「繰り上げ返済すべきか?それともその資金で運用をすべきか?」これは金利上昇への不安が高まる中、最近ネットの住宅ローン関連記事でよく見る見出しです。
こちらは住宅ローンの繰り上げ返済ですが、ではビジネスローンで繰り上げ返済は可能なのでしょうか?
そして、できるとすれば繰り上げ返済はしたほうがいいのか?それとも事業資金として使ったほうが賢明なのでしょうか?
そこで今回は、ビジネスローンと繰り上げ返済について解説します。
実際に現場でビジネスローンを含む事業資金融資と、繰り上げ返済にも対応している銀行員の説明なので、ビジネスローンによる資金調達や、繰り上げ返済について考えている人など、ぜひ参考にしてください。
目次
ビジネスローンで繰り上げ返済はできる?1.繰り上げ返済の基本事項
まず繰り上げ返済の基本事項に関して、知識を整理しておくことから始めましょう。
繰り上げ返済とは?
まず融資の返済は「約定返済」と「繰り上げ返済」の2種類があります。
といっても毎回決まった返済と、一時的な返済という意味合いです。
たとえば「100万円を、5年分割で毎月5日に返済していく」という、ごく普通の返済も意味合いを考えると「返済期間(返済回数)と返済日を事業者(*ビジネスローンを取り扱っているのは銀行などの金融機関と、消費者金融大手や中小の貸金業者で、この記事では一つにまとめて単に「事業者」と表現することにします)と利用者(債務者)が約束しているわけで、この点から「約定(やくじょう)返済」と読んでいます。
約定とは契約・約束といった意味合いで、定例的な返済も事業者との約束事であるため、こうした表現をしています。
これに対して、約定返済とは別に借入の一部を返済することを繰上返済と呼びます。
なお残金をすべて一括返済する場合は「繰り上げ完済(かんさい)」で、繰り上げ返済とは区別するように表現されています。
このため「繰り上げ返済」のことを(一部返済するという部分から)「一部返済」あるいは「内入(うちいれ・一部返済の別名であり金融機関などで使われる用語)などとも表現する場合があります。
繰り上げ返済にも2つの種類がある
次に、繰り上げ返済にも2つの種類があります。
両者の違いは繰り上げ返済で何を変更するか?というもので「期間を短縮するパターン」と「毎月の返済額を減らすパターン」の2種類になり、現実では繰り上げ返済後の毎回返済で変わってきます。
繰り上げ返済の種類1.「期間短縮」型
こちらは繰上返済をして元金が減少した分だけ、返済回数(◯ヶ月)短縮するものです。
毎回返済額は変わらず、最終返済・つまりゴールだけが近づいてくるものです。
一般的にビジネスローンを含め、事業資金融資では、一部返済する場合はこの期間短縮型になります。
繰り上げ返済の種類2.「返済減額」型
これに対し、元金が減少した分に応じて、毎月返済額を減らすのが返済額軽減型で、返済回数はそのまま変わりません。
そもそも融資の返済は現金と利息の組み合わせなので、具体的には繰り上げ返済によって元金が減少するので、毎回返済における元金が減り、したがって毎回返済(約定返済額)も以前より少なくなる仕組みです。
こちらは今までより返済の金額が少なくなるので、繰り上げ返済したことを実感できるとも言えます。
ビジネスローンで繰り上げ返済はできる?〜2.繰り上げ返済はしたほうがいい?しないほうがいい?
繰り上げ返済はしたほうがいいのか?それともしないほうがいいのか?
ここは悩ましいところです。
銀行員として申し上げられるのは「人それぞれで正解はないので、じっくり考えてください」ということに尽きます。
実際、銀行の窓口などでも融資取引中のお客様から「繰り上げ返済を考えているんだけど、どうしたらいいかな?」と答えを求められることがありますが、その時私がお答えしているのが上記した「ご自身でお考えください」というものです。
お客様からの問いに対し、不親切に感じるかも知れませんが、これは銀行員として「こうしたほうがいい」といいにくい質問で、また断言してしまうとあとから問題になることもあるからです。
その根拠を含めて、繰り上げ返済をしたほうがいい理由をメリットから、そしてしないほうがいい理由をデメリットの面から考えてみましょう。
メリット〜繰り上げ返済「したほうがいい」理由
まず、繰り上げ返済したほうがいいメリットをまとめてみました。
繰り上げ返済すれば、確実に借金が減る
言うまでもなく、繰り上げ返済すれば確実に借金が減ります。これはゆるぎのない事実です。
繰り上げ返済はできるときにしたほうがいい
繰り上げ返済できるときは、間違いなく資金に余裕があるときです。
返そうと思った資金を、躊躇して思いとどまったところ、結局は使ってしまったというのはよくある話で、後悔してもそのときには繰り上げ返済できるお金がなくなっていたというのも、同じようによくあるケースです。
繰り上げ返済することより、繰り上げ返済した結果で銀行評価があがることもある
繰り上げ返済すること自体は、必ずしも銀行で歓迎はされません。(理由は後述)
しかしいっぽうで、繰り上げ返済した結果負債が減れば、金融機関の評価は良くなります。
事業で借金は必要不可欠ですが、同時に借金は少なければ少ないほど良いのも事実だからです。
デメリット〜繰り上げ返済「しないほうがいい」理由
次に繰り上げ返済しないほうがいい理由は以下のとおりです。
繰り上げ返済したあとは取り消しができない
手元にある余裕資金を繰り上げ返済したあとで、急に運転資金が必要になったり、販売先が破綻して売掛金が回収できなくなったり(貸し倒れ)したからと言って、繰り上げ返済を取り消して資金を戻してもらうことは不可能です。
したがって、繰り上げ返済は慎重に考える必要があります。
「何をいまさら当たり前のことを」と感じられるかも知れませんが、実際に現場で、想定外の事態が起きて資金繰りに困ったお客様が私の窓口に、数日前に扱った繰り上げ返済を取り消してお金を戻してほしいと頼まれた経験があるからです。
もちろん対応は不可能なので、その旨を説明し納得されましたが(本人も無理だとわかって、それでも他に手がなく泣きついた、と話されていました)自分の実体験からこの点はぜひ覚えておいてほしいことです。
繰り上げ返済したから「融資枠の空きが増える」わけではない
上記した点と少し似ていますが、お客様の中には「繰り上げ返済したなら、その金額分は自分の融資枠の空きが増えるんだから、お金が必要になったらまた借りれば良い」と考える人がいるようです。
しかしながら、そもそも顧客の融資枠といったものは銀行には存在しません。
もちろん銀行内部の決まりごとで一取引先に対する融資の上限額(例・売上1億円未満の企業は融資上限5千万円まで、など)が決められている場合はありますが、これはあくまで最高限度の言ってみれば「リミッター」のことであり、もちろんその上限まで融資すると決まっているわけではありません。
そして融資枠が存在しないと説明した通りで「100万円返したんだから、また100万円はいつでも借り入れできる」というものではなく、あくまで新規融資の審査次第ということになるのです。
ちなみにビジネスローンでは当座貸越(カードローンのように限度内なら借りるのも返すのも自由)形式もありますので、この場合は100万円返したらまた100万円借り入れすることは可能です。(*当座貸越やカードローンは反復利用できるのがそもそもの特徴なので、逆に100万円返すことも「一部返済」とは考えられません)
ビジネスローンで繰り上げ返済はできる?〜まとめ
今回はビジネスローンと繰り上げ返済について説明してきました。
ちなみに繰り上げ返済は、お金を借りる側には返済負担や支払利息が減る手段ですが、これを裏返すと事業者側は融資残高が減少し、受け取るべき利息も減ってしまいます。
また繰り上げ返済に対処する事務負担もあるので、「面倒だから返さないで運転資金として使ってよ」といった趣旨で慰留(いりゅう・思いとどまるよう説得すること)される、つまりは「事業者に繰り上げ返済を拒否される」こともよくあります。
金融機関や消費者金融などとの円滑な関係を考えると悩ましいところではあります。
またこうした拒絶にあっても繰り上げ返済した場合に、上記したようにまたお金が必要になったときには頼みにくいのも事実です。
だからこそ、繰り上げ返済できるか?したほうが良いか?を考えるのと同時に「繰り上げ返済しても大丈夫か?」を突き詰めて考える必要はあると思います。
この記事が参考になれば、幸いです。