企業が資金繰りの見直しを行う時、まず検討される取り組みのひとつが経費削減です。コスト削減は、多くの企業にとって避けて通れない重要な経営課題であり、2024年現在においても、固定費や毎月発生する支出をいかに抑えるかが経営の安定を左右するポイントとなっています。賃料や通信費、交通費、消耗品の購入費用など、日々の事業活動の中にはさまざまなコストが含まれており、それらを正しく把握し、無駄を見直すことが求められます。

余分なコストをカットするなど、効果的に経費を削減できれば、資金の節約につながるだけでなく、経営や事業の安定化やさらなる展開にも期待できるものです。たとえば、使用頻度の低いサービス料金の見直しや、印刷・紙の使用を減らすペーパーレス化、不要な出張の削減といった取り組みは、生産性を落とさずにコスト削減を実現できる有効な手段として紹介されることも多くあります。こうした改善を積み重ねることで、結果として経営全体の効率化や業務の質の向上につながるケースも少なくありません。

しかしその一方で、目先の成果のみを求めて安易かつ闇雲に経費を削減すると、その後に思わぬ悪影響やトラブルをもたらすことも考えられます。たとえば、主な業務に必要な資料作成や情報共有のためのコスト、従業者の負担軽減につながる仕組みまで削減してしまうと、業務の質が低下し、かえって生産性が落ちる原因となります。経費削減は「削ること」自体が目的ではなく、経営改善を実現するための手段であるという意識が欠かせません。

そのため、経費削減に取り組む際には、現在の支出内容や金額を管理し、どの費用が不要で、どこに改善の余地があるのかを冷静に見直すことが重要です。コスト削減を成功させるためには、理由や目的を明確にしたうえで、自社に合ったプランを立て、段階的に取り組む姿勢が求められるでしょう。では、企業が経費削減を進める時、具体的にどのような点に注意すべきなのでしょうか。

経費削減を実行する上で考えられるリスク

経費削減を実行する上で考えられるリスク

まずは、企業が経費削減を実行することによって、業務や従業員にどのような影響を与える可能性があるのか考えてみましょう。

・従業員のモチベーション低下

1つめは従業員のモチベーションの低下です。

企業の多くは従業員を抱えており、企業が営業活動を通じて利益を生み出すためには、従業員の働きが不可欠です。各部署や店舗で行われる日々の作業一つひとつが積み重なり、最終的な成果や目標の達成につながっています。そのため、従業員が持つ力を最大限に引き出せる環境づくりは、経営の基本ともいえるでしょう。

そして、従業員のモチベーションが高ければ高いほど、大きな成果を得られる可能性は高まることでしょう。業務フローが円滑に回り、ミスや手戻りが減ることで、年間を通じた生産性の向上や品質の安定といったよい循環が生まれます。逆に、モチベーション低下は業務効率の悪化や離職リスクの増加を招き、万が一人材が不足すれば、コア業務の継続にも影響を及ぼしかねません。

そういった点からも、企業としては、従業員のモチベーションを高められるような施策を積極的に実行していきたいところですが、それには当然ながら経費の捻出が求められるものが多くあります。たとえば、基本給や賞与のアップ、さらには福利厚生や社内設備の充実などは代表的な施策ですが、これらには初期コストや継続的な支出が伴います。

もちろん、お金をかければかけるほど、従業員の満足度が高まるというわけではありませんが、あまりにも極端な経費削減を実行すれば、従業員のモチベーションはたちまち低下し、結果的に利益の低下にまでつながる可能性は十分に考えられます。たとえば、光熱費や備品費を一律に削減した結果、職場環境が悪化したり、必要な品が不足したりすれば、現場の不満は高まりやすくなります。

そのため、経費削減を検討する際には、何を優先すべきかを分析し、削減対象の選び方を慎重に検証することが重要です。マニュアル整備や業務プロセスの見直し、制度申請の簡素化など、必ずしも多額の投資を行わずとも、従業員の働きやすさを高める施策は存在します。経費削減と従業員満足のバランスを意識し、達成すべき目標に向けて最適な判断を行うことが、長期的に見て企業全体の成長につながるのです。

・顧客からの信用度の低下

2つめは顧客からの信用度の低下です。
経費削減によって、低下が考えられるのは従業員のモチベーションだけではありません。企業活動において顧客との関係は本来、長期的な視点で築いていくべきものであり、短期的なコスト削減の判断が将来の信頼を損なうケースも少なくありません。

顧客に対して直接的に影響を与えるような経費削減。
これは特に注意が必要なポイントです。たとえば、商品やサービスの品質低下を招きかねない原料面や内容面のコストカット、それに顧客対応にあたる従業員の技術や知識の向上を妨げてしまうような育成費のカットなどが行われれば、顧客からの信用度を落とす可能性があるでしょう。

近年では、働き方改革の進展により、顧客対応の型やルールも多様化しています。パソコンや各種システムを使うことで業務効率は向上しますが、人員削減や専門人材の育成廃止を無理に進めた結果、やり取りに手間が増え、対応の質が落ちてしまうケースも見受けられます。個人情報や契約内容といった重要な書類を扱う場面では、複数人での確認や再チェックが不可欠であり、これを省略することは大きなリスクにつながります。

また、備品の削減や安価なツールへの切り替えによって、現場の作業効率が低下し、顧客対応に時間がかかるようになれば、不満が増えやすくなります。短期的には経費が抑えられたように見えても、結果としてクレーム対応や信頼回復に余計なコストが発生することもあり、長期的に見ればマイナスとなる場合もあります。

そのため、経費削減を進める際には、計画的に進めることが重要です。他社事例や参考資料、本などを比較しながら、自社にとって顧客満足度の維持・向上に貢献する取り組みは何かを検討する必要があります。顧客と関わる領域のコストについては、短期の数字だけで判断せず、協力体制や信頼関係を維持する視点を持つことが、結果的に企業価値を高めることにつながるのです。

・業務効率の低下

3つめは業務効率の低下です。
それぞれの業種によって必要になる設備やツールは様々であり、仕事の内容や分野、社員の人数や働き方によっても最適な環境は異なります。近年では、業務のデジタル化や省スペース化が進み、安価な機器やサービスも増加していますが、価格だけを見て選択すると、かえって運用が難しいケースも少なくありません。

業務に不可欠なモノのコストまでをカットしてしまうと、業務効率は大きく低下することが予想され、結果的に経費削減には成功しても利益の低下を招いてしまう恐れがあります。たとえば、社員が集中して作業を行うために必要な機器や、日々の業務を支えるシステムを十分に検証せずに縮小・撤廃してしまうと、作業回数が増えたり、確認や修正に余計な時間がかかるようになります。

また、安価なツールに切り替えた結果、操作性が悪く、作成作業に時間を要したり、社内での評価が下がることもあります。業務効率化を目指すはずの取り組みが、逆に社員の負担を増やし、仕事の質を落としてしまうのは本末転倒といえるでしょう。特に、業種ならではの専門的な運用が必要な分野では、新たな仕組みの構築や導入に十分な見積もりと検討が欠かせません。

さらに、設備やツールの削減によって作業スペースが狭くなったり、必要な資料やデータにすぐアクセスできない環境になると、業務の流れが分断され、直接的に生産性の低下につながります。社員一人ひとりの仕事に合った環境を整えることは、結果として業務全体の効率向上に役立つ重要な要素です。

経費削減を進める際には、「最後に何が残るのか」「その削減が本当に業務にとってプラスなのか」を冷静に見極める必要があります。単にコストを下げるのではなく、業務効率と利益の両立を目指す視点を持つことが、持続的な経営につながるといえるでしょう。

避けたい経費削減策

避けたい経費削減策

さて、経費削減によって社内外へ与えかねない影響を確認できたところで、次は具体的にどのような経費削減は避けるべきなのかを、上記3つの視点から考えていきましょう。

・給与のカットやリストラを伴う人件費の削減

おそらく、多くの企業が経費削減を図る際に最初に検討しがちなのが、人件費の削減かと思います。
確かに、人件費は企業の経費の中でも大きな割合を占める項目であり、固定費として毎月発生するため、削減できれば短期的なコスト圧縮につながりやすい側面があります。

それだけに、従業員の基本給や賞与をできる限りカット、もしくはリストラを断行できれば、経費削減の効果は十分にあらわれることが期待できるでしょう。しかし、こうした手法は即効性がある反面、企業活動の根幹に大きな影響を及ぼすリスクも併せ持っています。

上記でも触れたように、企業が営業活動を経て高い利益を上げるためには、従業員のモチベーションの維持と向上が不可欠です。従業員一人ひとりの働きが企業の成果に直結する以上、その意欲や満足度を軽視した経費削減は、長期的に見てマイナスに作用する可能性が高いといえます。

従業員にとって給与は生活の基盤であり、“働く”目的のひとつであることは言うまでもありません。経費削減が目的とはいえ、大切な給与をカットされる、もしくはリストラが行われるようなことがあれば、従業員のモチベーションが大きく低下するのは当然であり、企業としても優秀な人材の流出を招く可能性があります。その結果、採用や教育に新たなコストが発生し、かえって経営負担が増すケースも少なくありません。

そのため、まずは人件費以外に削減できる経費がないかを徹底的に洗い出し、業務プロセスや固定費の見直しを優先すべきでしょう。それでもなお人件費の削減が必要な場合には、残業代の削減や成果主義の導入が可能か検討するなど、従業員への影響を最小限に抑える工夫が求められます。
安易に給与のカットやリストラを断行する経費削減策は控えたいところであり、企業の持続的な成長を見据えた慎重な判断が不可欠だといえるでしょう。

・商品やサービスの質が低下する経費削減

人件費と同様に、大きなウェイトを占める経費が自社で手がける商品やサービスにかかる費用です。事業内容によっては、材料費や外注費、研究開発費、システム開発費などが継続的に発生し、経費全体の中でも高い割合を占めるケースは少なくありません。

確かに、これらの経費を見直し、削減することで一時的に利益率が改善することもあるでしょう。しかし、材料の品質を落としたり、開発工程を簡略化したりといった安易なコストカットを行った場合、中長期的には品質の低下を招いて顧客からの信用を失い、最終的には売り上げを落とす可能性が考えられます。特に、商品やサービスの価値が企業のブランド力や競争力に直結している場合、その影響はより深刻なものとなります。

経費節減とは、そもそも資金の節約によって事業の維持と発展を図るのが目的のひとつです。そのため、コストを下げること自体が目的化してしまい、結果として顧客満足度やリピート率を下げてしまっては意味がありません。短期的な数値改善だけに目を向けるのではなく、将来的な事業成長とのバランスを考える視点が不可欠です。

したがって、経費削減を検討する際には、単純に「削る」のではなく、仕入れ先と粘り強く価格交渉を行う、調達方法を見直す、工程の効率化を図るなど、質を維持したままコストを抑える方法を模索することが重要です。事業の核となる商品やサービスの質をいかに維持できるかを考慮に入れて行うことで、経費削減と売上・信頼の両立が可能となり、持続的な経営につながるといえるでしょう。

・設備やツールなどにかかる費用の削減

事業を遂行する、または効率的に業務を進めるにあたって、必要不可欠な設備やツールはどんな業種にも存在するものであり、それらの導入や維持には、もちろん費用が発生します。

たとえば、複合機を利用するにあたっては多くの企業がリース契約を交わしているため、定期的にリース代の支払いをしているかと思います。

また最近では、サブスクリプションによる契約によって利用できるソフトやシステムも多くあり、これらは設備などのリース代金と同じように、定期的な支払いが必要になります。

そういった設備やツールの費用も、経費削減の対象になりやすい項目ですが、あまりにも極端に削るようなことになると、事業の滞りや業務の効率性が失われるといった事態に陥りかねません。

例を挙げるとすれば、設備のメンテナンスを怠ることやスペックを下げたツールに変更するなどにより、故障が生じて生産がストップしてしまったり、業務の完了までに時間や労力がかかって従業員のフラストレーションが蓄積されるといったことも起こりうるでしょう。

そうした事態を避けるためにも、設備やツールの質を低下させるような経費削減は控えたいところです。

まとめ

経費削減は、企業経営において非常に重要なテーマであり、資金繰りの改善や利益体質への転換を目指すうえで欠かせない取り組みです。しかし本記事で見てきた通り、経費削減は単に支出を減らせばよいというものではなく、進め方を誤ると業務効率化どころか、生産性の低下や従業員の離職、取引先との関係悪化など、さまざまな問題を引き起こすリスクを持っています。そのため、経費削減に取り組む際には「何を減らすのか」「なぜ減らすのか」を明確にし、全体のバランスを考えた慎重な判断が求められます。

まず重要なのは、自社の現状を正しく把握することです。経理データや会計情報をもとに、支出の種類や金額、毎月かかっている固定費、変動費の数を洗い出し、どこに無駄が含まれているのかを理解する必要があります。賃料や通信料、水道・電力といったインフラ費用、コピー用紙やインクなどの消耗品費、交際費や接待費、出張費、交通費など、支出は部署ごと・業務ごとに細かく分かれています。こうしたデータを全体で共有し、見える化することが、経費削減の第一歩といえるでしょう。

そのうえで、削減すべき対象は「業務に直接的な価値を生まない部分」に絞ることが重要です。たとえば、従来の紙ベースの書類管理やコピー中心の業務は、デジタル化やクラウドサービスへの切り替えによって大幅に削減できるケースが多く見られます。ペーパーレス化を進めることで、コピー用紙やインク代の軽減だけでなく、保管場所の縮小や作業時間の短縮といった効果も期待できます。実際、クラウド会計やデータ共有ツールを導入した事例では、経理作業や精算業務の手間が減り、業務効率化につながったという声も多く挙げられています。

また、出張費や会議にかかるコストについても見直しの余地があります。オンライン会議システムを活用すれば、移動時間や交通費、出張費を抑えつつ、情報共有や意思決定のスピードを向上させることが可能です。特に2025年に向けては、デジタル環境を前提としたオペレーションが一般化しつつあり、従来のやり方に固執すること自体がコスト増につながる場合もあります。

一方で、人件費や教育費、採用関連のコストについては慎重な対応が必要です。従業員は企業にとって最大のリソースであり、短期的なコスト削減を目的に給与カットや教育の縮小を行えば、モチベーション低下や離職を招き、長期的にはより大きな負担となる可能性があります。そのため、人に関わる費用は「削る」のではなく、「投資としてどう活かすか」という視点で考えることが重要です。業務効率化ツールの導入や教育プロセスの改善は、結果的に作業時間を減らし、全体の生産性を高める対策となります。

さらに、エネルギーコストや通信費についても、見直し次第で大きな削減効果が期待できます。電力会社の切り替えや省エネ製品の導入、通信プランの更新などは、比較的導入しやすく、効果も分かりやすい分野です。自治体によっては、省エネ設備や業務効率化に関する補助制度を提供しているケースもあり、無料でダウンロードできる資料やソリューションを活用することで、初期投資を抑えながら対策を進めることも可能です。

経費削減を成功させるためには、目標を明確にし、削減ありきではなく「最適化」を指す姿勢が欠かせません。どの支出を減らし、どこには投資を行うのか。その判断基準を社内で周知し、総務や経理だけでなく、各部署が自分ごととして考える仕組みを作ることが重要です。クレジットカードや法人カードによる支出管理、精算プロセスの簡略化なども、管理負担を軽減し、全体の運営効率を高めるアイデアのひとつといえるでしょう。

経費削減は一度行って終わりではなく、継続的に見直すべき取り組みです。現状やニーズは時間とともに変化しますし、新規製品やサービス、人気のソリューションが登場することで、より良い選択肢が見つかることもあります。そのため、定期的に状況を確認し、「今のやり方が最適か」「ほかに良い案はないか」と考え続けることが、長期的な経営安定につながります。

本記事で紹介した考え方や事例を参考に、自社に合った経費削減の仕組みを構築し、無理のない形で支出を抑えながら、持続的な成長を実現していきましょう。経費削減はコストを減らすだけでなく、企業の体質を強くし、次の成長ステージへ進むための重要な経営判断のひとつなのです。