売掛債権担保は、企業が資金調達する際に使用する手段のひとつです。売掛債権担保により融資を受ける際には、対抗要件と呼ばれる物を備えておく必要があります。そのためには、売掛債権担保の債権譲渡登記をすると良いでしょう。この記事では、売掛債権担保による融資や、登記によって対抗要件を備えるべき理由、さらにその方法を解説します。
目次
売掛債権担保とは
売掛債権担保とは、企業が金融機関などから融資を受ける際の担保に、売掛債権を利用することです。
売掛債権とは、売掛金や受取手形など、まだ相手から受け取っていない売上高のことです。売掛債権を持っているということは、商品やサービスを提供したタイミングで手元に収入が入らなかったということです。たとえば、翌月払いの売掛金は支払いまで1か月ほどかかります。手形を受け取った場合には、手形が現金化するまでさらに数か月かかってしまいます。
現金を受け取る権利を持っていたとしても、実際に現金がなければ、現金化される期日までの資金繰りが苦しくなることもあるでしょう。そのような時に、つなぎとして融資を受けたいと考えた際、売掛債権担保による融資が役立ちます。
売掛債権担保を利用する理由
一般的に融資を受ける際には、土地や建物などの不動産を担保にします。しかし、担保となる不動産を所有していない場合には、融資を受けることが難しくなってしまいます。そのような時に利用できるのが売掛債権担保です。
売掛債権担保による融資は売掛金や手形などに加え、在庫商品や機械設備、車などの動産も担保にできます。そのため、中小企業でも利用しやすい融資制度となっています。
売掛債権担保とファクタリングの違い
売掛債権を現金化する方法には、売掛債権担保による融資の他にファクタリングが存在します。売掛債権担保による融資とファクタリングは、似ているように見えますが性質は異なります。売掛債権担保によって得たお金は融資されたお金であり、返済が必要です。一方ファクタリングは、売掛債権を買い取ってもらうことでお金を得るので、返済の必要はありません。
また、売掛債権担保によって融資を受けた場合、手元にある売掛債権の所有権は金融機関等に移ります。そのため、売掛債権担保として利用している売掛債権を、勝手にファクタリング等で資金化することはできません。
売掛債権担保により、債権の譲渡を登記する理由
売掛債権担保を利用して融資を受ける際には、債権の譲渡に関して対抗要件というものを備えて(具備)おかなければなりません。簡単に言うと、誰が債権を持っているのかを明確にし、債務者が誰にお金を支払うべきなのかはっきりさせておく必要があるということです。債権を持っている人を明確にすることを第三者対抗要件と言い、債務者が誰にお金を払うべきなのか明確にさせることを債務者対抗要件と言います。
この対抗要件の具備について、民法で定められた方法で具備するよりも、売掛債権担保についての登記をおこなった方が簡単に備えられます。
売掛債権担保において、民法で定められた対抗要件を具備する方法
売掛債権担保を利用して融資を受ける際、第三者対抗要件を具備する方法は以下の通りです。
・ 債権譲渡についての確定日付が記載された証書によって、譲渡した人が債務者に通知する
・ 債権譲渡についての確定日付が記載された証書によって、債務者が譲渡した人もしくは譲り受けた人に対して承諾する
また、債務者対抗要件を具備する方法は以下の通りです。
・ 債権を譲渡した人が債務者に対して譲渡の旨を通知する
・ 債務者が譲渡した人や譲り受ける人に対して承諾する
債務者対抗要件においては、債権譲渡の確定日付が書かれた証書がなくても具備できます。そのため、第三者対抗要件を具備する方法では同時に債務者対抗要件を具備できますが、その逆はできません。
以上のように、民法においては譲渡の当事者だけでなく、債務者にも関わってもらわなければ対抗要件を具備できません。また、債権が沢山ある場合には、それぞれの債務者へ通知しなければなりません。そのため、民法で定められた方法では手間がかかるのです。
売掛債権担保において、登記をもちいて対抗要件を具備する方法
売掛債権担保において債権譲渡の登記をすると、債務者に通知することなく第三者対抗要件を具備できます。債務者対抗要件についても、必要が生じた時に登記事項証明書を交付することで、対抗要件を具備したことになります。そのため、登記による方法では、あらかじめ債務者に関わってもらう必要がないのです。
登記によって具備された対抗要件について
万が一ひとつの債権が複数人に譲渡されてしまい、登記と民法それぞれの方法によって対抗要件を満たした人が居る場合にはどうなるのでしょうか。民法によって具備された対抗要件と登記によって具備された対抗要件に優劣はなく、同じ効力を発揮します。そのため、先に対抗要件を満たした人が優位となります。
登記、民法それぞれの具備時点とは
対抗要件が具備された、と判断される時点はいつになるのでしょうか。民法によって具備する場合は以下の通りです。
・ 債権譲渡についての確定日付が記載された証書が債務者に到達した時点
・ 債権譲渡についての確定日付が記載された証書によって債務者が承諾した時点
一方、登記によって具備する場合には、登記事項証明書に記載されている登記の時刻が具備された時点となります。
登記する際の注意事項
売掛債権担保において債権譲渡の登記をしても、譲渡した債権の存在を公的に証明できるわけではありません。それは登記の際、債権の存在を証明する書類や譲渡を証明する書類を添付する必要がないためです。登記はあくまで対抗要件を具備するためのみに利用されています。
売掛債権担保の債権譲渡を書面方式で登記する方法
売掛債権担保について債権譲渡の登記をするには、東京法務局内にある登記所に、書面方式、事前提供方式、オンライン方式のいずれかで登記の申請をする必要があります。
書面方式では、登記に必要な書類を窓口へ直接持参するか、郵送によって申請します。窓口で登記の申請をした場合は申請当日に受付となります。しかし郵送による登記の申請では、登記所が申請書を受け取った翌日以降、最初の執務日に受付となります。
書面方式で登記する場合に必要な書類は、債券譲渡登記、延長登記、抹消登記それぞれ以下のようになります。
債権譲渡を登記するために必要な書類
登記には、書類の他に登録免許税が必要となります。税額は、登記したい債権の個数が5,000個以下では1件につき7,500円、5,000個を超える場合には1件につき15,000円です。
1. 登記の申請書
2. 代理申請の場合は委任状
3. 取下書
4. 債権を譲渡する人の登記事項証明書
5. 債権を譲渡する人の印鑑証明書
6. 譲り受ける人が法人の場合は登記事項証明書(譲り受ける人が自然人の場合は住民票の写し)
7. 存続期間が登記から50年(債務者が不特定である場合には10年)を超える場合、その存続期間となる理由を証明する書面
8. 申請データを記録したCD-Rなど
ただし、登記事項証明書や印鑑証明書は発行から3か月以内のものに限ります。
延長登記に必要な書類
書類の他に、1件につき3,000円の登録免許税がかかります。延長登記に必要な書類は以下の通りです。
1. 登記の申請書
2. 代理申請の場合は委任状
3. 取下書
4. 債権を譲渡する人の登記事項証明書
5. 債権を譲渡する人の印鑑証明書
6. 譲り受ける人が法人の場合、譲り受ける人の登記事項証明書
7. 譲渡する人、譲り受ける人が登記されていた内容と異なる場合には、変更を証明するための書面
8. 存続期間が登記から50年(債務者不特定の場合は10年)を超える場合、その存続期間となる理由を証明する書面
抹消登記に必要な書類
書類の他に1件につき1,000円の登録免許税がかかります。抹消登記に必要な書類は以下の通りです。
1.登記の申請書
2.代理申請の場合は委任状
3.取下書
4.譲り受ける人の登記事項証明書
5.譲り受ける人の印鑑証明書
6.譲渡する人の登記事項証明書
7.譲渡する人や譲り受ける人が登記されていた内容と異なる場合には、変更を証明するための書面
売掛債権担保の債権譲渡を事前提供方式で登記する方法
事前提供方式とは、登記の申請に必要なデータをオンラインで提出し、その他の情報を書面で提出する登記方法です。オンライン方式に必要な電子証明書や、書面方式に必要なCD-Rの準備が不要であり、比較的簡単に申請できます。また、手続きの完了や登記番号をオンラインで確認できます。事前提出方式で登記する手順は以下の通りです。
1. 申請人プログラムを使用し、事前提供データを作成する。この時、同時に作成される二次元コード記載用紙を印刷しておく。
2. 申請用総合ソフトを使用し、事前提供データを送信する。登記所にてデータのチェックがおこなわれたあと、返送されたチェック結果画面を印刷する。
3. 二次元コード記載用紙と事前提供データ送信時に印刷した物、さらに必要な書類を合わせて、書面にて登記の申請をする。
事前提供データを送信しただけでは登記の申請が完了しません。忘れずに窓口や郵送にて登記の申請をしてください。
売掛債権担保の債権譲渡をオンライン方式で登記する方法
オンライン方式で登記するには、必要な情報すべてをオンラインで送付する必要があります。そのため、譲渡人、譲受人双方とも電子証明書の取得が必要です。
1. 電子証明書を取得する。
2. 法務省ホームページからオンライン登記申請のための債権申請データ作成ツールを取得する。
3. 必要事項を入力し、申請データを作成する。
4. 申請人プログラムを使用して申請データのチェックをおこなったあと、オンライン申請情報を作成する。
5. 申請用総合ソフトを使用し、電子証明書にて電子署名などをおこない、オンライン申請情報を送付する。
6. 登記所の審査が終わり次第、納付情報を確認し、登録免許税を納付する。
すべての方法において、売掛債権担保の債権譲渡の登記、延長登記、抹消登記が完了すると、登記所から登記番号などが記載された登記完了通知書が届きます。これにて、登記の手続きは完了です。
登記の証明書を交付するには
売掛債権担保についての登記をしたあとは、登記事項証明書、登記事項概要証明書、概要記録事項証明書の交付を請求できます。登記の証明書を請求する場合にも、窓口や郵送により書面で請求する方法と、オンラインで請求する方法があります。
売掛債権担保における登記のまとめ
売掛債権担保を利用することで、設立して間もない企業や不動産をもたない企業、中小企業でも融資を受けられ、安定した経営の助けとなります。売掛債権担保による融資を受ける時には、債権譲渡についての登記をすることによって、簡単に対抗要件を具備できます。登記の申請方法は複数あります。最適な方法で申請してください。