規模の小さな法人の場合、役員報酬の代わりや代表者の生活費を捻出するために法人から役員にお金を貸し付ける場合があります。
このような貸付金のことを役員貸付金と呼びます。
実はこの役員貸付金、デメリットの方が大きいとされています。
法人が役員に貸付を行うデメリットについてここでは見ていきます。
またもしすでに役員貸付金が発生している場合、どのようにして処理すればいいかについても紹介しますので参考にしてください。
目次
役員貸付金のルール
役員貸付金にはその取扱いについて、いくつか決め事があります。
対象税目がどうなのか、利息などのルールがありますので注意しましょう。
ちなみに以下で紹介するのは、令和4年4月1日時点の法令をベースにしたものです。
もしかすると今後法令の改正が起きて、ルールが見直される可能性があります。
最新情報は国税庁のホームページなどで確認してください。
利息について
役員貸付金の税金ですが、貸付金利子と貸付金残高として処理します。
また未収利息は税法上の利息から実際に受け取った利息を差し引いて算出します。
中には無利息で貸し付けているケースもあるかもしれません。
もし利息を受け取っていなければ、未収利息は税法上の利息として処理してください。
税法上の利息ですが、金融機関からの融資の場合とそれ以外の場合とではルールが異なります。
まず金融機関からの融資がある場合、借入金の平均調達利率が適用されます。
そのほかの場合には特定基準割合が税法上の利息になります。
こちらも貸付期間によって適用される利率が変わってきますので注意してください。
まず平成21年の貸付は4.5%です。
同じく平成22~25年の間の貸付は4.3%、平成26年で1.9%、平成27~28年は1.8%、平成29年は1.7%となります。
平成30年~令和2年は1.6%、令和3年に貸し付けたものは1.0%です。
ちなみに令和4年中に貸付を行った場合には0.9%です。
以降はそのままになるかもしれませんし、また見直される可能性もありますので最新情報を確認しましょう。
源泉所得税の発生する可能性がある
税法上の利息から実際に受け取った利息を差し引いて残った額は、給与扱いになります。
このため、原則源泉所得税が発生します。
しかし一部例外もあります。
まずは臨時にまとまった生活費が必要になったり役員に貸し付けた場合です。
災害や病気でけがをして働くことができなくなった、損害を受けた場合などが該当します。
ただし貸付金や返済期間などの条件が合理的な範囲であることが前提条件です。
2つ目は貸付利率が合理的と判断された場合です。
借入金の平均調達金利などの条件で貸し付けるとこちらの項目を満たします。
最後の例外が税法上の利息から実際に受け取った利息が年間5,000円以下の少額だった場合です。
法人貸付を経費計上はできる?
中には法人貸付を経費として計上したいと思っている人もいるでしょう。
しかしこれはまず無理と考えてください。
というのも役員貸付金は債権になるからです。
不良債権として貸倒損失、すなわち経費に計上するのは難しいといえます。
経費として認められるには会社更生法などの法的手続きや行政機関もしくは金融機関の主導による協議などで債権の切り捨てが行われないといけません。
プラス債務者に客観的に返済能力のないことを立証する必要が生じます。
前者は手続きするのが難しく、役員の返済能力を立証するのも困難で経費計上は厳しいのが現状です。
役員貸付の発生する理由
法人や代表者などの役員に貸付が発生する理由を見てみると、主に以下のような要因が考えられます。
1.本当にお金を貸し付けている
2.どんぶり勘定になってしまっている
中には役員が認識しないまま、役員貸付金の発生しているケースもあります。
このようなどんぶり勘定を続けていると、いずれ法人の経営が傾く危険性が高いので注意が必要です。
本当にお金を貸し付けている
本当に法人の代表者などに何らかの理由で資金を貸し付けている場合があります。
このケースであれば、金銭貸借契約書など書面できちんと借金のことを残しているでしょう。
また帳簿にも貸付金残高などを記録して管理しているので、それほど問題はないでしょう。
どんぶり勘定になってしまっている
しかし役員個人が認識しない状態で役員貸付金が発生している法人もあります。
なぜこのようなどんぶり勘定になってしまっているのか、主に2つの理由が考えられます。
まずは公私混同してしまっているからです。
小さな法人の代表者の中には、自分と法人の財布がごっちゃになってしまっている人もいます。
そして私的な費用を会社の経費にできないので、役員貸付金という形で処理するのが常態化してしまうのです。
また私的費用を会計処理しないことで、役員貸付金が発生してしまうパターンもあります。
すると帳簿上の法人にある現金と実際の現金のつじつまが合わなくなります。
そこでつじつまを合わせるために勘定科目として、役員貸付金を使わざるを得なくなるわけです。
いずれにしても法人の金銭管理がずさんでは、今後の資金繰りなど経営も厳しくなる懸念が高まります。
役員貸付金のデメリットを解説
冒頭に紹介したように、役員貸付金はデメリットが大きいと考えられています。
どのようなデメリットがあるのか、主な理由として以下のようなことが挙げられます。
1.会社のお金が出ていってしまう
2.銀行融資が厳しくなる
3.法人税がアップする
4.役員賞与として処理しなければならない
5.相続人に引き継がれる恐れ
役員報酬の一部を役員貸付金として処理すれば、費用計上せずに済むので会社の利益を上積みできます。
しかし役員貸付金はその名の通り、金銭貸付なので受取利息は計上しなければなりません。
受取利息は一見すると収益になりますが、会社に入金されなければ資金は実質プラスになりません。
このように実は役員貸付金をすることで期待できるメリットはありません。
上で紹介したデメリットについて、どういうことなのか、以下で詳しく見ていきます。
会社のお金が出ていってしまう
役員貸付金の発生する理由を見てみると、法人の代表者が会社のお金を公私混同しているからです。
会社のお金を私的に流用している場合、基本返済されることはないでしょう。
つまり役員貸付金が発生すればするほど、会社の持ち出しになってしまいます。
会社の資金がなくなってしまって、資金繰りに窮することになるでしょう。
銀行融資が厳しくなる
役員貸付金の最大のネックといわれているのが、金融機関の心証が悪くなる点です。
金融機関がお金を貸すにあたって、法人の返済能力プラスお金の使われ方をチェックするといわれます。
役員貸付金がかなりあるということは、法人の代表者が会社のお金を私的流用していると判断してしまいがちです。
そうなると銀行としてみれば、こちらが貸し付けたお金を法人の代表者が私的に使ってしまうのではないかと懸念します。
つまり返済のめどがつかないということで、融資を断るわけです。
役員貸付金の多い会社というのはどんぶり勘定となっている可能性が高くなっています。
そのような法人は将来性がないと判断するでしょう。
すると今回だけでなく、今後もいくら融資の相談をしても受け付けてくれない恐れが出てきます。
東京商工会議所の「中小企業金融に関するアンケート」によると、中小企業の主要な資金調達方法として銀行融資が挙げられています。
主要な調達先の銀行からの貸付が受けられなくなると、その法人の資金繰りはさらに厳しくなるでしょう。
もしどうしても銀行からの融資を受けたければ、役員貸付金の完済を条件にされると思ってください。
法人税がアップする
役員貸付金が発生すると、法人税の課税額がアップして負担が増大するのもデメリットの一つです。
役員「貸付金」という名の通り、貸付金の一種です。
借入をしている役員は会社に返済する際に利息を支払うことになります。
ちなみにこの利息は法律で定められているので、利息としてきちんと計上しなければなりません。
もし役員貸付金があり利息を受け取っていないとなると、税務調査を受けた時に指摘を受けることになるでしょう。
利息を受け取れば、それは会社の利益になりますので法人税もアップしてしまうわけです。
たとえ無利息で貸し付けを行っていたとしても、法律に基づく利息額を収益として計上しなければなりません。
これは税法上でも決められていることです。
利息を受け取っていないのであれば、実質的な役員給与という扱いを受けます。
役員賞与として処理しなければならない
役員貸付金を法人の代表者などが返済できないというケースもあるでしょう。
その場合にでは債権放棄しましょうとも簡単にはいきません。
もし債権放棄してしまうと、無利息で貸し付けている場合と同様に役員賞与と解釈されます。
役員賞与扱いにされると、これは経費として認められません。
よってこれまた法人税の増額につながってしまって、法人の資金繰りがますます厳しいものとなってしまうわけです。
相続人に引き継がれる恐れ
役員貸付金は、法人の代表者など借り入れた側からすればそれは債務です。
もしこの法人代表者が借金を返済しないまま亡くなってしまうと、相続人に債務が引き継がれてしまいます。
相続は資産を受け継ぐものと思っている人も多いのですが、債務も負の遺産として相続しなければなりません。
役員貸付金が多いと、自分の子供など相続人が借金返済で苦労することになります。
ただし相続放棄をすれば、借金を引き継ぐこともなくなります。
しかしその場合、法人が不良債権を抱えることになってしまい経営の厳しくなる懸念が出てきます。
このように役員貸付金は百害あって一利なしの手法といえます。
役員貸付金を減少させる方法
上で紹介したように役員貸付金が多い状況で推移すると、銀行融資の審査が厳しくなる、法人税の負担が大きくなるなどいろいろなデメリットが考えられます。
法人経営を続けるうえで、致命的な事態になるとも限りません。
もし役員貸付金が必要以上に増えているのであれば、できる方法で速やかに削減を進めていくほかありません。
主な削減方法として、以下のようなアプローチが考えられます。
1.役員報酬の設定額を上乗せする
2.役員退職金に充当する
3.法人代表者が個人で借入を進める
4.資産があれば売却して貸付金を少なくする
5.生命保険を活用する
それぞれ具体的にどのような方法で減額すべきか、以下で詳しく見ていきますので参考にしてください。
役員報酬の設定額を上乗せする
役員報酬の設定額を上乗せする一方で、実際に受け取る金額はそのままにすることでその差額を精算する方法です。
この場合、どのように会計処理すればいいか実例をもとに紹介します。
例えば設定額を100万円、実際に受け取っている報酬は80万円だったと仮定します。
まず借方は役員報酬が勘定科目で100万円として処理します。
一方貸方は現金預金として80万円、これは手取り金額です。
そして残りの20万円を役員貸付金という勘定科目で処理するわけです。
ただしこの方法ですが、役員報酬の変更方法にルールのあることを理解しておかないといけません。
事業年度の開始から3か月以内に変更決定しないと、当該年度に役員報酬を上乗せできなくなります。
また役員報酬が増額すれば、役員の見た目の収入もアップします。
ということは、役員の税負担が大きくなってしまうので課税額をきちんと支払いできるのか慎重に判断する必要があります。
役員退職金に充当する
中には役員報酬を上乗せして役員貸付金を減らしても、なかなか減額しない場合もあるでしょう。
この場合退職金制度があれば、将来その人が受け取ることになっている退職金の受け取りを少なくする方法があります。
もし退職金で相殺しようと思っているのであれば、会計処理は次のようになります。
まず借方の勘定科目は「役員退職金」として処理します。
そして貸方の勘定科目は「役員貸付金」として処理をして、精算する形になります。
しかしこの処理方法は、実際に対象の役員が退職しないと適用できない点に注意しましょう。
退職金が実際に支給されないと処理できないので、それまでの役員貸付金の処理をどうすればいいか考える必要があります。
法人代表者が個人で借入を進める
法人代表者など役員貸付金を受けている人が個人的に借金して、そのお金を元手にして返済する方法もあります。
もしくは役員貸付金をファクタリングといって債権を買い取ってもらって処分する手法も候補として考えられます。
この場合、役員貸付金は減っていくので会社の財務体質を改善できます。
しかし個人の債務が増えてしまうので、その返済がきちんとできるかどうか慎重に判断しなければなりません。
また借金の申し込みをしても、審査に引っかかってしまう恐れもあります。
審査落ちして融資が受けられないとなると、別の方法を模索しなければなりません。
資産があれば売却して貸付金を少なくする
もし当該役員に何らかの資産があれば、それを売却してその売却益を使って返済を進める方法もあります。
特に近々金融機関から融資を受けようと思っている、すでに借入している場合にはおすすめの方法です。
しかしこの場合、本当にその資産を処分してもいいのか慎重に検討しなければなりません。
不要不急の資産、今後使うことはほぼないだろうと思われる資産から優先的に処分を進めていきましょう。
生命保険を活用する
生命保険を使った役員貸付金を精算する方法もあります。
それは役員貸付金精算プランと呼ばれるアプローチです。
まず法人で役員を被保険者とする生命保険に加入します。
この生命保険の保険証券を担保にして、役員が個人的に金融機関で借入します。
ここで受けた融資額を法人からの借入金の返済に充てる形です。
これも結局は役員が個人的に金融機関から借り入れる形になります。
借り入れた金額をきちんと返済できる当てがあるのか、慎重に検討する必要があります。
法人への貸付にも注意
ここまで法人から経営者など役員への貸付の問題点について紹介しました。
しかし中には経営者個人が法人に貸付を行っている場合もあるでしょう。
会社の資金繰りが悪化しているとき、一時的に改善するために経営者が法人に貸付を行うケースもあるようです。
ただしこの場合、経営者にも法人にも問題が生じる危険性がありますので注意しなければなりません。
法人代表者にとっての問題
代表者などが個人的に法人に貸し付けた場合、貸付債権を抱える形になります。
もし債権を抱えたままで代表者が死亡したと仮定します。
すると債権も相続財産の一部になりえます。
もし貸し付けた金額がそれなりの額になると、相続税が発生する可能性があります。
この時預貯金や不動産などの現有資産が十分でなければ、相続人が相続税を納税できない事態に発展する可能性があります。
特に赤字経営が続いている法人の場合、貸付金の回収は厳しくなるでしょう。
返済の見込みのない債権が相続資産になってしまい、残された家族にとって大きな負担の生じる危険性があります。
もし資金繰りがそれなりに良好で、返済資金が用意されているのであれば、速やかに返済に回して相続人の負担をできるだけ取り除く必要があります。
法人にとっての問題
法人が経営者から借り受けていて、そのままの状態にしておくと問題の生じる可能性があります。
同じく経営者が亡くなって、貸付債権が相続された場合に問題が起こります。
貸付債権を相続した相続人が、相続税を課税され納税できない事態に陥る可能性も十分あります。
この時法人に対して、返還請求を求めてくることもあります。
すると法人も自分自身の債務ですから、応えないといけません。
そうなると思わぬ出費がかさむことで、法人が今後資金調達に苦戦する恐れがあります。
また後継者が想定外の経営負担を背負い込んでしまうこともあり得るわけです。
このように代表者が個人的に法人に貸し付ける行為は、自分が亡くなったのちに問題が生じる可能性があります。
こちらも慎重に検討しなければなりません。
法人への貸付について解説のまとめ
法人が代表者など役員にお金を貸し付ける行為は、メリットはほとんどなくデメリットはいろいろと出てくるので控えるべきです。
特に金融機関の心証が良くなく、今後の融資にマイナスの影響を与えるので注意が必要です。
ですから役員貸付金はできることなら避けるべきと考えましょう。
もしどうしても貸付が必要であれば、短期間で返済できるめどが本当にあるのか、慎重に聞き取りしたうえで検討してください。
逆に経営者などが法人に貸し付ける場合、相続でもめる可能性があるので生前の段階までに処理を進めましょう。