起業ときくと、多くの事業資金を調達するとともに、いくつもの手続きとそれに伴う費用の支払いが必要に思われがちです。そのため、「起業=高いリスク」「十分なお金や経験がないと難しい」というイメージを持つ人も多いでしょう。特に未経験者や副業から始めたい人にとっては、生活が成り立つのか、安定した収益を得られるのかといった不安が先に立ち、なかなか一歩を踏み出せないケースも少なくありません。
しかし、個人事業主として事業を開始したいのであれば、住所地を管轄する税務署に開業届を提出するだけでスタートできるため、自己資金は0円で済みます。特別な条件や実績が不要で、申請も比較的簡単な点は、個人や副業向けの起業形態として大きな特徴といえるでしょう。スマホやパソコンが1台あれば始められる業種も多く、現在ではプログラミングやWeb制作、動画編集、SNS運用代行など、知識やスキルを活かしたビジネスモデルも人気を集めています。
また、株式会社や合同会社を設立する場合、手続きに必要な費用の支払いこそ求められるものの、資本金は1円からでも設立が可能になっています。以前のように何百万円、何千万円もの資本金を用意する必要はなく、個人での独立や小規模な事業展開を目指す人にとっては、起業のハードルは大きく下がったといえるでしょう。実際、少額資本で法人化し、実績を積みながら事業を拡大していくケースも数多く紹介されています。
したがって、起業自体は決してお金がかかるものではなく、法人設立を目指す場合であっても、以前のように多額の資金を用意する必要はないということがいえます。副業として始め、一定の収入や安定性を確認した後に本業へ切り替えるといった柔軟なプランも実現しやすくなっています。
ただ、事業の開始や会社設立自体は少ない資金でも問題ないとはいえ、開始する事業によっては、設備や機器の購入が必要であったりするなど、あらかじめまとまった資金を用意しておかなければならないケースもあるでしょう。たとえば、店舗型ビジネスやフランチャイズ契約を伴う業種では初期費用が万単位、場合によってはそれ以上かかることもあります。業界や業種ごとの特徴を確認し、自分に合った形を選ぶことが重要です。
また、会社を経営していくのであれば、資本金が1円だと金融機関からの信用に乏しく、融資を受けられないなどの影響を受ける可能性があるため、なるべく早いうちに増資を検討したいものです。銀行融資だけでなく、各種支援制度や補助金の活用も視野に入れることで、リスクを抑えながら安定した経営を目指すことができます。
資金が少ない中での開業だからこそ、支出を極力抑えられるアイデアや工夫、それに綿密な計画なども必要になります。たとえば、無料ツールや低コストのシステムを活用した管理、営業活動をSNS中心に行う対策、掲載サイトや案件探しのランキングを参考にした効率的な集客など、工夫次第で大きな差が生まれます。代行サービスを活用して不要な作業を減らすのも一つの方法でしょう。
現在では、未経験者向けに詳しい情報や詳細な内容を掲載したサイト、本や動画なども多く、成功事例や失敗事例から学べる環境が整っています。自分の強みやスキル、生活スタイルに合った業種を選び、複数の選択肢を比較・確認しながら進めることが、収益獲得と安定への近道といえます。
そこで、少ない資金で開業する際におさえておきたいポイントや、リスクを低く抑えながら成功を目指すための考え方について、次章で詳しく解説していきたいと思います。
資金0円で事業を継続するのは不可能

まず初めにおさえておかなければならないのは、“開業自体”は資金0円、または少額でも可能な事業もありますが、“事業継続”に関してはそうも言えないという点です。この違いを正しく理解しておくことは、分野や形態を問わず、これから立ち上げを考えるすべての人にとって非常に大切なポイントだといえるでしょう。
たとえば、個人事業主としてWebライター業を開始する場合、手持ちのパソコンとインターネットの接続環境さえあれば、機器を新調する必要もありませんので、開業資金を調達することなく、すぐに事業を開始できるでしょう。クラウドソーシングを活用すれば、海外を含む幅広い市場からクライアントを見つけることも可能で、「好き」や得意を活かして一人で働くという形態も選びやすくなっています。
しかし、事業継続という面で考えると、電気代やインターネットの接続費用など、諸々の経費の支払いが必須になります。これらは月々必ず発生する固定費であり、数ヶ月、半年、あるいは1年といった一定期間にわたって支払い続ける義務が生じます。売上が立たない期間であっても請求は止まらないため、どの程度の自己資金が必要なのかを具体的に把握しておく必要があります。
また、別途サブスクリプションのサービスを利用しなければならなかったり、コワーキングスペースなど自宅以外の場所で仕事をする場合などは、利用料の使用も必要になります。業務効率を上げるためのツールや、案件管理・請求書発行システムなど、「使える」サービスは多い反面、積み重なると大きな負担になる点には注意が必要です。家で仕事をするか、外で働くかといった選択一つでも、費用構造は大きく変わってきます。
もちろんそれらの費用は、利益を上げ続けられれば難なく支払うことも可能かと思いますが、事業に“確実”などという言葉は存在しません。既存のクライアントとの契約が更新されない、提案が通らず案件が途切れる、率が下がるといった課題は誰にでも起こり得ます。市場環境の変化や、海外競合の参入など、自分ではコントロールできない要因も少なくありません。
どれだけ努力を積み重ねても、思うように利益を上げられないなどという事態も考えられるわけです。特に立ち上げ初期は収入が安定せず、超過的に支出が増えるケースも多く見られます。そのため、「何ヶ月分の生活費と事業費を確保しておくべきか」「最低限どの程度の資金が必要か」を事前に構築しておくことが重要になります。
ですので、開業するのであれば、先々の費用の支払いを見越して、ある程度の自己資金を用意しておくのがベストであることは間違いないかと思います。具体的には、少なくとも3ヶ月〜6ヶ月程度の固定費と生活費をまかなえる資金を目安にすると安心でしょう。加えて、控除や経費計上などの制度についても理解を深めておけば、負担を抑えながら事業を続けることが可能になります。
事業の形態や分野によって必要な準備や注意点は様々ですが、「開業」と「継続」は別物であるという認識を持つことが、長く安定して働くための第一歩です。自分に合った立ち上げ方を選び、無理のない計画を立てることこそが、事業成功への近道だといえるでしょう。
ネットショップでの販売などコストを抑えられる選択を

パソコンやネット環境があるだけで開始できる事業がある一方、それだけでは成り立たない可能性をもつ事業もあります。事業の種類や規模、目的によって必要となる準備や料金、かかり方は大きく異なるため、創業者自身がその違いを正しく理解しておくことが重要です。特に「いくらあれば足りるのか」「いつまで持つのか」といった資金面の不安は、早期に解消しておくべき課題といえるでしょう。
たとえば小売業。
小売業を開始するにあたっては、当然ながら商品の製造や仕入れが必要になり、それにともなうコストの発生は避けられないものです。商品1台あたりの原価や仕入れロット、保管場所の確保など、在宅であっても空きスペースや管理体制が求められます。さらに、販売価格と手数料、送料を考慮しなければ、思ったほど稼げるモデルにならないケースも少なくありません。
さらに実店舗を構えようものなら、店舗の賃貸費や維持費など、より多くのコストがかかることになります。エリアや地域によって価格は大きく異なり、有名な立地や人通りの多い場所ほど高額になりがちです。内装工事や設備取得、看板作成なども含めると、100万円〜200万円以上の初期費用が必要になることも一般的で、創業初期の基盤としては大きな負担になり得ます。
そこで考えたいのが、ネットショップの運営です。
最近では、無料または低料金で開設・運営可能なサービスも増え、運営会社が提供するガイドや手順に沿って進めるだけで、手軽に出店できます。手数料は発生するものの、実店舗に比べれば最大限コストを抑えられる点は大きな価値です。また、アフェリエイトやメディア運営と組み合わせることで、独自の集客モデルを作り、差別化を図ることも可能です。
ネットショップであれば、在宅で運営できるため、女性や副業から始めたい人にも選ばれています。得意分野や専門知識を活かし、特定の商品に限定したり、価格競争を避けて価値を高める戦略も有効でしょう。さらに、SNSや動画メディアを活用することで、信頼や認知を高め、結果として受注数の向上につなげることもできます。
それでも実店舗での販売を望むようであれば、売上が伸び、事業が軌道に乗り切ってから実店舗を構えるなど、中長期的な視点で余裕をもった計画を立てるのが良いのではないかと思います。最初はポップアップ出店やイベント、空き店舗の短期利用など、直接顧客と接点を持ちながら検証する方法も最適です。
また、飲食業やサービス業など、ネット上のみでは展開が難しい事業もあります。飲食店やサロン、介護サービス、屋外型の販売屋などは、どうしても物理的な拠点が必要になります。その場合でも、いきなり大規模出店を目指すのではなく、規模を抑えたスタートや地域密着型モデルを選ぶことで、リスクを限定できます。
そういった事業を開始するにあたっては、なるべく賃貸費を抑えられる郊外やエリアを選ぶ、設備を最小限にする、研修やセミナーを活用して失敗を防ぐなどの工夫が欠かせません。税理士に相談して節税対策や青色申告、確定申告の準備を進めることも、事業を続ける上では大切です。会計ソフトを導入すれば、税金や申告の負担も軽減できるでしょう。
中には、資金が少ないにもかかわらず、たくさんの集客を期待して、いきなり一等地に出店するといったケースもみられますが、売上が伸びなければ、店舗の維持だけで精一杯になってしまうこともあります。結果として、1日も早く撤退を余儀なくされる例も珍しくありません。
ですので、少なくとも1年〜2年の間は事業を維持できるだけの資金を前もって用意しておくのが望ましいでしょう。事業モデルや業種ごとの違いを理解し、自分に合った選び方をすることが、安心して続けられる事業への第一歩です。信頼を積み重ね、目的に沿った形で運営を進めていくことが、長期的な成功につながるといえるでしょう。
会社設立であれば資本金の増資計画を立てておく

先にも述べた通り、今は会社の設立も資本金1円から行える時代です。制度上は誰でも、どこに住んでいても最短で法人を立ち上げられるようになり、独立や起業へのハードルは以前と比べて大きく下がりました。東京をはじめ全国各地で、個人が小さく事業を始めるケースも増えており、webサイトやSNS、youtubeなどのプラットフォームを使った発信を中心に、低予算でスタートできるビジネスモデルも多数登場しています。
しかし、実際に資本金が1円という会社はそれほど多くありません。制度としては可能であっても、現実の経営や取引の場面では、資本金の額が会社の評価や判断材料として見られるケースがほぼ避けられないからです。特に代表や社長として外部と関係を築いていく立場に立つと、その重要性を強く実感する場面も出てくるでしょう。
その最もたる理由を挙げるのであれば、どれだけ魅力的な事業を展開していようとも、会社としての信用度に欠けてしまうからということがいえます。たとえば、飲食店や専門店、フランチャイズへの参加を検討する際、あるいはマッチングサービスやプラットフォームに登録する際にも、資本金や財務状況を確認されることは珍しくありません。資本金が極端に少ない場合、「本当に継続できるのか」「毎月の家賃やランニングコストを支払えるのか」といった不安を相手に与えてしまう可能性があります。
会社の信用度が十分でなければ、金融機関はもとよりノンバンクからの融資を受けることも難しくなることが考えられるほか、企業によっては取引にあたって資本金の金額をもとに検討することもあり、資本金の少なさを理由に取引を断られるなどというケースも珍しくありません。これは飲食店に限らず、web制作、撮影、動画編集、youtuberやインフルエンサーとのコラボ、さらには専門性の高いサービスであっても同様です。
また、外部パートナーや業務委託先を探す際にも、会社の規模や資本金は「安心して仕事を任せられるか」を左右する要素になります。実績やデータがまだ少ない当初段階では、資本金がほぼ唯一の客観的な判断材料になることもあり、ここを軽視するのは得策とはいえません。
そのため、たとえ資本金1円で会社を設立した場合であっても、事業の成長とともに徐々に増資していけるような計画を立てておかなければならないのは確かでしょう。最初から高額な資本金を用意できなくても、段階的に増資することで、信用力を上げるチャンスは十分にあります。
増資の原資は、必ずしも外部からの出資だけではありません。黒字化を目指し、月収や利益の一部を内部留保として積み上げることも、長期的には有効な選択肢です。そのためには、毎月の収支を正しく把握し、無駄なコストを削減することが基本になります。家賃や月額サービス、専用ツールの利用料など、「本当に必要かどうか」を見直すだけでも、将来的な増資スピードは大きく変わってきます。
さらに、補助金や助成制度、外部支援をうまく使うことで、自己資金の負担を軽減しつつ事業拡大を図ることも可能です。調査や特集記事、専門家監修の本や資料を参考にしながら、自分の事業に合った制度を知ることが重要でしょう。分からない場合は、税理士や指導機関に聞くことで、所得税や法人税の扱いも含めて適切な判断がしやすくなります。
最近では、会員登録やログインをするだけで利用できるサービスも普及しており、世界中の情報やデータにアクセスできる環境が整っています。発信力を強化し、webサイトやyoutube、SNSを組み合わせることで、低い予算でも効果的に認知を広げることが可能です。フォロワーや顧客との関係を大切にしながら、少なくとも将来的な事業拡大を見据えた設計を行うことが、結果として資本金増強にもつながります。
資本金は単なる数字ではなく、「会社としてどの程度の覚悟と基盤を持っているか」を示す指標のひとつです。当初は小さく始め、状況に応じて柔軟に判断しながら増やしていく。その姿勢こそが、長期的に選ばれる会社、信頼される代表へと導いてくれるはずです。制度をそのまま鵜呑みにするのではなく、現実を見据えた計画を立てることが、これからの時代における賢い会社設立のあり方だといえるでしょう。
まとめ

今回は、0円または少ない資金で開業する際におさえておきたいポイントについて解説しました。近年は、日本全国で創業へのハードルが下がり、会社員からの独立やフリーランスへの転身、副業からの本格参入など、気軽に挑戦できる環境が整いつつあります。オンラインビジネスやスマートフォン、アプリを活用した新しい働き方も増加しており、1人でも始めやすい点は大きな魅力といえるでしょう。
最近では、開業資金を用意することなく始められる事業も多くある一方で、いざ事業の開始となれば、経費などの支出は避けられないため、ある程度の資金は準備しておいたほうが良いのは間違いありません。たとえば、広告費や各種ツールの利用料、会計ソフトの導入費用、顧客管理のためのシステムなど、無視できない支出はさまざまです。とくに初心者の場合、最初は想定外の出費が発生しやすく、資金不足が原因で赤字に陥るケースも少なくありません。
また、少額の資金で開業する場合であっても、なるべく初期投資は抑えるべきであるほか、少なくとも1〜2年は経営を維持できるだけの資金を確保しておくべきでしょう。これは飲食店や美容関連の店舗、在庫を抱える業態だけでなく、デザイン制作やコンサルティング、コンテンツ制作などの無形サービスにおいても同様です。
開業前には、以下のような視点を持つことが重要になります。まず、自身の趣味や経験、資格、スキルをどのように活かすかを明確にすることです。未経験分野に挑戦する場合でも、事前に資料を集め、事例を研究し、ノウハウを身につけることで失敗のリスクを下げることができます。近年はAIやマーケティング分野が注目されており、開発や広告運用、オンライン集客など、需要の高い分野に参入する人も増えています。
次に、事業の仕組みを理解することも欠かせません。収益源は何か、単価はいくらか、年間の平均的な売上や年収の目安はどの程度か、といった点を把握することで、現実的な計画が立てやすくなります。とくに在庫を持つビジネスでは、在庫管理や仕入れの負担が大きくなりがちなため、最小限の規模からスタートする工夫が必要です。
資金面の不安を軽減する手段として、補助金や助成金制度の活用も検討したいところです。国や自治体が提供する各種制度は対象や条件が異なるため、事前に確認し、自分に合ったものを選ぶことが大切です。法人化を検討している場合は、個人事業主との違いを理解したうえで判断することで、税務や会計面でのメリットを得やすくなります。
また、人材面も重要なポイントです。1人で行う事業であっても、将来的に業務を依頼したり、外注したりする可能性を見据えておくと、体制づくりがスムーズになります。顧客ニーズに合わせてサービス内容を柔軟に変えられることは、小規模事業ならではの強みでもあります。
さらに、開業後の活動を安定させるためには、継続的な学びと改善が欠かせません。新しいツールやマーケティング手法を取り入れたり、顧客の声をもとにサービスを改善したりすることで、収益を大きく伸ばせる可能性もあります。2025年に向けて市場環境はさらに変化すると考えられており、その変化に対応できる柔軟性こそが、長く稼ぐための重要なコツといえるでしょう。
0円開業や少額創業は、あくまでスタート地点に過ぎません。無理のない資金計画と、失敗を前提にしたリスク管理を行いながら、自分に合った形で事業を育てていくことが、結果的に大きな成果へとつながります。小さな一歩でも、正しい準備と判断を重ねることで、新たな挑戦は十分に実現可能なのです。





