経営者にとって重要な問題なのが資金調達です。
新規事業の立ち上げ、それに伴う設備投資、運転資金など経営者になるとお金の問題は起こりうることです。
特にまとまった金額が必要だけれども手持ちがないといったときには、外部から資金調達する必要も出てきます。
経営者は資金調達の方法を複数検討しておきましょう。
また経営者の資金調達の中で、役員借入金という手法もあります。
役員借入金とは何か、メリットデメリットについても見ていきます。
目次
経営者の主要な借入方法について解説
経営者がキャッシュフローに困った時に、どこかからの借入を検討しなければなりません。
経営者の借入方法は、結構多岐にわたります。
主な借入方法として、以下のような選択肢が考えられます。
1.日本政策金融公庫
2.プロパー融資
3.信用保証貸付
4.ビジネスローン
5.ファクタリング
6.手形貸付
7.クラウドファンディング
5と7は厳密にいうと借入ではありません。
しかし経営者の資金調達の手法として急激に普及しているので、このような方法があると頭に入れておくといいでしょう。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、政府系の金融機関で経営者はこちらで借入が可能です。
日本政策金融公庫から借入した場合、金利が低いので返済負担を軽減できるのがメリットです。
2023年3月時点で、おおむね2~3%くらいの金利で融資を行っています。
さらに一定の条件を満たすと、特別利率が適用されます。
特別利率が適用されると2%台の前半、場合によっては1%台の利率になる可能性もあります。
日本政策金融公庫からの借入の場合、新創業融資制度と中小企業経営力強化資金では無担保・無保証人で利用できます。
経営者保証がないので、万が一法人が倒産してしまっても経営者の個人資産は保護されます。
ただしそのほかの融資については、代表者保証は必要になるので注意してください。
経営者の借入方法というと、銀行からの融資をイメージするかもしれません。
銀行の場合、業歴を重視する傾向が見られます。
このためスタートアップやベンチャーは融資を申し込んでも、借入が難しいかもしれません。
日本政策金融公庫はスタートアップのような業歴が浅い経営者、これから起業しようとする経営者に積極的に融資を行っています。
業歴が1年未満で借入が必要な場合には、銀行からの融資よりも日本政策金融公庫の活用を検討するといいでしょう。
ただし日本政策金融公庫の場合、借入に多少時間がかかってしまう点には注意してください。
申し込んでから融資実行されるまでに1~2か月程度かかると考えておきましょう。
プロパー融資
プロパー融資とは世間一般でいうところの「銀行融資」のことです。
金融機関が直接審査し、融資を行う手法のことです。
プロパー融資を受けられるメリットとして、ただ単に資金調達できるに限りません。
金融機関が審査して、「ここは経営が安定しているので貸し付けても問題ない」というお墨付きを得たことになります。
ということはほかの方法での資金調達もやりやすくなりますし、新規ビジネスを始めるにあたって取引先も「プロパー融資を受けているところだから」と前向きに検討してくれるでしょう。
銀行によって多少の違いはありますが、プロパー融資は基本融資限度額の上限は設定されていません。
もし実績を積み重ねて銀行からの大きな信用を得ていれば、かなりまとまった金額の融資が受けられるかもしれません。
そうなれば大掛かりな設備投資も可能になり、ビッグビジネスにチャレンジできるでしょう。
プロパー融資の場合、銀行が保証会社を使わずに融資する形です。
もし債務者の返済が滞ると、もろに損失を被る形になってしまいます。
そこで銀行は慎重に審査を行わざるを得ません。
ですからプロパー融資の場合、審査は厳しめと考えておきましょう。
また審査にかなりの時間がかかってしまいます。
少なく見積もっても1か月、長引けば3か月くらいかかってしまうこともあるので融資実行までの資金繰りについても経営者は考えておかないといけません。
信用保証貸付
こちらも銀行からの融資ではありますが、プロパー融資と異なり信用保証協会の保証を付けて借入を行います。
信用保証協会が保証人となってくれるので、プロパー融資では厳しい企業でも貸し付けてくれる可能性があります。
銀行としても債務者が倒産するなどで不良債権化しても、信用保証協会が代位弁済してくれるので安心して融資できます。
ただし信用保証協会も無条件で保証人になってくれるわけではありません。
利用者は保証料を支払わないといけません。
余計なコストがかかってしまいます。
また信用保証貸付の場合、審査期間が長引く恐れがあるのにも注意が必要です。
金融機関だけでなく、信用保証協会も審査を行うので2段階の手間がかかってしまうからです。
場合によっては、つなぎ融資の利用も検討しなければなりません。
ビジネスローン
ビジネスローンとは文字通り、法人用のローンのことです。
法人経営者だけでなく、フリーランスで活動している個人事業主でも申し込める商品も少なくありません。
ビジネスローンの魅力は、審査のスピードの早さです。
銀行や日本政策金融公庫からの借入の場合、数か月単位で時間がかかってしまいます。
ビジネスローンはどんなにかかっても1週間や10日程度です。
ノンバンク系のビジネスローンをみると、最短即日融資を売りにしているところも結構あります。
ビジネスローンの場合、審査も甘めです。
プロパー融資が受けられなかった経営者でも、ビジネスローンからは借入できたという話もしばしば聞かれます。
しかし審査が甘めということは、債務者から債権回収できない恐れがあります。
そこでリスクマネジメントとして、金利は高めに設定されています。
日本政策金融公庫や銀行融資の場合、大体2~4%台の利率設定が相場です。
一方ビジネスローンの場合銀行系で3~14%程度、ノンバンクだと5~18%が相場といわれています。
長期借入だと利息の支払いも大きくなってしまうので、借入したら早めの返済を心がけましょう。
ファクタリング
近年注目を集めている経営者の資金調達方法として、ファクタリングがあります。
こちらはここまで紹介してきた借入ではありません。
ファクタリングとは経営者の抱えている売掛債権を買取してもらうサービスのことです。
通常売掛債権を現金化するためには、1~2か月待たないといけません。
一方ファクタリングの場合、早ければ即日現金化が可能です。
しかも先ほども紹介したようにファクタリングは借入ではありません。
信用情報にも影響しませんし、負債として計上する必要もないです。
銀行融資を受けるにあたって、マイナス材料にはなりません。
しかしファクタリングを利用する場合、売掛金100%回収はできないので注意しましょう。
ファクタリング会社が利益を上げるために、手数料を取るからです。
ファクタリングには2社間と3社間の方法があります。
2社間は利用者とファクタリング会社の直接取引、3社間は売掛先企業の承諾前提のサービスです。
手数料は3社間で2~20%程度、2社間はもう少し高く10~30%かかると想定しておきましょう。
手形貸付
手形貸付は手形を担保にした借入方法です。
手形を原資にして借入を行うという意味では、ファクタリングに似ているかもしれません。
しかしファクタリングは売掛債権の買い取り、手形貸付は担保にした借入で方式が異なります。
手形貸付の場合、審査がスピーディなのは魅力といえます。
担保として手形があるので、細かく審査する必要はありません。
早ければ、即日融資も可能な場合もあります。
また手形を担保にしているので債務者である経営者が返済不能の状態になっても、手形を差し押さえればいいわけです。
つまり貸し出す側にとってリスクが低いので、金利も低く抑えられます。
ただし手形貸付の場合、返済期間が短めなので注意しましょう。
業者によって異なりますが、大体半年から1年といったところが相場です。
もしまとまった額を借入するのであれば、慎重に返済計画を検討する必要があります。
もし期日までに返済できなければ、金融機関からの信用が傷つきます。
次回以降の融資の審査が厳しくなるので、注意しましょう。
クラウドファンディング
近年クラウドファンディングという用語をしばしば耳にするでしょう。
こちらはインターネットを通じて、広く資金提供を募集する方式です。
資金を出してもらって、その代わりに会社の販売している商品やサービスなどを見返りとして提供する方式です。
クラウドファンディングにはいろいろな種類があって、寄付型の場合あくまでも出資者は寄付として出資する形です。
この場合、出資者はリターンが受けられません。
クラウドファンディングの場合、もし事業の趣旨に賛同してもらえれば、不確実な事業でも資金調達できる可能性があります。
不確実な事業に対して銀行は融資を渋ります。
しかしクラウドファンディングであれば、いろいろな人が出資してくれるかもしれません。
借入の場合、もちろん現金で返済しなければなりません。
しかしクラウドファンディングでは、現金以外のものをリターンとして設定できます。
商品でもサービスでもいいですし、ほかの特典で募集しても構いません。
寄付型の場合、リターンを設定する必要もないです。
ただしクラウドファンディングの場合、希望する資金調達ができない可能性もありますので注意しましょう。
いかに出資者に「この事業ならお金を出したい!」と思わせるようなプレゼンができるかどうかに成否のカギがあります。
利益の出せる根拠になる事業計画を作成し、出資者に投資することでどんなメリットがあるか、説得力のある内容にまとめることが重要です。
経営者から借入する方法の役員借入金とは?
法人の資金が不足した場合、資金調達する方法の中の一つに役員借入金があります。
これは役員、基本的には経営者からお金を借入してもらう資金調達法です。
役員借入金とはどのようなものかについてみていきます。
役員借入金の概要を紹介
役員借入金は簡単に説明すると、会社の役員が個人的に保有している資金を法人に貸し付ける方式のことです。
役員とは言いますが、多くの場合経営者が貸し付ける形になるでしょう。
会計上は法人側から見るとお金を借入しているので負債扱いです。
「役員借入金」という勘定科目で仕訳するのが一般的です。
役員借入金は開業にあたっての資金が不足している、資本が不足しているときに使われることが多いです。
また借入する場合、通常は元本返済と利息支払いが発生します。
しかし役員借入金の場合、利息は任意です。
利息をつけてもいいですし、無利息で貸し付けても問題はありません。
利息をつけなければ、法人の返済負担を最小限に抑えることができます。
役員貸付金との違い
役員借入金と似たような言葉として、役員貸付金もあります。
役員貸付金は役員借入金とは全くの逆で、法人が役員、特に経営者に貸し付けるお金です。
役員貸付金は、起業したばかりでまだ役員報酬の条件を満たせない時に活用される場合が多いです。
役員報酬代わりにするために、役員貸付金として処理するわけです。
そのほかにも何らかの事情で領収書を切れない資金を使った場合や法人の資金を経営者など個人的に使った場合も役員貸付金を活用します。
経営者に対して法人が貸し付ける場合、会計上は「役員貸付金」で処理しましょう。
銀行の審査に影響は?
役員借入金を活用した場合、銀行からの評価に影響はないか気になるところでしょう。
というのも役員貸付金は貸借対照表上、負債として計上しなければなりません。
ということは、自己資本比率が下がってしまいます。
このため役員借入金も他の借入金と同じで負債扱いにされ、銀行の審査が厳しくなりがちでした。
しかし近年、銀行の役員借入金の評価に変化が生じつつあります。
従来の借入金ではなく、経営者が法人にお金を入れているものと考えられるようになりました。
つまり負債ではなく、自己資本扱いで評価されるようになり、銀行の審査に深刻な影響を与えることはなくなってきています。
役員借入金のメリット
役員借入金を利用する経営者も少なくありません。
役員借入金のメリットとして、以下のような事柄が考えられます。
1.節税効果につながる
2.無利息にできる
3.返済期限はなし
4.税優遇制度の適用対象のままでいられる
それぞれどのようなところがメリットかについて、以下で解説します。
節税効果につながる
経営者が会社にお金を入れる方法には、他に出資という選択肢もあります。
しかし出資扱いにしてしまうと、役員報酬は経費の一種に当たり会社の利益が目減りしてしまいます。
しかも報酬が発生すれば、税金や社会保険料の負担が必須です。
一方役員借入金で処理すれば、経営者への借入金返済扱いで報酬を支払えます。
ということは、会社の利益を圧迫することはありません。
しかも借入金に対する返済という扱いになりますので、税金や社会保険料も発生しません。
よって節税効果が期待できるわけです。
無利息にできる
役員借入金の場合、利息は任意で自由に設定できると紹介しました。
つまり対象の経営者の承諾があれば、無利息で借入することも可能です。
無利息の貸付は法律的に問題があるのでは、と思うかもしれません。
しかし法的にも一切問題はありません。
任意なので、もちろん利息を設定しても問題ありません。
利率も自由に設定できますが、おすすめは市中金利並みにすることです。
市中金利よりもかなり高い利率に設定しまうと、経営者に対する給与とみなされる可能性があります。
そうなると源泉徴収の手続きをしなければならなくなるかもしれません。
返済期限はなし
役員借入金は返済期限を特別設ける必要はありません。
銀行や日本政策金融公庫など、返済期間はあらかじめ決まっています。
もし期限までに返済できなければ、信用情報に傷がつきますし、法人としての信用力を損ないかねません。
返済期限までに十分な資金がない場合、資金繰りを考えないといけませんし、新たに借入するとなると経営も圧迫しかねません。
しかし役員借入金には返済義務はありますが、そのタイミングはこちらで好きに設定できます。
ですから資金繰りに余裕のある時に返済すればいいわけです。
税優遇制度の適用対象のままでいられる
出資をした場合、資本金扱いになってしまいます。
資本金の額によっては、税優遇制度の対象外になる恐れが出てきます。
例えば資本金3,000万円を超えてしまうと、中小企業を対象にした素材特別措置法の税額控除が受けられなくなります。
また資本金1億円を超えると、法人税の軽減税率や少額資産の損金算入の特例も受けられなくなります。
このように資本を増やしてしまうと、優遇措置がなくなって実質法人の出費がかさんでしまいます。
一方役員借入金の場合、お金を入れても出資扱いにはなりません。
ですから資本金が増えることもなく、今まで受けてきた税優遇制度の恩恵を引き続き受けられます。
役員借入金の注意点
節税効果や無利息で期間制限なしで借入できるので、役員借入金はある意味魅力的です。
しかし使い方を誤ると、かえって自分で自分の首を絞めかねないので注意が必要です。
役員借入金を利用する際の注意点として、以下のようなことが考えられます。
1.資金調達に制約がある
2.債務超過に陥る恐れ
3.税金に影響が出る可能性
4.相続財産の対象
それぞれどのような問題があるのか、ここで詳しく解説します。
資金調達に制約がある
役員借入金は、あくまでも個人的な貸付になるのでそんなに多額のお金を借入するのは難しいでしょう。
役員借入金で借入の対象になるのは、経営者自身、経営者の家族や親せきなど身近な人に限られます。
ですから会社に入れられるお金には限界がありますので、経営者の資産状況によってはほとんど現金が集まらない恐れがあります。
債務超過に陥る恐れ
役員借入金は手軽に借入でき、返済条件も良いのでついつい法人の資金繰りが厳しいときに利用しがちです。
しかしあまりに頻繁に利用すると、負債がどんどん膨らんでいきます。
すると帳簿上は資産よりも負債が多くなって、債務超過に陥る危険性があります。
役員借入金に対する評価は、一昔前と比較して銀行もだいぶ緩やかになってきています。
しかし過剰な役員借入金があった場合、話は別です。
「この会社、経営が危ないのではないか?」と思われて、融資の申し込みをしても断られる恐れが出てきます。
融資が受けられなくなって、資金繰りが悪化すると経営がどんどん厳しくなります。
最悪、会社を清算しなければならない事態を迎えることも考えられます。
税金に影響が出る可能性
こちらは特に同族経営している会社が対象です。
まずは法人税の問題があります。
資本金1億円以下の同族経営の法人だと、自己資本利率50%以下の場合留保金課税が停止される優遇措置があります。
しかしもし役員借入金を計上すると、この分は自己資本金扱いにされます。
たくさん役員借入金を計上した場合、自己資本比率が50%を上回ってしまう恐れが出てきます。
その結果、留保金課税の対象になって逆に余計な出費がかさむといったことも起こりえます。
所得税にも影響の及ぶ可能性があります。
同族経営の場合、経営者に対して支払われた役員報酬を役員借入金という形にして、報酬を会社に戻す形にしているケースも珍しくありません。
しかしもし借入金を役員に対して返済していない場合、役員報酬扱いにされます。
この場合、源泉所得税を納税しないと役員賞与扱いにできなくなります。
結果的に経費計上ができなくなってしまうので、注意しましょう。
相続財産の対象
役員借入金は、経営者など対象の役員からすれば貸付金です。
つまり債権となって、財産の一種として勧請されます。
もし債権を持っている経営者が亡くなったと仮定した場合、この役員借入金も相続財産の対象になるわけです。
もし役員借入金として頻繁に計上していると、債権もその分多額になります。
ということは相続税が免除されない、余計に税金を負担しないといけない事態になりかねません。
しかも株式などは時価評価されますが、役員借入金は額面のままです。
たとえ会社の経営状態が悪化していて、不良債権化していたとしても減額などの救済措置は取られません。
相続税の負担が増す一方で、経営状態が悪ければ債権も回収できないといった状況に陥る恐れもあります。
まとめ:経営者は資金繰りのために借入方法は常に検討しよう
会社の経営者は、資金繰りのことは常に頭のどこかで考えておかないといけません。
よく資金繰りは、私たちの身体における血流にたとえられます。
血流が止まってしまうと途端に生きていけなくなるのと同じように、資金繰りが止まると会社経営も窮地に追い込まれます。
もし手持ち資金で回していけなくなったのであれば、ここで紹介した方法を駆使して資金調達してください。
金利や審査スピードなど、その時々の状況に合わせて最も適した方法で借入しましょう。
また経営者が法人に融資する役員借入金として処理する方法もあります。
役員借入金は節税効果などメリットのある半面、逆に税負担が増えたり、相続税が余計にかかったりするので慎重に活用しましょう。