ABL(売掛債権担保融資)で資金調達する方法とは?
「ABLとか、売掛債権担保融資などの言葉は聞いたことがあるけど、いったいなに?」
「売掛債権を担保にするABLで事業資金調達できるらしいけど、仕組みがよくわからない」
ABL(売掛債権担保融資)は新しい資金調達の方法で、国も推奨しているものです。
そこで今回はABL(売掛債権担保融資)の意味と、ABL(売掛債権担保融資)で資金調達する方法について、またABL(売掛債権担保融資)とよく似たファクタリングとの比較まで、銀行員が解説します。

ABL(売掛債権担保融資)で資金調達〜1.ABL(売掛債権担保融資)とは?

まず、ABL(売掛債権担保融資)の基本事項から説明します。
またこの項では、ABL(売掛債権担保融資)を理解する上で必要になる、商取引などで使用せれる法律用語も合わせて説明していきますが、わかりやすく解説していますので、ぜひ参考にしてください。

ABL(売掛債権担保融資)とは?

ABL(売掛債権担保融資)は「Asset Based Lending」で、直訳すれば「債権担保融資」といった意味になり、従来の銀行における事業資金融資のような、担保や保証人に依存した融資手法ではなく、事業そのものに着目した新しい資金調達の方法です。
ABL(売掛債権担保融資)は売掛債権(商品在庫などの棚卸資産や売掛金、その他の流動性資産)を担保に活用して資金調達する手法を指します。

売掛債権の意味と種類

続いて売掛債権についても基礎的な部分を説明します。
売掛債権とは「商品やサービスの提供によって発生した代金を取引相手に請求する権利のこと」です。
ABL(売掛債権担保融資)で対象となる売掛債権は主に以下のようなものがあげられます。
 
<売掛債権の種類>
売掛金
診療報酬
工事代金
運送料
割賦販売代金

ABL(売掛債権担保融資)に関連する用語解説

続いてABL(売掛債権担保融資)に関連し、知っておいたほうが役立つ用語をわかりやすく解説します。

第三債務者

第三債務者とは、事業における取引相手を指します。
ABL(売掛債権担保融資)は資金調達手段の一種なので、銀行などお金を貸す側(債権者)から見れば、資金調達する企業(債務者)だけでなく、対象となる売掛債権の対象となる取引相手も、支払い義務があるという点で債務者と考えるものです。
したがってABL(売掛債権担保融資)融資では、売掛債権の相手側(第三債務者)の業況なども審査されることになります。

対抗要件の具備

「対抗要件の具備」と書くと堅苦しく感じてしまいますが、くだけた表現なら「売掛債権を守るための条件(これが「対抗要件」)をクリア(こちらが「具備」)すること」です。
これはなにもABL(売掛債権担保融資)に限ったことではありません。
たとえば不動産の担保も、抵当権を持っていることを証明して周囲(第三者)から権利を侵害されないために「登記」をします。
ABL(売掛債権担保融資)も同様で、第三者に対して権利を侵害されないために行うのが「対抗要件の具備」になります。
原則として、以下3つのいずれかを満たせば対抗要件を具備したことになり、これがABL(売掛債権担保融資)のフローにもなっています。

 <対抗要件を具備するための方法>
第三債務者(取引相手)の承諾
売掛債権がABL(売掛債権担保融資)の担保になることを、第三債務者に承諾してもらうことです。
取引によっては担保にしたり、さらに他の企業に譲渡したりすることを禁止する条件がつくケースもありますが、その場合ABL(売掛債権担保融資)を利用するためには、その禁止条項を撤廃してもらう必要があります。
通知
これは、売掛債権をABL(売掛債権担保融資)の担保にしたことを取引相手につたえることです。
具体的な方法としては「債権譲渡通知書」などを郵送(配達証明付き内容証明郵便が一般的)することで完了します。
債権譲渡登記
こちらは文字通り登記することです。
不動産担保と同じイメージで、こちらは取引相手の承諾がなくてもできます。
承諾や通知は取引相手の同意を必要としますが、登記なら相手の同意は不要ですし、原則として登記したと相手に知られることはありません。
こういった点から、自社だけで完結したい企業が、この債権譲渡登記を選択するケースもあります。

ABL(売掛債権担保融資)で資金調達〜2.ABL(売掛債権担保融資)とファクタリングの違い

次に、ABL(売掛債権担保融資)と似た特徴があるのがファクタリングです。
ファクタリングとは、企業が保有している売掛金などを銀行などの金融機関や、ファクタリングを専門に扱う金融業者などに買い取ってもらうことで資金調達する手法です。
そこでここからは、両者を比較してその違いを解説していきます。

ABL(売掛債権担保融資)とファクタリングの違い1.融資か?売却か?

ABL(売掛債権担保融資)は「融資」とあるように、売掛債権を担保にした融資です。
いっぽうファクタリングは、売掛債権を専門業者などに売却することで資金調達します。
両者の共通点は、売掛債権が資金化(例:翌月末に支払う約束の売掛金が、約束通り入金された)されることで、先に調達した資金の補完をするという点で、同時に万が一資金化できなかった場合(例:相手が倒産して支払不能になった)には、資金調達した企業が自己資金で穴埋めするところも同じです。

このようにABL(売掛債権担保融資)はあくまで融資であり、これをデットファイナンス(Debt Finance:「借入調達」といった意味)と表現します。
いっぽうのファクタリングは資産の売却なのでアセットファイナンス(Asset Finance:「資産による調達」)になります。

ABL(売掛債権担保融資)とファクタリングの違い2.通知について

対抗要件で説明しましたが、取引相手に通知をすれば対抗要件は具備できます。
とはいえ通知は、取引相手がどうとらえるか?も考える必要があります。
たとえばファクタリングでは、専門業者の名前で取引相手に通知が送られてくると、先方がネガティブに受け取ってしまい、場合によっては取引にマイナスに作用してしまう可能性も考えられます。
そこでファクタリングでは、取引相手に通知をせず申込み企業と業者だけで完結する「2者間(2社とも)ファクタリング」を利用する場合があります。
ファクタリングしたと通知をする形態(こちらは「3者間ファクタリング」)よりスムーズな反面、手数料は2者間ファクタリングのほうが高くなるのが一般的です。

いっぽうABL(売掛債権担保融資)の場合、通知は金融機関の名前で送られます。優劣があるわけではありませんが、金融機関からの通知なら、それほど取引相手も抵抗を感じないと考えられます。
ABL(売掛債権担保融資)は新しい資金調達手段として国も積極的に推進していますので、この通知に関しても国のフォロー、サポート体制があります。

ABL(売掛債権担保融資)で資金調達〜3.ABL(売掛債権担保融資)の具体的な融資商品

続いて、ABL(売掛債権担保融資)の具体的な融資について説明します。

流動資産担保融資保証制度(ABL保証)

「流動資産担保融資保証制度(ABL保証)」は国が創設した信用保証協会の保証制度です。
中小企業などが保有している売掛債権を担保として、金融機関から借入れする仕組みです。
そのほか、流動資産担保融資保証制度(ABL保証)の概略を箇条書き形式で解説します。

<流動資産担保融資保証制度(ABL保証)>
【継続利用可能】
希望する範囲で借入枠(極度額)を決めて、その範囲内で継続利用が可能
【窓口は金融機関】
申込みや実際の資金調達は取引している銀行などの金融機関になる
【資料の提出義務】
売掛債権のエビデンスとして取引が確認できる資料(契約書など)などが必要
【専用口座の開設】
売掛金などの入金専用の口座(預金口座で売掛債権の入金に限定)を開設する
【債権譲渡登記(前出)】
売掛債権の登記が必要になる
なお登記に代えて取引相手の承諾(前出)で可能な場合もある
【返済方法は期限一括返済が基本】 
資金調達した融資の返済期日としては、対象となった売掛債権(売掛金など)の入金予定日を期日とする期限一括返済が基本形
【定期的な報告義務】
返済期日までは、売掛債権の状況などを定期的に金融機関に報告する義務がある (報告内容やサイクルは金融機関により異なる)
【掛け目(売掛債権満額は利用できない)】
取引相手(第三債務者・前出)も倒産や支払不能となるなどリスクがあるため、売掛債権の満額利用はできない どのくらいの割合まで利用できるか?などは金融機関の方針やリスク度合いで変わってくる 
例:1億円の売掛金で掛け目8割(80%)なら資金調達できるのは最大で8千万円

ここまでが主な内容ですが、県や市町村など各保証協会により制度の名称は違いますので、詳細はお住まいを管轄している信用保証協会や、金融機関に確認してください。
また都道府県によってはABL(売掛債権担保融資)の資金調達において補助金や助成金など支援制度もあります。

銀行などの金融機関やノンバンク・金融業者も独自にABL(売掛債権担保融資)を取り扱っています。
基本的な仕組みや内容はおおむね上記した流動資産担保融資保証制度(ABL保証)と共通しています。
ただしこちらも、名称や取扱条件は様々なので、ご自身で確認した上で自社にマッチした商品を選択すると良いでしょう。

ABL(売掛債権担保融資)で資金調達する方法とは?のまとめ

今回はABL(売掛債権担保融資)の基本的な説明からファクタリングとの違いまで解説しました。
従来からある一般的な融資に加えて、新しい資金調達手段としてのABL(売掛債権担保融資)を検討するとき、この記事が参考になれば幸いです。