発生済みの売掛金を債権として売却することにより、実際の受け取り日よりも早期に売掛金の回収ができるファクタリング。

融資や補助金・助成金の受給といった他の資金調達手段と比べてスピーディに現金を取得できる上、「借り入れ」には当たらないため、取得した資金が貸借対照表に「資産」や「負債」として計上されない「オフバランス化」につながるといったメリットもあることから、利用経験のある事業主様もいるのではないでしょうか。

近年では、売掛債権の流動化を目的として経済産業省が中小企業などに向けて積極的な利用を推奨するほか、フィンテック企業が金融機関オンライン完結型のサービスをリリースするなど、ファクタリングに対する注目度は年々高まりをみせているといえます。

ところが、注目度の高まりとは裏腹に、国内のファクタリング市場は世界各国、とりわけ先進国と比較すると、さほど規模が拡大していないのが現状です。

一体、どうして国内のファクタリング市場は伸び悩んでいるのでしょうか。

また、今後のファクタリング市場はどのように展開していくことが予想されるのでしょうか。

世界に後れを取る日本のファクタリング市場

世界に後れを取る日本のファクタリング市場

まずは、日本と主要先進国における2019年のファクタリング市場規模をみてみましょう。

アメリカ 100,508万ドル
中国 484,205万ドル
フランス 419,657万ドル
ドイツ 330,589万ドル
イギリス 394,759万ドル
イタリア 316,759万ドル

このうち、アメリカと中国では前年比で僅かなマイナスとなったものの、その他の4カ国は上昇。

なかでもイタリアは前年比6.4%、フランスでは9.1%上昇するなど、先進各国ではファクタリングが資金調達手段のスタンダードとして、利用は拡大傾向にあると考えられます。

対して国内における同年の取扱高は49,446万ドル。

先に挙げた6カ国と比較すると、明らかに市場規模が小さいことがわかります。

また、日本では2011年に111,245万ドルの取扱高を記録したものの、その後は2012年に97,210万ドル、2013年に77,520万ドル、2013年には51,072万ドルという具合に、徐々に減少していく傾向もみられました。

国内のファクタリング市場が伸び悩む理由

国内のファクタリング市場が伸び悩む理由

では、どうして国内のファクタリング市場は他の先進各国に比べて伸び悩んでいるのでしょうか。

「債権譲渡」における印象

ひとつは、債権譲渡に対する印象にあると考えられます。

日本では、従来から「債権譲渡」=「財務状況の悪化」という認識が根付いていることもあり、取引先に対して債権譲渡の交渉に踏み出せない実情があります。

もしも、債権譲渡を切り出すようなことがあれば、取引先からは財務状況を疑問視され、信頼関係が揺らいでしまう可能性が十分にあるわけです。

債権譲渡に対するそのようなネガティブな認識は、そのままファクタリングに対するイメージに直結し、結果としてファクタリングの市場規模が伸び悩む一因となっていると考えられます。

ファクタリングに対する不信感

2つめは、ファクタリング事業者に対する不信感です。

ファクタリングは、貸金業における「貸金業法」のような法規制が存在せず、事業を開始するにあたって登録の必要もありません。

したがって、誰でも簡単に事業を開始できる上に、手数料をはじめとする利用条件も自由に設定できることもあり、残念ながら貸金業を追われた闇金業者が複数紛れ込んでいるのが現状です。

そのような現状から、ファクタリング事業者に対する世間的な印象は決して好意的とは言いがたいために、ファクタリングの利用を躊躇する事業主の方が多いものと思われます。

債権譲渡禁止特約の支障

3つめは、民法における「債権譲渡禁止特約」の支障です。

1998年の「債権譲渡特例法の施行」により「第三者対抗要件」が規定されたほか、2005年の「債権譲渡登記制度の改正」も手伝い、債権譲渡は円滑に行われるようになりました。

ところが、取引先との契約に債権の譲渡を認めない「債権譲渡禁止特約」が付けられていた場合は、債権の譲渡による資金調達が行えないため、当然ファクタリングの利用もできないという支障が生じていたのです。

今後のファクタリングの行方

今後のファクタリングの行方

以上のような要因が重なることによって、日本のファクタリング市場は他の先進国に後れを取ってきたと考えられます。

しかし、冒頭でもお伝えした通り、近年では経済産業省が売掛債権の流動化を積極的に推し進めています。

これは債権譲渡による資金調達、すなわちファクタリングが国から認められた資金地調達手段であると捉えることができることから、今後は悪質事業者を排除するための法整備が進められ、ファクタリングに対する印象も軟化していくことが予想されます。

また、フィンテック企業がファクタリングサービスのリリースに注力している傾向も、ファクタリング市場拡大の追い風になることが期待されます。

従来のファクタリングは、融資の申し込み時と同等なくらい煩わしい手続きが必要なサービスでしたが、フィンテック企業の介入によって最近ではオンライン完結型のサービスが主流になってきており、以前よりもはるかに気軽な利用が可能になっています。

対象となる事業者も、これまでは原則として「法人」のみに限定されるサービスがほとんどでしたが、個人事業主やフリーランスが利用対象のサービスが次々にリリースされていることから、幅広い事業者がファクタリングの利用によって事業資金を調達するようになるのではないでしょうか。

さらに、2020年の民放改正によって、長年にわたり債権譲渡の支障とされてきた「債権譲渡特約の無効」が定められたことも、ファクタリング市場拡大の大きな契機となりそうです。

このようにプラス要因はいくつも見当たることから、世界に後れを取り、低迷の続いた国内のファクタリング市場は、今後拡大傾向に転じると期待できるのではないでしょうか。

なぜ国内のファクタリング市場は伸び悩む?のまとめ

近年、中小企業の資金調達法として注目を浴びているファクタリングですが、世界に比べるとまだまだファクタリング市場は伸び悩んでいるのが現状です。
しかし上記でもお伝えした通り、オンライン完結型の普及や業種形態にこだわらないファクタリング会社も増えてきており、日本のファクタリング市場はこれから増加の見込みが十分にあるといえます。