銀行員が解説!銀行から新規事業の融資を受けるには?
新規事業で融資を必要としているとき、銀行などの金融機関はむずかしいと敬遠していませんか?
たしかに銀行の融資審査は一般にきびしいとイメージされていますし、銀行員である私もそれを否定はしません。
しかし銀行の新規事業への融資は決してむずかしくないと銀行員の私は考えています。
そこで今回は新規事業で銀行から融資を受けるのは本当にむずかしいのか?という疑問と、その解決法を解説します。
実際に新規事業融資の審査をしている銀行員の解説なので、新規事業を考えている人や、その資金調達で融資が必要な人などは、ぜひ参考にしてください。
目次
銀行の新規事業への融資がむずかしくないといえる3つの理由
冒頭お話したとおり、銀行の事業資金融資は簡単でないことは銀行員の私も否定しません。
しかし、銀行が実は新規事業への融資をしたがっていることも銀行員として言えます。
ではまず、銀行が新規事業への融資できる相手を探している理由、つまり新規事業融資がむずかしくないと銀行員が言える3つの理由を解説します。
<銀行の新規事業への融資がむずかしくないと言える3つの理由>
新規事業に融資すれば「未来の大企業のメインバンク」になれる
新規事業に融資すれば「国の方針へ真面目に取り組んでいる銀行」になれる
新規事業に融資すれば「Win-Winのパートナー」になれる
理由1.新規事業に融資すれば「未来の大企業のメインバンク」になれる
新規事業を立ち上げたとき、最初に融資を受けた銀行がメインバンクになるのは自然な流れです。
理由として「新規事業に融資してくれた恩義」があるのはもちろんですが、こうした日本的な考えは時代とともに薄れつつあるのも事実です。
しかしそのいっぽうで「新規事業に融資した銀行は我社の将来性を認めてくれた」と考えて、メインバンクにするほうが多いと銀行員は考えています。
いずれにしても競争社会で、企業は新規事業を融資する銀行を選び、銀行は新規事業融資ができる会社を選んでいる時代とも言えます。
新規事業に融資してメインバンクになれれば、その会社の成長につれて銀行とのさまざまな取引が拡大していくことが期待できます。
たとえば最初は数百万円の新規事業融資でも、企業規模が拡大すれば何億、何百億円といった大型融資に発展するかもしれませんし、会社が世界規模にまで到達すれば今度はメインバンクであることが銀行にとって大きなメリットになるのです。
その反面、融資を断った会社が他の銀行で新規事業融資を受け、結果として巨大企業に成長することもあります。
これは、その銀行が企業の将来性を見誤ったということになり、私の勤務する銀行でも「新規事業融資を断ったから出入り禁止」と言われている、名前を出せば誰でも知っている大企業があります。
しかしこれも、新規事業融資を断られたと根に持っているのではなく「我社の将来性を見抜けなかった銀行とは取引するメリットがない」と判断されているのです。
理由2.新規事業に融資すれば「国の方針へ真面目に取り組んでいる銀行」になれる
新規事業を支援し、経済発展を促進したいのが国の施策で、新規事業の融資に積極的な取り組みをすれば、国の施策を守っている銀行として評価されます。
そのため、銀行は公式サイトなどで「当行は新規事業の融資に積極的ですよ!」とアピールしています。
もちろんこうした銀行の姿勢があるからといっても審査に誰でも通るわけではないところは、理想と現実の違いといった部分ではあります。
とはいえ銀行も本音では新規事業へ融資をしたいのです。
理由3.新規事業に融資すれば「Win-Winのパートナー」になれる
メインバンクの項でも説明しましたが、新規事業に融資した企業が成長していけば法人の融資やその他の取引にとどまらず、従業員の預金取引からマイカーローンや住宅ローンまで取引は拡大していくことが期待できます。
新規事業に融資したことで自然発生的に双方の関係性が向上していくまさに「Win-Winのパートナー」になれるのです。
銀行の新規事業融資を実現するための2つのポイント
ここまでお話したとおり、銀行も実は新規事業への融資をしたがっています。
ただし、すべての企業に新規事業の融資ができないのは、銀行が求めている相手が見つからないからです。
ですから「銀行が出会いたがっている理想の相手」に自社がなれば、新規事業への融資も実現に近づくとも言えます。
そこでここからは、そのために押さえておきたい2つのポイントを解説していきます。
<銀行の新規事業融資を実現するための2つのポイント>
「融資の五原則」を押さえる
「保全」を備える
新規事業融資実現のポイント1.「融資の五原則」を押さえる
銀行は融資を判断するときの価値基準として、その対象企業を多角的に見て分析します。
そのときに確認する「基本原則」というものが存在しますが、これを「融資の五原則」などと呼びます。(「融資の基本原則」などとも呼ばれ、また以下に説明する原則の順序も特に決められたものではありません)
<融資の五原則>
公共性の原則
安全性の原則
成長性の原則
収益性の原則
流動性の原則
公共性の原則
公共性といっても「〇〇公益法人」やNPOなど公共的という意味ではありません。もちろんこれらは公共性が高いわけですが、融資の五原則でいう公共性とは端的に言えば「公共の役に立つ(公共の利益に反しない)」という意味が近いでしょう。
銀行は顧客から預かった預貯金をもとにして、事業資金が必要な企業に融資していますが、これを「銀行の金融仲介機能(資金に余裕がある人から資金を必要な人への資金の融通:金融を取り持つ:仲介)と呼びます。
したがって反社会的勢力に融資をしないのは言うまでもなく、公序良俗に反する事業には融資をしないというのが公共性の原則です。
(*公序良俗に反する事業の定義は様々で、また公序良俗に反するからと言って、必ずしも違法な業種ではないため、ここでの具体的な説明は差し控えます)
安全性の原則
ここで言う安全性とは銀行が融資したお金に対する安全性という視点です。
上記した金融仲介機能を維持するには、融資した資金がしっかりと期限までに返済されなければいけません。
融資は預金がもとになっているので、つまり預金者保護のためにも融資した資金が返済されることが安全性の原則になります。
これも当たり前といえば当たり前ですが、安全性の原則を考えず融資をすれば、返済されない融資(つまり不良債権)が増えて銀行経営自体を圧迫することになり、最終的には銀行の破綻にも繋がりかねないのです。
とはいえ中小企業やこれから新規事業をスタートするような会社はどうしても安全性が十分とは言えず、信用保証協会などの保証を受けたり、不動産などを融資の担保にすることを銀行から求められます。
この「保証」と「担保」をまとめて「保全」と呼びますが、こちらについては後半で詳しく説明します。
成長性の原則
たとえば新規事業で融資しても、その会社が短期間で破綻すれば成長がなかったことになります。
また経営者が夢やビジョンを持たず、事業を継続する意思がなければ、仮に何百年続いた老舗企業でも遠からず廃業するかもしれません。
そのため新規事業を融資するには企業が成長する可能性(伸びしろ)と成長する意識(経営意欲)といった成長性が必要で、これが成長性の原則なのです。
収益性の原則
銀行も一般企業と同じように利益を求める営利企業です。
したがって新規事業の融資は「儲けがあるか?」を考えることが必要で、これが収益性の原則です。
とはいえこれは、銀行だけが一方的に儲けたり(例:法外な金利で融資する)銀行が立場を利用して不要なサービスを押し付けたり(例:銀行の販売する金融商品を強引に契約させる)することは「優越的地位の濫用(らんよう)」として禁止されています。
したがって新規事業への融資は儲けがなくてはいけないと言いつつも、win-winの関係で説明したとおり、双方が発展していくのが理想です。
ただし、銀行とのつきあいを続けていくために、ときには「お願いごと」をされることもあり、どこまで付き合うかむずかしいところでもあります。
流動性の原則
「融資したお金はなるべく早く返済されるべき」というのが流動性の原則です。
「流動資産」「流動性預金」など短期間で動かせるのが流動性の意味で、預金者に満期で預金を返すには、融資にも流動性があるべきという考え方です。
そうなると新規事業への融資も数ヶ月や1年以内など短期の融資が望ましいわけですが、新規事業が軌道に乗るまでには何年かの時間が必要です。
そこで事業計画書や設備計画書などで計画した期間までにしっかりと返済できるのか?という観点で銀行は融資をします。
したがって流動性の原則とは計画通りに融資したお金が返済されることと言えます。
新規事業融資実現のポイント2.「保全」を備える
保全とは「保護して安全を守ること」といった意味です。(例:環境保全、ビルの保全)
これが融資の場合、保全とは「融資を安全に守るため、業績悪化などで返済できなくなったときに、融資金を回収するための準備手段」になります。
そして保全は「保証」と「担保」に分けられます。
保証
保証と言ってまず思い浮かぶのは保証人です。
企業なら代表者や役員、個人なら家族や親戚・知人などが新規事業融資の連帯保証人となり、お金を借りた企業(債務者)と同様の責任で、融資の返済を文字通り保証していくことになります。
また、保証会社(信用保証協会や民間保証会社など特定の事業者)が融資の保証をする場合も保証と呼ばれます。
こちらのケースでは融資の保証をすることで、新規事業融資が万一返済不可能になった場合には、保証会社が融資金を一括して立て替えます。
これを代位弁済と呼び、「債権者の代わりに(代位)返済する(弁済)」という意味になります。
銀行からすると、保証会社が立て替え払いしてくれれば返済不能のリスクが解消されるので「保全が良化」するわけです。
したがって新規事業の融資や中小企業など信用度や規模の小さい企業では融資に保証が求められるケースが多く、いきなり銀行から直接融資(プロパー融資)を受けられることはむずかしいのです。
担保
担保の代表格は不動産です。
土地や建物に抵当権や根抵当権を設定して、万一返済不能になった場合は銀行が強制的に売却(競売・けいばい)して融資金の返済に充てます。
最近では不動産以外にも「動産」も担保になり、機械や車両、牛などの家畜や養殖場の魚を担保にすることもあります。
また預金や生命保険なども担保(質権と言います)にすることが可能です。
銀行員が解説!銀行から新規事業の融資を受けるには?のまとめ
新規事業融資を実現するために必要なポイントを説明しましたが、たとえば融資の五原則を具体的に体現するのはむずかしいかもしれません。
しかし、審査を受ける側としてそれを知っておくことは重要です。
たとえば事業計画も、ここで説明した五原則を意識した作りになっていれば銀行へのアピール度は良くなります。
このように、ここまで説明したのはマル秘テクニックや裏技ではありませんが、知っておくことで新規事業融資の実現に近づくことができると銀行員の私は考えています。
この記事が参考になれば幸いです。