法人経営において、代表者が常に重視しなければならないテーマの一つが「資金繰り」です。どれほど魅力的な商品やサービスを提供していても、支払いに必要な資金が不足すれば事業運営は立ち行かなくなります。そのため、多くの社では資金調達の方法や入金までにかかる期間、コストや手数料、さらには自社に与える影響などを比較しながら、最適な手段を模索しているのが実際のところでしょう。

法人が利用できる資金調達方法にはいくつかの違いがあり、銀行融資のように審査基準が厳しいものもあれば、比較的スピーディーに実行できるサービスも存在します。こうした資金調達手段の一覧を見ていく中で、近年注目が拡大しているのが「ABL(売掛債権担保融資)」です。

ABL(売掛債権担保融資)は、売掛債権や在庫などの資産を担保として設定し、融資を受ける方法で、資金繰りを重視する法人向けの手段として活用が進んでいます。債権譲渡を行うかどうか、契約内容や金額、入金までの最短日数、支払い条件などはサービスごとに異なり、自社の方針に合った選択が重要になります。

本記事では、ABL(売掛債権担保融資)の内容や特徴、実際に利用する際のポイントを整理しながら分かりやすく解説していきます。

ABL(売掛債権担保融資)のメリット

ABL(売掛債権担保融資)で資金調達している法人の代表者は少なくありません。
それはこの資金調達方法についてメリットがあるからです。
主なメリットとして、以下のようなポイントが考えられます。

1.資金調達がしやすい
2.内部管理体制を強化できる
3.財務改善効果が期待できる
4.金融機関と信頼関係を構築できる
5.赤字決算でも融資の可能性がある
6.長期的な利用が可能

それぞれ、どのようなところがメリットなのかについて詳しく紹介します。

メリット1:資金調達がしやすい

ABL(売掛債権担保融資)の大きなメリットの一つが、融資対象の幅が広く、資金調達のハードルが比較的低い点です。通常、法人が金融機関から融資を受ける際には、不動産などの担保や代表者個人の保証を求められるケースが多く、特にまとまった金額の借入を希望する場合には、その傾向が顕著になります。しかし、こうした担保を十分に用意できない法人も少なくありません。

特に、スタートアップ企業や創業間もない法人、個人事業主の場合、不動産などの固定資産を保有していないケースが多く、従来型の融資では審査の段階で不利になりがちです。また、担保となる資産を保有していたとしても、その評価額が低ければ、希望する金額まで借りられない可能性もあります。

その点、ABL(売掛債権担保融資)であれば、法人が日常の事業活動の中で保有している在庫や売掛債権といった動産を担保として活用できます。在庫や売掛債権は、多くの法人が保有している資産であるため、他の資金調達方法と比べて利用しやすく、実態に即した融資を受けやすいといえるでしょう。

さらにABLでは、単に担保の有無だけでなく、その背景にある付加価値も評価されることがあります。たとえば、在庫であれば商品力や製造技術、売掛債権であれば管理体制や取引先の信用力といった要素が加味されるケースもあります。このように、資産を多く持たない法人であっても、事業の実態や強みを活かして資金調達できる点は、資金繰りを安定させるうえで大きなメリットといえるでしょう。

メリット2:内部管理体制を強化できる

ABL(売掛債権担保融資)を利用することで、内部管理体制を強化できるのもメリットの一つです。
そもそも金融機関が担保を取るのは、債務者が返済できなくなった場合の保険です。
担保付きで融資する場合、金融機関は提供された担保にどのくらいの価値があるか慎重に判断します。

一般的に金融機関では、法人が提供を予定している担保について市場規模や管理状況なども総合的に判断して評価します。
ということは法人側としてみれば、担保として提供を検討している資産が少しでも高く評価されれば、それだけ多くの資金を引き出せます。
つまり内部管理体制を強化することで、より万全な管理体制を構築する必要が出てきます。

例えば売掛債権はABL(売掛債権担保融資)では担保として差し出すことができます。
この時債権に関して詳細に記録していれば、「管理体制がしっかりしている」と評価される可能性があるわけです。

メリット3:財務改善効果が期待できる

在庫や売掛金を多く抱えてしまうと、財務バランスはどうしても悪化してしまいます。
手元の資金が不足しがちになって、資金繰りが厳しくなります。

そこでABL(売掛債権担保融資)です。
ABL(売掛債権担保融資)であれば、多く抱え込んでしまっている在庫や売掛金を担保にできます。
担保力があると判断されれば、まとまった資金調達も可能になります。
その結果、資金繰りが大幅に改善する可能性もあります。

売掛や在庫が膨れ上がっている場合、長期の運転資金を導入することで資金繰りを安定化させるのがこれまでのセオリーでした。
しかしスタートアップ企業など、まだ法人としての信用力が十分でない場合、従来の方法ではなかなか資金調達できない恐れがあります。
一方ABL(売掛債権担保融資)であれば、抱えている在庫や売掛金に価値があると判断されれば、業歴の浅い法人でも資金調達できるかもしれません。

メリット4:金融機関と信頼関係を構築できる

ABL(売掛債権担保融資)によって資金調達した場合、法人は債権者である金融機関に対し定期的な報告義務が発生します。
金融機関としてみれば、法人から定期的に報告を受けることで経営状況がどうなっているか、逐一把握できます。
また金融機関は必要に応じて、法人に対して経営面でのアドバイスを行えます。

法人としてみれば、金融のプロからのアドバイスは大変参考になるはずです。
このように法人と金融機関が定期的にコミュニケーションをとることで、信頼関係を構築できます。
将来設備投資などで、まとまった資金をプロパー融資でお願いする際も審査面でプラスに働く可能性があります。

メリット5:赤字決算でも融資の可能性がある

一般論で借入の申し込みをする際、赤字決算の法人は審査が厳しくなります。
赤字だと資金繰りが厳しくなっていると推測でき、融資した債権が回収できない恐れが高いと判断されるからです。

しかしABL(売掛債権担保融資)の場合、赤字決算や多少債務超過に陥っているような法人でも前向きに検討してもらえる可能性が高いのもメリットの一つです。
ABL(売掛債権担保融資)の場合、在庫や売掛金を担保にしているため未回収になってもこちらを現金化することで損失を相殺できるからです。

信用力に乏しい法人でも担保に価値があれば、不足している信用を補完できます。
このためほかの資金調達方法と比較して、フレキシブルな審査が期待できるわけです。

メリット6:長期的な利用が可能

ABL(売掛債権担保融資)は、短期的な資金調達にとどまらず、継続的・長期的な利用を前提に設計されている点も大きなメリットといえます。たとえば在庫商品を担保として差し出した場合でも、一定量の在庫を維持していれば、通常どおり販売活動を行うことが可能で、事業運営に支障が出ることはありません。

売掛債権についても同様で、取引先との商取引が継続していれば、新たな売掛金が発生するため、担保としての価値を維持しながら資金調達を続けることができます。一部の売掛債権を回収・現金化した場合でも、残りの債権が担保として機能するため、柔軟な運用が可能です。

このように、在庫や売掛債権という事業活動と連動して常に入れ替わる資産を担保にできる点は、借りる側・貸す側の双方にとって合理的な仕組みといえるでしょう。結果として、返済と借入を繰り返しながら安定的に利用でき、資金繰りの見通しが立てやすくなります。中長期的なキャッシュフローの安定を目指す法人にとって、ABLは継続活用しやすい資金調達手段といえるでしょう。

どんな法人向け?ABL(売掛債権担保融資)におすすめなのは?

ABL(売掛債権担保融資)のメリットを踏まえて、どんな法人に適した資金調達なのか気になるところです。
ABL(売掛債権担保融資)におすすめな法人は主に以下の通りです。

1.中小企業や個人事業主
2.アパレル産業の法人
3.売掛先がたくさんある法人

それぞれなぜABL(売掛債権担保融資)を利用するのがメリットかについて、詳しく紹介します。

中小企業や個人事業主

ABL(売掛債権担保融資)を利用したほうがいいのは、中小企業や個人事業主など、まだ経営基盤が十分に強固とはいえない法人です。実際に、金融機関からの評価においても「中小企業の救世主」と呼ばれることがあるほど、資金繰りに悩む事業者にとって心強い選択肢とされています。

ABL(売掛債権担保融資)の大きなメリットのひとつが、不動産などの固定資産を保有していなくても融資を受けられる点です。中小企業や個人事業主の場合、設立から年数が浅かったり、規模が小さかったりすることから、土地や建物といった担保価値の高い資産を有していないケースも少なくありません。その結果、従来の銀行融資では「担保不足」を理由に、希望する金額の借入が難しくなる可能性が高いのが現実です。

一方で、不動産は持っていなくても、日々の事業活動の中で在庫や売掛債権を抱えている法人は非常に多いでしょう。たとえば、商品を仕入れて販売する業種であれば在庫が発生しますし、掛取引を行っていれば売掛金は必然的に生まれます。ABL(売掛債権担保融資)は、こうした在庫や売掛債権を担保として評価するため、これまで資金調達が難しかった法人にも融資の可能性が広がります。

さらに、売掛債権の取引先が複数あり、分散されている場合や、信用力の高い企業との取引実績がある場合には、担保価値が高く評価されることもあります。その結果、事業規模に見合った、満足度の高い融資金額を確保できる可能性も十分に考えられるでしょう。

このようにABL(売掛債権担保融資)は、資産構成の特徴を活かした柔軟な資金調達方法であり、従来の融資では資金確保が難しかった中小企業や個人事業主にとって、現実的かつ有効な選択肢のひとつだといえます。

アパレル産業の法人

アパレル業を営んでいる法人も、ABL(売掛債権担保融資)との相性が非常に良い業種のひとつだと考えられます。その理由として挙げられるのが、**アパレル業界特有の「在庫を多く抱えやすい事業構造」**です。ほかの業種と比較しても、商品点数やSKUが多く、一定量の在庫を常に保有しているケースが多いため、ABLにおける担保評価の対象となりやすい傾向があります。

アパレル業界は、大量生産・大量消費を前提としたビジネスモデルが根付いている分野です。日本国内だけを見ても、年間およそ100万トンもの衣服が廃棄されているとされており、余剰在庫の数は年間14億点にのぼるともいわれています。これは年間生産量のおよそ半分に相当する規模であり、アパレル業界が常に在庫リスクと隣り合わせで事業を行っていることを示しています。

その背景には、トレンドの移り変わりが非常に激しいというアパレル業界ならではの事情があります。流行のサイクルが短く、消費者のニーズも目まぐるしく変化するため、「必要な分だけを生産する」よりも、「短期間でできるだけ多く生産し、販売機会を最大化する」戦略を選ぶ企業が多くなりがちです。その結果、販売機会を逃さない一方で、一定数の在庫が残る構造が生まれやすくなります。

一般的な資金調達では、こうした余剰在庫は「資金繰りを圧迫する要因」や「評価が下がる要素」としてマイナスに捉えられることも少なくありません。しかし、ABL(売掛債権担保融資)においては、在庫そのものが担保として評価されるため、余剰在庫が必ずしも不利になるとは限りません。むしろ、管理体制が整っており、商品価値が一定程度維持されている在庫であれば、融資可能額を押し上げるプラス要素として働く可能性があります。

また、アパレル企業は卸売や小売との掛取引が多く、売掛債権を安定的に保有しているケースも少なくありません。在庫と売掛債権の両方を担保対象とできるABLであれば、事業の特性を活かした資金調達が可能となり、季節変動や繁忙期に合わせた柔軟な資金繰りにも対応しやすくなります。

このように、在庫を多く抱えることが避けられないアパレル業界において、ABL(売掛債権担保融資)は、在庫リスクを資金調達の強みに転換できる手段として、有力な選択肢のひとつといえるでしょう。

売掛先がたくさんある法人

いろいろな取引先を持ち、多様な売掛債権を保有している法人も、ABL(売掛債権担保融資)との相性が非常に良いといえます。売掛債権が複数の取引先に分散している状態は、担保としてのリスクが分散されていることを意味し、金融機関からの評価が高まりやすい傾向があります。

仮に、取引先のうちの一社で支払い遅延や債務不履行といったトラブルが発生したとしても、他に安定した売掛債権があれば、全体としての回収不能リスクは抑えられます。売掛先が一社に集中している場合と比べ、複数の取引先から売掛金が発生している法人は、資金回収の安定性が高いと判断されやすく、ABLの審査においても有利に働きます。

特に、売掛金の金額が一定程度まとまっており、かつ継続的に発生している場合は、将来にわたって安定したキャッシュフローが見込めると評価されやすくなります。ABLでは、単に売掛債権の総額だけでなく、「取引先の数」「取引の継続性」「過去の回収実績」なども含めて総合的に審査が行われるため、多様な売掛先を持つこと自体が大きな強みになります。

また、売掛先の中に上場企業や業界内で信用力の高い大手企業が含まれている場合、さらに評価は高まります。大手企業は経営基盤が安定しており、倒産や長期未回収のリスクが低いと見なされるため、売掛債権の信用度が高くなります。その結果、融資可能額が増えたり、条件が緩和されたりする可能性もあります。

さらに、多様な売掛債権を管理できているという事実は、法人の内部管理体制が整っている証拠としても評価されます。取引先ごとの請求書発行、入金管理、回収状況の把握などが適切に行われていれば、「債権管理能力が高い法人」と判断され、ABLの審査基準においてプラスに働くことが少なくありません。

このように、複数の取引先と安定した取引関係を築き、多様な売掛債権を保有している法人は、ABL(売掛債権担保融資)を通じて自社の強みを資金調達に活かしやすい状況にあります。売掛債権を単なる未回収リスクとして捉えるのではなく、資金繰りを支える有効な資産として活用できる点が、ABLの大きな魅力といえるでしょう。

まとめ:ABL(売掛債権担保融資)のメリットはたくさん・有効活用しよう

ABL(売掛債権担保融資)は、不動産担保融資とは異なり、在庫や売掛債権といった動産を担保に資金調達を行うファイナンス手法です。そのため、不動産を保有していない中小企業や創業間もない法人、場合によっては個人事業主にとっても、有効な資金繰り対策となり得ます。保証人が不要なケースも多く、代表者個人の過度な負担を抑えられる点も大きな特徴です。

特に、キャッシュフローが売掛金の回収時期に左右されやすい事業では、ABLを活用することで資金の早期確保が可能となり、支払い遅延や資金ショート、最悪の場合の倒産リスクを回避できる可能性があります。実際、売掛債権の買取や請求管理と組み合わせた支援サービスも増えており、スピード性を重視する事業者にとっては魅力的な選択肢といえるでしょう。

一方で、ABLを利用する際には注意点も存在します。例えば、利息や手数料といった費用がどの程度かかるのか、上限金額はいくらなのか、どの書類を提出する必要があるのかといった点は、事前にしっかり確認しておく必要があります。契約時には金銭消費貸借契約や債権譲渡に関する契約書を取り交わすため、内容を十分に理解したうえで申込みを行うことが重要です。個人情報保護の観点からも、運営会社の実績や管理体制、登記情報などをチェックしておくと安心でしょう。

また、ABLと動産担保融資、売掛債権買取(ファクタリング)などは似ているようで仕組みや目的が異なります。どちらを選ぶべきかは、資金調達の目的、必要な金額、返済計画、与信状況、今後の成長戦略によって変わります。そのため、「早く資金を得たい」「長期的に安定した資金調達をしたい」など、自社の計画に照らし合わせて選び方を検討することが欠かせません。

最近では、オンラインで申込みから手続きまで完結できるサービスや、無料相談を受け付けているサイトも増えています。資料請求や事例紹介を通じて、実際にどの程度の資金調達が可能なのか、税金面での影響はあるのかといった点を比較・検討するとよいでしょう。疑問点があれば、専門家への質問や監修記事を参考にするのも有効です。

ABL(売掛債権担保融資)は万能ではありませんが、正しく理解し、自社の状況に合った形で活用すれば、資金繰りの改善や事業の安定運営に大きく貢献します。本記事で紹介したメリットや注意点を踏まえたうえで、自社にとって最適な資金調達方法を選び、計画的な経営判断につなげていきましょう。