中小企業の代表者にとって、資金繰りは頭の痛い問題です。
資金調達方法のひとつに、銀行からの融資があります。
金融機関から借入するにあたって、連帯保証人をつけることが条件となる場合も少なくありません。
とくに中小企業の場合、経営基盤の問題から借入する際に連帯保証人を出すようにいわれることが多いものです。
ところで借入の際、連帯保証人としてだれをつければよいのでしょうか。
ここでは法人が借入を行う融資にあたっての、連帯保証人の存在について詳しく見ていきます。
目次
連帯保証人の基本を理解しよう
連帯保証人という言葉はドラマなどでも時折聞く言葉です。
しかし名前は知っているけれども、詳しいことはよくわからない人もいるかもしれません。
まずは借入の際の連帯保証人とは何か、保証人とは何が違うのかについて理解しておきましょう。
連帯保証人とは
連帯保証人とは、もし法人融資を受けてその法人が借入したお金を返済できなかった場合に、債務者同様の返済義務が生じる人のことです。
債務者とほぼ同じ立場になると思ってください。
銀行に融資の相談をするときに「保証人が必要です」といわれたとします。
この場合連帯保証人のことを指すと思ってください。
保証人とは
保証人も債務者が返済できなくなった時に、借入したお金の返済義務が発生する人を指します。
しかし連帯保証人には与えられない権利を有しています。
債務者が借入したお金を返済できなくなった時に、保証人に債務の支払いを要求されたとしましょう。
保証人には「まずは融資を受けた債務者に、借入したお金の返済を要求してください」という権利があります。
極端な話連帯保証人の場合、債務者が資産に余力があっても「もう返せない」といえば、債務者に代わって返済しなければなりません。
たとえば債務者が何らかの資産をもっていた場合、保証人なら「本人の資産の回収を先にしてほしい」といえるわけです。
しかし保証人は、まず債務者から支払えるものは支払ってもらって、そのうえで残った債務を返済する形が取れます。
連帯保証人にこの権利はありません。
また複数の保証人がいた場合、借入したお金の債権回収をする金融機関などは返済能力のある保証人から、支払いを求める傾向があります。
しかし保証人の場合「別の保証人と、平等の金額を要求してくれ」という権利があります。
自分だけに返済負担が偏るのを防止できるわけです。
ただし連帯保証人になると、これをいう権利もなくなります。
こうしてみると連帯保証人になるのは、重大な意味をもつことがわかるでしょう。
法人融資の際代表は連帯保証人にならないといけない?
法人融資を受けるにあたって、保証人をつけるようにいわれた場合、法人の代表者が連帯保証人になるでしょう。
しかし法人の代表者は、かならず連帯保証人になる必要があるのでしょうか。
結論からいうと、原則法人の代表者が連帯保証人にならないといけません。
連帯保証契約の性質から
なぜ法人の代表者が連帯保証人になる必要があるのか、それは契約の本質が関係しています。
連帯保証契約は金融機関と、連帯保証人との間の契約です。
よく勘違いしている人もいますが、債務者たる法人と保証人間にて交わされる契約ではありません。
融資契約と連帯保証契約はまったくの別物です。
連帯保証契約とは「法人が返済不可の状態になった場合に、連帯保証人が借入する借金の肩代わりをする」という契約です。
法人の返済が滞りがちになった場合に、連帯保証人である代表者にその代わりの返済が求められます。
法人をやめても連帯保証人は残る
もし法人代表者がその法人から身を引けば、連帯保証人から外れられるかというとそうではありません。
連帯保証契約は、金融機関と連帯保証人との間で交わされた契約だからです。
契約はその内容が有効であれば、一方的な契約破棄はできません。
たとえ代表者をやめたとしても、契約は生き続けています。
つまり代表を降りたとしてもその法人が活動し続ける限り、契約内容の変更が認められないと連帯保証人の立場は残り続けるのです。
たとえもはや法人の経営にノータッチでも、その法人が借入した借金を抱えたまま倒産したら、連帯保証人の前代表者に弁済義務が発生します。
債務を完済して初めて連帯保証人の役割が消滅します。
法人の代表者が連帯保証人にならずに済む方法
原則法人の代表者は連帯保証人から外れられません。
ただし契約なので、連帯保証人側と金融機関側の双方が合意できれば、解約は可能です。
連帯保証契約には、法人がかかわっていません。
よって金融機関と連帯保証人が合意すれば、法人の同意なしでも代表者が法人から外れられます。
ただし金融機関としても、自分たちに利がなければ連帯保証人から外れることには同意しません。
よって連帯保証人から代表者が外れるためには、金融機関側を納得させる必要があります。
主な方法として、以下で紹介する3つの方法が考えられます。
1. 別の人を連帯保証人として用意する
2. 借り換えする
3. 担保を差し出す
なぜこの3つの方法だと、連帯保証人から外れやすくなるのか以下で解説しましょう。
別の人を連帯保証人として用意する
別の人を連帯保証人として立てられれば、法人の代表者は連帯保証人から外れられます。
考えられるのは、法人の代表者が世代交代するために誰かに譲る場合です。
この時新しく法人の代表者になった人へ連帯保証人を引き継げます。
実は次の代表が連帯保証人になった場合でも、前代表が連帯保証人から外れられない場合もあります。
外れられるかどうかは、多角的に判断されるのです。
新旧代表者の資産状況や信用力・会社の売り上げ、債務状況など個人・法人双方の側面から判断します。
たとえば新代表者の経営力に疑問が残る場合、旧代表者は連帯保証人から抜けられない場合もあります。
また今後設備投資などでまとまった資金の借入をして返済期間が長期化する場合、旧代表者の連帯保証が外れない場合もあるのです。
このあたりは融資している、金融機関との交渉次第となるでしょう。
借り換えする
一番確実に連帯保証人から外れられる方法です。
現在借り入れているところとは別の金融機関に、借入した借金全額の融資をお願いします。
そして現在の借入を一括返済して、今後は新しく借入した金融機関に返済する方式です。
代表を辞するときに借入したお金の連帯保証人から外れたいと思っているときに、まず検討すべき方法です。
もし代表者をやめようと思っているのであれば、法人から外れる前に新しい代表と金融機関と話し合っておきましょう。
両者に納得してもらって、自分が法人から離れた後に借り換えの手続きをお願いしましょう。
担保を差し出す
連帯保証は別名「人的担保」といわれています。
つまり別の担保を用意できれば、連帯保証人から外れられるのです。
別の担保として真っ先に候補としてあがるのは、物的担保でしょう。
金融機関も物的担保の方が借入したお金の債権回収がしやすいので、好みがちです。
人的担保の場合、その人が返済できなければ不良債権化してしまいます。
しかし物的担保であれば、その物件を売りに出せば確実に債権回収できるので、安全性が高いわけです。
物的担保になりうるものとして、いくつか候補はあります。
車両などの動産や有価証券などが考えられます。
しかし最も高く評価されるのは、やはり不動産でしょう。
不動産であれば、数百万円から数億円などの高価な価値をもっている物件が多いからです。
ただし不動産をもっていれば、確実に連帯保証人から外れられる保証はありません。
もし不動産に十分な価値がないと判断されると、物的担保では不十分と判断されかねないからです。
不十分と判断されれば、引き続き法人代表者の連帯保証人としての責任は残り続けます。
連帯保証人が死亡した場合どうなる?
家族が法人の代表者で、法人借入の連帯保証人になっているケースがあるでしょう。
中には代表者のまま、連帯保証人の義務が残ったままでその人が亡くなる場合もありえます。
この場合そのままだと、相続人が借入したお金の連帯保証人を引き継がないといけません。
遺産相続は正負両方とも
遺産相続といわれると、被相続人の不動産や預貯金などを引き継ぐイメージがあるでしょう。
しかし遺産相続は、正負両方の遺産を相続しなければなりません。
負の遺産、つまり被相続人に債務があれば、それも相続しないといけません。
連帯保証人も債務の一種なので、連帯保証になっていた被相続人が亡くなると、相続人が引き継がないといけないわけです。
たとえば家族4人、夫婦と2人の子どもがいて父親が3,000万円の連帯保証を有したまま、亡くなったとします。
通常は妻と子どもたちで半分ずつ、子どもが2人いればそれぞれ半分ずつ相続します。
つまり法定相続のままで処理すると妻に1,500万円、子ども1人当たり750万円の連帯保証を引き継ぐ形になるのです。
たとえ自分が法人の運営に一切タッチしていなかったとしても、法人が返済不能になると家族に返済義務が発生します。
実際は新代表者が連帯保証人となる
理論上は連帯保証人である法人代表者が亡くなった場合、家族に相続されます。
しかし実際金融機関は、亡くなった人から代表権を引き継いだ人が、連帯保証人になるように求めるのが一般的です。
その方が面倒でないからです。
もし家族が連帯保証人を相続してしまうと、複数の相続人が法定相続分をベースに、連帯保証を分担する形になります。
法人が返済不能になった場合、それぞれに回収の催促をしなければなりません。
これは面倒なので、新しい法人代表1人に全額連帯保証してもらったほうが回収しやすくシンプルです。
家族の場合、たとえば長男が法人を引き継いだとしましょう。
この場合長男が1人連帯保証人となります。
奥さんや次男は借入したお金の連帯保証人から外れられます。
連帯保証人と借入した借金は別である
よく勘違いする人がいるものの、連帯保証人を相続することになっても、借入した会社の借金を背負うわけではありません。
まず大前提として法人が債務者なので、まずは借入した借金の返済義務があります。
そして法人が返済不能な状況になった時に初めて、連帯保証人に返済義務が発生します。
もし連帯保証人だった人が亡くなった場合、連帯保証と法人の借入を含めた財産は切り離して考えましょう。
連帯保証人を引き継ぐかどうかだけでなく、法人をどうするかまで視野に入れてどう処理するか、考える必要があります。
たとえば被相続人によるワンマンオーナーだった法人があったとしましょう。
この場合被相続人が、法人の株式100%保有している可能性が高いものです。
この株式も相続対象になりえます。
株式を相続した人は、法人の今後に関する判断ができます。
法人の経営が厳しければ、法人を解散してしまうのもひとつの方法です。
またそのほかにも自分が代表取締役となって、事業承継する選択肢もあります。
もしくは別の人に法人代表者を任せる方法もあります。
このようにただ連帯保証人の義務だけを引き継ぐだけでなく、法人の今後の運命を握っているわけです。
相続放棄も選択肢のひとつ
被相続人が連帯保証人の場合、相続放棄をするのも選択肢のひとつです。
ただし相続放棄すると連帯保証人だけでなく、会社の株式や被相続人の不動産や預貯金などの資産も引き継げなくなります。
被相続人が連帯保証人になっているからの理由だけで、安易に相続放棄しないほうがよいでしょう。
まずは連帯保証人だけでなく、会社の株式の保有状況や不動産や預貯金など、正の遺産もすべて調査しましょう。
もしプラスの遺産の方が多ければ、連帯保証人を引き継ぐことになっても相続放棄しないほうがよい場合も出ていきます。
法人が借入する際の連帯保証人についてのまとめ
もし法人融資を受けるにあたって、保証人を求められた場合、法人の代表者が借入したお金の連帯保証人にならないといけません。
ただし法人の代表者をだれかに引き継ぐ場合、新代表者に連帯保証人を引き継げる場合もあります。
また法人の代表者が連帯保証義務をもったまま亡くなった場合、相続人が引き継ぐ形になります。
この場合借入したお金の連帯保証人になるかどうかだけでなく、法人を今後どうするかまで視野に入れて慎重に判断しましょう。