日本経済を見てみると、その大半が中小企業によって占められているといわれています。
日本経済は中小企業によって支えられているといっても過言ではありませんが、その中小企業にとって厳しい状況が続いているといわれています。
なぜ中小企業にとって厳しいのか、その理由の一つが資金繰りです。
思うように資金調達ができないので、仕入れなどの支払いに四苦八苦している企業は少なくありません。
そんな中小企業の救世主になりうるといわれているのが、今回紹介するABL(売掛債権担保融資)です。
目次
中小企業の資金調達における現状
中小企業の資金調達は厳しいといわれています。
実際どのようなところが厳しいのか、中小企業を取り巻く現況についてまずは見ていきましょう。
資金調達が難しくなっている
中小企業を取り巻く現状が厳しいといわれている原因の一つが、資金調達の困難さです。
「ABL(売掛債権担保融資)普及に向けた新モデルの提案」という、中小企業懸賞論文に入選した作品があります。
この中で、中小企業の資金調達の難易度について紹介されています。
中小企業基盤整備機構という独立法人が発表した「第112回中小企業景況調査」によると、2006年から長期・短期ともに資金借入難易度が悪化しています。
しかもわかっているのが1999年からですが、2008年までの約10年間ずっとマイナスのスコアの状況です。
また「中小企業白書」の2008年度版によると、「金融機関に求められている取り組み・サービス」の回答の中で「安定した資金供給」が最も多かったです。
中小企業が金融機関に求めるサービスの中でも82%に達しています。
さらに金融機関が中小企業に求められているであろうサービスで、73.8%の方が回答しているので金融機関側にも自覚があるようです。
不動産担保に依存する体質
なぜ中小企業が資金調達に苦戦しているのか、その要因の一つに融資体質があると考えられています。
日本の金融機関は、どうしても不動産担保・保証に依存する体質が脈々と続いています。
一時期「スコアリング融資」と呼ばれる、担保や保証に依存しない融資が注目されました。
いくつかの属性に企業を分類して点数をつけ、一定基準以上の企業に融資するスタイルです。
ところがスコアリング融資はだんだんと下降傾向にあります。
というのも融資先の中小企業が倒産した場合、債権回収率が想定以上に低かったからです。
スコアリング融資がうまくいかなかった要因として、中小企業の経営状況をリアルタイムで把握しにくかったからです。
基本的に年に1回の決算書しか確認できませんでした。
しかも企業によっては決算書に虚偽の報告が結構あったために、ちゃんと審査できなったといわれています。
従来の融資とは異なるABL(売掛債権担保融資)
従来の不動産担保では中小企業は資金調達が難しい、スコアリング融資も現状に即していない、そこで注目されているのがABL(売掛債権担保融資)です。
ABL(売掛債権担保融資)は、従来の不動産担保融資とは大きく異なる点があります。
それは売掛金や在庫などの従来資産と見なされなかったものを担保にして融資する点です。
不動産以外を担保にする
ABL(売掛債権担保融資)の大きな特徴として、不動産以外のものを担保にして貸付を行っている点が挙げられます。
具体的には売掛債権や在庫、機械などの設備がABL(売掛債権担保融資)の場合担保対象です。
不動産を有さない中小企業でも、売掛債権や在庫、設備などは保有しているはずです。
売掛債権などは今までほとんど担保にされてきませんでした。
中小企業庁の調査によると、担保の中で実に95%以上が不動産でした。
その不動産以外のものを担保にすることで、不動産を有さない中小企業でも借りやすいです。
信用リスク以外で価値判断できる
従来法人向けの融資の場合、信用リスクを重視する傾向がありました。
負債比率やインタレストカバレッジ、利益率などを見て、企業がこれからもきちんと存続できるのかを見て融資の可否を判断しました。
この審査だと、企業はこれからもキャッシュフローを生み続けないとなかなか資金調達するのが難しかったです。
特に経営基盤の脆弱な中小企業は不利でした。
しかしABL(売掛債権担保融資)の場合、企業の持っている売掛債権や在庫そのものの価値を重視します。
中小企業のように経営基盤が強固でなくても、売掛債権がきちんと回収できる、在庫に高い価値があると判断されれば、金融機関も融資しようとなるわけです。
ABL(売掛債権担保融資)が中小企業にもたらすメリット
ABL(売掛債権担保融資)による資金調達は中小企業にとって借り入れやすくなるだけでなく、いろいろなメリットが期待できます。
具体的にどのようなメリットが期待できるのか、以下で詳しく見ていきます。
自社の価値を正しく見極められるようになる
ABL(売掛債権担保融資)による借り入れを実行することで、中小企業は棚卸資産の価値を正確に評価してもらえるようになるといわれています。
中小企業では、在庫である棚卸資産は原価法をベースに貸借対照表や損益計算書を作成しています。
しかし原価法の場合、例えば販売価格が下落したときにその評価ができません。
棚卸資産の評価法としてもう一つ、低価法があります。
仕入単価をそのまま棚卸資産の単価にする原価法と違って、販売価格が下落した場合時間を棚卸資産の減価にできます。
つまり低価法を利用すれば、棚卸資産のリアルタイムの実態を反映しやすくなるわけです。
ABL(売掛債権担保融資)の場合、在庫も担保にできます。
ということは金融機関も在庫の有する実際の価値について詳細に査定して、融資額を決めます。
すると原価法ベースで作成されている貸借対照表や損益計算書では出てこない、在庫の真の価値が表に現れやすくなります。
実際そのようなデータも出てきています。
日本動産鑑定が動産鑑定を行い、帳簿価格と比較しました。
162件の査定を行ったところ、その中で144件が帳簿価格よりも流通価格の方が上回っていることがわかりました。
もちろん流通価格の方が下回る企業もあります。
しかしかなりの割合で上回ることが上のデータでも判明しました。
つまりこれまで決算書だけでは融資を受けられなかった中小企業でも、ABL(売掛債権担保融資)で在庫の価値を正しく判断してもらえれば融資を受けられる可能性が出てくるわけです。
また中小企業の中には自社製品の時価を正しく把握できていない、さらには棚卸そのものも行っていないところも結構あります。
ABL(売掛債権担保融資)による資金調達を行うことで、中小企業自体も自身の在庫などの真の価値を認識できるようになるわけです。
これもABL(売掛債権担保融資)によってもたらされる中小企業のメリットの一つといえます。
在庫管理を見直すきっかけにもなりうる
ABL(売掛債権担保融資)の特徴として、担保状況について定期的に報告しなければならない点が挙げられます。
つまり中小企業自身が、売掛債権や在庫などの担保になっているものをモニタリングしなければならないわけです。
そこで在庫管理の見直しができるかもしれません。
例えば在庫をモニタリングしていて、ずっと残り続けている在庫があったとします。
すると「この不良在庫は処分すべきではないか?」と思うでしょう。
このように無駄な在庫を抱えないように、在庫の整理ができます。
結果的に無駄なコストを抑制して、経営状況の好転も見込めるわけです。
意外と企業自身が売掛債権や在庫の状況を把握できていない場合も多く、経営体質の見直しのきっかけにもなりえます。
金融機関側もメリットがある
ABL(売掛債権担保融資)は中小企業側だけでなく、実は金融機関にもメリットがあります。
先ほども紹介したようにABL(売掛債権担保融資)で借り入れた場合、定期的に債務者側は担保状況を金融機関に報告しなければなりません。
こまめに担保状況の報告を受けることで、より詳細に借り手側の中小企業の現状を把握できます。
またABL(売掛債権担保融資)の場合、一般的に銀行のスタッフが融資先の中小企業のオフィスや工場などに足を運んで担保をその目で確認します。
ということはスコアリング融資と違って、より正しくその時々の中小企業の担保状況を把握できます。
よって万が一融資先の中小企業が返済不能の状態になっても、債権が思ったよりも回収できなかったといった事態を回避できます。
また今までよりも密に金融機関と中小企業側がコミュニケーションを取れるようになります。
企業が取り扱っている商品やサービスのすばらしさ、将来の可能性も把握できます。
今まで書類だけでは融資できなかった企業にも貸し出しが行え、不良債権化のリスクも低減できます。
金融機関側にもうまみのある融資方法で、中小企業側とウィンウィンの関係を構築できるかもしれません。
まとめ:徐々に浸透しつつあるABL(売掛債権担保融資)に注目
中小企業の経営者は、常に資金繰りに頭を悩ませているかもしれません。
しかし今回紹介したABL(売掛債権担保融資)を活用すれば、資金繰りが今まで以上に円滑になる可能性があります。
また日本でもABL(売掛債権担保融資)の市場は拡大しつつあります。
経済産業省が帝国データバンクに委託した調査の「ABL(売掛債権担保融資)の課題に関する実態調査」が公開されています。
その中で2015年のABL(売掛債権担保融資)は12,302件で、融資額は9,963億円強になりました。
5年前の2010年は3,371件・1,875億円だったので、急速に拡大していることがわかります。
しかしABL(売掛債権担保融資)先進国といわれるアメリカと比較すると、まだまだその規模は小さいです。
2015年時点で24兆円超の実行額です。
桁が全く違うことがおわかりでしょう。
しかし逆の見方をすれば、日本におけるABL(売掛債権担保融資)市場はまだまだ十分な伸びしろがあるともいえます。
今後活発にABL(売掛債権担保融資)を使った融資が行われる可能性があるので、中小企業の経営者は要チェックです。