事業資金融資で注意すべき「総量規制」について銀行員が解説

「事業資金融資を受けるときには総量規制に注意が必要と聞いたけど、それってなに?」
この記事では、そんな疑問に対し銀行員が基本的な部分からわかりやすく説明しますので、事業資金融資で資金調達する参考にしてください。

事業資金融資と総量規制

総量規制は、生活費や事業資金など、お金に困った個人がお金を借り過ぎること、また融資をする貸金業者も借り過ぎないようにすること、この「借り過ぎ貸し過ぎ」を防ぐために作られた規制です。
事業資金融資を受けるときにも大きく影響してくるので、まずは言葉の意味から解説を始めていきます。

言葉の意味と定義~事業資金融資では重要

総量規制は多重債務の防止と融資利用者の保護を目的にした貸金業界の自主規制ルールで、お金の貸し借りに関する「貸金業法」が改正されたことをきっかけに導入されたものです。
対象は個人事業主などの個人で、株式会社など法人は対象外です。

「どこの」「何のための」規制なのか?~事業資金融資も対象

「貸金業界の自主規制ルール」と説明しましたが、自主規制ルールとは言え、法律に基づいた決まり事なので、貸金業者は遵守(じゅんしゅ・しっかりとルールを守ること)します。
ここで出てきた貸金業者とは、文字通り事業資金を融資するためお金を貸付ける業者(「財務局」または「都道府県」に届け出て登録されている正規の金融業者)のことを指します。
具体的な貸金業者の例として、事業資金融資を扱う「消費者金融」「事業者金融(ビジネスローン会社)」などがあげられます。
ちなみに銀行や信用金庫なども事業資金融資を取り扱っていますが、こちらは金融機関であり、貸金業者には該当しません。
もともとが貸金業者の規制なので、総量規制を逸脱した事業資金融資を受けられないケースもあるので注意が必要なのです。

お借入れは年収の3分の1までです

過度な借入れから消費者の皆さまを守るために、年収などを基準に、その3分の1を超える貸付けが原則禁止されています(総量規制)。例えば、年収300万円の方が貸金業者から借入れできる合計額は、最大で100万円となります。

解説
借り手の収入や借入状況、借入目的などに応じた適切な貸付条件などに照らして、借り手が返済期間内に完済することが合理的に見込まれない貸付け、つまり、「返済能力を超える貸付け」は禁止されています。
この「返済能力を超える貸付け」に該当するか否かを判断する基準の一つとして、新たな貸付けにより借入残高が、年収の3分の1を超える場合に、原則として返済能力を超えるものとして禁止されるのが、いわゆる総量規制です。

日本貸金業協会/貸金業法について/お借入れは年収の3分の1まで(総量規制について)
https://www.j-fsa.or.jp/association/money_lending/law/annual_income.php#:~:text=%E9%81%8E%E5%BA%A6%E3%81%AA%E5%80%9F%E5%85%A5%E3%82%8C%E3%81%8B%E3%82%89%E6%B6%88%E8%B2%BB,100%E4%B8%87%E5%86%86%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

では引用や説明したことも振り返りながら、もう少し詳しく、ポイントを3つにしぼって説明していくことにします。

 <総量規制~事業資金融資に関係する3つのポイント>
 ①「貸してはいけない」という規制
 ②「除外貸付」と「例外貸付」
 ③年収の3分の1を超える借入はできない

事業資金融資に関係するポイント①「貸してはいけない」という規制

あくまで事業資金融資を扱う貸金業者などお金の「貸し手」に対し「貸してはいけない」とストップをかけるルール、という位置づけなので、正当に事業資金融資を申し込み、仮に業者の確認不徹底や意図的な逸脱で規制を超えていたからと言って、事業資金融資を受けた側が罰せられたり、罪に問われたりすることはありません。
もちろん虚偽や偽装が発覚した場合は別で、そうなった場合、事業資金融資を受けられませんし、最悪では詐欺など犯罪に問われる可能性もあります。

もっとも、貸金業者が意図的に規制を逸脱することは考えられません。
ただしいわゆる「闇金」などは、そもそも認可を受けた正規の貸金業者ではなく、総量規制も含め一般的なルールは適用されないので、注意が必要です。

事業資金融資に関係するポイント②「除外貸付」と「例外貸付」

この規制には「除外貸付」と「例外貸付」という特別に規制の対象外となる貸付(事業資金融資)があります。2つとも同じような呼び方でわかりにくいので、それぞれ説明していきます。

除外貸付

除外貸付けとは、人間が生活していく根幹の部分、つまり真に必要なお金として、規制の対象外になるもので、住宅ローンなどが該当します。

総量規制にかかわらず、お借入れできる貸付けの契約があります
総量規制になじまない貸付け(総量規制の「除外貸付け」)や、顧客の利益の保護に支障を生ずることがない貸付け(総量規制の「例外貸付け」)については、たとえ、年収3分の1を超えても返済能力があると認められれば貸金業者から借入れすることができます。

総量規制の「除外貸付け」に分類される契約

次の貸付けは、総量規制になじまない貸付けとして、総量規制の「除外貸付け」に分類されます。総量規制にかかわらず借入れが可能で、借入額が借入残高に算入されないため、その後の借入れには影響を与えません。
①不動産購入のための貸付け(いわゆる住宅ローン)
②自動車購入時の自動車担保貸付け(いわゆる自動車ローン)
③高額療養費の貸付け
④有価証券を担保とする貸付け
⑤不動産(個人顧客または担保提供者の居宅などを除く)を担保とする貸付け
⑥売却予定不動産の売却代金により返済される貸付け

日本貸金業協会/貸金業法について/総量規制が適用されない場合について
https://www.j-fsa.or.jp/association/money_lending/law/total_regulation.php

例外貸付

いっぽうの例外貸付とは、利用者の利益を保護する目的があれば規制を超えて例外的に借入できるものです。
代表的なものでは、個人がすでに事業資金融資を利用していて、今度事業資金融資を受けると規制を超える(年収の3分の1を超える)場合であっても、事業計画などで返済が可能だと貸金業者が判断した場合には、例外的に事業資金融資の借入が可能になる場合があります。
また複数の事業資金融資をまとめて一本化するいわゆる「おまとめローン」も例外貸付のひとつです。

総量規制の「例外貸付け」に分類される契約

次の貸付けは、顧客の利益の保護に支障を生ずることがない貸付けとして、総量規制の「例外貸付け」に分類されます。総量規制にかかわらず借入れは可能ですが、借入額が借入残高に算入されますので、借入残高が総量規制の基準を超過した場合、その後、「除外貸付け」や「例外貸付け」を除いて借入れができなくなります。
①顧客に一方的に有利となる借換え
②借入残高を段階的に減少させるための借換え
③顧客やその親族などの緊急に必要と認められる医療費を支払うための資金の貸付け
④社会通念上 緊急に必要と認められる費用を支払うための資金(10万円以下、3か月以内の返済などが要件)の貸付け
⑤配偶者と併せた年収3分の1以下の貸付け(配偶者の同意が必要)
⑥個人事業者に対する貸付け(事業計画、収支計画、資金計画により、返済能力を超えないと認められる場合)
⑦新たに事業を営む個人事業者に対する貸付け(要件は、上記⑥と同様。)
⑧預金取扱金融機関からの貸付けを受けるまでの「つなぎ資金」に係る貸付け(貸付けが行われることが確実であることが確認でき、1か月以内の返済であることが要件)

日本貸金業協会/貸金業法について/総量規制が適用されない場合について
https://www.j-fsa.or.jp/association/money_lending/law/total_regulation.php

事業資金融資に関係するポイント③年収の3分の1を超える借入はできない

そして最も重要、というより最も知られているのが「事業資金融資を含めて、個人の年収の3分の1を超える貸付はできない」という点です。
ここで注意すべきなのは、個人の借入はすべて含まれるという点(除外貸付、例外貸付は除く)なので、個人事業主が事業資金と、個人的なカードローン、クレジットのキャッシングで年収の3分の1を超えたなら、次の事業資金融資は受けられないのです。
ただしここでいう次の事業資金融資とは、あくまで貸金業者が扱う事業資金融資であり、金融機関の事業資金融資ではありません。
とはいえ、そもそも年収の3分の1を超える事業資金融資がある人なら、金融機関で追加の事業資金融資を受けるのもむずかしいことが予想されます。

Q2-12. 銀行(信用金庫、信用組合、労働金庫、農協等)からの借入れも合わせると、借入残高が年収の3分の1を超えてしまいます。これ以上の借入れはできないのですか?

A2-12. 総量規制は、貸金業者からの借入れを対象としており、銀行の貸付けは貸金業法の規制(総量規制)の対象外です。したがって、銀行等からの借入れを合わせた結果、借入残高が年収の3分の1を超えていたとしても、ただちに総量規制には抵触しません。

また、銀行のカードローンも、一般の銀行等の借入れ同様、総量規制の対象とはなりません。

金融庁/貸金業法Q&A
https://www.fsa.go.jp/policy/kashikin/qa.html#:~:text=A2%2D12.%20%E7%B7%8F%E9%87%8F%E8%A6%8F%E5%88%B6%E3%81%AF,%E3%81%AB%E3%81%AF%E6%8A%B5%E8%A7%A6%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%E3%80%82

まとめ~事業資金融資を検討するときは注意

総量規制はカードローンやキャッシングなどを扱うサイトや記事で良く取り上げられる話題ですが、今回説明したように事業資金融資でも関係してきますので、ぜひ参考にしてください。