「資金繰り」と日常普通に使っていますが、その意味はご存知ですか?会社の運営に資金繰りが欠かせないことは、経営者なら当然わかっているでしょう。
ではどうやって経営が安定するような資金繰りができるのか?
それを知るには、そもそも資金繰りについてしっかりと理解を深める必要があります。

そこで今回は資金繰りの基本事項から、会社の資金繰りを改善するポイントまで銀行員が解説します。
現場で融資審査している銀行員の説明なので、会社の資金繰りを改善したい人や、資金調達を考えている人は是非参考にしてください。
実際に銀行で私が担当する企業の経営者にアドバイスしていることを中心に説明します。銀行員のアドバイス(指示、命令ととるかはおまかせします)として参考にしてください。

 <会社資金繰り改善・3つのポイント>
1. 収入(売上や利益)
2. 支出(支払い)
3. 資金調達(新規融資や返済見直し)

会社資金繰り改善のポイント1.収入(売上や利益)

まず売上などお金が入ってくる収入面から始めましょう。

販売先の見直し

なによりも、売上が不振なら販売先の見直しが最優先事項です。
もちろん自社の商品やサービスに問題があれば別ですが、自社に問題がないなら売上が伸びないのは、販売する相手に問題があるということになります。
銀行で融資を受けている場合、毎年の決算書や試算表などを定期的に提出する必要がありますが、そうして提出した決算内容を見て、銀行員は「売上が不振なら売り先(販売対象)を見直せ」と言ってきます。
もちろん銀行員に言われるまでもなく、販売先の見直しは常にやっているはずです。
しかし中には「親の代から世話になって、取引を切ることはできない」といった理由でズルズルと取引を続け、結局自社の業績悪化が進むだけという会社もあるのです。
しかしそういった事情でも「銀行にきびしく言われて、断腸の思いで取引をやめることに決めた」と言えば相手も強くは言えないでしょう。
これは実際、私がお客様の会社の資金繰り改善の相談を受け、販売先を見直すためにアドバイスしたことです。(実際にそのセリフを使ったかわかりませんが、販売先の見直しができました)

利幅(採算性)を考える

これも売上につながる話ですが、販売やサービスの供与では、そのために費やした費用(原価)に見合う利益があるのか?つまり費用対効果と採算性を考える必要があります。
したがって採算性が低い、あるいは採算が取れない(売れば売るほど赤字になる)ような取引は思い切って断ち切る決断が必要な場合もあります。
これも当然といえば当然で、経営者なら誰でも考えるはずです。
しかし中にはこうした意識がうすい会社もあるのです。

これは私が担当していた建設業の会社ですが、とにかく頼まれればどんどん仕事を受ける社長さんがいました。
創業以来ずっとこの方針を貫き「ウチの会社は人がやらない仕事でもなんでもやる。なぜならそれは人助けだから、次の仕事にもつながる」と考えている社長さんでした。
勢いがあった時代に相当設けたそうで、自宅や車も高級なものばかりでした。

しかし景気が悪くなり始めると仕事の数が減って奪い合いになり、もともと請け負う仕事の採算など考えない「どんぶり勘定」だったので、結局見積もりで負け仕事が取れなくなり、この社長でも「やればやるほど赤字」とわかるような仕事しか回って来なくなりました。
それでも支払いや社員の給料を払うために赤字覚悟で仕事を続け、業績は悪化するばかりだったので、廃業も考えるべきとお話をしたのですが(銀行は、相手のためになると判断すれば廃業を検討するようアドバイスすることもあります)最後には破綻してしまいました。

会社資金繰り改善のポイント2.支出(支払いや借入返済)

会社資金繰り改善で、2つ目のポイントは支出、つまり出ていくお金の改善です。

業務の「カイゼン」

支出面では業務の見直しが有効な手段です。
なぜならこれまで続けてきたプロセスを見直したり廃止したりすれば、経費の節約につながることもあるからです。
もちろんこれも教科書的な考えかもしれません。
しかし漫然とルーティンを繰り返し、業務の見直しなど一切考えてこなかった会社もあり、私もそういった会社が破綻した例を何度も経験してきました。

たとえば有名なトヨタの「カイゼン」という概念があります。
そもそも改善とは悪いところを良くするという意味です。
しかし世界に冠たるトヨタに悪いところなど無いはずですが、それでも「現状に満足せず、もっと良くできないか?まだ見直すところはあるはず!」という課題意識からあえてカタカナの「カイゼン」と呼び、経営者だけでなく現場の従業員でもアイデアや意見を自由に言える社風があるそうです。

いっぽうこれも私が担当していた観光旅館ですが、創業からのしきたりや習慣を一切変えようとしない社長がいました。
「老舗としてのプライド」と社長はおっしゃいましたが、そのために業績が不審になるなら、それはもはや「悪習」だと考えた私は、見直しや改善を求めたのですが聞き入れてもらえませんでした。
そして私の「苦言」をイヤだと感じて他の金融機関に移って行きましたが、結局は破綻という結末になってしまいました。(銀行員として「ざまあみろ」などとは思えず、力になれなかったという気持ちだけが残りました)

固定費の徹底的な見直し

事務所の家賃から水道光熱費などの固定費も見直しが必要です。
固定費は、文字通り固定しているからこそ「固定費」と呼ばれるわけですが、見直しにより金額は固定どころか削減できる余地は意外と残っているものです。
「自社では徹底的に固定費を見直し済みで、これ以上はどこにも余地はない」とおっしゃる社長さんがいましたが、それでも見直しはしたいという気持ちもある人だったので、コンサルタント会社を紹介しました。
その結果「徹底的に固定費を見直したつもりでいたが、徹底していなかった。おかげで経費の削減ができた、ありがとう」とお言葉をいただきました。

このように、自分達当事者だけでは以上見直す余地が見つからない場合などは、コンサルティング関連の会社に相談してみるのも一考です。(銀行では顧客の経営支援策として、相手にメリットのある事業者を紹介しています。「マッチング」などと呼び、取引企業とのリレーション強化の一環なので無料で紹介してもらえるので、機会があれば銀行員に相談することをおすすめします)

会社資金繰り改善のポイント3.資金調達(新規融資や返済見直し))

3つ目で最後になる会社資金繰り改善のポイントは「資金調達」で、融資や返済について見てみましょう。

新規融資のときに考えるべきこと

融資取引をしている銀行で資金調達しようと新規融資を受けるときは、会社資金繰りを考えて銀行に確認する、あるいは交渉することも必要です。

たとえば借入希望額や使いみちなどは聞かれても、返済方法や金利などは銀行から言われるままに借りるというのが一般的な流れでしょう。
しかしこのとき「なぜ今回はこの金利なのか?前回より高くなっているが、その理由は?」などと聞いてみるのも有効です。
これは文句を言っているわけではなく、融資取引する顧客としてその内容を確認するのは当然の權利だからです。

もちろん言葉使いや口調も工夫して、もめないようにスマートに聞く方がいいでしょうが、そうすれば銀行員はどうして今回の条件になったのか説明してくれるはずです。
それとは逆に、説明など無く「嫌ならよそで借りれば?」といったような言動なら、その銀行の方針もわかるので、今後の付き合い自体を考え直す必要があるかも知れません。

社長さんの中にはよく「◯◯銀行には困ったときに助けてもらったので足を向けて寝られない」などと言ってくださる人もいますが、銀行は仕事として融資しただけで、あなたがどれだけ感謝していても、業績悪化になれば今度も仕事として冷静に手を引くだけです。

返済中の融資を一本化する

事業資金融資を何回か借りていると、当然ながら借り入れの本数も増えてきます。
現在、複数の返済があるなら返済中の融資をまとめて一本化すると会社の資金繰りが安定する可能性があります。
それは、同じ借り入れでも複数になるほど資金繰りが大変になるからです。
これは例で見てみましょう

 <例1>3千万円の返済・複数明細と一口で返済する場合の比較 
 前提条件:借入金額3千万円、返済回数60回(シンプルにするため金利は含めない)
【一口】  毎回返済額計:50万円(3千万円÷60回)
【複数明細】毎回返済額計:50万円(A〜C)
  A・借入金額1千万円 ⇒毎回返済額:16万7千円
  B・借入金額1千5百万円⇒毎回返済額:25万円
  C・借入金額5百万円 ⇒毎回返済額:8万3千円

借りる金額が同じなので、毎回返済元金も同じですが、複数明細の返済日がそれぞれ異なっていたら、その都度返済日と資金繰りを考えなければいけません。
家計の口座なら給料日のあとで、ローンやクレジットなど支払いに必要なお金をまとめて入金しておくこともできます。
しかしこれが会社の事業資金なら、余分なお金を口座に置いておくのは合理的ではありません。
そこで、複数明細を一本化すれば資金繰りもしやすくなるのです。
返済中融資を一本化したり、新規融資を受けるときに返済中融資も一緒にまとめる「借り換え」をしたりと、方法はいくつかありますので、取引している銀行に相談してみると良いでしょう。

たとえば私の場合、新規融資の相談があれば、まず返済中融資とまとめられないか?を考えます。
そしてまとめられる借り入れがあれば一本化して、会社の資金繰りが複雑にならないよう意識しています。
いっぽう金融機関や担当者によっては、申し込みがあればどんどん新規融資を追加し、単純に融資実行日をそのまま返済日にして結局返済日がバラバラとなり会社資金繰りが大変になっているケースもあります。

顧客の会社資金繰りに配慮しているなら、金融機関は頼まれなくても一本化や新規融資での借り換えを考えるべきですし、まして返済日もバラバラで会社資金繰りを考慮してくれないなら、その金融機関との取引は考え直したほうがいいかも知れません。

他行への肩代わり

上記にも通じますが、取引している金融機関の金利が高い、あるいは自社に対する姿勢などに満足できない場合には、他の金融機関に全面肩代わりすれば、借入金利が下がるなど会社資金繰りが安定化する可能性があります。

ただし、一度全面肩代わりをして他の金融機関に移ったなら、元の金融機関で再び融資を受けるのは不可能になるので、その覚悟が必要になります。
なぜなら、事業資金融資というのも一つの契約であって、5年返済なら5年間分割して返済するという約束を金融機関との間で交わしたとも言えるのです。
それを、会社の資金繰りのためと言っても、自分から契約破棄したわけなので「もうそちら(もとの金融機関)とは取引しない」と決別を宣言したことになり、あとになって会社資金繰りが苦しくなったからと言って元の銀行に融資を申し込んでも取引を再開することはできないでしょう。

肩代わりをして取引を解消された顧客は、その金融機関から見ても取引すべき相手ではないと判断しますので、あとから再び融資の申し込みがあっても融資はむずかしいでしょう。
「昔のよしみでぜひお取引の再開を!」などと言うことはまず無いと考えるべきです。(一度去った顧客とは二度と取引しない、金融機関としてのプライドも多少はあります)

会社資金繰り改善のポイントを銀行員が解説します〜まとめ

全面肩代わりのように、会社資金繰りを改善するための方策にも、相手がある場合には配慮や注意が必要になります。

たとえばこの記事で紹介した以外にも、売掛金のサイト短縮(売掛入金が3か月後の販売先と交渉して、2ヶ月後の回収にしてもらう・収入の改善)とか、逆に買掛金サイトの延長(仕入れ代金の買掛金支払い期限は3ヶ月後だが、交渉して支払い期限を6ヶ月に延長してもらう・支出の改善)なども考えられます。
しかしこれらはすべて販売先、仕入先など相手があり、その相手にも資金繰りがあるわけです。
会社資金繰りを改善するにも、相手があれば実現できないこともあるでしょうし、強行すれば反感を買い最終的に取引が無くなってしまったなら本末転倒になりかねませんので、ココは慎重に考える必要があります。
この記事が会社資金繰り改善の参考になれば幸いです。