「日本政策金融公庫は銀行より事業資金融資を借りやすい」
「銀行の事業資金融資審査は日本政策金融公庫よりきびしい」
これらは「事業資金 借りやすい」とインターネット検索をして目についた見出しです。
このように、事業資金融資では銀行などの金融機関より、日本政策金融公庫の審査がやさしく(ゆるく)借りやすいという結論が多いようです。
そこでこの記事では、本当に日本政策金融公庫のほうが事業資金を借りやすいのか?銀行のほうがきびしいのか?こうした点を解説しています。
私は銀行員ですが、読者の役に立つ記事を書きたいので、勤務する銀行は伏せて執筆しています。
ですからこの記事も商売抜きで説明しますので、事業資金の借りやすいところはどこか?など調べている人は、ぜひ参考にしてください。
(この記事では民間の金融機関を「銀行」と表現していますので、メガバンク・地方銀行・ネット銀行・信用金庫など広く事業資金融資を取り扱う金融機関全般とイメージしてください。
また、あくまで個人的な見解に基づいていますので、日本政策金融公庫と金融機関の事業資金融資のどちらか一方への誘導も、逆に攻撃をする意図もありません。)
目次
事業資金が借りやすいのは?〜検証1.「立ち位置」から考える
事業資金の借りやすさではどちらか?と言う点をそれぞれの立場や使命など「立ち位置」から比べてみましょう。
どちらも「株式会社」なので事業資金の借りやすさは違わないはず
日本政策金融公庫の正式名称は「株式会社日本政策金融公庫」です。
日本にある5つの政府系金融機関(「政策金融機関」とも、ちなみに他の4つは「住宅金融支援機構」「商工組合中央金庫」「国際協力銀行」「日本政策投資銀行」)の一つで、その前身は国民生活金融公庫・農林漁業金融公庫・中小企業金融公庫の3つに繋がります。
ところで上記したように、公的金融機関が「株式会社」と違和感を覚える人がいるかも知れません。
しかし株式会社といっても日本政策金融金庫の場合は、民営化を前提として一時的に設立される特殊な株式会社ではありません。
株式会社の形態をとっているのは、株式会社という仕組み(ガバナンス)を活用し透明性の高い効率的な事業運営を行うためと公式HPに説明があります。
このように一般的な株式会社とは一線を画すわけですが、とはいえ株式会社の形態を取る以上やはり組織としては銀行と同じで、ここが日本政策金融公庫の特徴になります。
このあたりはこれから随時触れていきたいと思います。
公的企業と民間企業の違いが事業資金の借りやすさに影響することも
日本政策金融公庫は政府系金融機関という公的金融機関です。
それは資本金の出資比率(財務大臣が97%、他も経済産業大臣など)がほぼ100%政府関係というところからもわかります。
大臣とは言っても、もちろん大臣が個人的にという意味ではなく、あくまで国が出資しているということなので、やはり公的企業なのです。
いっぽう金融機関はあくまで「営利企業」なので、一般的な会社と同様に「儲かること」「潰れないこと」が大前提です。
特に銀行の場合は潰れるというより「経営破綻」として金融業界全体の信用を危うくする可能性がありますし、更には日本経済全体にも大きなマイナス影響を及ぼす可能性すらあるのです。
したがって銀行にとっては潰れないことが最優先だといえます。
ところで「潰れない」ということを考える一つの指標が「資本金」ですが、日本政策金融金庫は約12兆円の資本金(資本金、資本準備金の合計・筆者調べ)があります。
これは日本郵政(約3兆円)や東電(約1兆4千億円)などと比較して、公的事業者でもトップクラスです。
いっぽうの銀行ではメガバンクの三井住友・みずほ・三菱UFJがそれぞれ2兆円台(*銀行単体ではなく、FG・ホールディングス企業全体)となっています。
また企業全体を見渡してみると製薬大手の武田薬品工業が約16兆円、ソニーが約9兆円などで、資本金だけ見れば「資本の厚さ」がわかると思います。
もちろん資本金だけで企業の安定度を判断することはできません。
しかしここでお伝えしたいのは、日本政策金融公庫が公的金融機関で資本も充実しているという点です。
「使命」を比較すると事業資金の借りやすさの違いも見えてくる
上記した自己資本が巨大な理由は政府系金融機関として「お金を貸すため」だと銀行員は考えています。
たとえば日本政策金融金庫の目的として「民間金融機関が行う金融を補完し、中小企業者・農林水産業者の資金調達を支援する金融機能を担う」といったものがあります。
民間金融機関の補完を簡単に言えば、銀行以外で事業資金を借り入れできる場所という意味で、そのため自己資本が大きいと言えます。
そしてこれを言い換えれば「お金を貸すことが大前提、だから国出資で自己資本が巨大」そして銀行は「金融機関としてお金を貸すのはもちろんだが、それより大事なのは潰れないことなので、自己資本を大きくしている」とも表現できます。
「融資の資金源」から事業資金の借りやすさを比較
次に融資するための資金源(「原資」と呼びます)について比較してみましょう。
まず日本政策金融公庫は財政投融資資金借入金(*)や政府保証債などの債権、及び政府出資金などが融資の資金源になっています。
この点から「公的な財源から融資をしている」とも言えます。
いっぽう銀行は、預金として集めたお金が主な資金源です。
そして「預金で集めたお金を融資し、金利を含めて返済してもらい、預金者には満期時に約束していた金利とともに預金元金を返す」というお金の流れを「金融の仲介機能」と呼び、この点こそ銀行などが金融機関と呼ばれる存在意義となっています。
したがって預金で集めたお金を融資して、返済できなくなる(不良債権)と、預金を返すことも不可能になり、最悪の場合破綻してしまうことにもなりかねません。
そのため銀行の融資審査はきびしいという一面があり、これは銀行員の私も否定はしません。
いっぽう日本政策金融金庫の場合、説明したように原資は公的資金なので、原則として資金調達には困りません。
とはいえお金はもちろん無制限にあるわけではないので、やはり貸したお金は返済してもらう必要があるわけです。
したがって公的金融機関だからと言って「ジャブジャブ」融資をしたり、審査が「ズブズブ」だったり、ということは決してありません。
(*財政投融資資金借入金・略して「財政投融資・ざいせいとうゆうし」とも:政府の信用に基づいた債権(財投債など)などで調達した資金を、特殊法人等に対し資金供給する仕組み。あくまで借入金なので返済義務があり、日本政策金融金庫が中小企業等に融資したお金を返済してもらうことで、この財政投融資借入金を返済する)
事業資金が借りやすいのは?〜検証2.「融資審査スタンス」の比較から考える
では次に両社の融資スタンス(融資に対する基本的な姿勢や方針、考え方など)について解説します。
日本政策金融公庫の審査は「借りて、そのあとこのように成長します」というポジティブ思考
ここまで説明したように、公的金融機関として中小企業等に融資する使命がるので、基本的に「借りて、そのあとこのように成長します」と未来を見据えたビジョンを求め、あくまで「融資する」ことを前提に審査しています。
ちなみにこれは、知己の日本政策金融金庫担当者と金融について語り合ったときに聞いたことで、銀行員も納得した部分です。
もちろん誰にでも、どんな財政状態の会社にも貸すというわけではありませんが、根底にこういった融資スタンスがあるため、柔軟に審査をしてくれるとも言えます。
金融機関の審査は「借りて、そのあと返せなくてもこの押さえがあるから」というネガティブ思考
いっぽう銀行など金融機関の審査は「返せなくなっても信用保証協会の保証付がある」とか「返せなくなっても担保がある」といったように、借りた人が返せなくなったときのことを想定して考えます。
上記した保証(信用保証協会の保証や、連帯保証人など)や担保(不動産担保などで担保のことを「保全」とも呼ぶ)などを「融資の押さえ(後ろ盾、安全装置といった意味)」と呼び、この押さえを重視するのが銀行で、逆に押さえがないと融資するのが難しいとも言えます。
事業資金が借りやすいのは?〜 日本政策金融公庫と金融機関の事業資金融資を銀行員の視点で比較、のまとめ
日本政策金融公庫と金融機関を単純に「借りやすいのはどっち?」と結論付けるのは難しいです。
しかしここまで説明したように「ポジティブ思考」の日本政策公庫と、「ネガティブ思考」の金融機関という点で比較するなら、間違いなく日本政策金融公庫のほうが借りやすいと銀行員は考えます。
もちろん金融機関も利益追求のために融資をすることは必要で、決して貸さないというものではありません。
また申し込みから契約手続きまでの時間や手間なども考えると、どちらが借りやすいか?は判断が難しくなってしまいます。
ただし大事なのは自社にとって合っているのはどちらか?をいろいろな角度から考えることだと思いますし、この記事がその参考になれば幸いです。