2010年代以降から急速に隆盛したフィンテックによって、金融業界には大きな変革が起き続け、その商品やサービスは次々に進化を遂げています。
フィンテックはこれまでに、二段階の大きな発展を遂げてきたとされます。
ひとつは「金融サービスのオンライン化」
それまでは、窓口やATMでのみ利用が可能であった金融機関の一部の手続きをインターネット上で完結できるサービスの構築など、金融サービスのオンライン化とその普及は、まさに情報と金融を結びつけたフィンテックの「第一の波」とも呼べる発展であったといえます。
二つ目は「金融機能のアンバンドル(分解)化」です。
金融サービスは長らく厳しい規制の下にあったこともあり、金融機関がその機能を切り離して外部事業者へと提供する動きは限定的なものでした。
しかし、金融機関と外部事業者の安全なデータのやり取りを目的としてそれらの規制は緩和が進み、金融機関は互いの情報の連携を可能にするAPIの公開を義務付けられ、金融機関が有する金融機能はアンバンドル(分解)化して外部事業者へと提供できるようになったのです。
そしてこの「金融機能のアンバンドル(分解)化」の活用によって、フィンテックは三段階目の発展を遂げます。
それが「埋め込み型金融」です。
埋め込み型金融とは?
埋め込み型金融とは、金融業以外の一般事業者が金融商品や金融サービスを本業に埋め込んで提供する仕組みを指します。
これを可能にするのが前述した「金融機能のアンバンドル(分解)化」。
金融機関が提供するAPIを自社のサービスに実装することによって、これまでは金融機関のみが提供できた特定の金融機能をプラスした新たなサービスを生み出すことができるようになるわけです。
たとえば、中国のIT企業アリババ社が開発したスーパーアプリのひとつ「アリペイ」では、決済はもとより与信審査や資産運用などを金融機関を介すことなく、自社のサービス内でシームレスに提供しています。
2021年、「埋め込み型金融」を導入した自己完結型のサービスは世界でも限定的でしたが、現在では日本においても、APIの実装、規制の緩和など埋め込み型金融を利用しやすい環境が広まったことから、大手企業が次々と参入しています。
「埋め込み型金融」導入のメリット
では、一般事業者が「埋め込み型金融」を導入することによってどのようなメリットが生じるのでしょうか。
金融事業収益の獲得
「埋め込み型金融」の導入は単純に「自社サービスの追加」につながります。
それが顧客のニーズが特に高く収益性も高い金融サービスとなるわけですから、勝算が不透明な他の事業やサービスを追加するよりも、収益増加の可能性は一段と高くなるといえます。
顧客の利便性の向上と囲い込み
サービスの利用に際して顧客が求めるものは、やはり簡潔で高い利便性であることは明確です。
たとえば、商品やサービスの購入や利用にあたって、外部の決済サービスサイトに移行するようなシステムは顧客にとって手間がかかるだけでなく、購買意欲の低下を招きかねません。
その点を踏まえても、金融サービスを埋め込んだシームレスでワンストップのサービスの導入は、顧客のニーズに充分に応えるとともに利便性の向上に直結させることが可能となります。
また、利便性の高いサービスの提供は顧客の囲い込みにも有用です。それにより、サービス事業者の多くが求める「顧客獲得コストを上回る利益」の確保にもつながるといえるでしょう。
本業に役立つデータの蓄積と活用
決済にとどまらず、導入する金融サービスによっては自社の本業に役立つデータの蓄積や活用が可能になります。
たとえば、資産運用サービスの展開により、顧客の資産状況を把握できれば、それに応じた商品やサービスの開発や提供を積極的に進めることができ、加えて顧客の満足度の向上も生むといった好循環につながることにも期待できます。
まとめ「埋め込み型金融」市場の拡大予想
巨大な資本を有する大企業のみならず、規模の小さい事業者でも容易に金融サービスを導入できる「埋め込み型金融」
その市場規模は今後さらに拡大することが予想されています。
アメリカのビジネスインサイダーが発行するインサイダー・インテリジェンスの調査によれば、2020年の世界の銀行大手30行の市場価値が3.6兆ドルであるのに対し、2030年には一般事業者の参入を含め「埋め込み型金融」企業の市場価値は7.2兆ドルにまで昇るといわれているなど、いかに注目度と成長性の高い市場であるかがわかります。
しかし一方で、金融に関する規制緩和が限定的な国や地域も多いほか、一般企業が金融業に関与することによって経済的なリスクを生じさせる可能性も考えられるなど、「埋め込み型金融」に対する不安や課題は多々残されています。
また、セキュリティに対する懸念や見返りの限定などの理由に、APIの提供に慎重な金融機関も多々存在するのも事実です。
それらの不安や課題が払拭され、「埋め込み型金融」が今後どのようにビジネスへと浸透していくのか注目されます。