近年のデジタル技術の発展にともない、国内外を問わずDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めている企業が多くみられます。

経営や業務にデジタル技術やデータを取り入れることにより、効率化と利便性の向上、そして顧客へのより付加価値の高いサービスの提供が期待できるなど、DXはまさに現代のビジネスには不可欠な取り組みであるといえるものです。

国内においては、2018年に経済産業省が「DX推進のためのガイドライン」を発表したのを契機に、一般企業や政府、自治体を中心にその動きをみせてきましたが、金融業界も例外ではありません。

2016年から続くマイナス金利政策による収益の低迷、フィンテック企業の隆盛による金融事業競争の激化、さらには昨今の新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けての非対面取引ニーズの高まりなどへの対応を急ぐため、多くの金融機関でも業務やサービスのDXが積極的に進められているのです。

しかしその一方で、思うようにDXが進まない金融機関があるほか、DXを進めても期待通りの成果がみられないケースも多々見られるようです。

1970年代から進んだ金融業界のデジタル化

1970年代から進んだ金融業界のデジタル化

実は金融業界におけるデジタル技術の導入は他業種よりもはるかに早く、インターネットが一般的に普及する以前の1970年頃から進められてきました。

代表的なサービスといえば、現在でも日常生活に欠かすことのできないATMです。もともと1965年にイギリスで誕生したATMが日本でも開発されはじめたのが1969年。

その後、1970年以降にはATMと中央銀行のシステムとオンラインで連携されるなど、金融業界ではデジタル技術を活用したサービスの開発と導入にいち早く着手していたわけです。

ところが、一般企業や一般消費者にインターネットが普及し出した1990年代以降、金融機関のデジタル化に大きな遅れが生じ始めます。

これは、金融機関には不可欠である高度なセキュリティを求めることによって、コストや手間のかかるシステムの構築が進められたことが影響したため。

また金融系のシステムは、堅牢なセキュリティ維持や外部とのデータ連携の必要性がなかったことなどを理由に外部からのアクセスを遮断する仕組みになっていました。

社会の急速なデジタル化の波に乗り遅れた結果

社会の急速なデジタル化の波に乗り遅れた結果

このような柔軟性に乏しいシステムの導入と稼動が続けられた結果、他業種の企業が着々とデジタル化を進める一方で、金融業界はシステムの刷新をスピーディーに行うこともできず、デジタル化はいわば「不得意な分野」といえるほど、大きなハードルになっていったわけです。

金融業界がデジタル化に遅れが生じている理由はもうひとつ。

それが人材の不足です。

これはなにも金融業界が慢性的な人手不足に陥ってきたということではありません。

むしろ金融業界はいつの時代も売り手市場のひとつであることから、多くの優秀な人材が集まりやすく、他業種と比べても企業レベルは高い傾向にあるものです。

ただ、上記のようなシステム刷新の遅れや保守的な体制・企業風土などが要因となることで、最新のデジタル技術に関する知識や経験を得る機会は多いとはいえず、従業員のそれらのアップデートが促進できない環境が続いていたことは明確です。

結果的に、デジタル関連の専門部署の立ち上げに遅れをとる金融機関もあり、デジタルに精通したキーパーソンの育成が思うようにいかないといった課題をかかえているのが実情だと考えられます。

時代に合致したDXを急ぐ金融機関

時代に合致したDXを急ぐ金融機関

それでも、メガバンクを中心とした大手銀行では2015年から急速にデジタル化を推進してきており、専門部署の立ち上げからこれまで不足していた知見をもつ人材を確保するなど、着々とDXを進める動きをみせています。

ペーパーレス化や店舗の自動化といった「人がやるまでもない業務」のDXはさることながら、革新的なサービスで台頭するフィンテック企業への対抗やマイナス金利政策の影響によって圧迫される収益の回復に必要な「イノベーション」につながる、デジタルを駆使した「攻め」のサービスや体制の構築に取り組んでいるのです。

また、DXによって業務改善が実現すれば、収益や顧客の満足度の向上だけでなく、長時間労働の是正や生産性の向上などにも直結し、社員のモチベーションアップにも期待がもてます。

さらに、このような取り組みは圧倒的な資金力をもつ大手銀行に限ったことではありません。

特に石川県に本社を構える地銀のひとつ、北國銀行では約20年前からコスト削減に向けた改革を本格化させてきたこともあり、その成果としてDXに対する下地が比較的早く整ったといわれています。

地銀ながら、今年の5月にはデジタル化の役割を担う22人ものエンジニアを採用。

これまで積もり積もった「銀行のレガシー」を破壊し、DXを基礎とした社風や職場環境、組織や仕組みを根本から再築する体制の実現に向けて動いています。

大手銀行や北國銀行の例を踏まえれば、金融機関におけるDXの導入と成功の鍵は、やはり古い価値観を払拭し先進的な知恵を取り入れる勇気と覚悟なのではないかと考えさせられます。

金融機関のDXはまだ始まったばかり。

セキュリティ維持をはじめとする多くの課題を抱えたままではありますが、新時代における金融機関の積極的な姿勢と革新的な気概を今後も期待していきたいものです。