する視点を持つ必要もあると考えています。

信用保証協会の審査に落ちた!〜のまとめ

ここまで振り返り、信用保証協会の審査に落ちる原因と対策を説明してきましたが、どれもシンプルなものばかりです。
しかしシンプルだからこそ、これから取り組みやすいですし、銀行員としてはぜひひとつでも参考に取り入れてもらいたいと本気で考えています。裏技やマル秘テクニックはありませんので、経営に対する熱意と計画を持って、この記事が参考になれば幸いです。