「事業が軌道に乗ってきたことだし、そろそろ従業員を雇いたい。」

ひとりで起業された経営者の方であれば、事業をより円滑に、そしてさらなる成長を目指して、従業員の雇用を考える日も訪れることでしょう。

ですが、初めての雇用にあたって、何をすればよいのか分からないという経営者の方も多々いるはずです。

従業員を雇用する際には、「法律上、必ずやらなければならないこと」「やっておくべきこと」がいくつかあります。

それらを実行することは従業員だけではなく、自社の経営を守る上でも欠かせないものです。

そこで今回は、企業が従業員を雇用するときに注意すべき6つのポイントをご紹介していきます。

就業規則の作成

就業規則の作成就業規則とは、雇用主と従業員の間に設けられた雇用に関するルールをまとめた規則のことです。

たとえば、給与規定や労働時間、職場内での規律に関する事項などがあります。

常時10人以上の従業員を雇用する場合は、この就業規則を書類にまとめ、所轄の労働基準監督署へ提出することが労働基準法で定められています

ですが、従業員と雇用契約を結ぶ際に、雇用のルールをスムーズに伝えるためにも、たとえ従業員が常時10人未満であっても就業規則は作成しておくべきといえるでしょう。

法定帳簿の作成と保管

法定帳簿の作成と保管
法定帳簿とは「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿(タイムカードなど)」の雇用に関する3種類の帳簿のことで、これらをまとめて「法定三帳簿」とも呼びます。

法定三帳簿は、雇用する従業員数に関係なく、1人でも従業員を雇うのであれば必ず作成して、備え付けなければなりません。

所轄の労働基準監督署の調査が入った際には必ず確認されるほか、後述する助成金の申請時に提出を求められることもありますので、従業員を雇用するのであれば3種類の帳簿を忘れずに作成するようにしましょう。

労働保険・社会保険の加入

労働保険・社会保険の加入労働保険には「労災保険」と「雇用保険」、社会保険には「健康保険」と「厚生年金保険」があります。

これらの保険は、それぞれ一定の条件を満たした場合に加入する義務が生じます。

どちらも従業員にとっては、生活や健康を保障する上で欠かせない保険ではありますが、残念ながら加入を怠ったまま雇用する企業が多いのが実情です。

労働保険に関しては、法人・個人事業を問わず、従業員を1人でも雇えば加入しなければなりません

ただし、雇用保険は週所定労働時間が20時間以上あり、31日以上雇用する予定がある従業員が対象です。

一方の社会保険は、法人であれば従業員の雇用がなくても加入する義務があります。

従業員個々の加入に関しては、勤務時間と勤務日数が正社員と比べて4分の3未満のパートやアルバイトであれば、加入の対象となりません。

なお、個人事業の場合は従業員が5人以上であれば強制的に加入する必要があります

書面による雇用契約

書面による雇用契約採用面接などを経て、雇用が決定したらいよいよ従業員と雇用契約を結ぶことになりますが、その際には口頭での契約ではなく、しっかりと雇用契約書を用意しなければなりません。

労働基準法では、「雇用契約は書面にて行うこと」と定められており、口頭のみで雇用契約を結んだ場合には罰則の対象となりますので注意が必要です。

特に、中小零細企業などでは、縁故者や知人の紹介などを通した口約束のみで雇い入れるケースがよくみられますが、もちろんこのような場合であっても例外ではありません。

ちなみに、雇用契約書を作成する際には以下の事項を必ず明示する必要があります。この事項を絶対的明示事項といいます。

① 労働契約の期間
② 就業場所と業務内容
③ 始業と就業時刻、所定労働時間を超える労働(残業など)の有無、休憩時間・休日・休暇・交代制にて就業させる場合の事項
④ 賃金の決定・計算と支払い方法・賃金の締め切りと支払日・昇給に関する事項
⑤ 退職に関する事項

三六協定の届出

三六協定の届出雇用にあたって意外と知られていないのが、三六(サブロク)協定です。

三六協定とは、従業員が時間外労働や休日労働を行うにあたって作成が必要となる協定届であり、所轄の労働基準監督署に提出する必要があります

三六協定が必要となるのは、従業員が1日8時間・1週間のうち40時間の法定労働時間を超える労働をする場合や、4週間に4日と定められた法定休日に労働する場合です。

助成金の申請

助成金の申請従業員を雇用する場合、または雇用した後に受給対象となる助成金の申請も忘れずに行いましょう。

助成金は、従業員の雇用や教育訓練などに役立てる目的で支給される“支援金”であるため、返済は不要なほか、受付期間内に申請すれば、ほぼ確実に受給することができます。

ただし、厚生労働省が所管となっている助成金は企業などが支払う労働保険料が財源の一部となっているため、保険の未加入や保険料の滞納などがある場合は受給できません

また、法定三帳簿が未作成であったり、雇用契約が口頭のみで行われたことが発覚した場合なども、受給対象から除外される可能性があります。

まとめ

まとめ今回は、従業員を雇用するときに注意すべき6つのポイントをご紹介しました。

従業員の雇用にあたっては、法律で定められたいくつかの書類の作成や決まりをクリアする必要がありますが、どれも決して複雑なものではありません。

逆に、それらを怠れば従業員を不安にさせるだけでなく、経営にも大きなペナルティを受ける可能性があります。

今回ご紹介したポイントを意識して、従業員と経営の双方が安心できる雇用を心がけるようにしましょう。