商工ローンは中小企業や個人事業主への金融支援として、かつては多くの事業者が使用していました。しかし、90年代から00年代にかけて悪質な業者による事件が多発し、イメージが急速に悪化してしまいました。いまでも商工ローンは怖いというイメージを持つ人も少なくないために、借り入れの際には不安を抱える人もいます。この記事では商工ローンの事件について解説していきます。

商工ローンとは?

商工ローンは中小企業や個人事業主を対象にした融資です。事業資金を融資する事を目的とした貸金業者が提供しているサービスの一種で、銀行などの融資よりもハードルがかなり低い事が特徴と言えます。商工ローンという名称で知られていた頃には、審査のハードルが低く、スピード融資が可能になっているという事でかつては多くの事業者が使用していました。
しかし、その仕組みが大きな社会問題になってしまったという過去もあります。ここではまず、商工ローンとはどういったものなのかを見ていきます。

商工ローンの基本的な仕組み

商工ローンの基本的な仕組みは、顧客に事業資金を貸し付けて金利を高く設定する事で元本回収と利益を出すというものです。こうした仕組みは銀行が提供する融資やビジネスローンなどと変わりませんが、過去に問題にになった商工ローンの場合には連帯保証人や不動産や手形を担保が必要になる場合がほとんどだという点です。こうした保証人・担保は、返済不能になった時のトラブルの元となるために、敬遠する事業者も多いのです。

中小企業や個人事業主への金融支援としての役割

中小企業や個人事業主への金融支援としての役割は、商工ローンの最大の魅力と言えます。中小企業の中でも経営が厳しい零細企業などは、銀行の厳しい融資基準を満たせない場合も少なくありません。そうした時に商工ローンであれば、有担保や連帯保証人を用意する事と引き換えに契約する事業者が多かったのです。中小企業にとっては重要な資金調達手段で、バブル期には銀行の貸し渋り対策としても多用されていました。

バブル崩壊から急速に発展

1990年代初頭から始まるバブル崩壊後には、日本経済は深刻な不況に突入する事になりました。その後、企業への融資に慎重姿勢を取る「貸し渋り」が起こり、資金力がない企業は倒産寸前になってしまうまでに追い詰められています。
そんな拡大する市場ニーズに合わせて多くの企業が使うようになったのが、商工ローンです。銀行の融資はハードルが異常に高くなったために、ノンバンクが提供する金融商品に顧客が集中する事になります。しかし、審査を緩やかにして顧客獲得をする商工ローンの業者が増えた事が問題の端緒となっています。結果的に、加熱する顧客獲得競争が過剰な金利設定や無理な融資の温床となり、大きな社会問題になってしまいました。

商工ローン事件の概要

商工ローン事件は1990年代後半から2000年代初頭にかけて社会問題化し、商工ローンのイメージを大きく損ねる結果になります。バブルの崩壊の中で、商工ローン業界が急速に成長した事がこうした一連の事件に繋がってしまいました。
商工ローンのイメージというのは、これらの事件によって「悪質な金融商品」というイメージが強く印象付けられてしまいました。ここでは、銀行のプロパー融資やビジネスローンよりも敬遠する人が多くなってしまった商工ローン事件について簡単にまとめていきましょう。

主な事件の発生時期と背景

商工ローン業界に問題があると判明したのは、複数の大手商工ローン業者が不正行為や違法な取立てが顕在化したからです。その中でも最も有名な事件は、日栄(現・日本保証)や商工ファンドなどが関わる問題でしょう。
これらの企業は特に悪質な業者と見なされ、高金利融資を提供して急成長した企業でした。過剰な取立てや違法行為が特に大きな問題になり、商工ローンのイメージを急速に悪化させる結果となりました。

これらの事件が発生した背景は、バブル崩壊後の経済低迷が大きく関わっています。銀行が不良債権問題に直面した事によって、中小企業は資金調達が困難になりました。そこで商工ローンの需要が急速に高まり、法規制が間に合わないままで多くの問題が発生してしまいました。そして、報道機関などが違法な取り立てや過剰な高金利を報道した事で、社会問題化し行政が動くことになります。こうした事から2000年代後半になると、様々な法規制が制定されることになりました。

不正行為の内容

商工ローン事件で問題視された主な不正行為も紹介しておきましょう。まずは、過剰な高金利の設定です。現在は銀行法や貸金業法などによって規制されていて、ノンバンクの金利は18%までと設定されていて20パーセントを超える事は原則としてありません。
しかし、90年代の商工ローンには一部では年率40パーセントを超える金利も設定されており、明らかに違法な貸し付けが行われていました。しかし、法規制が間に合わずに、実質的に利息制限法を超える高金利であっても取り締まる事ができない時代があったのです。

もう一つの問題は、違法な取立て行為です。商工ローンが敬遠されている理由は、この取り立てにあるでしょう。深夜や早朝の自宅訪問、脅迫的な言動や暴力的手法、名誉を毀損するような嫌がらせなどの悪質な取り立ては、蒸発する者や自殺する者を増加させました。
特に、日栄や商工ファンドは取り立ての厳しさで知られていて、社会問題化した時に真っ先に名前が挙がった企業となります。「違法な取立て行為」というイメージは、多くもメディアによって報道されたり、ドラマや映画などで取り上げられたりする事で強く印象付けられました。いまだに商工ローンという名称を聞くと「違法な取立て行為」をイメージする人が多いのです。

社会的影響と世間の反応

商工ローン事件は、中小企業の資金繰りの厳しさや経済的な景気の落ち込み、自己破産者の急増など日本社会に深刻な影響を及ぼしています。 中小企業の経営悪化は、商工ローンの契約者を増加させ、結果的に悪質な業者を生み出しました。自殺者、自己破産者なども急増し、 被害者の声がニュースなどで取り上げられたり、訴訟に発展したりするケースが増えました。
こうした事から世間からの批判の声が大きくなり、業界内でも規制する動きが強まっています。損害賠償や過払い金の返還などが求められた事で、悪質な金融業者は倒産を余儀なくされるケースも多くありました。

訴訟などの動きもあり、中規模の商工ローン業者は経営が厳しくなりました。そのため商工ローンという名称の金融商品を利用する人は近年では減少傾向にあり、自治体の補助金や助成金などで資金を調達するケースやクラウドファンディングなどを使い、自分で資金を調達するケースに置き換わってきています。

日栄・商工ファンド事件

ここでは、日栄・商工ファンド事件について見ていきましょう。日本の金融業界に大きな影響を与えた事件であり、いまでは「日栄事件」の通称で知られています。日栄(現・日本保証)と商工ファンドが行っていた違法な契約が、大きな社会問題になりました。この事件が規制強化や法律改正のきっかけとなったともいわれていて、商工ローンを取り扱いたい場合や利用したい場合には知っておきたい事件です。

日栄・商工ファンド事件の概要

日栄・商工ファンド事件というのは、1990年代後半から2000年代初頭にかけて発覚した商工ローンの違法な契約を代表する事件です。日栄は、かつて商工ローン業界の大手企業と見なされた会社でした。
中小企業や個人事業主に対する融資で急成長を遂げていて、最大手の金融企業として多くの中小企業が商工ローンを契約していました。しかし、この日栄の商工ローンの実態が明らかになると、大きな社会問題としてクローズアップされることになります。

強引な取立てや貸付手法が問題になる

日栄の強引な取立てや貸付手法が問題にあったのは、被害者たちの訴訟やマスコミ報道がきっかけでした。不正行為が次々と明るみになり、脅迫的な取立てが行われていた事が大きな衝撃を与えました。違法な高金利の貸付手法も問題視されて、法律の改正が望まれるようになります。無理な融資の押し付けも問題視され、返済能力を大きく超えた貸し付け自体に規制をかけるという動きが出始めました

訴訟や規制強化のきっかけになる

被害者による訴訟の増加が法規制のきっかけとなりました。結果的には、損害賠償請求や過払い金返還請求などが活発化し、悪質な業者は事業継続が難しくなりました。それと同時に法規制に議論が活発化し、「グレーゾーン金利の廃止」や「総量規制の導入」、「取立て行為の厳格化」などの規制が法整備されます。
こうした規制の違反者には厳しい罰則が科されるようになったために商工ローンというのは、以前のような悪質な業者が行うモノではなくなっています。

現在の商工ローン業界の状況

こうした事件をうけて商工ローン業界は、大きな変革期を迎えました。規制強化や市場環境の変化が社会的にも促され、法律の改正なども相まってビジネスモデルも再編せざるを得ない状況となっています。その一方で、健全な金融サービスを提供する取り組みも進んでいて、商工ローンに対するイメージにも変化が生じている事も事実です。商工ローンの利用を考えている場合には、現在の業界内の情況を把握する事も重要です。

業界の再編と規模縮小

業界の再編と規模縮小は、様々な事件を経たことで余儀なくされました。規制強化による影響は特に大きく、高金利を利用したビジネスモデルは困難になっています。貸金業法の改正が行われ、利息制限法によって20パーセント以上の利息が禁止されました。さらに、総量規制によって返済能力を超える融資はできないという状態にもなりました。悪質な事業者は商工ローンの提供ができにくくなり、大手商工ローン業者は事業形態の転換を進めたので、商工ローンは利用しやすくなっています。
市場ニーズの変化もまた、業界の再編につながっています。借り手側の事情も変化し、金融教育の普及やオンライン融資サービスの登場などの要因によって商工ローンへの需要は低くなっています。市場全体の規模が大きく縮小し、生き残った大手商工ローン業者は様々な金融商品を扱うようになりました。

違法行為の再発防止策

過去の不祥事を受けた事によって、業界全体で違法行為の再発防止策が行われるようになりました。法的規制の強化によって、金利制限の厳格化や取立て行為の規制がかけられるようになりました。これによってバブル崩壊後に行われた違法な取り立てなどの心配はなくなっています。
会社の自主的な取り組みも徹底される傾向にあります。コンプライアンスの徹底は、金融業界にも大きな影響を与えています。ガイドラインなどを策定する事によって、業界団体による規制も厳しくなっています。
他にも内部監査の強化や顧客との透明性向上などの様々な取り組みによって、顧客がリスクを正確に理解できるような態勢を整える動きが業界内でも数多く行われています。

健全な金融サービスへの転換

現在の商工ローン業界は、過去の問題点を解決し、健全な金融サービスを提供する動きが活発化しています。近年では資金調達法は多岐にわたるようになりました。銀行のプロパー融資や有担保貸付、ノンバンクなどのビジネスローン、自治体の補助金・助成金、クラウドファンディング、ベンチャーキャピタルなど、商工ローンの優先度は低くなっています。
こうした動きから商工ローンもデジタル化を推進したり、多様な金融商品を提供したりする事で、大きな変化が訪れている事は覚えておきましょう。

商工ローンと美辞円スローン

商工ローンという名称は使われなくなってきています。その名称は「ビジネスローン」と変更する業者が多く、法規制によって健全な金融商品として取り扱われています。商工ローンはノンバンクが法人向けに取扱っている金融商品という位置づけでしたが、ビジネスローンは銀行などの金融機関も取り扱っている点が最も異なる点でしょう。

「商工ローン」という言葉自体にネガティブなイメージがついてしまったために、ノンバンクでも「ビジネスローン」という名称を使う業者が増えています。そうした意味では「商工ローン」と「ビジネスローン」は、法的には線引きがあいまいな事になります。大手の消費者金融では「ビジネスローン」のCMなども制作していて、事業性融資へのイメージ回復を図っています。いずれにしても以前のような「違法な取り立て」や「違法な金利」、「返済能力を超えた貸し付け」というビジネスモデルは、今ではできなくなっている事はしておきましょう。

仮にそうした事態が発覚すれば、行政指導や警察の介入、民事訴訟なども想定されるので、業界内でもしっかりとした規制を設けています。

商工ローンの事件のまとめ

商工ローンはかつて様々な事件によってイメージを悪化させました。そうした背景から、法律改正などが行われました。ニュースなどでも盛んに報じられ、商工ローンの優先度は銀行融資などと比べると下がってしまっています。
現在ではビジネスローンという名称に置き換わり、新たなビジネスモデルを生み出しています。また、業界再編なども行われたために、大手のノンバンクなどでは安心して借り入れる商品となってきています。かつて起こった商工ローンに関する事件などもしっかりと理解した上で、事業性融資の利用を検討してみてください。