皆さんは、地方での起業に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか?
「優秀な人材が少ない」「商圏がせまい」「起業家同志の横のつながりが出来そうにない」「地元企業からの反感を持たれそう」などといったネガティブな理由から、地方での起業は成功させるのが難しいというイメージをお持ちの方も多くいるのではないでしょうか。
しかし、「地方での起業は難しい」と言われたのも今は昔。
最近では、若い起業家を中心に大都市圏を避け、あえて地方で事業を開始するケースが多々見られるようになり、中には大都市圏の起業家以上に大きな利益を獲得し続けている起業家も少なくありません。
第一生命経済研が発表したレポートによると、2016年度の開業率のトップは東京や大阪といった大都市を抑えて沖縄県という結果でした。
また、昨年には東証一部上場企業が本社の主要機能を兵庫県の淡路島に移したことが話題になるなど、いわゆる大企業が営業拠点を地方に移転するといった一昔前には考えられないようなケースも見られるようになっています。
現在でもビジネスの中心地が東京をはじめとした大都市圏であることに変わりはありませんが、昨今のワークライフバランスを重視した働き方の多様化や政府や各自治体が一体となって掲げる地方創生、そして新型コロナウイルスの感染拡大なども影響し、地方での起業は決して珍しいものではなくなってきているのです。
では、地方での起業にはどのようなメリットがあるのか。成功例や失敗例、さらには注意点なども含めて解説していきたいと思います。
地方の自治体や企業は起業家の歓迎体制を築いている
地方での起業に対して「自治体や地域に根付いた企業から、つまはじきにされるのではないか」という不安を抱く起業志望者の方もいるようですが、実際はその逆です。
地方の自治体や企業の中には、固定化されがちな地方ビジネスに変革をもたらせたいという希望を抱いているところも多いため、様々な支援策や交流案を整備して起業家の流入を歓迎する体制を築いています。
たとえば、2016年の開業率で沖縄県がトップに立った背景には、税制の優遇や地元の金融機関の連携によって起業家の資金調達や育成を支援するエコシステムを積極的に実施したことが挙げられます。
また、従業員の高齢化や人材不足に悩む企業などでは、現状のビジネスモデルにとらわれないアイデアやノウハウを得るために、若い起業家とのパートナーシップを求めて交流を広げようと盛んにアプローチしているケースも見られます。
このように、今や地方に流入する起業家や新規企業は、地方ビジネスひいては地方全体の活性化のためには欠かせない貴重な存在として歓迎されるムードが高まっているといえます。
コスト削減につながる
ビジネスを展開するにあたって、頭を悩ませる要因のひとつがオフィスの賃料や人件費といった固定費ではないでしょうか。
安定した収支バランスを築くにあたっては、単に営業利益だけを重視するのではなく、固定費をいかに低く抑えられるかもポイントのひとつです。
地方での起業は、そのような固定費の削減において非常に有効な選択肢であるのです。
たとえば東京でオフィスを構える場合、ビジネスに有利であろう都心のオフィスビルの一室を賃貸しようと思えば、毎月数十万円以上の固定費が発生することも珍しくありません。
一方、地方のオフィスビルなどでは、大都市圏に比べてもともとの賃料が低く設定されているのはもちろん、企業の撤退などによって空室が目立つオフィスビルによっては、起業家を誘致するために賃料の積極的な引き下げに努めているところも多くあります。
最近では、固定オフィスを構えずにコワーキングスペースやレンタルオフィスを活用する起業家も増加していますが、地方でもこれらの設置が盛んに進められており、利用料に関しても東京などに比べれば当然ながら割安です。
また、大都市圏に比べて物価や最低賃金が低く設定されていることから、人件費を抑えられるという点も、固定費削減に大きくつながる要素のひとつといえます。
成功例と失敗例からみる地方起業に適したビジネスと注意点
では、地方で起業するにはどのようなビジネスが適しているのでしょうか。
また、どのような点に注意するべきなのか。成功例や失敗例を例に挙げてご紹介します。
近年の地方での新規ビジネスの成功例をみるとキーワードは2つ。
それが「IT」と「地場産業」です。
インターネット環境のみが整っていれば、土地の制約を受けることなくビジネスを展開できるIT系のビジネスは、地方での起業に最も適しているといって間違いありません。
データのやり取りや面談もWeb上で完結できるため、仮に地方移住前からIT系のビジネスを展開していた場合であっても、特に大きな変化を受けることなく継続してビジネスを続けることも可能です。
また、人材の高齢化が進む地方においては、常に進化を続けるITの知識や技術の刷新をスムーズに行うことは難しい面もあるため、それに長けた起業家の流入は大いに歓迎されるものであり、既存の企業や団体との連携につながることも期待できます。
そのひとつとして挙げられるのが、地域の特性や特産物の製造や販売を行う地場産業との連携です。
人材の都会への流出や人口の高齢化が進む地方では、伝統的な地場産業の衰退に悩む企業や団体、個人が多くありながら、存続への活路を見出せず廃業寸前となっている問題を抱えるところもあります。
地方に流入する起業家の中には、これまで培ったIT系の知識や技術を活かして、消滅の危機に瀕した特産物の発信や新たな価値の創造に努めるといった地場産業の再興をサポートするビジネス展開で成功をおさめているケースも多々みられます。
このような現代の最新技術や先端技術を活かして、地方の特性の再発見と発信を目指すビジネスは、地方でのニーズも高くビジネスとしては最適なものであるといえるのではないでしょうか。
その反面、失敗例として挙げられるのは、地方で展開される既存ビジネスの“後追い”であるといえます。
新規性のまったく見られないビジネスでは、起業する地方で長年根付いた企業に太刀打ちすることは困難であるといえ、場合によってはそれらの企業やその取引先から大きな反感を買う結果を招くことにもつながりかねないため、注意が必要です。
ただし、成功例でも解説したように、そういった起業や団体とパートナーとして新たな商品開発や宣伝などをサポートできれば、信頼を勝ち取ると同時に大きな成功へとつながる可能性も高まるのではないでしょうか。
まとめ
近年は、様々な支援体制を築いた上で起業を歓迎している地方の自治体や起業も多く、大都市圏に比べれば少ないコストでビジネスを展開できるというメリットがあります。
ただし、どのようなビジネスであればその土地で制約を受けることなく展開できるか、また、地域と調和したビジネスに仕立てあげるには、どのような工夫やアイデアが必要となるかといった点を考慮に入れた上で起業することも重要だといえるでしょう。